19:ベレッサの街を出て
「よし、じゃあ行こうか」
「「「はいっ!」」」
四人体制となった我ら【レッドヘア】は、【ベレッサの街】を出て、一路東へと向かう。
はじまりの街なのに随分と長く居座った感があるが、合計で二十日とかそんなものだ。……いや、やっぱり長いな。
最初だからこそ色々とイベントめいたことが重なったので仕方ないとは思っている。
しかし想定以上の成果が出たのも確かだ。
最初の金策から始まり、装備も良いものが手に入ったし、仲間を増え、冒険者ランクもDに上がった。
ちなみにネフェリアはCランクらしい。聞けば五十年近く冒険者をやっているそうなので当然と言えば当然なのだが、「五十年もやっててまだCランクなの!?」とも思う。
でもCランクにも上がれず引退する冒険者だって多いんだよな。実際問題。
それだけ大変な仕事なんだよ。プレイヤーは当たり前みたいにランクを上げるけどさ、そんなのゲームの中だけなんだよな。
昨日はネフェリアを買ってから冒険者ギルドに寄ったり、色々と買い物したりと忙しなかったわけだが、翌日にはもう出立である。
目指すは東に伸びる街道の先、【交易都市デュッセル】。
そこに辿り着くまで、宿場町を三つ、農村を二つ経由する。馬車で計六日の旅である。
……が、とりあえず最初の宿場町までは徒歩とさせてもらった。
徒歩でも夜までには着ける距離だという理由も一つなのだが、歩きながらネフェリアに色々と説明したかったのだ。
昨日は慌ただしくてほとんど説明できてなかったからな。
俺たちだけで話す時間が欲しくて、わざわざ徒歩にしているというわけだ。
ちなみに仮の装備だけは渡してある。
弓は既製品を買ったのだが、防具に関しては【夜霧の梟】の構成員のものだ。【ハンター】も俺と同じく斥候職だからな。ネフィリアのサイズに合わせて同じような装備になった。
今にして思えば【夜霧の梟】にはお世話になりっぱなしだな。フゥガやカリンの手前「ありがとう」とは言えないのだが、内心感謝しておこう。
当然、そういった装備やマジックバッグを渡した時にも驚かれた。
「ど、奴隷として入ったばかりの私にこのような装備を!?」って感じだ。どうやらネフィリアはCランク冒険者ではあったものの金満冒険者ではなかったらしい。マジックバッグも持っていなかったとか。
しかし渡した装備は『構成員のお古』だしそこまで強くないんだよな。俺的には。だから【交易都市デュッセル】についたら装備品を何とかしなくちゃいけない。これはネフィリアに限らず全員に言えることだが。
そうして街道を歩きつつ、説明をし始めたわけだが、やはり何も知らないネフィリアにとっては驚きの連続だったらしい。
フゥガやカリンの時にも驚かれたが、二人には情報を小出しにしていたからな。しかも獣人特有の「主人のことなら何でも信じよう」みたいな従順な性格も相まって、受け入れるのが異様に早かった。
ネフィリアの場合、そうはいかない。奴隷だから受け入れる以外の選択肢はないのだが、いきなり詰め込まれる情報量が膨大なのだ。
それも七十年の人生でありえなかった新情報ばかり。これを即座に「理解してくれ」というのは酷である。
「インベントリ……? そんな規格外な能力が……?」
「ステータスを自分で見られるのですか? まさかご主人様は貴族……ああ、違うのですか」
「未来予知!? ま、魔族ですって!? わ、私も戦うのですか!?」
こんな感じだ。その都度、フゥガとカリンが宥めたり説明補助してくれたりしたので助かったが、特に旅の目的が「魔王・魔族軍の討伐」と知った時には狼狽えていたな。
当然の反応だと思う。しかし奴隷商で言うわけにもいかないからなぁ。「魔王討伐用の仲間を探しています」とか。
後から言うのも騙しているみたいで気が引けるのだが言わないわけにもいかないし……すまんが納得してもらうしかない。その代わり勝てるように強くするから許してくれ。
