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罪の刃は炎を纏う  作者: 慶
序章
2/2

2人の始まり

 2017年9月18日、ベルニア王国中西部ガルーセン森林地帯、現地時刻2350(フタサンゴーマル)


 「…はぁはぁ…くそっ」


 第19旅団第88普通科連隊所属、不知火(しらぬい)零次(れいじ)三等陸曹は、雪の中敵の追撃から逃げ続け、疲労はピークに達していた。背中に背負った対物狙撃銃が、普段以上に重たく感じる。

 彼が所属する第88普通科連隊は、敵の小規模部隊による深部侵攻阻止作戦”サウスライン”を展開中だった。

 彼の小隊は、いくつかの分隊に分かれ、彼を含む新人4名を抱える第4分隊は後衛に配置されていた。だが、監視網を抜けた敵部隊と遭遇。分隊は孤立し、集中砲火を浴びることとなった。

 結果、分隊の生き残りは零次含め2人だけだった。

 単眼式暗視装置が無ければ、月明かりもない雪の降る森を歩くのは無理だったが、電池が心もとない。戦死した仲間から借りてきた予備が3つあるが、出来れば温存したいとこだ。


 「…くぅ」


 「長崎三曹、大丈夫か?」


 同期の新人自衛官、長崎(ながさき)詩織(しおり)三等陸曹は、雪道に膝をつき、かなり消耗しているようで、呼吸も少し荒い。


 「…だ、大丈夫…大丈夫だから」


 「大丈夫じゃないだろ?肩貸すから…伏せろ!」


 「え…?きゃっ!」


 詩織が思わず悲鳴を上げたのは、アルテリア軍制式RA-29型8ミリ魔装自動小銃の弾丸が自分を掠めたからではなく、弾丸を避けるために零次が自分を押し倒したからだった。

 自分の目の前に同世代の男の顔があり、荒い呼吸の銃声よりも鮮明に聞こえ、熱を帯びた息がかかる。

 詩織が、場に全く合わないことを考えているとは思っていない零次は、銃撃の合間に自分の89式5・56ミリ小銃の二脚を立て、3点(バーストショット)を連続して敵兵に浴びせる。


 「閃光音響手榴弾(スタングレネード)を投げたら走るぞ、耳押さえろ!」


 零次は詩織の上からどくと、スリングベルトを口に加えて89式を支えて射撃し、左手でM84スタングレネードをポーチから取り出す。その安全ピンを、ポーチ下部のフックに引っ掛けて抜き、投擲した。

 投擲の瞬間、安全レバーが外れ、時限信管が作動を始めたスタングレネードは、地面に落ちると凄まじい閃光と耳障りな音を撒き散らす。


 「走れ!」


 零次は詩織の手を引き、疲労困憊の体に鞭を打って走り出した。零次は知らない内に、詩織の手を強く握りしめ、詩織も無意識に強く握り返していた。


 「逃げたぞ!撃て撃て!」


 「逃がすな!ブチ殺せ!」


 敵兵は血の気が多いらしい。捕虜にするつもりはないようだ。

 8ミリ弾が空気を切り裂く、ヒュンヒュンと言う音が鼓膜を揺らす。

 その弾丸が零次の耳元を掠め、彼が流石に冷や汗を流した瞬間、詩織の手を握っていた右手が急に重たくなる。


 「長崎三曹!?」


 「くぅ…つぅ…」


 詩織は、左太ももを押さえ、苦痛に顔を歪めていた。


 「くそっ!」


 零次は背中に背負ったバレットM82A1対物狙撃銃を、詩織を庇うように構えた。1500メートル先の人間を両断するライフルを、100メートルほど先の標的に撃てば、その威力は想像を絶する。

 

 「…」


 詩織は、自分を庇ってライフルを撃ち続ける零次を見て、自分の不甲斐なさを感じていた。戦場において、戦えない者にあるのは死。故に、彼女は被弾した瞬間、自分は彼に見捨てられ死ぬのだと思っていた。

