31:馬車旅の途中で
準備に一日を費やして、俺たち六人は【交易都市デュッセル】を出立した。
まぁ準備と言うよりは休日のような感じで街中をぶらついただけだ。
武具屋の親父にも別れを告げ、行ったことのない店を中心に巡って、今まで売り切れなかった闇組織の備品を売ったり、掘り出し物がないかと装備品を探したり、食料品を買い漁ったりといった感じだな。
改めて、ゲームの【デュッセル】とは違うと実感した。
装備に関してもゲーム内で売られていないものが平然と売られていたりする。
極端に高性能なものが売られているようなことはなかったが、ゲーム内の【デュッセル】で売られている装備と同等の質のものが多く売られている。種類が増えている印象だな。
おそらく探しきれなかった中には掘り出し物で高性能なものもあるだろう。
なにせ交易都市だからな。流れ着いた品や、高ランク冒険者の中古品などもあるはずだ。
今回は探しきれなかったが王都では探してみるのも手だろう。もしかしたら武国にしかなかった刀や、エリザ用の法衣が売られているかもしれない。
【デュッセル】から【王都ローゼル】までは馬車で計七日。小さめの街を二つと農村を四つ経由するという。
【ベレッサ】から【デュッセル】までは宿場町のような宿泊施設だけのような集落もあったが、王都までにはそういった場所もないらしい。
その代わりに農村が多いんだろうな。王都やその周りの集落の食を支えるためにはそれ相応の広さが必要だ。
しかしだ。ゲームでは【デュッセル】と【王都ローゼル】の間に一つの村しかなかった。
容量のせいか他の集落は消されていたのだ。俺の知らない集落はどんなところなのか、気になる一方「サブクエとかもないし特に用事はないな」とも思ってしまう。
「途中に【フランデル】という村はあるか?」
「小さめの街があると言った二つの内の一つが【フランデルの街】ですね」
「ああ、そこが街だったのか」
家が十軒くらいしか建っていなかったので村かと思っていたが、どうやら現実世界の【フランデル】は小さな街の規模らしい。
やはりそれも容量のせいか。どれくらい広がっているんだろうな。
「おそらく五日目に着くと思われますが……何か立ち寄る理由があるのですか?」
「例の盗賊団のアジトに行くのに、そこから行く感じになると思う。俺も場所がちょっと曖昧なんだが【フランデル】南部の森の中にあるはずなんだよな」
「じゃあ【フランデル】を拠点に少し探索する感じか」
「冒険者ギルドはあるですかね? 同時に依頼を熟しても良さそうですけど」
「あるぞ。あたしも行ったことがあるからな」
あるのか! 本当に俺の知っている【フランデル】とは違うんだな。
ちなみに俺が【フランデル】に寄りたい理由は盗賊団だけではない。
ゲーム内の街に『意味のない場所』というのは存在しないのだ。何かしらのイベントやお宝、情報などが絶対にある。
逆に言えば、そういった理由のない街はゲームで消されたのかもな。
◆
馬車旅というのは暇なものだ。
舗装されていない道をサスペンションのない馬車で走るのだから乗り心地も悪い。大して速度が出るわけでもないしな。
そんなわけで俺は馬車旅が嫌いなのだが、少しでも早くと考えれば馬車で行くしかない。
レベル上げも熟練度稼ぎもできないというのは何とももどかしいものだ。
移動時間の短縮にはなるが、何か失っている気がする。これもやりこみ勢の悲しい性だ。
とはいえ「順応しなきゃなぁ」とも思うべきで、この時間を利用して五人となるべく話すことにした。
それぞれの故郷の様子とか、普通の冒険者とはどんなものかとか。一般常識から俺の知っている【AG】との差異まで。
全てを聞けたわけではないが、所々細かく聞くことができたのはありがたい。
それらの情報は今後にも活かせることだろう。
武具屋の親父に言われたが、俺が「非常識が服を着て歩いている」と見られているのも何となく分かった。
