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アレ(・・)との距離が縮まったその時、


バサッ


(いつき)アレ(・・)へ広がるように学ランを投げた。


読み通り学ランに飛びかかったアレ(・・)の横を厳はスススッと通り抜ける。


アレ(・・)との位置が入れ替わり、理科室に駆け込む厳。


アレ(・・)も学ランの後ろに厳がいないと気づき、追ってくる。


(よし)


これでアレ(・・)が誰かを襲う心配はなくなった。


あとはここで片をつければよい。


ざっと部屋を見回すと、一組の大きな三角定規が眼に入る。


黒板用の頑丈で重みのある木製定規だ。


手に取ると意外と振りやすい。


これを武器と決めた厳はアレ(・・)に向き直った。


武装した厳を警戒し、アレ(・・)が動きを止める。


右手に持った半正三角形の定規をアレ(・・)へと突き出し、左手の二等辺のを頭上に構えた厳はゆっくりと間を詰めた。


もう何度もアレ(・・)とはやり合っている。


だから厳には、その間合いが分かっていた。


思った通りのタイミングでアレ(・・)が飛びかかってくる。


右手の定規の側面で扇を仰ぐように外へ払い動きを封じておいて左足で踏み込みながら、


ブンッ!


左の定規で切り落とした。


音のない断末魔が響きアレ(・・)が霧散……しない!


厳はバッと後ろに飛んで中段に構えた。


散り散りになったアレ(・・)の欠片の色が濃くなり、


(蜂?)


そう厳が思ったのと同時に、


バズズズズッ


耳から聴こえるちゃんとした(・・・・・・)羽音を立て、厳めがけて飛んできた。


定規で払おうにも数が多い。


初めてのことで咄嗟には対処法も思いつかず、厳は夢中でただ()に近付かれぬよう体を回転させながら定規を振り続ける。


不意に、


ドンッ!


耳の後ろに鈍器で殴られたような衝撃が走った。


蜂の形をしたアレ(・・)の欠片に刺された(・・・・)らしい。


激痛で一気に血の気が引くが意識はまだある。


気絶してしまえばこの痛みを感じずに済むが、それは死につながると直感した厳はただひたすら定規を振るってアレ(・・)の欠片を潰し続ける。


それも限界に近づき、ガクリと膝から力が抜けたその時、


ヒュン、ヒュン、ヒュンッ


三羽の光る鳥が飛び入って逃げ惑うアレ(・・)の欠片を次々に咥え潰して、消した。


もうアレ(・・)がいなくなったと安堵した瞬間、


ドサリ


床に倒れ、意識を失う厳の耳にわずかに届いたのは、


「厳くん! しっかり!」


花の声だった。




「おっ、起きたようだぞ」


低い男の声に厳が目を開けると、その声に似つかわしくない少女の顔。


「ああ、良かった! ごめんなさい! ほんと、ごめんなさい!」


花だった。


「ほら、診たいからどいてくれ」


何故か泣きじゃくる花を厳から引き剥がすようにして最初の声の持ち主が厳の顔を覗き込んだ。


「俺の言うことがわかるな? 口を開けて舌を見せてくれ」


言われたとおりにすると、


「よし」


うなずき厳の顎に手を当て、口は閉じてよいと示しながら指で厳の眼を開き、同時にもう片方の手で脈をとる。


しばらくすると、


「もう大丈夫だ。全く災難だったな」


と笑った。


厳が初めて見る男だったが、何故か、前に会った気もする。


無精髭を生やしているが不潔な感じはない。


四十前後に見える。


しげしげと見る厳の視線に気づき、


「どうした? 俺の顔になにか付いているか?」


「あ……いや、ごめんなさい。でも、どこかで会いましたか?」


男は眉を上げ驚きの色を示し、


「……たいしたもんだな」


答えとも独り言ともつかぬ一言を呟いた。


「厳君。色々説明しなくてはならないけれど具合は?」


横からまた別人の声がかかる。


厳が首を廻らせてそちらを見ると、如何にも仕事のできそうな風貌の眼鏡の女性。


年齢は厳には見当もつかなかった。


二十代後半にも見えるし、四十を少し超えた位にも見える。


年頃の厳が釘付けになるほどの美人ではあった。


固まった厳は、


「厳くん……年上好みなのね……」


花からじっとりと指摘され、我に返る。


慌てて視線をそらす厳に、男が笑って、


「ははは! 見惚(みと)れるのも分かるが、中身を知ってがっかりするなよ」


「どういうことよ!」


なんだか騒がしい。


「えっと……ここはどこであなた方は……?」


おずおずと尋ねる厳に、


「そうだったわ。ごめんなさい。こんな話をしている暇はないわね」


眼鏡の女がこう答えた。


「先ずはここが何処かってことだけれど、学校から少し離れた病院よ」


見回すと確かに病院の個室のようだ。


「そしてね、私達が誰かってことだけれど……」


次の言葉に厳は耳を疑う。


「私達の所属は、宮内庁、陰陽(おんみょう)課なの」

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