 だが、彼は自分を庇い引き金を引いていた。

 敵兵の体勢が乱れた隙をついて、零次は詩織に肩を貸して立ち上がろうとした。

 詩織が後ろに視線を向けると、視界の隅で敵兵が狙撃銃を構えているのが見えた。


 「…!」


 「えっ?」


 詩織はとっさに、道の左側に零次ごと体を捻った。左側は斜面になっているので、零次はバランスを崩し、斜面に転げた。その瞬間、彼がいた空間をライフル弾が貫いていった。


 「つぅ…長崎、お前な…」


 「だって…あぁしないと、死んでたよ」


 詩織のとっさの判断に、零次は思わず苦笑していた。だが、視界の隅でスコープの対物レンズが動くのを見つけると、彼の表情が変わった。

 敵の狙撃手が見えていなかった詩織は、自分を抱えて動き出した零次の意図がわからなかった。だが、弾丸が自分たちのいた場所を貫いた時には。2人の体が宙を舞っていたのだけはわかった。

 声を上げる間も無く、身を切るように冷たい川の水が全身を包み込んだ。もはや、冷たいというより痛い。

 零次は詩織の手を握って、川底まで一気に潜る。2人を追ってきた弾丸が、水面で弾かれ、あるいは抵抗に負け粉砕された。

 息が続くギリギリまで泳いだ2人は、岸に這い上がるとすぐに岩陰に身を隠した。


 「寒っ…」


 「そう?」


 「…え?寒ないの?」


 「昔、寒中水泳していたから」


 「あ、そう…」


 零次はそれ以上追求するの止め、詩織に肩を貸してを寒さを凌げる場所を求めて歩き出した。

 元々、このエリアは10キロ東の村々が共同管理する里山で、アルテリア軍による占領や最前線となったため、現在民間人が立ち入ることはないが、山小屋が残されている。

 幸い、山小屋はすぐに見つけることができたが、すぐに問題も見つかった。


 「くそ…暖の取れそうなものがないな…暖炉なんか、湿気ちゃって使いものにならないな」


 「毛布か何かあればよかったのにね…」


 「そもそも、ここ何年も使われてないな。まぁ、4年間もアルテリア軍占領下だったんだ。管理人も疎開とかしているんだろ?」


 作りが良いのか、放置されていた割に状態のいい木製の長椅子に詩織を座らせ、零次は室内を検索するが暖を取れそうなものはない。


 「仕方ないか。長崎三曹、怪我の程度は?」


 「大丈夫、掠った程度…イタ」


 零次は詩織の傍に膝をつくと、銃弾が掠め破れた戦闘服,一般用越しに傷口に触れた。激痛が走り、詩織は空痛に表情を歪めた。


 「どこが大丈夫だよ?ズボン脱げ、応急手当するから」


 「え?」


 零次は、自分がとてもではないが女子に言うようなセリフで言ったにこと気づいていない。当然、状況が状況なので、零次にはそんないやらしい意図は微塵もないが、思わず詩織は赤面していた。


 「…?早く脱げ、止血できないだろ」


 「う、うん…」


 詩織は、戦闘服の下にショートパンツを穿いていたのを思い出し、戦闘服のズボンを脱いで、ついでに水を吸って重くなり、若干凍り始めた上着も脱いだ。

 

