45:廃鉱探索
アジトの物品を回収しつつ、【ダンブレッド】の悪徳商人宅で手に入れた物品も合わせて分別し、マジックバッグに入れてはインベントリに入れるという作業を繰り返していた。
今日はこの廃村で一泊する。
が、盗賊のねぐらをそのまま使うのも躊躇われたので、テントを張ってそこで寝る感じだ。
結局、分別と回収は夜までかかった。なかなかの収穫だったと言っていいだろう。
このアジトで手に入れたものは色々とあるのだが、中でも注目すべきはこのあたり。
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・回帰の腕輪:MP+100
・疾風の指輪:AGL上昇
・夢追い人の日記
・【灰狼のボルディオ】の短剣・防具
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回帰の腕輪はカリンに装備させる。疾風の指輪はとりあえず死蔵。
日記はサブクエストアイテムだな。
【灰狼団】殲滅は【行商人は大変だ】というサブクエが発生源だが、そちらは【灰狼団】を斃したことを報告するだけで報酬を貰える。日記は別のサブクエで使うアイテムなのだ。
日記がなければそのサブクエは進まない。これもある意味チェーンクエストと言えるだろう。
ボルディオの装備はまず、短剣は俺の【暗月の短剣】のほうが上だから死蔵としておく。
防具は【砂鼠のネルソン】のものより若干良さそうだったので俺が使うことにした。
体格もそんなに変わらないので、調整も必要なさそうだしな。洗ってそのまま使わせてもらおう。
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大盗賊の上装、大盗賊の下装
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「それで明日は鉱山に入るのか?」
「そうだな。往復で二日かかると思うけど最奥にはミスリル鉱石があるんだ。使うか分からないけど一応とっておこうと思っている」
「ミスリル鉱石!? 廃鉱じゃないんですか!?」
「元々は鉄鉱石の鉱山だったらしいな。で、だんだんと鉄がとれなくなって、そこに魔物も住みついたことで廃鉱となった。だから完全に取り尽くしたわけじゃないんだよ」
「で、なんで鉄じゃなくてミスリルがあるです?」
「たまたまミスリルが混じってて最奥だから気付かず終いだったのか、それとも魔物が住みついてから生成されたのか……俺にもよく分からん」
鉄鉱石の鉱山だからって鉄しか採れないわけじゃないだろう。俺はよく知らないけど。
ちなみに道中の採掘ポイントでは金や銀も採掘できる。ゲームの鉱山なんてそんなものだ。
「魔物はどんな感じなんだ? ボスとかは?」
「基本的にケイブアントとケイブバットだけど最奥にはクイーンアントがいるぞ」
「「クイーンアント!?」」
クイーンアントが生まれたせいで採掘できなくなり廃鉱になったという経緯らしい。
フゥガたちが言うには、クイーンアントはAランク冒険者推奨の魔物だそうだ。
クイーン自身が強いのと、何よりケイブアントを大量に産むのが厄介なところ。必然的に推奨ランクもAとなる……とのことだ。ゲームには推奨ランクなどなかったから俺はよく知らない。
「クイーンアントを放置しているのか!? どうなっているのだ、この国は!」
「盗賊たちは知らなかったんですかねぇ。よくこんなトコに住めたものですよ」
「この村だけではなく【ツールアンテの街】だって危険でしょう。討伐隊を出して当然だと思うのですが……」
みんなはそう言うけど、実際のところケイブアントが鉱山から出ている様子もないんだよな。ここまでの山道でも見かけていない。
俺はゲーム脳で「鉱山だけで出てくる魔物なんだな」と思っていたが現実世界ではそんなわけないんだよな。