そもそも男一人がリーダーで女ばかりを引き連れているパーティーというのがまず異常で、それが十五歳の低ランクだから余計に目立つ。
おまけに狩っている魔物がカイザーウルフ。どうやらBランク推奨の魔物らしい。
ゲームでは魔物にランク付けなんてされてなかったんだがなぁ。ゴブリンLv1とゴブリンLv20じゃ推奨ランクも変わるだろうに。
さらにマジックバッグを持っていたり、立ち振る舞いが新人ぽくないだとか、色々理由はあるそうだ。
「今さら繕う必要もないと思うけどな。まぁ秘匿すべきところは隠して、あとは普通にするしかないだろう。ランクも上がれば相応に見られるだろうしな」
とフゥガの意見。それもそうかとあまり考えないことにした。
変に名声を集めないよう心掛ければ、あとは妙に見られても仕方ない。
「今のうちに今後の予定を聞いておいていいか? 知っていれば心構えができるのでな」
「王都からリッツエルデ王国に行くのは聞いてますけどね。細かいところはまだ聞いてないです」
「不確定なものも含むから希望とか予想になるけどそれでもいいか?」
「ああ、頼む」
何かとゲームと差異があるから俺自身悩んでいる部分もあるのだが、話すだけ話しておこう。
確かに説明せずに連れまわすのも心苦しいしな。
「まずこれから行く【フランデル】だが盗賊団の件もそうなんだが、例によって街中に困っている人がいるから出来ればそれを解決してあげたい。三~四人かな」
「ああ、いつものか……先んじて欲しがっているものが分かるというのは相変わらずとんでもないな」
「それと【フランデル】で行きたい場所があるんだが、そこは貴族の別荘なんだよな。だから最悪、俺だけで忍び込むことになるかもしれん」
「それは立派な犯罪なのでは?」
「貴族のほうが犯罪者だよ。例の盗賊団と繋がってるし、そこに依頼して他の貴族を殺したり、盗ませたりもさせている。まぁその貴族本人は王都にいるんだけどな」
その別荘にあるのは盗賊団との繋がりの証拠だけではない。というかそんなものはゲーム内で描かれていない。盗賊団退治のサブクエストでテキスト上の説明があるだけだ。
本命はその貴族が隠し持っている『王都地下水路の地図』と少しのお宝だ。
正直、地図は俺が覚えているからいらないのだが、ゲームとの差異があると困るので一応確保しておきたい。
「なんとまぁ……相変わらず裏の情報に詳しいものだ」
「とは言え相手は貴族だろ? 下手に動いたらこっちが犯罪者にされちまうと思うぞ?」
「だから俺一人で忍び込もうかな、と。貴族はいないけど使用人とかが住んでいてもおかしくないからな。その人たちを殺すわけにはいかないし」
「素晴らしいお考えです。やはりジェイル様は正しい行いしかしません」
「それはさすがに妄信的すぎると思うが」
ゲームでは勇者行為が許されていたからな。特に何の問題もなく別荘に入ることができたのだが、さすがに今では無理だと思うし、貴族の別荘ならば管理している使用人がいるだろうとも思うのだ。
となれば侵入する方法は犯罪者まがいの方法しかない。
行ってみての様子にはなるが、侵入はしておこうと思っている。最低でもお宝は欲しいし。
「で、王都に行ってからの予定だが……フゥガ、カリン、【這宴のフルアデス】って覚えているか?」
「【レームル山】でオーガを狂乱化させていた魔族だろ? もちろん覚えているさ」
「そいつが多分、王都にいるんだが」
「「はあっ!?」」
冒険者ルート序盤の一大イベントであり、ボス戦扱いとなる戦いが王都で起きる。
魔族への警戒度を一気に上げ、メインストーリー中盤へと繋げるためのイベントでもあるわけだ。
そこで登場するのが【レームル山】異変の元凶である【這宴のフルアデス】だ。
オーガに狂乱の首輪をつけて遊ばせていたのは、ただの実験や試作にすぎない。本命とばかりに王都で遊ぼうとし始める。
ヤツの作戦は三段階。
