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伏谷 那美


それは数十mもある巨大な入道だった。見上げる高さは……ビルにしたら20階分くらいあるのではないか?


放棄区域にはせいぜい三階か四階建てくらいの建物しかないので、周囲から良く見えるだろう。昼間だし、天津原の外からも見えてるよね、これ。


「見越し入道?」

「ちがうよ、これだいだらぽっちだ」


那美の言葉を否定する。だいだらぼっちは過去に一度出現例があり、その時の映像を見たことがある。まるっきり外見が同じなので間違いない。


そびえたつ巨大な存在は、まるで巨大な仏像か何かのように動かない。……この辺は規格外のサイズだったとしても他の語りモノと同様か。


でも、これは那美たちが招集されたのは大正解だったかな。語りモノは攻撃を受けた瞬間動き出すが、これだけのサイズだと動き出すだけで大変な事になるし、すぐに放棄区域の外に出れてしまう。そんなことになったら間違いなく被害が出るだろう、建物だけではなく人的被害も。タイミングを合わせるにしてもずれが生じるだろうから、一人で一気に広範囲できる人間の方がいい。


「これは私がここにきて大正解だったわね」


同じことを考えていたのだろう。僕の前でだいだらぼっちを見上げていた那美が唇の端を上げて薄く笑いながらそう呟いた。それから那美は桐生院先輩の方を振り返る。


「文香さん、護りの方をお願いね」

「承知しましたわ──<<護国>>」


桐生院先輩が前に向けて両手を広げて言葉を紡ぐと、だいだらぼっちを包み込むようにうっすらとした長方形の何かが展開された。結界だろう。彼女は現行の魔術士の中では、最高といえる結界術を使いこなすと聞いている。


「これで、アレが倒れそうになっても問題ありませんわね。たださすがに何度か殴られたりしたら欠損すると思いますので、手短にお願いしますわ」

「勿論。だって私だよ?」


……先ほどの物とは違う、どこか獰猛さを感じる笑みを浮かべて、那美は小さく体を沈め──


「<<飛べ>>」


次の瞬間には一気に飛び上がった。


先ほど僕を運んだ時と異なり、今回は完全に飛翔だ。那美の体はまるで射出されたかのように勢いよく上昇していき、瞬く間にだいだらぼっちの胸の辺りまで飛び上がった。視界に映る那美の姿はずいぶん小さくなってしまったが、うっすらと前に手を突き出した。


それがトリガーだった。


巨大なだいだらぼっちの体──その全身のいたるところで、その体が弾け飛んだように消失していく。


「流石ですわね、貴女のお姉さんは」


その光景を僕と並ぶようにして見上げている桐生院先輩が、そう呟くように口にした。


本当にそう思う。


威力の話ではない。いや、威力としても大概だけど、単純に語りモノの体を消し飛ばすくらいの威力ならSではなくAランクの術士でも出せるのはいる。


範囲の話でもない。いや数十mに及ぶ巨体の全身を攻撃しているのは大概にも程があるが、これくらの範囲を攻撃できる術を行使する術はある。


──時間を掛ければ。


そう、那美が何より凄まじいのは魔術の発動速度の速さだ。


僕たちが使う魔術はプログラムのようなものだ。複雑な処理だったり広範囲に対して発動は不可能ではないが、その分だけ起動まで時間がかかる。中には完全に起動するまで分単位の時間を要する術を使う術士もいるくらいだ。


だが那美は……それほど複雑ではない術式だとはいえ、これだけ広範囲へ高威力を発揮する術をほぼ一瞬で発動させた。これは恐らく、彼女以外誰にもまねできない事だ。


那美は魔術に関する能力はほぼ全部に対して高いレベルを持っている。


魔術器官(マジックオルガン)のパラメータ、その中の"処理速度"に関して那美は学園生だけではなくOBやウィザストからやって来たフラジールさん魔女を含めた上でも、那美は最速を誇っていた。


音速魔術士(ソニックウィザード)。それが那美に与えられている通称だ。







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