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「御師様。準備が調いました」


「うむ」


鷹揚に頷いた加平は信徒と建物を出る。


「昼なのに……」


暗い。


淀んだ空気に尻込みする信徒を加平が、


「封印が解けたからだ。これが晴れる頃には我々の世界になっている」


そう言って奮い立たせた。


「新しい世界を造るには、この世界を破壊しなくてはならない」


それは自分自身に言い聞かせるようでもあった。


「邪魔する者は消すのだ。だが弾の無駄遣いはするなよ」


銃を待つ者にそう言って進み始める。


平日の昼。


首都の中心部だ。


人は多い。


しかし誰一人として事態を把握できてはいない。


空を見上げ呆然とする者。


どこかに連絡を取ろうと、あるいはニュースを調べようとしてもスマホがつながらないと焦る者。


そんな中、武装した集団に遭遇しぎょっとするが、誰何(すいか)する者はいない。


皆が道を開ける。


今まで社会の陰で生きてきた信徒たちはそれだけで優越感を覚え高揚した。


同時にドロドロとした社会への復讐心も湧いてくる。


「邪魔だ!」


一歩だけ下がって、何なんだコイツラは? としげしげと一団を見ていた中年男性へ、信徒の若者が金属バットの一撃を加える。


ヒョロりとした体のどこにそんな力があったのか、バットは男の顔を陥没させた。


なにかに取り憑かれたようなその力に、バットを振るった若者自身も驚いて動きを止める。


が、戸惑いは一瞬だった。


倒れている中年男性にもう一撃。


頭が潰れ脳漿(のうしょう)がゆっくりと広がった。


ひきつった笑いを浮かべた若者は、辺りを見回す。


次のターゲットを探すその目は完全に自分を見失っているようだったが、


「遅れるな」


加平のその一声に、名残惜しそうに集団へと戻っていった。


見ていた者はあっけに取っられ、痙攣が次第に小さくなっていく中年男と去っていく謎の武装集団を見比べるしか出来なかった。




「屋上?」


「はい。なるべく高いところから街を見てみたくて」


(いつき)に訊きたいことは山ほどあるが、


「分かったわ。鍵を取ってくる」


確かに先ずは現状把握が最優先だ、と岩渕は判断した。


「智香センセー、俺が取ってくる!」


返事を待たずに尾田が教員室へと走った。


「俺も!」


数名の男子が続く。


尾田達は岩渕に気に入られたくて日頃からこんな調子なのだ。


「鍵を取りに行くのに何人もいらないのにね」


岩渕の呆れ顔に皆で笑い、不安と緊張が少し和らいだ。


「じゃあ、尾田君達が戻ってくるまで、知っていることを話して。なんで木刀なんて持っているの?」


そう岩渕に問われ、どこから話したものか? と厳と咲は顔を見合わせる。


陰陽課のことを伏せるのにも無理がある。


今更ながら花にも一緒にいてもらったほうがよかったと二人は思うが仕方ない。


「詳しい話をすると長くなりすぎるので、核心部分だけでいいですよね?」


厳の切り出し方を不自然に感じた岩渕だが話を進めることを優先し頷く。


「オカルトじみてて信じられないとは思いますが……」


躊躇していた厳だが、


「将門の首塚の封印が解かれました」


「? 将門の首塚って……あのビルの間の?」


「そうです。誰が何を目的にしているかは僕たちにもわかりません。ともかく、この学校の格技場と体育館の間の通路が封印を解く仕掛けの一つになっていました」


「そんな……」


他の者が言えば、悪い冗談だ、と一笑に付されただろう。


だがクラスの中でも真面目で通る厳と咲の二人が揃ってクラスを担ぐとも思えない。


それにこの暗さ(・・)は、話にリアリティーを持たせていた。


「僕等や、花さん……神前さんは、封印を解くのを阻止しようと動いていたのですが、失敗しました。さっきのことです」


「さっき?」


「ええ。保健室の山里先生が……」


厳が咲を気遣うように見る。


岩渕も先程から咲の顔色が悪いのが気になっていたが、更に青くなったのを見て、


「西村さん、大丈夫? とりあえず座りなさい」


椅子に座らせ、


「山里先生がこの件に係わっているっていうこと?」


岩渕の問いかけに、厳は山里が自決しその血で封印解除を仕上げたことを話した。


目の前で人が死んだのなら咲が顔面蒼白になるのも理解できる。


「その話が本当なら……ごめんね、疑っているわけじゃなくって現実離れし過ぎていて理解が追いつかないって意味よ」


厳もすんなり信じてもらえるとは思っていないのでただ頷き返す。


「ともかく、山里先生は……って言うより彼女一人ではないでしょうから何らかのグループが将門の怨霊を開放したってことでしょうけど……」


岩渕は少し考えて、


「それが最終目的じゃないわよね?」


「僕もそう思います。でも何のためにかは僕たちもわからないんです」


ここまで話が進んだところで、


バタバタバタバタッ!


廊下を駆ける音が響いた。


「と、智香先生〜ッ!」

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