魔物がその場所だけに留まるわけもなく、数が増えたら生息範囲を広げる。
だから危険な魔物が出れば討伐する。それがこの世界の常識なのだ。
冒険者ギルドには討伐依頼が出ているのかな。
衛兵団や騎士団が出張って来ていないのなら冒険者ギルドの管轄になっているのかもしれない。
ただフゥガの様子を見るに、国が動いて対処すべき問題ではあるのだろう。実際鉱山が一つ潰されているわけだし。
まぁ色々と考えることはあるが、俺たちが斃してしまえばそれでいい。
大量のアリは経験値にも熟練度にもなるし、素材も手に入るし、鉱石も手に入る。さすがに見逃せないだろう。
「我々に斃せるものなのですか? レベルなどは?」
「クイーンアントはLv45。雑魚のアリとコウモリはLv25~35くらい。ここの盗賊団と変わらないだろ?」
「そう言われると返答に困るのだが……」
「まぁ魔物のほうが厄介には違いないな。量が違うし盗賊よりも攻撃は多彩だ。ただ【アディエラ山林】よりは楽なはずだぞ」
「あれを引き合いに出されるとまた返答に困りますね」
出てくる魔物も総じて【アディエラ山林】よりは弱い。
だから俺としてはあまり危険と見ていない。十分斃せるだろうと。
もちろんあの時よりもレベルは低いのだが、最奥までの道中でレベル上げもできるしな。
むしろレベル上げ、熟練度稼ぎに向いている場所だからこそ攻略したいと思っている。
その日はインベントリ内の食事をとり、一応夜警を張って眠ることにした。
村自体が盗賊のアジトだから大丈夫だとは思ったんだけどな。魔物が入って来てもおかしくはないと。結局は何事もなかったが。
そして翌朝、村から出て、近くの廃鉱へと足を踏み入れたのだ。
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この世界のダンジョンというのは何度も言うように、石畳の通路と小部屋で造られた迷宮だ。
世界各国に存在しているが、「神の手により突然現れた」というのが通説になっているらしい。
ダンジョンは資源の採取場所にもなるため、その近くに街を築くというパターンも多いようだ。それが、俺がこの世界に下り立ってから初めて知った知識の一つである。
今までにもダンジョンはいくつか攻略してきた。
【AG】の攻略wikiではこの廃鉱もダンジョンとして扱われているのだが、この世界の常識で考えるとこの廃鉱は『ダンジョン』ではない。
あくまで人工的に作った坑道に魔物が住みついたということだ。神の手によるものではないと。
そういうわけでゲームではあった『ボス討伐後に出現する転移魔法陣』というのも存在しない。
だからクイーンアントを斃したら道を逆走して入口に戻る必要があるのだ。
それを見越して二日間の探索を予定している。行きと帰りで一日ずつだな。
道中の魔物は全く問題ない。
レベル差も今の俺たちとはそこまで開いていないし、アリとコウモリだけしかいないので、いちいち戦い方を変える必要がない。
【アディエラ山林】とは雲泥の差だ。あそこはレベル上げのために利用していたのだが、今思えば戦闘経験的な意味でもいい場所だったな。
種類の多い強敵が次々にエンカウントする環境というのは俺たちを逞しく成長させたのだ。よし、これからも稼ごう。
地図は俺の脳内にある。俺たちは魔物を斃しつつ、採掘ポイントを巡りつつ、どんどんと道を進む。
「廃鉱ではなかったのか? なんでこんなに鉱石が採れるんだ?」
「しかもダンジョンと同じように<コレクトサーチ>で採掘ポイントが分かります。鉱山というのは初めて入りましたが、このようなものなのでしょうか」
「どうだろうな。だが外でも採取ポイント以外に採取アイテムがあったりするし、鉱山でも採掘ポイント以外に掘れば鉱石が採れたりするんじゃないか? それを探すための鉱夫なのかもしれん」