色々と聞き終わったネフィリアは額を抑えながら、俺たちの一番後ろを付いてきている。頭が痛くなるような話だったのは間違いない。
「ネフィリアでこの調子だと、これから買う予定の奴隷に話すのも気が引けるなぁ」
「しかし最初に言うべきことだろう。ネフィリアだって今は理解できないだろうが、我らと行動を共にしていればすぐに分かるはずだ。ジェイルの言葉が正しいのだとな」
「ですです。ジェイルさんの無茶に付き合っていれば三日くらいで慣れるです」
「そ、そういうものでしょうか……」
獣人組は妄信しすぎだと思うが、慣れるのは間違いないと思う。日常的に「この世界の非常識」をやっている自覚はあるからな。
今もほら、ネフィリアと話しながらフゥガもカリンもスキルを使いまくっている。
街道を歩きながら、魔物もいないのに火魔法を放ったりしているのだ。人の目がないと分かっているからやっているのだが、放火魔か狂人と疑われてもおかしくはない。
しかしこれが俺たちの日常なのだ。使わないのは勿体ないとばかりにスキルを使いまくる。ネフィリアにも慣れてもらうしかないのだ。
「ネフィリア、カリンたちがスキルを使いまくっている理由は理解できているか?」
「は、はい、確かスキルの熟練度がどうとか……しかしスキルをLv8にする必要性も転職の必要性もいまいち分かっていないのですが……」
「うん、今度改めて詳しく説明するよ。今は『転職すれば強くなる』っていうのと『転職する前にスキルをLv8にしておく必要がある』とだけ覚えておいて欲しい」
「はい」
「というわけで【デュッセル】に着くまでネフィリアにもできるだけスキルを使いまくって欲しい。MPポーションは買いこんだから使い切るつもりでスキルを使おう」
「は、はい……」
街道に近い採取ポイントがあればそこで霊草の採取もするつもりだけどな。森と違ってそうそうあるものじゃない。
だから【ベレッサ】で買いこんだMPポーションは全て道中で使うはめになるだろう。
俺たちは金満冒険者だという自覚もあるのだが、資金の二~三割はMPポーションで消えているんだよな。それもまた他の冒険者からすれば異常なことだろう。
「ネフェリアにはできるだけ職業スキルのほうを使って欲しい。サーチ系とか<ハイド>とか<エイムアップ>とか。弓は射てるなら地面に向かって射る感じだな」
「地面に向かってスキルを使うのですか……」
「カリンもそうしてるだろ?」
「草原が燃えちゃったら大変ですからね」
当たり前のようにそんな配慮をしている。これが俺のスタイルに慣れ切ったカリンの姿だ。頼もしいと感じると同時に「他人に見せたくない姿」であるのは間違いない。
「しかしジェイル、ネフィリアやカリンは職業スキル優先で私は武器スキル優先なのだろう? 意図はあるのか?」
「将来的な転職を見越してだな。ネフィリアやカリンは転職しても弓と杖は使うだろうからスキルを伸ばす機会はある。しかしフゥガや俺は転職すると武器が変わる可能性が高いからな」
「つまり私たちの転職先はすでに決まっているということか」
「いや、応相談って感じだ。出来れば最終的にネフィリアを【エレメントシューター】、カリンを【アークウィザード】にしたいとは思っているんだが――」
「エ、【エレメントシューター】!? 伝説の職業ですよ!?」
「ア、【アークウィザード】とか宮廷魔導士長でもなれるかどうかって聞きますけど!?」
ああ、一応認知はされているんだな。少し安心した。
転職が悪と見なされるこの世界では、強い職業は認知すらされていないかもと危惧していたんだ。
しかし知っているのなら話は早い。道のりは遠いがそれを目指してレベルアップを図れる。
もちろん本人たちが納得すれば、の話だけどな。転職の際には改めて確認するとしよう。
