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ゼエゼエ……


一人で戻ってきた男子生徒は全力で走ったせいで息が切れている。


「どうしたの? 鍵は?」


「お、尾田が、中西に……」


「コラ、呼び捨てにしない」


教師を呼び捨てて岩渕にたしなめられるのは日常の光景。


いつもならここで、は〜い、と引き下がるが今日は違った。


「だって! あんな奴!」


「もう! あんな奴とか言わない!」


注意はしたものの、あんな奴! と吐き捨てるような言い方が普通でないと感じた岩渕が、


「何かあったの?」


呼び方についてはこれで終わりにし話を戻すと、


「あ、そうだった。屋上の鍵を智香先生に言われて取りに来たっていっても、屋上に用事なんてあるはず無いだろ、何悪さしようとしてる、って決めつけて……」


嘘じゃないといくら言っても取り合ってもらえず、頭にきた尾田が教師を無視して鍵入れから屋上の鍵を取りだそうとしたところで、


「中西の奴、尾田に椅子、投げつけやがったんだ!」


「え?! 椅子を?」


確かに中西という教師は普段から理不尽に生徒にあたるので影でパワハラ野郎と呼ばれてはいる。


が、保身のためではあろうが、生徒に手をあげたことはない。


それが椅子を投げつけたというのだから岩渕だけでなく聞いていた生徒たちも驚く。


ここで話していても埒が明かないのでゾロゾロと職員室へ。


そこには倒れた尾田と、それをかばう男子生徒達、そして、


「早くそいつを連れて出ていけ! 二度と入ってくるな! お前らは素行不良で退学だ!」


わめき散らす中西がいた。


他の教員ももちろんただ見ていたのではない。


一人が止めに入ったが中西に殴られ昏倒していた。


それで教師達は中西の異様さに動けなくなっている。


「中西先生! 何をなさっているのですか?!」


岩渕が倒れている尾田に駆け寄って具合を調べる。


幸い意識はあり大事はなさそうだった。


ホッとする岩渕に、


「ふん、岩渕先生、あんたがコイツラを甘やかすから図に乗ってこんな不良になったんだ」


そう暴論を浴びせた中西は木刀を持った厳に気付き、


「なんだ田村! その木刀で私を殴るつもりか! やれ! やってみろ。お前も退学だ!」


そうわめきながら厳に詰寄ろうとするのを、岩渕が割って入り、


「何を言っているのですか? あなたにこの子らを退学にする権限なんてないでしょう?」


「うるさい! 私に生意気な口をきくな!」


「どうしたのですか? 冷静になってください」


「私は冷静だ! 生意気な口をきくなといったろう!」


ベシッ


中西が岩渕を平手打ちする。


「キャ!」


「先生!」


生徒たちの中で何かが弾け飛び、


「中西! てめえ!」


「ぶっ殺す!」


中西を囲もうとするのを、


「駄目ッ!!」


岩渕の透き通るような一喝で皆の動きが止まった。


「駄目よ。頭を冷やして。暴力に暴力で対抗しちゃ同じところまで落ちるわよ。皆はこんな大人になっちゃ駄目」


岩渕の嫌味に、


「こ、この小娘が! 生意気な口をきくなと何度言ったら……」


再び岩渕を殴ろうと手を振り上げた中西の顔に、


「そこまでです」


すっと前に出た厳が木刀を突きつけた。


霊気が大量に込められた木刀に、中西は動けなくなる。


そこへ、


「シンコせんせ〜! 早く!」


「おう。 おおッ!?」


昼休みに視聴覚室で授業準備をしていた新子(あたらし)が、生徒に呼ばれて駆けつけてきた。


職員室にはいるなり、この状況を目にし驚く。


「どうした、どうした? 田村、木刀を引け」


「はい」


新子が来たからもう大丈夫だろうと厳は下がる。


が、


「た、退学だ! 見ただろう?! こいつは教師に木刀を向けたのだぞ!」


厳の圧から開放された中西が厳を指差し、またわめき始めた。


だが、新子は、


「うるさいな。田村がそうしたからにはあんたにそうされる理由があるんだろ」


取り合わない。


「な、なんだと?!」


激昂する中西を無視して、


「アレ? 宮口先生、どうしたんっすか?」


倒れている同僚を抱え起こす新子。


中西に殴られ気を失っていた女性教師は、


「……あ、……」


意識を取り戻す。


「中西が殴ったんですよ!」


生徒が新子に言いつける。


中西がその生徒を怒鳴りつける前に、


「何してんだよ?! おい、オッサン! なんか勘違いしてねえか?」


新子に凄まれ中西が絶句する。


「何が退学だ。あんたこそ首だろ。これは傷害だぞ」


同僚を近くの椅子に座らせた新子は中西に対峙する。


「わ、私が首、だと……。そんなわけはないっ! お前らが悪いんだ! 私以外全員間違っている。正しいのは私だけだ!」


「はあ?」


何かがおかしい。


何がおかしいのか、この中で分かっているのは咲だけだった。


だが咲がそれを伝える時間などなく、


「あ゛あ゛あ゛〜ッ!!」


中西は奇声を発しなが新子に殴りかかった。


もちろん剣道有段者で他にも武道を修めている新子には通用しない。


簡単に腕を取られひね上げられて床に抑え込まれてしまう。


「グフッ、は、放せ〜ッ! この若造めッ!」


膝の下で喚き続ける中西に気味悪さを感じ、


「……これって、どういうこと?」


困惑する新子は皆を見回すのだった。

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