 「…」


 零次は、詩織の生足を見て、妙に黙ったまま止血処置を行った。


 「なんで黙るの?」



 「え…?」


 零次は顔を上げると、急にあさっての方向を向いた。

 キョトンとする詩織は、冷水に濡れた日本人には珍しい紅味がかった銀色の髪が、自重しつつもしっかりと自己主張する胸で膨らんだアンダーウェアに張りついていた。


 「…これでよし」


 何となく微妙な空気のまま、零次は詩織の足に包帯を巻き終えた。


 「あ、ありがとう…」


 「…」


 「?」


 零次は上着を脱ぐと、背嚢を漁りだした。背嚢は元々防水仕様で、少々寒中水泳した程度では浸水するようなものではない。


 「…うわっ!」


 いきなり視界が塞がり、詩織は戸惑いの声を上げた。視界が塞がったのは、零次がタオルを彼女の頭にかけたからだ。


 「濡れたままだと、凍傷になるから」


 「うん…」


 「下着とアンダーウェアの予備、持ってきてただろ。後ろ向いてるから、着替えとけよ」


 零次は後ろを向くと、上半身裸になり、乾いているアンダーウェアに着替えようとした。すると、背中に重量と人の肌が触れる感触が生まれた。


 「…長崎三曹?」


 詩織は、上半身裸になって零次の背中に抱きついていた。


 「…寒冷地戦闘講習で、火が使えない時はこうやって温め合うのがいいって」


 「いや…それは…」


 上半身裸になった女子が、自分に抱きついているという状況に、零次は戸惑っていたが、詩織が僅かに震えているのに直ぐに気がついた。


 「…長崎三曹?」


 「…なに?」


 「怖いのか?」


 「…」


 零次の問に、詩織はしばらく黙ってしまった。代わりに、零次をに抱きついていた腕の力を強めた。


 「長崎…」


 「…貴方は怖くないの?」


 「俺は…」


 「え…?」


 詩織は不意に零次の腕に包まれ、きつく抱きしめられた。


 「大丈夫だから…」


 「…うん」


 耳元で囁かれ、詩織は頬を赤らめながら、目を閉じて零次に体を預けた。

 零次は、彼女が静かに涙を流していたのに気がつかないふりをした。



 翌日0544(マルゴーヨンヨン)

 詩織が目を覚ますと、零次は89式に30連装マガジンを装着し、バレットM82A1に12・7ミリ弾をマガジンに装填してした。


 「起きたか?」


 「うん…私寝てた?」


 「ひとしきり泣いた後、直ぐにスヤーってなってたから…服着て戦闘準備。囲まれてる」


 「うん」


 詩織は急いで服を着て、89式小銃とレミントンM24SWS狙撃銃を準備した。


 「敵小隊、玄関側正面方向を中心に、左右それぞれ70度に展開。距離250、数50」


 「了解。指揮官を優先して叩く」


 「わかった…来るぞ!」


 零次が叫んだ直後、8ミリ弾と6ミリ弾の一斉射撃が始まり、弾丸がガラス窓を突き破り、木製の壁を弾丸が貫通する。



 アルテリア帝国東方遠征軍第3陸軍第28歩兵師団第501武装警戒中隊第3小隊は、残存敵歩兵を追撃し雪山を一晩歩きまわる羽目になったが、山小屋に敵を確認し、殲滅体勢を整えていた。


 「よーし…たかが、2人に過剰兵力かもしれないが…やれ」


 「「「はっ!」」」


 小隊長は前衛分隊を前に出し、機関銃分隊が支援射撃を開始する。

 前衛分隊は、山小屋に射撃を加えながら前進し、一気に建物内になだれ込んだ。ところが、小屋からは誰も出てくることもなく、逆に機関銃手が狙撃された。


 「小隊長!前衛分隊が全滅!」


 「なに?どういうことだ?!側方警戒分隊を右から回りこませろ!」


 「りょ、了解!」


 小屋の右側に展開していた側方警戒分隊は、機関銃分隊の支援を受けながら進撃したが、前衛の兵士が突然爆ぜた。他の兵士も、見えない何かで傷を負い、畳み掛けるような狙撃で絶命した。


 「い、一体何が起こっている!たかが2人にっ…」


 「…え?しょ、小隊長?」


 副官は、いつの間にか小隊長が消えていることに気がついた。遅れて、自分の体に大量の血で覆われていた。


 「…え?な、なんだ、これは!」


 思わず叫んだ直後、副官は毎秒923メートルで飛翔してきた弾丸によって粉砕された。彼にとって不幸中の幸いは、苦痛を感じること無く死ねたことだった。



 「オーヴァーキルもたいがいだね」


 「即死出来る分マシだろ?」


 「確かに…苦しまないからね」


 零次と詩織は、小屋から半径75に設定した突撃破砕線を超えた敵兵を狙撃していた。

 

 「残り1発」


 「こっちも」


 2人は同時に引き金を引くと、最終弾を放った。


 「残りは?」


 「23人。残りは近接戦で対処する」


 「了解!」


 零次はバレットを投げ捨てると、89式のコッキングレバーを引き、薬室の弾丸を装填する。詩織の方を見て、彼女も89式を構え頷くのを確認すると、息を静かに吐き、M84を投げた。