「フゥガの場合はちょっと悩んでいる。盾役を変えるつもりはないが、攻撃型にするか防御型にするか回復型にするか……まぁこの三択だな」
フゥガは元々盾役に適した能力をしていない。
獣人だから身体能力は高いのだがSTRとAGLが高く、盾役に必要なVITとREGは低いのだ。
とは言え今は職業レベルも上がってそこそこの数値になっているし、本人の努力もあって盾受けの技術も上手いから今後も盾役とするのは決まっているのだが。
だから獣人の特性を活かして『攻撃型盾役』とするか、盾役を極める意味で『防御型盾役』とするか、安全性を重視して神聖魔法の使える『回復型盾役』にするか悩ましいというところだ。
どれも一長一短あると思う。……という説明をフゥガにした。
「ふむ……ちなみにそうした場合、私の最終的な職業はどうなるのだ?」
「攻撃型なら【ロイヤルナイト】か【ナイトオブラウンド】、防御型なら【ガーディアン】か【ジャガーノート】、回復型なら【パラディン】かな」
「「うわぁ……」」
「なんかどれも仰々しいな。【ロイヤルナイト】とかそれこそ近衛騎士でいるかどうかというところだろうに」
「転職の時にまた聞くからそれまで悩んでいてくれ。ちなみに剣スキルを覚えたあとは、メイスか大剣を使ってもらおうと思っている。どちらも【ナイト】系で使えるしな」
「はぁ、まぁとりあえずジェイルがそこまで見越せているというのは分かった。せいぜい悩ませてもらおう」
そんなことを話しながら俺たちは街道を歩く。
もう秘密で説明することはないし、宿場町まで行ったら馬車で向かってもいいかもな。
どうせ六日間もMPポーションはもたないし。早めに行ってさっさと戦力強化を図ったほうがいいかもしれない。そこはまた相談するとしよう。
■ネフィリア 70歳 エルフ
■ハンターLv28
どうやら『ご主人様』は私が思っていた以上におかしな人間だったらしい。
奴隷商館で見た時にも、若すぎるし、そのわりに私を買えるほど大金を持っているし、普通ではないと思っていたのだ。
私を買ったあとも生活雑貨や弓など、必要なものを買ったわけだが、そのたびに金使いの荒さに驚かされたものだ。
教会で<ディテクト>の宝玉を使うのもそう。
自分のステータスを見るなどいつぶりだろうか。
それをご主人様は当たり前のように使わせ、私のステータスをノートに書き留めていた。
おまけに「余り物で悪いけど仮の装備だから」と渡されたのは斥候用の立派な防具だ。明らかに高級品。
ご主人様も斥候職であったからお下がりなのかと思ったのだが、どうやら闇組織の暗殺者が着ていた装備らしい。
それは夜に宿屋で、フゥガ殿とカリン殿に聞いた話だ。
お二人は英雄譚のように語られていたのだが、詳しく聞けば、お二人は闇組織に捕らえられ、そこをご主人様に助けられたらしい。だから付き従いたいと仲間に入れてもらったようなのだ。
ご主人様の装備も、私が頂いた装備も、その闇組織の構成員が使っていたものだと。
これほどの装備をただの構成員が使っているという時点で、並みの闇組織ではない。あの穏やかな【ベレッサの街】にそのような組織のアジトがあったという時点で驚きだ。
その組織を一人で壊滅させたのがご主人様……。
やはり並外れた御仁なのだろう。それは未知への不安と共に、一筋の光にも感じた。
お二人がご主人様を英雄視しているからというのもある。美談として語られたそれは私に希望をも齎せていた。
しかし私の想像を超える御仁であったのも確か。
それは翌日、【ベレッサの街】を発ったそばから気付かされた。
理解不能、新しい情報の波、世界にとって機密となるべき知識とその量。
お二人は「そのうち嫌でも慣れる」と言うが、とても冷静ではいられない。
はたして私は付いて行けるのだろうか。非常識の塊を日常だと受け入れられる日がくるのだろうか。そんな不安が一気に増した。
とは言え…………【エレメントシューター】は憧れてしまうのだが……。




