82
すみません、80話がぬけていました…。
挿入したため、これ以降87話まで1話ずつズレております。
妙に感謝された野営を終えて一日馬車を走らせるとようやくアーラン領に入る。ここでの市場での視察は久しぶりに僕らも同行することに。さすがに毎回同行するとわかりやすすぎるからと何回かに一回ということになっているのだ。
「久しぶりの市場、楽しみだね」
「うん!
やっぱり市場にも宝石とか売っているのかな?」
「それは結構物騒じゃない?」
そうかな? とシントは言うけれど、市場ってあまり治安が良くないと思うんだよね。というか、防犯面では不安。それにしても、アーラン領の市場についていくという話を聞いた時からなぜかサイガが暗い顔をしているんだよね。気になる、と思っていたら本当に行くのですか? とダブルク様に聞いている。
「不安?」
「それは、まあ……」
「ねえ、サイガ、何がそんなに不安なの?」
それは、と視線をそらされた。うーん?
「そんなに心配する必要はないですよ、ここはね」
ここは? と首をかしげるが、そうですかとサイガが下がったことで話が終わってしまった。まあ、大丈夫というなら大丈夫でしょう。そして降りる所になったようで馬車が止まった。ここから急いで着替えて、外に出る。今回はダブルク様だけが一緒に行く。その代わり護衛が増えている。こわ。
「いいかい、ここでは絶対に私や護衛から離れてはいけないよ」
ますます怖い、と思いながらシントと二人しっかりうなずきました。何をそんなに警戒しているんだろう。
「そうだ、あと何か欲しいものがあれば言うといいよ。
君らの瞳の色の宝石で作った……、カフスボタンとかいいんじゃないかな?」
「カフスボタン?」
「ああ、シャツの袖口に着けるやつだよ」
ほら、とダブルク様が袖口を見せてくれる。これからの行動を考えてか少し控えめなデザインのそれが日の光を受けて光る。
「きれい。
うん、僕もそれほしい」
ちらりと自分が来ている服の袖口を見て、シントがそういう。カフスボタン、確かに少しあこがれるかも。
「ああ、見てみよう」
じゃあ行こうか、とダブルク様にひかれて僕らは市場へと歩き出した。
「なんだか、リキューシア領とはやっぱり雰囲気が全く違いますね」
「うん。
特産が違えば、住んでいる人の気質も違うからね」
活気のある、というよりも寡黙といった感じの市場。呼び込みもどこからか聞こえてくる感じ。こういうところもあるんだ。まあ、市場といっても出店はあまりなくて、普通のお店が多い。
「あ、ほら。
ここ見てみよう」
あまり外から来た人が積極的に買い物できる場所ではないよな、と思っているとダブルク様はまったく気にしていないみたい。後に続いて入ったのは市場に来る前ダブルク様が言っていたカフスボタンが売っているお店。
「いらっしゃいませ。
おや、かわいらしいお客様をお連れですね」
いっそ入ったら睨まれたりして、とか思っているとそんなことは全然なかった。三人と護衛一人で中に入ると、とてもやさしい笑顔を浮かべた男性が出迎えてくれた。さすが宝石を扱っているだけあって、身なりが整っている。
「ああ、この2人にカフスボタンをあげたくてね。
ゴールドとサファイア、それぞれが付いたやつはあるかい?」
「ゴールドと、サファイアですか……。
少々お待ちください」
ゴールド、と言ったときに少し反応していた気がするけれど、とくに何も言わずに奥へと引っ込む。確かに店頭にはあまり商品置いていないものね。防犯もつまりしっかりしている。ますます市場って? と思っちゃう。
「この領の人はどこで野菜などを買っているんですか?」
「ああ、ここの市場はね、二種類あるんだ。
それが特徴ともいえるかな。
一つはこの、宝石といった特産品を扱っている市場、後はほかの領のように日用品や食料を扱っている市場。
あとでそちらのほうも行ってみよう」
「おや、お客様方はそちらのほうも見に行かれるので?
と、お待たせいたしました。
こちらになります」
ひとまず店にあるものを全部もってきてくれたのか、それぞれいくつか用意されていた。だけど種類はサファイアのほうが多い。
「ええ、せっかくの旅行ですから。
あまり住んでいるところから出ない子たちなので、いろいろ体験させたいのです」
「ああ、なるほど。
でもお止めになったほうがよろしいのではないでしょうか。
あちらのほうはあまり治安が良くありませんから……。
お坊ちゃん方に何かあったら大変だ」
ありゃ、どこまでばれているのかは知らないけれど、僕らがお坊ちゃんだってばれちゃった。といっても当たり前か。こんな子供にあっさり宝石のついたカフスボタンを買ってあげたいって言ったり、一人隠してはいるけれど護衛っぽい人いたりしているし。
「……、忠告は致しました。
あのような下賤の民に触れる必要はないと」
「下賤?」
「あ、い、いえ。
それで何か気に入られたものはありますか、お坊ちゃま方」
同じ民を下賤。この国は貴族と平民という身分はある。けれど、平民はあくまで平民だ。しかも話題をそらしたいからってこっちに話振ってきたし。出してきてくれた商品はとてもきれいで気になるものもある。けれど、この店主からは買いたくない。
「叔父さん、僕おなかすいてきちゃった。
そのご飯売っている方の市場行こ?」
「あ、僕も行きたい!」
少しダブルク様がぎょっとしているけれど、知らない。こういうときは子供の特権使うのが早いものね! シントもここでは買いたくないと思っていたみたいですぐに乗ってきてくれた。そして、じゃあ行こう! とシントと手をつないで出口へと向かってやる。ちょっと無理やりだけど許してほしい、うん。
扉まで行くと、店主に断りを入れたダブルク様が追いつく。もちろん二人で向かおうなんて考えていなかったよ。まあ、もともと護衛の人は僕らについてきてくれていたけど。
「行こうか」
「はい」
特に怒られることもなく、そのままもう一つの市場のほうへと移動することになった。