 まだ夜の帳が空間を覆う中、700万カンデラの閃光は人間視力を一時的とはいえ封殺するには十分で、180デシベルのノイズによって敵兵達は一時的な難聴に陥る。

 直後、零次と詩織は壁が蜂の巣になった小屋を飛び出し、セミオートに設定した89式で、正確無慈悲に敵兵を撃ち抜いていく。

 詩織は考えるよりも先に引き金を引いていくと、零次の背後でライフルを構える兵士が見えた。


 「不知火三曹、後ろ!」


 「上等!」


 零次は右肩に89式をぶら下げ、左手でFiveseveN拳銃をレッグホルスターから抜くと、スタングレネードの閃光から逃れ、回り込んだ敵兵に浴びせる。頭部や左胸に5・7ミリSS190弾が命中し、兵士は即死したが6ミリ自動魔装銃RA−30の引き金に指がかかっていたため、被弾の衝撃で引き金が引かれ、6ミリ弾が防弾ジャケットのカバー外である脇腹や肩を掠めた。


 「うっ…!」


 「”零次”っ!」


 「大丈夫だ、問題ない!」


 零次は言い返しながら、他の敵兵にも射撃を加えていく。

 だが、スタングレネードの効力が落ち、敵兵の反撃が始まると、零次たちは一気に不利な状況に立たされる。


 「零次、そろそろ残弾が…」


 「わかってる…」


 (くそ…体が思うように動かない…)


 右肩と右脇腹の出血に加え、昨夜からの疲労が限界に達し、零次の眼はピントが合わなくなってきた。そんな状況では、射撃の精度も当然低下し、さらにスタングレネードの効力が落ちてきたことで、敵兵も戦線に復帰し、形勢はかなり不利だった。

 それでも零次は、危機を脱するため思考をめぐらしていた。


 「長崎、伏せて耳を塞げ!」


 零次はM61破片手榴弾を投げて、地面に伏せた。フラグメントと爆風が周囲に飛び散り、敵兵を殺傷する。


 「走れ!」


 零次は詩織の右腕をつかむと、その場から逃走しようとした。


 「零次!伏せてぇ!」


 詩織の悲鳴に気を取られていると、急に視界がひっくり返り、自分の体の上に詩織が覆いかぶさっている。


 「しお…て、おい!」


 「うぁっ…あぁ…れい…じ…にげ…て…」


 詩織は、背後からの射撃で足や肩、腰に弾丸を浴び、起き上がるのも難しい状況だった。その表情は、あまりの激痛に歪んでいた。


 「…この野郎ぉ!」


 零次は89式を3点バーストに設定し、残弾が尽きると、詩織の89式を撃ち、それも撃ち尽くすとハンドガンに切り替える。


 「絶対…死なせない」


 「零次…」


 零次は詩織の方を見ること無く引き金を引き続けたが、ついの拳銃の残弾が尽きる。

 その瞬間を待っていたかのように敵兵がライフルを発砲し、数発が零次の上半身を捉えた。


 「零次!」


 「うっ…くっ…」


 被弾していない右腕を使い這い寄ってきた詩織は、もうほとんど涙目だった。

 零次は、彼女の後ろで敵兵たちが銃口を向けているのを見て、思わず彼女を抱き寄せ庇うような姿勢をとった。そんなことをしても、2人共殺されるのはわかったいたが。


 「”詩織”…」


 零次は彼女をきつく抱きしめ、引き金が引かれる瞬間を待った。


 だが、次の瞬間に聞こえた射撃音は、魔術機関で弾丸を打ち出す魔装銃の掠れた耳障りな音ではなく、火薬によって弾丸がフルオートで発射される、独特な、心地よささえ感じられる音だった。


 「?」


 顔を上げると、敵兵の何人かは崩れ落ち、生き残った2人ほどが武器を落として両手を上げて上空を見上げている。その視線を追うと、2機の中型汎用ヘリ、UH−60JAブラックホークがホバリングをしていた。

 1機が周辺を警戒し、もう1機がその間に人員を降ろす。


 「第2分隊は周囲の警戒!第1班は敵残存兵の拘束だ!高槻三曹、負傷者の応急手当を!」


 「了解」


 零次と詩織に、同年代らしい三曹が近づいてくる。


 「大丈夫ですか?」


 「…あ、ああ…うっ!」


 「あ、無理に体を動かさないで。今止血するから」


 「…先に…彼女を」


 「零次、貴方の方が明らかに出血酷い…」


 「詩織もたいがいだろ」


 言い合う2人を見て、高槻千夏三等陸曹は、やれやれと首を振りながら苦笑し、結局出血量の酷い零次から止血した。

 その後、2人は医療機材を搭載した救難輸送機MCV−22メディカルオスプレイに収容され、一番近い都市の大学病院に搬送されることになった。

 普天間基地への配備時や自衛隊での導入時には、実際はそこまで高くはない自己率で風評に晒されたオスプレイだが、その性能は現場からの評判が良く、その評価がこのメディカルタイプの開発に繋がった。

