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罪の刃は炎を纏う  作者: 慶
序章
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戦火の記録

 陸上自衛隊第3師団交信記録(特定秘密保護法による最重要防衛機密指定)より抜粋。


 〈第3師団本部、こちら第31戦闘団本部。中之島にて、敵部隊と交戦中!送れ〉


 〈師団本部了解。敵の殲滅を優先せよ。繰り返す、敵の殲滅を優先せよ。送れ〉


 〈了解!と言うか、民間施設にかまっている余裕が無い!〉


 〈こちら第102戦闘団。偵察小隊が、東西線大阪城北詰駅にて、敵部隊と遭遇!現在交戦中!敵規模不明、近傍の部隊で可能であれば、支援を!〉


 〈こちら特戦第3小隊、本隊が支援に向かう!正確な位置を知らよ!〉


 〈こちら特戦第1小隊。高槻市と茨木市の市境付近の国道171号線で、89式小銃で武装した子供2名を発見した!一時拘束し、事情聴取した結果、戦死した自衛官から拝借したとのこと。健康状態不明。兄妹のようで、妹のほうが軽度のパニック症状。メディカルサポートを必要とする!〉


 〈こちら第3師団本部。特戦第1小隊、その兄妹は地元の子供か?〉


 〈所持品から、高槻市内の小学生と幼稚園児のようだ。兄が小1、妹のほうが幼稚園年長組〉


 〈小1で89式を振り回していたのか?〉


 〈そのようだ。本人らの証言では、敵兵4名を射殺したとのこと〉


 〈マジかよ…特戦第1小隊、念のためこちらから警務隊と監察本部に連絡しておく。状況と年齢から、殺人罪に問われることはないと思うが…〉


 〈それなら、マスコミには秘匿した方がいい〉


 〈了解。特戦第1小隊、可能なら補給拠点の府立阿武野高校に向かえ。こちらで、ヘリの手配をしておくので、桂駐屯地まで移送せよ。送れ〉


 〈了解。すぐに向かう〉


 〈今の無線を聞いていた総員。本件に関しては箝口令を敷く。誰も今の無線を聞いていない。いいか?〉


 〈…こちら第102戦闘団。無線の混線で連絡が遅れた。現在―



 その日、日本国内で5本の指に入る、世界でも上位の人口と経済を誇る街は、文字通り戦場となっていた。

 人類史上最悪のテロ事件”大阪同時多発大量殺戮テロ”。死者約25万人、負傷者約68万人、経済損失14兆8900億円、他府県避難者数約860万人、11月13日の事件収束後から1年間の一般市民数…0。事件発生の10月20日より、治安出動体制は2019年現在も解除されず、陸上自衛隊第3師団の治安維持継続。2017年11月より、日本初の民間軍事会社”JMwing”の治安維持業務一部移管。

 政治への影響は、左派政党の関与と自衛隊の活動妨害が発覚、大阪出身者を中心とする党員や支持者の反発を招き、相当数が離反、一部は極右思想に転じる。一方、右翼政党はこれを気に、憲法改正論を強めるが、大阪系と東京系の対立が生じる。結果、既存政党は全て解党し、政党再編が行われ、与党となる日本民主自由党、日本国民党、右翼政党である保守党、中道左派の日本左派連合による超党派議員集団、大阪派が衆参両院で圧倒的多数派となる。

 テロリストの武装などから、諸外国正規軍の関与が疑われ、その他の問題もあり事件後半年間、日本は実質他国との国交を断交。外交関係者の特権、大使館及び領事館、在日米軍基地での治外法権を拒否。また、自国のテロ関与に反発した一部外国人が日本への亡命を希望するようになり、大阪テロの報復テロに関与した外国人も多数いる。


 この事件が、日本人の憎悪感情を煽り、テロの首謀者が描いた日本弱体化のシナリオに反し、軍事力増強論と外国人脅威論が日本世論の主体となった。



 ある師団長の手記(この手記は当該人物拘束時に没収、内容確認とコピー後、機密に関する部分を黒塗りにし、持ち主に返還)より抜粋


 『我々、アルテリア帝国軍人にとって、敵軍は異世界の軍隊だが、彼らにしてみれば、我々の方が異世界から侵略者であろう。侵略戦争はあまり気が進まないが、命令とあれば仕方がない。電撃作戦で、かなりの戦域の支配に成功したが、今は全周を包囲され旗色が悪い。私にもプライドはあるので、あまり降伏はしたくないが、部下の命をすり減らすことを考えると、それも頭に入れておいたほうが良い。

 こちら側は夏であるらしく、北半球にあるようだ。言語が我々とほぼ同じなのは驚きで、漢字の読み方が正しければ、この国名は”ニホン”で、地域名は”チトセシ”と言うらしい。一部の部隊が、勝手に民間人を殺してしまったので、敵は我々に尋常でない憎悪を持っているだろう。捕虜になった時を考えると、恐ろしくて仕方なく、捕虜と自決を天秤にかけると微動だにしない。

