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さて、今日はシントに、というよりも王城に呼び出されてしまったのでおとなしく王城へと顔を出しに来ているところです。場所は居住区ではあるけれど、シントの部屋ではない。まあ、別に陛下からの呼び出しではないからいいのだけれど。わざわざ魔法の授業がない日に、というのが気になる……。いやな話でないといいな。
シントもどんな用事があるのか知らないらしく、首をかしげている。そしてそうしてシントと待っていると、ようやく扉がノックされる音が聞こえてきた。
ツェベルが相手を確認して扉を大きく開ける。その先にいたのはあったことがない青年だった。どこかで見たことがあるような気がする顔だけれど、思い出せない。うーん? と悩んでいるうちのその人は部屋へと入ってくる。シントが立ち上がるのに合わせて僕も慌てて立ち上がった。
「これは……。
お久しぶりです、ダブルク殿」
シントは知り合いみたい? シントの挨拶に微笑んでうなずくどの人はとても優しそうだ。
「アランは初めて会うよね?
シベフェルラ公爵の弟君で、次期スキフェン侯爵であるダブルク殿だ。
ダブルク殿、こちらはカーボ辺境伯の次男、アラミレーテ」
「よろしくお願いいたします、アラミレーテ殿」
「こちらこそよろしくお願いいたします、ダブ……、スキフェン様」
「いや、ダブルクでいいよ。
あまり呼ばれ慣れていなくてね」
そういうダブルク様は少し照れ臭そうに笑う。それにしてもシベフェルラ公の弟にしては相当若い? それに次期侯爵って言っていたよね。
「ダブルク殿は婚姻されたばかりだからな」
シントの言葉にダブルク様はええ、とうなずく。なるほど、それだったら確かに当主を引き継いでいないのもわかる。それにしてもこの人はいったい何をしにここに?
「さて、そろそろ本題に入りましょうか」
それだけを言うとダブルク様はどうぞ、と席を勧める。全員が席に着いたことを確認してから再び口を開いた。
「私が本日ここに来たのは兄上に頼まれたのです。
お二人とも、次の視察に同行されるのでしょう?」
視察! 本当に行けるんだ。実は今も少し疑っています。初めて同行する視察が国規模ってどういうこと? と思わないわけではない。
「次の視察には私も同行するのですが、実際に出発する前にいろいろと教えてくれ、と頼まれてしまいまして。
これから出発までの間、ぜひお付き合いいただきたい」
「つまり、勉強を見てくださると?」
「まあ、そういうことです。
もちろんお二人ともすでに優秀な方に教えていただいているとは思いますが、また違った視点から学ぶことも面白いと思いますよ。
視察の前準備という意味では普段学んでいることとは違う点も出てくる可能性もありますし」
なるほど、とうなずく。違う人から教わるとどうなるのか、それは気になる。
「ぜひよろしくお願いいたします」
「ふふ、学ぶ意欲のある子は大歓迎ですよ。
よろしくお願いいたします」
今日は本当に顔合わせだけだったようで、それだけでダブルク様は帰っていった。
「まずは視察そのものについてお話しましょう」
また後日。この会は定期的に開催されることとなった。顔合わせを除けば今日はその一回目。ダブルク様の言葉にそういえば視察が何なのかをいまだ聞いていなかったことを思い出した。
「お二人はなんのために視察を行うか、どう行うかご存じですか?」
何のために、どうやって……。わからない。聞けるタイミングはたくさんあったはずなのに今日まで全く聞いてこなかった。それが急に恥ずかしくなり、僕はうつむくことしかできなかった。そんな僕とは違ってシントは答えていく。
「地方に至るまで国が正常に機能しているかを確認するために行います。
その方法は陛下の使者として視察団が各地を訪れ監査を行っていきます」
「うん、おおむねいいかな。
でも正確には少し違う」
ふふっと笑いながら言うダブルク様は少し得意げだ。なんだか楽しそうなそんな様子に僕はうつむいていた顔を上げた。そしてダブルク様とぱちっと目が合ってしまった。
「そんなに固くならなくていいんだよ。
これから学んでもらうためにこの会を設けているんだ。
最初から完璧に答えられてしまったら、私が教えられることは何もなくなってしまう」
「あ、ありがとうございます」
その様子を見ていたシントがダブルク様に敬語、やめませんか? と言い始めた。もちろんその言葉にダブルク様は驚いている。
「ダブルク殿は我々の先生なのです。
敬語を使われてしまうとどうにも……」
「しかし……。
ほかの方にも同じように?」
「いえ。
ずっと思っていましたが初めていいました」
そういっていたずらっ子のように笑う。そういう笑い方、久しぶりに見た。シント、すごく楽しそう。でも、そうだよね。今までの先生は身分のこともあったから言えなかったけれど、思えばダブルク様は侯爵位につく人。僕よりも身分は上だ。
「僕からもお願いします。
それから、ぜひアランと」
「なら僕はシント、だね」
「え、え、あの?
本当に?」
困惑しっぱなしの先生の顔がなんだかおもしろい。シントも同じことを考えていたようだ。お互いに顔を見合わせてくすくすと笑う。
「はぁ、ここだけですよ?
部屋から一歩、どころかお二人以外の人が入ってきた時点で戻しますからね」
念を押すように言う先生に僕らは勢いよくうなずいた。