「それもそうですね……」
相変わらず分からないことは多いが、俺はそんなトコまで知らないし、この世界の住人が知らなければ答えなど出ないだろう。
いずれにせよ「ダンジョンではない」この廃鉱で<コレクトサーチ>が使えると分かっただけでも儲け物である。
問題は暗いということだ。ゲームではそんなこともなかったのだがこの廃鉱は非常に暗い。
ダンジョンだと石畳自体が発光しているようで松明など必要なかったのだが、廃鉱は「ダンジョンではない」ため非常に暗い。
通路に松明で火を灯せるような場所が一定間隔で置かれているのだが、廃鉱となった今ではただの壁飾りである。
従って俺たちも松明を灯しながら進まなければいけないのだ。
俺、ネフィリア、フライヤは問題ない。<ナイトビジョン>が使えるからな。
他の三人は暗視など持っていないので、とりあえずエリザとカリンに松明を持たせている。右手に武器、左手に松明という感じ。
街で色々と買い込んでおいて良かったな。こんな仕様になっているとは思わなかったので下手すると入れないところだった。
坑道で掘った鉱石は手押し車のようなもので運び出すらしい。道の途中で無造作に置かれているのをよく見かけた。
年季が入ったスコップやツルハシもあったが流石に拾う気にはなれない。俺たちが持っているもので十分だろう。
現実世界の洞窟だとコウモリのフンなどが地面に散乱しているので、やたら手を伸ばすのも嫌になる。
廃鉱は一階層しかなく、その分広い。そして実用性を問いたくなるほど複雑だ。
実際に作ったのはゲーム制作陣だと思うので「ダンジョンとして機能するように」という意図があったとは思うのだが、それにしても「実際の坑道はこんな複雑じゃないだろ」と言いたくなるほど迷宮化している。
これでは鉱夫も困るだろう。トロッコもないし、いちいち手押し車で運ばなければいけないのだから。
こんな迷路だから国は放置したのかもしれない。「魔物も出てこないし逆に安全じゃね?」と。多分ただの怠慢だろうけど。
坑道の途中には休憩所もある。鉱夫が利用していたのだろう。
机や椅子もあったが今では土と埃に塗れているので使いたいとは思わない。
だがテントを張るならばここだろうな。帰りに休む時にここを使おう。そんな話をしていたんだけどな……。
いくら広いと言っても一階層のダンジョン。
それは俺の想像以上に順調な探索となっていた。
出来るだけ採掘ポイントも回っているし、魔物とも常に連戦しているような状態にも関わらず、俺たちはかなり早いペースで進んでいたのだ。
考えてみれば鉱夫も行き帰りで二日かかるような深さまでは掘らないのかもしれないな。
自分たちが行き来するのもそうだが、鉱石を運ぶのもあまり距離があると困るわけで。
とは言えゲームの都合で迷宮みたいになっているから困るのだが、広さに限界があるというのは現実的と言えるだろう。
そんなわけで最奥のボス部屋代わりの空洞へとやってきた。
クイーンアントは体高2.5m、体長5mほどの巨体だ。
周囲にはケイブアントが群がっており、他にも卵と見られるものが壁際に積み重なっていた。
生まれたばかりの子アリならLv1だと思うのだが、ゲーム的にそんなことはありえない。ちゃんとLv30前後のアリばかりが大群を成している。
身の毛もよだつ光景とはこのことだ。この世界に来て今まで見た何よりも気持ち悪い。
「<ファイアストーム>!」
「<ライトピラー>!」
「<ネイチャーウィンド>!」
というわけで空洞に入る前から範囲攻撃魔法で一気に攻めた。カリン、エリザ、ネフィリアに頼んで。
危機を感じたアリたちはわさわさと部屋から出てくるが、そこは前衛陣の出番だ。フゥガを中心に食い止める。
卵を含め、ほとんどのアリが消えたところでやっと俺たちは空洞に足を踏み入れた。
そこにはまだクイーンアントが鎮座していた。