 こちらの世界では、魔術や魔物は存在しない様で、代わりに科学技術が発達しているようで、小銃1つとっても威力と命中精度が段違い。火砲から煙が出ていることから火薬式の様だ。こちらでは、魔術機関のエネルギー源としか利用されていないディーゼル機関やガスタービンなどの内燃機関が普及し、魔術機関を介さないことで車両の小型化や軽量化に貢献しているらしい。冷静に考えると、それは我々の世界でも行われてもおかしくないこと。どうやら、魔術がないことは、思想や発想にも影響するらしい。

 発想の違いといえば、電気の活用も凄まじく、魔術式ならば小型なものでも中型犬サイズの演算処理装置が、薄っぺらいノートのようなサイズで、しかも画面がついている。大型なものであれば、相当計算速度は速いのかもしれない。それ以前に、高価で軍用でも司令部の情報処理に使われるか、車両、空中機動艦艇、艦艇に搭載される映像画面が、こちらでは手乗りサイズで画質も良い。そして、建物に入ればサイズに関係なく10台は見つけることが出来る。特に、小型の情報端末のようなものは”すまーとふぉん”と言うらしく、スイッチを押してみると画面を直接触って操作できるようだが、ただでさえ機械オンチの私には何が何やら全くわからない。若い部下に渡してみると、その機械でゲームが出来るようで、部下は休憩中に楽しんでいたが、電池の消耗が激しいのが数少ない欠点のようだ。

 ともかく、これだけの技術力のある相手に喧嘩を売るの無謀なようだ。戦車は、火を噴く筒のような飛翔兵器、どうやら誘導兵器によって鉄屑にされ、その発射母機は鉄でできたトンボのようだ。その鉄トンボは、人員輸送型もあるようで機動性も高い。サイズと武装こそ、空中機動艇の劣るが、それを補って余る能力を持つようだ。その上位種なのか、鉄の鳥は、後部から火を吹き空を切り裂くと、灰色の機体は誘導兵器や機関砲でワイバーンを一撃で撃墜し、青い機体は爆弾を異常なまで正確に落とすと、複数の地上目標を葬り去る。

 何より恐ろしいのが、敵の火砲だ。何キロも離れた場所から射撃し、正確に砲弾を着弾させている。そして、敵の戦車はこちらの戦車の装甲を簡単に貫通する砲弾を放ち、魔物は接近することすら困難だった。

 (中略)

 奇襲攻撃で、敵の一隊に打撃を与えたとの報告もあるが、戦果に対して損害があまりにも大き過ぎる。撤退や降伏の言葉を口走っても、政治将校は反論しない。それどころか、彼ももうこの戦場の恐怖から解放されたいようだ。

 私は、白旗を掲げることを決意した。参謀たちも、政治将校の異議はない。

 問題があるとすれば、敵が理性的に対応してくれるかどうか…いや、むしろ理性的になる方が難しいだろう。

 我々は、彼らの逆鱗に触れたのだから…』



”通路”と呼ばれ、文字通り異世界との通路を経由してきた、アルテリア帝国と言う国による大阪市と千歳市での侵略行為は、日本で沖縄戦に次ぐ2例目、本土では初めての地上戦となった。

 日本政府が防衛出動を発令したことで、日本は第2次世界大戦後初の、そして自衛隊史上初の戦争を行うこととなった。

 全国6箇所に出現した通路の内、東京お台場の甲目標01号通路から陸上自衛隊特殊作戦群が調査を行った結果、アルテリア帝国は異世界で侵略戦争を行っていることが判明し、また侵略を受ける国々との接触に成功し、国交締結後、正式に参戦要請を受ける。

 要請から約2週間後、第2世界自衛隊派遣法と改正自衛隊法が成立し、自衛隊統合派遣部隊”JSDF-UnificationDispatchForce”が新設、第2世界という暫定呼称を定められた異世界に派遣されることとなった。


 当初、自衛隊は異世界での戦略、戦術に苦労することとなった。

 それらは、時間とともに解消されていったが、次に問題となったのが人員だった。

 防衛省は、第2世界難民志願者の受け入れを開始。アルテリア帝国への憎悪に燃える多く若い男女が志願し、受付開始直後に募集予定人員を超えた。

 同時に、志願可能年齢を大幅に引き下げ、志願条件を中卒とした。結果、未成年者が多く自衛隊に志願し、戦場に向かった。

 マスコミや対日敵対国は”少年兵”であると批判、”少年自衛官”と揶揄したが、それはやがて当の防衛省自身が使用する公式用語となった。

 そして、マスコミなどの評価とは対照的に、少年自衛官の自衛官の士気と練度は、大人のそれと勝らずとも劣らずだった。

 

 この少年自衛官が、後に戦局を大きく左右する存在となるとは、誰も予想だにしていなかった。


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