目指すべき場所
本当に倒せるのかと思わせた巨躯は、たった一人の学園生徒の手によって言葉通り瞬殺された。
だいだらぼっちを単体で倒せる術者自体は他にもいるだろうが、すくなくとも那美を超える速度で倒せる人間はいないだろう。
全身の半分以上が消し飛ばされただいだらぼっちは、その体の部分が元の形状を維持できず、千切れ落ちてくる。──が、桐生院さんの結界にとどめられ、地表まで落ちてくることはない。そしてそのままゆっくりと消失しれいくだいだらぼっちの体の間をすり抜けるようにして、パラシュートでも開いているかのような速度で那美が降りてきて、僕たちの前にゆっくりと降り立った。
「お疲れ、那美」
あれほどのでか物を倒したのに、汗一つ書いてないしまるで疲れもみえない。まぁ時間にしたら数秒で片付けちゃったものね。
正直、僕がこのレベルに到達する事はない。とびぬけすぎて、嫉妬するってレベルにすらならないんだよね。まぁそもそも系統が違いすぎるから、比べるのが間違いなんだけど。
「ね、ね、お姉ちゃんの恰好いい姿が見てくれた!?」
……僕をここに連行して来た理由はそれか。
「那岐がこっち側に来れるようになったら、真っ先に私の恰好いい姿見せたかったんだけどなぁ。静流ちゃんに先越されちゃったからね」
「そもそも那美は、基本的に巡回しないでしょ」
ゲートが発生した場合に送り込まれるSランクやAランクの一部の人間は、基本巡回はしない。語モノが発生した際も今回のイレギュラー的な危険度レベルの高い奴が出現しない限りは出動要請もでない。
「まあ、そうなんだけどさ。こないだの巡回の時に当たりをひいてなければ今回が初めてだったわけじゃない? そこがちょっと残念かな」
そういって肩を竦める那美。だが、すぐににかっという擬音があいそうな笑みを浮かべて
「──まあいっか。那岐がゲートの向こう側に来るようになったら、いくらでも見せてあげられるしね」
そう、那美の口から紡がれた言葉に即反応したのは僕じゃなくて桐生院先輩だった。
彼女はやや驚いた様子で僕の方に視線を向けてきた。
ゲートの向こうに行けるのは、僕たち魔術士の中でもごく一部だ。学園生徒では目の前の二人を入れてほんの数名しかいない。その彼らの立っている場所まで、僕なんかが来れるのかとは当然だろう。先輩がどこまで僕の事を知っているかはわからないが、せいぜい"音速魔術士"の弟で、最近妹に変わったってくらいじゃなかろうか。
なので、僕は自分から先輩に向けて首を振った。
「僕は最近Dランクになったばかりです。──まだまだずっと先の話ですよ」
否定に聞こえる言葉。だが、桐生院先輩はその返答を聞いて少しだけ口の端を上げて笑った。僕の言葉の意図を理解してくれたのだろう。
そう、僕は否定していない。いずれその場所に辿り着きますと宣言したのだ。
以前の僕だったら間違ってもそんな事は言わなかっただろう。どれだけ頑張ったって魔力不足はどうしようもない。だがステラの力を借りる事によって、超えられない壁は砕かれた。
能力的に支援型なので一足飛びにランクを上げていく事は叶わないが、いずれはその場所まで到達はできる。僕はそう思っている。
だが、那美はその僕の回答を否定した。
「那岐は唯一の問題点だった魔力不足を解消したんだもの、なら那岐はすぐにこっちに来れるようになるわよ。だって那岐はすごい子だもん」
……参ったな。姉弟だからわかる、那美は半分冗談とか、希望的な観測で言っているんじゃない。
彼女は今の言葉を本気で思っているからこそ、口に出している。
……参ったな。那美は昔からこうだ、僕を誰よりも信じてくれるし、僕を誰よりも認めてくれている。
そんな姉の言葉を嘘にするわけにはいかないよね。頑張ろう、やれるだけのことをやって、出来うる最高の速度で駆けあがろう。