あれだけの魔法を受けながら動こうともせず、しっかりと地に立ち、俺たちを待ち受けていたのだ。
「酸液にだけ気を付けろ! フライヤは回り込んで側面から攻撃だ!」
「「はいっ!」」「おお!」
クイーンアントはほとんど近接のみの攻撃手段だ。
近くに寄ると幾本もある長い手足で力強い攻撃をしてくる。
抱きつかれるように捕獲してくる時もある。それが一番危険だな。下手すればそのまま食われて終わりだ。
だから正面はフゥガが守りつつ遠距離攻撃でヘイトを稼ぐ。
俺とフライヤは側面だ。巨大な腹は弱点というわけではないものの攻撃を当てやすく、一方で敵は攻撃しづらい。
唯一の遠距離攻撃と言えるのが酸液だ。
おそらく回復は問題ないと思うが装備品はダメだろう。ちゃんと守ったのに修理不可、なんてこともありうる。
一応カリンには酸液を吐き出すモーションが見えたら<ファイアウォール>を張るように伝えてあるが、それでちゃんと防げるものかも分からない。
そもそもゲームでは酸液に装備破壊の効果なんてなかったからな。ただダメージを負うだけだった。
しかし現実世界となった今ではそれくらい起こってもおかしくないだろう。
だから酸液を防ぐ手段として<ファイアウォール>を伝えたのだが、物理攻撃であろう酸液を魔法で防げるものなのか。不安なところである。
やはりクイーンアントはほとんど動くことはなかった。鎮座するのが仕事だと言わんばかりに不動を貫いた。
遠距離攻撃を繰り返す本陣。ヒットアンドアウェイを繰り返す俺とフライヤ。
業を煮やしたクイーンアントは暴れるように手足を振り回し、本陣だけでなく俺たちにも酸液を吐いたりと足掻いていた。
ちなみに<ファイアウォール>による酸の防御は「完全ではないが一応防げる」という感じらしい。
防ぎきれなかった酸液をフゥガは躱そうとしたらしいが、そうそう回避しきれるものでもない。
盾や鎧は溶けたように変形し、それは酸液がいかに強力なのかを物語っているようにも見えた。
俺やフライヤは避けられたんだけどな。受け盾役に避けろというのはさすがに無謀だったようだ。
もちろん肉体的なダメージが皆無というわけもなく、前衛組は何かしらの被害を受けた。
が、エリザがいれば問題ない。一撃死でもない限りエリザは回復してくれる。
回復職は貴重で優遇されるわけだ。パーティーに一人いるだけでかなり安定して戦える。
戦闘時間は十分もかかっていないだろう。それにしては非常に神経を使う戦いだった。
クイーンアントの巨体が地に伏せた時にはみんな大きく息を吐いて安堵したものだ。
魔物の身体は死ぬと光に消えていく。同時にインベントリにはドロップアイテムが並んでいた。
ダンジョンボスではないから宝箱が出現することなどない。
代わりにあるのが、『ミスリル鉱石が掘れる採掘ポイント』と、その横に立てかけられている『ミスリルのツルハシ』だ。
このツルハシはサブクエスト用アイテムで、依頼自体は【ツールアンテの街】で受けられる。
元鉱夫の男が依頼人で、「坑道に置いてきたとっておきのツルハシを取り戻してくれ」というものだ。
で、このクイーンアントと戦うはめになるのだが、ツルハシを依頼人に返すと、報酬の一つとしてそのツルハシを貰える。
効果は採掘ポイントの採取量増加。
ゲームでは持っているだけで効果を発揮できたが、現実世界の今では「これを使って採掘しろ」という感じだろう。
だから早速とばかりにこのツルハシを使ってミスリル鉱石を採掘しておいた。
「これ今から頑張れば夜には外に出られるかな」
「魔物もほとんどいないでしょうし行けるのではないでしょうか」
「じゃあ帰るまでもうちょっと頑張ろう」
それから俺たちはろくに休憩もせず、ひたすら帰り道を急いだ。
行きの半分以下の時間で帰ることはできたが、やはり外はすっかり夜になっていた。
そこでまたテントを張り、やっと休めることになったのだ。




