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「ここらでよいだろう。計画通り別れるぞ」
加平の合図で信徒たちは数人のグループに分かれ散っていった。
残った10名程度と、
「よし、我らは首塚だ」
加平も再び動き始めた。
別動班の一つは繁華街へ。
この辺りはオフィス街で、そこで働く者相手に飲食店も集まっている。
小洒落たオープンテラスの店も多い。
昼飯時なのでどこも満席だった。
その道に面した席に座る者たちは急に暗くなった空を見上げ不安げにしていたり、繋がらなくなった通信を回復させようとあれこれやったりしていた。
が、それも初めのうちだけ。
直に困惑は混乱へと変わってゆく。
「見ろ」
信徒が仲間に促した先では、
「外が暗くなって……」
「そんなことどうでもいいんだよ、早く運べよ!」
「なんでですか? こんなのお客さんも食事どころじゃないでしょう?」
「そんなこと、どうでもいいんだよ! 働けよ! 給料払わねえぞ!」
「はあ? なんでそうなるんですか?」
店員が揉めている。
そこへ、
「まだかよッ!」
店に食事を受け取りに来たデリバリーの配達員が苛立って店先から店内へ苦情を言うと、
「ちょっと、ここで喚かないでくれる?!」
すぐ横のテラス席に座る女性がその配達員へと注意する。
「お前には関係ねえだろ!」
「すぐ近くで大声出されると煩くて迷惑って言ってるのよ。そんなこともわからないの?」
売り言葉に買い言葉で言い合いはエスカレートし、
「なんだよ、偉そうに。こっちは働いてんだよ。黙ってろ!」
「あなたが騒がしくなきゃ黙っているわよ。ホント、頭悪いわね。だからそんな仕事しかできないのよ」
「なんだと、このアマ! バカにしやがって」
ドガッ
配達員が女性のテーブルを蹴ると、
ガシャッ
グラスが落ちて割れる。
「ちょっと!」
店員が騒ぎに気付き出てくるが、
「おい! 運べって言ってんだろ!」
その背中に別の店員からの声。
そこかしこでこんな調子だ。
「御師様のおっしゃったとおりだね」
「浅ましいな」
「でも、それでいいんじゃない?」
信徒たちはニヤリと頷きあうと、
「僕らの使命を果たそう」
「新しい世界のために」
「新しい世界のために」
そう頷き合って揉めている者たちへと歩み寄った。
口角に泡を溜めて唸る中西をいつまでも抑えているのも面倒だ。
新子は手近にあった延長コードで彼を縛り上げ、職員室の端に転がしておき、
「んん〜、何が起きているのか説明できる人って……」
新子の問いかけに、
「新子先生、実は……」
岩渕がかいつまんで説明する。
「それで外が暗いって言うんですか? ……そんなことって……」
窓から外を見ながら、信じられないが岩渕がそんな嘘をつくはずもないし、と、どう受け取っていいか戸惑う新子に、
「あの……シンコ先生……」
咲がためらいがちに何かい言いかける。
「お。どうした西村? なにか知ってるなら教えてよ」
新子が、話を続けるよう咲に促すと、
「この暗さって不自然ですよね?」
言われてみればただ曇っていて暗いってのとは違うな、と頷く新子。
「下から嫌な感じが上がってくるのは感じますか?」
「嫌な感じ? ウ~ン……」
これも言われてみればそんな気もする……かなあ? と今度はなんとなくで同意する。
「封印が解けたからだと思うのですけれど……この下から上がってくる負の霊気に当てられて中西先生はあんなふうになったのだと思います」
「負の霊気?」
うまく説明できない咲は助けを求めるように厳を見ると、
「田崎先生の自殺、知ってますよね?」
生徒たちには伏せておいたことが厳の口から出て、おや? という顔の新子。
生徒達は教師の自殺について知らなかったのでざわついた。
新子は頷いて応えるが、
「それが何か関係あるのか?」
そこがわからない。
「ちょっと前に、保健の山里先生も死にました」
!!
それは知らなかった。
他の教師も同様だ。
二人の死は封印を解くためのものだった、と厳に説明されてもやはり受け入れられないが、
「……この暗さと、あの男がおかしいのは、それで説明は……つくってことかい?」
「詳しいことは僕らにもわからないんです。だから屋上に上がって……」
街の様子を見てみたい。
中西のせいで時間を取られたが、
「だったら急いだほうがいいな」
信じられないからと言ってここでダラダラ議論しても始まらない。
「分かった。屋上へ行ってみよう」
そういうことになり、鍵を手にした新子の後に皆ゾロゾロと続くのだった。