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(いつき)君! もう7時半よ!」


「……え! あっ、ホントだ! 叔母さん、ごめん! 起きられなかった」


おかしいなぁ、目覚まし鳴らなかったぞ、とスマホを見ると、"聞き逃したアラーム"と表示がある。


アラームにも気づかぬくらい熟睡していたらしい。


厳が何に"ごめん"と謝ったのかというと、弁当だ。


両親が亡くなり、叔母、父の妹の(ゆい)に引き取られたのは厳が小学三年生の頃だった。


中学まではあった給食が高校ではなくなった。


そこで朝が弱く料理も苦手な結の昼食も厳が作ることになったのだが、今朝は珍しく寝坊してしまった。


昨日のことで思ったより疲れていたらしい。


「いいわよ。こんな日もあるわ。私はどこかでランチするから厳君は購買で食べて。お金はあるわよね?」


二人は慌てて支度をし、家を出たのだった。




学校では皆が朝からソワソワしている。


今日、公立高校にはめったにない転入があると数日前から聞かされていたからだ。


扉が開いた。


担任の岩渕の後に続いて入ってきたのは……


ガッタッ!


厳が驚いて腰を浮かせると、大きな音が立ち注目が集まる。


「どうしたの、田村君? 転入生が可愛すぎて腰抜かした?」


岩渕は若い女性だがこんな軽口をしょっちゅうたたく。


その言い草に教室が湧いた。


智香センセー、最近はそんなこと言ったらセクハラになりますよー


なによ、生きづらい世の中ね!


などと馬鹿な会話で盛り上がる中、厳は担任と一緒に入って来た女の子から目を離せずにいる。


(昨日の……あの子だ!)


まさか転入生が昨日の少女だとは思いもしなかった厳。


少女も厳をちらりと見て厳にだけわかるくらいの瞬の間ニッと笑うと教室に入って来たときの澄まし顔に戻った。


「は〜い、静かに。じゃあ紹介するわね」


岩渕が黒板に大書したのは、


神前 花


「珍しい苗字よね。"こうさき"って読むんですって。"こうさき はな"さんです。みんな、仲良くするのよ。神前さん、挨拶をどうぞ」


「はじめまして。よろしく」


ここから質問タイムが始まり、神前と紹介された少女はそのアイドル並みの容姿と、それを鼻にかけぬさばけた受け応えであっという間にクラスに受け入れられた。


何がなんだかさっぱりわからぬ厳。


昨日の出会いを誰かに話すわけにもゆかず、かと言って初っ端で担任に茶化された手前、少女に直接尋ねることもできない。


そして昼休みになった。


すっかりクラスに溶け込んだ花は、輪の中心になっている。


「花ちゃんお弁当は?」


「まだ引っ越しの荷物が片付いてなくって作れないから……」


「じゃあ、購買行く? 一緒に行こうよ」


数人の女子と昼を買いに行ってしまった。


(……どうしよ……?)


厳も今朝は弁当を作りそびれたので購買で買うつもりだったが、それは花の後をつけるようで躊躇(ためら)われた。


友達がいないわけではないが食事は本を読みながらと決めている厳は、いつも一人で昼を過ごす。


それを分かっている周りも厳を誘わない。


文庫本と財布をカバンから取り出すと、フラフラと廊下に出る厳。


自分でも自意識過剰でバカみたいだとは思ったが、つけていると思われたくないのでゆっくり歩き距離をとるしかなかった。


更に念の為、普段使わない階段で遠回りする。


理科室の前を通るが、誰もいない。


昼休みの理科室に誰もいないのは当然といえば当然なのだが、何かがおかしい。


? ……!


そのおかしさに気づいた厳。


(まずいな……、何も持ってないぞ)


無論今、木刀はない。


それに代わるものは……


理科室内にはモップの柄だの、実験道具を固定するクランプのスタンドだの、何か武器になるものがあるだろう。


だが、入り口前には、アレ(・・)がいた。


(学校に現れたことなんてなかったのに……)


逃げて木刀を取りに戻るか?


だが、そうしている間にアレ(・・)が誰かを襲ったら……


そんなふうに迷っていると、厳に気付いたアレ(・・)はジリジリと近寄ってきた。


武器を持っていない厳を甚振れると悦んでいるように感じられる。


(クソッ、調子に乗りやがって!)


腹を(くく)った厳は財布と本を尻ポケットにねじ込み、ゆっくりと上着を脱いだ。

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