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「忘れ物はない?

 しばらく戻ってこられないからね」


 日刻ミ表を作ったことにより、もうすぐ金月が終わることがわかる。やっぱりこれ相当便利だよね。銀月になればとうとう領都を出発することになる。お披露目の日から本当にあっという間だったな……。


 そうして出発をまじかに控えた日、兄上が急に僕の部屋を訪ねてきた。どうやら準備が終わっているのか心配されたらしい。


「もともと荷物は少ないですから。

 兄上のほうこそ終わったのですか?」


 もちろん、と答えながらこちらへと近づいてくる。その様子にアベルはすかさずお茶を入れてくれた。荷物の確認以外にも何か用事があったのかな? そう思って兄上が何かを言い出すのを待ってみるけれど一向に話は進まない。別に何かあるわけではないのかな。


「王都へ行ったら、アランはシベフェルラ公の公務についていくのか?」


「公務に、ですか? 

 今回は行かないと思います」


 まずは魔法のほうを、とか言われていたしね。確かに土台を作ってから見て回るほうが学べることは多いだろうからそれでよかったというのが正直な気持ちだ。それにしてもどうしてそんなに浮かない顔をしているんだろう。


「そうか。

 はぁ、僕は心配だよアラン。

 一緒に王都に行けることはうれしいけれど、まだここにいたほうがいいんじゃないかって、正直今でも思っている」


 そう伝えてきた兄上の表情が思っていた以上に真剣で、そこからこれが冗談でもなんでもなく、本当にそう思って話していることが分かった。王都がそんなに危険だとは思わなかったんだけれど……。


「どうしてそう思うのですか?」


「ここにいる人はみんなカーボ家の味方だ。

 特にアランと接するような人は、その言葉の裏を疑う必要もない。

 でも、でも王都は違う。

 いろんな思惑を持った人がいて、シフォベント殿下の友人となる君に何か目的があって近づいてくるものもいるだろう。

 ……、僕はまだアランに、そういう人の裏側を疑わなくてはいけないようなところに行ってほしくないんだ」


 言葉の裏を探る、それは決して得意ではないけれど、できないわけでもない。兄上はただ僕のことを案じていてくれたのか。貴族のことを何も知らない、お披露目すらつい先日終えたような『アラン』のことを。


「大丈夫です、兄上。

 きっとどうにかなります。

 僕は王都で学べる事、楽しみにしているんです」


 あんな敵だらけの状態でもなんとかやってこれたんだ。逆に味方が多い今の状況ならきっとどうにかなる、そう確信をもって兄上を見ると大きくため息をつかれた。そして隣に来たかと思うと優しく頭をなでられた。


「どうしてだろうね、アランがそういうと本当に大丈夫じゃないかってそう思えてくるよ」


 硬かった表情を柔らかくして兄上がそういう。うん、きっとどうにかなるよ。王都にはシントもいるしね。


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 その数日後、僕らは無事に領都を出発する日を迎えた。今回は兄上と一緒に王都に行くということで、父上たちはもちろんこちらに残る。これでしばらく会えないかと思うとなんだか寂しくなるな。ちなみにフレン兄上たちは父親がそれぞれ国の重役な関係で、ずっと王都にのこっている。つまり、僕さえそちらに行けばすぐにでも会えるのだ。また会いたいからこれはうれしい誤算だ。グレイ先生もついてきてくださるそうだから、なかなか心強いです。


 姉上は最後まで不満そうだったけれど、きちんと送り出してくれた。次は自分も一緒に行くから、と。僕としても姉上が王都に来るの楽しみだな。そして、イシュン兄上。イシュン兄上もなんと王都についていく、と言っていたのだけれど、さすがに医療部隊の隊長が抜けるのはだめだ、と猛反対を受けたことで却下された。どうしてそんなに来たがったんだろう、と首をかしげていたのは僕だけで、みんな何となくわかっていたみたい。うーん?


「アラン、そろそろ行こうか」


「はい、兄上」


 銀月になったとはいえ、いまだに寒さは衰えない。しっかりと着込んで馬車に乗り込むと、馬車は間もなく動き出した。ちなみに、一応だが、僕は馬に乗れる。体の大きさの関係でポニーしか乗れないけれど……。ただ、長旅になるからと馬車を使うのだ。


「アランは王都についたら何をしたい?

 ついてから学園が始まるまで少しあるから、どこかに遊びに行こうか」


「行きたいです!

 王都で有名なところは……」


 せっかくだし観光を、と考えてみる。でもそもそも王都のことを全然知らないから思いつかないや……。


「そうだね……。

 植物園とか有名なカフェとか行こうか」


「はい!」


 悩みこんだ僕を見かねてか、兄上からそう提案してくれる。それに有り難く乗っかると、ほかにも何か行きたいところがあったら言ってね、と付け加えてくれた。


 王都にはいわゆる貴族街、市民街がある。その間にある商業区にも貴族向け、市民向けがあるわけで。前に僕がシントといったのは市民向けの市場だったわけだ。まあ、貴族向けの市場なんてないけれど。そして実は貴族向けの商業区は規模が小さい。娯楽として買い物へ出かけたり、学園生が友達とカフェへ行ったりはあるのでカフェをメインに多少は服飾のお店がある。しかし、貴族の買い物は基本的に屋敷に商人を呼びつけるもの。やたらと店があってもしょうがない、らしい。僕としては活気ある商店街をふらふらと回るのは楽しいと思うんだけどね。まあ、根が平民なものだから仕方ない。


 また平民向けの商業区へ行ってみたいんだけれどだめかな……。今思いつけるのはそれくらいしかない。ちらっと兄上のほうを見ると、どうした? と聞いてきてくれる。これは言ってもいいかな……。おずおずと思っていることを口に出すと、少し悩んだ末にいいよ、と言ってくれた。


「本当に⁉

 ありがとう、兄上」


「ちょうどこのくらいの時期に毎年お祭りがあるんだ。

 アランは領都のお祭りもいったことがなかっただろう?

 体調が良ければ連れて行ってあげるよ」


 お祭り! 最後に行った記憶は本当におぼろげだ。辺境伯領でもお祭りはあるのだが、何せ僕はすぐに体調を崩すものだから止められていたのだ。主にイシュン兄上に。初めてこちらのお祭りに行けるかもしれない。楽しみだ!



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