表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムネヨシ  作者: 大原英一
第一章 吉宗
5/21

崩壊(ディスインテグレーション)

 その日、吉宗に一本の電話があった。スマホに表示された番号に見覚えはなく、もちろん登録もされていなかった。誰だろう。

「もしもし」

「あ、よっしー? ひさしぶりだな、オレだよタジマールだ。いま電話だいじょうぶ?」

 ぞぞぞっ、と吉宗の背中に悪寒が走った。いやな予感しかしない。

「……田島さんですか」

「おう」

 いろんなことが、いろんな意味でおかしかった。よっしーって何だ、そんなふうに呼ばれたことないし。タジマールって何だよ……悪ふざけか。


「おひさしぶりです。……田島さん、フェイスブックのほう、どうしちゃったんですか」

「おう、ちょっと面倒になって、やめちゃったんだ。それでいま連絡している」

「なるほど……」

 通話しながら吉宗は必死に記憶をたどっていた。なんでこいつ、オレの番号をしっているんだ? 尾白川で電話番号の交換なんてしただろうか……。そういうプライベートなところまで立ち入らなくていいように、フェイスブックというSNSを連絡ツールに選んだはずなんだが。

「よっしー?」

「……ああ、すいません。お元気ですか」

「おう元気よ。でさあ、ついに漕ぎつけたぜ、アンタのそっくりさん」


 吉宗はまるで心臓を鷲づかみにされたようだった。

「本当ですか」

「おう、例の尾白川でだ。あちらさんもアンタに興味を持っていたよ。どうだ、会ってみないか?」

 心臓がバクバクいっている。めっちゃ怖い。

「……はは、いざとなると緊張しますね」

「だよな、ドッペルゲンガーに会うと死ぬっていうもんな。……どうする?」

 どうするって、あんたいま死ぬとか言ったじゃないか不謹慎な。

「ぜひ……お会いしてみたいですね」

 あれ、なんか口が勝手にへんなことを喋っている。ワケワカンネ。


「そうか、それじゃ来週の土曜なんてどうだ?」

「わかりました、空けておきます」

「尾白川で落ち合おう。ツネヨシにも、そう伝えておく」

 ツネヨシ……? ムネヨシちゃうんかい。そう突っ込むまえに電話を切られてしまった。もう、いろいろとワケワカンネ。



 吉宗が独りで酒を飲むなんて、めずらしいことだった。

 飲みたい気分だった。リストラ作戦に駆りだされていろいろとプレッシャーがあったときですら、こうはならなかったというのに……。

 世界が壊れはじめていた。

 思うに、自分はこれまで無難に生きてき過ぎたのではないか。吉宗は自問した。暴れん坊なのは名前ばかりではなかったか。

 きっと、そんなんじゃいかん、と神様がおっしゃっているのだ。それでタジマールという天使を吉宗のもとへ遣わした。ものすごくポジティヴにとらえると、そういうことになる。


 ふつうに考えたら、あんなおっさんと関わっては絶対にいけないのだ。ムネヨシだかツネヨシだかしらないが、そんなものが実在するという確証はどこにもない。全部あのおっさんが勝手に言っていることだ。

 けれど同時に、吉宗は自分のことも信じ切ることができずにいた。

 たとえば田島が吉宗の電話番号を知っていた件だ。吉宗自身は田島と番号のやりとりを行なった記憶はない。だが田島がなんらかの手段をもってそれを入手したとは、ちょっと考えにくい。

 吉宗は田島と番号の交換をした。それを吉宗が忘れてしまっている、と考えたほうがずっと自然だ。


 もし自分の記憶に齟齬や欠落があったとしたら……。

 もし田島の言っていることのほうが正しかったら……。

 それを考えるとめっちゃ怖い。世界の有様ありよう自体が、あやふやなものになってしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