 第3空中医療隊の医官に、千夏が2人のヴァイタルデータを引き継ぐと、担架に寝かされた零次と詩織の傍に来た。

 

 「ところで、2人は付き合ってるの?」


 「「はぁ!?」」


 「いや、2人共下の名前で呼び合っているから」


 千夏にそう言われ、2人はようやく自分たちがいつの間にか、お互いに下の名前で呼び合っているのに気がついた。


 「別にそういう関係じゃない」


 零次は短く反論すると、壁側を向いて黙ってしまった。

 千夏は詩織の方に視線を向けると、悪巧みをするかのような笑みを浮かべた。


 「な、なに?」


 「いや〜なんかいいなぁ〜って」


 「ななな、何が…?」


 「長崎三曹って…」


 「…高槻三等陸曹、その辺にしておけよ」


 「…はい」


 いつの間にレッグホルスターの拳銃を零次に盗られ、それを突きつけられた千夏は、引きつった笑顔で両手を上げた。

 その様子を見て詩織は、可笑しそうに微笑んでいた。



 2018年3月15日、大陸南方ロンデル共和国領ロンデル島東部グレーブート海岸。

 島嶼部奪還作戦のため展開していた第19旅団第88普通科連隊、3日前の市街地戦でアルテリア陸軍の精鋭エアボーン部隊と交戦し、若手隊員の機転で敵部隊の制圧に成功。海岸一帯を攻略拠点として整備していた。

 機転を利かせた若手隊員、零次と詩織は、半年前の負傷も癒え、零次は二等陸曹に昇進していた。

 後にわかったのだが、あの戦闘は2人で2個小隊を相手にしていて、2人の殺害総数は確定戦果だけで62名に達していた。さらに、味方部隊に救出された時、まだ2個分隊ほどが近くに潜んでおり、2人は自分たちの悪運の強さにある種の恐怖すら抱いていた。

 ともあれ、2人の評価は、”ただの新人隊員”から”地獄から拒絶される死神”に変化し、その戦果は国会でも大きく取り上げられ、防衛大臣から勲章も授与された。

 今回の戦闘でも、連隊長は司令部に叙勲の申請をしていたが、2人には勲章ではなく別のものが来た。


 「連隊長、お呼びでしょうか?」


 2人が連隊本部に赴くと、連隊長が奇妙なにこにこ顔で待っていた。


 「お、来たか。お前らにいい知らせがあるぞ」


 「いい知らせ?」


 「まず、2人共昇進が決まった。それぞれ1階級昇進で、零次が一等陸曹、詩織が二等陸曹だ。司令部が、新しい階級章を送ってくれるから、着いたらそれを付けておけ」


 「はっ。それでも、もう1つは?」


 「お前ら2人に転属命令だ。転属先は即応機動作戦群、第17旅団隷下の特殊戦術大隊準備隊だ」


 「特殊戦術大隊準備隊と言いますと、ベルニア陸軍魔術戦教導隊とウェンディーネ魔術科技術研究アカデミーの支援で設置準備中の魔術戦部隊…でしたよね?」


 「そうだ。それと零次には、新設小隊の指揮官を命じられている」


 「俺がですか?入隊2年目の奴に、下級とはいえ指揮官をやらせていいのですか?」


 「新設すべき部隊に対して、指揮官が足りてないんだ。本当なら、防大上がりが指揮官になるとこなんだが、上は実戦経験があって出来るだけ若いやつにやらせたいらしい。それに、前例はすでにある」


 「そうですか…」


 零次は一応納得すると、ずっと黙ったままの詩織の方を向いた。彼女は彼の方に視線を受けると、静かに頷いた。そして、2人は同時に姿勢を正し、敬礼をした。


 「わかりました。不知火、長崎両名。昇進及び転属を拝命します」

 

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