最初は王都周辺の魔物を狂乱化させて疑似スタンピードのようなものを作り、王都に攻め込ませる。
といっても操作しているわけではなくあくまで狂乱化なので集団行動のような真似はできないと思うのだが。
それと同時に、王都の民を狂乱化させる。一般人をバーサーカーみたいにさせるわけだ。
王都のあちこちで暴れる民は、まさしく暴徒となり王都に被害を及ぼす。
王都は内と外で、対処を迫られるわけだ。騎士団も暴徒鎮圧に忙しなく、冒険者も魔物の対処に駆り出される。
主人公はどちらも対処しようとあくせくするわけだが、第三段階目として地下水路からも魔物が現れ始めたことで、そちらを対処しようと動きだす。
ここで『王都地下水路の地図』が必要になるわけだな。まぁなくても普通に探索できるのだが。
で、迷路のような地下水路を行った先にいるのが【這宴のフルアデス】。ここがボス戦だな。
「はぁ……また頭の痛くなるような話だな。やはり危険なヤツじゃないか」
「でも今聞いておいて良かったですよ。いきなり王都で大騒ぎとか心臓に悪いです」
「一応言っておくけど、さっき言ったとおり予想や希望も含まれるんだ。俺たちが王都に着いた時には時期尚早の可能性もあるし、時すでに遅しの可能性もある。後者の可能性は限りなく低いけどな」
俺たちが王都に着いてちょうどイベントが起きるとすれば、それは主人公故の運命的なナニカが起きている証拠だ。俺はそこまで信用していないし、信用したくない運命力でもある。
時期尚早であるならば、フルアデスがまだ準備中か、まだ王都に到着していない可能性もある。
時すでに遅しの場合は、王都がお祭り騒ぎになっているだろうが……さすがにそれはないだろうな。
【レームル山】の一件から俺たちはかなり早く行動していると思うし、そんなに次々と連続してイベントは起きないだろうとも思っている。
現実世界となったが故に読めないところも多いのだが、「まだ起きないでくれ」という希望も含まれているのは否めない。
「今までに何度も思ったことだが、ホントにとんでもねえご主人様だな。カーマインってヤツじゃなくてご主人様が英雄を名乗っちまったほうがいいんじゃねえか?」
「これに少し慣れてしまっている自分が怖いです。恐ろしい先見の明ですね」
「やはり神の御使いとしか思えません。わたくしたちが王都の皆様を救済するのです」
「勘弁してくれ。俺は本当に村育ちの一般人だからな」
英雄なんてカーマインに全部任せる。神の御使いなんかあるわけない。
俺はただこそこそ隠れてイベントを熟そうとしているだけだ。
おそらくフルアデスイベントは起きるだろうし、それはメインストーリーが進んでいるのと同義。
それでもストーリーに「俺=主人公」と認識させないために出来る限りのことは行う。
主要キャラには会いたくないし、国王とかお偉いさんにも会いたくない。解決したのが俺だとバレないよう今まで通りこそこそやるつもりだ。
そういう意味では最初に【スカウト】を選んで正解だったな。こそこそ動くのに適している。
ただ生き残る力が強そうだからと選んだわけだが、今となっては非常に助かっている。
フルアデスイベントが終われば冒険者ルートのメインストーリーは中盤へと入る。
中盤は自由行動の時間だ。
シュトローゼル王国内をうろうろしてもいいし、他国に行ってもいい。
各国・各地で魔族系のイベントを消化して最終的には聖王国に行くというのが常道ではある。
俺たちの場合はリッツエルデ王国からエルフの隠れ里へ行き、イーステッド武国まで行くのは決まっている。
その時、魔族の様子はどのようになっているのか。魔族南下の気配はあるのか。
それによって最終決戦までどれくらい時間的余裕があるのか分かるだろう。出来れば他の国も巡っておきたいところだ。
願わくば王都のフルアデスイベントで何かしらのヒントが得られればいいのだが……あまり期待はしないでおこう。
今はとりあえず【フランデル】に集中だ。




