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ムネヨシ  作者: 大原英一
第二章 大川と舞っちんぐ
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失踪

「失踪……吉宗さんが?」

 大川誠一はその日、有事町データセンターを訪れた竹井部長から驚愕の事実を告げられた。竹井部長は吉宗さんこと鬼怒川吉宗の上司で、大川にとっては派遣先の責任者にあたる。

「昨日、八代警察署の刑事さんと、吉宗の奥さんから聞いたんだ」

 竹井部長は険しい表情で言った。

「三日前の土曜からいなくなったらしい。吉宗が月曜日きのう無断欠勤したから、私の知るところとなった」

「そんな……」

「派遣スタッフのきみたちには迷惑をかけるが、しばらく様子を見てほしい。吉宗がやっていた派遣会社さんとのやり取りは、私が引き継ぐから」

 そう言って竹井部長は名刺を差し出した。大川はそれを受け取ると、

弊社ウチの営業担当には、どう伝えれば……?」

「ありのままを伝えてもらって、かまわない。いずれおおやけになる可能性もあるし」


 大川は眉間に皺を寄せた。

「いったい、何があったんでしょう」

「わからない」竹井部長は首を振った。「きみたちに、心当たりはないか。こっちの現場で何か悩んでいたとか」

「さあ……ちょっと、わからないですね」

 竹井部長は小さく頷くと席を立った。

「ともかく、きみたちはいつもどおり業務にあたってくれ。わからないことがあったら、私に何でも聞いてくれ。それと、」

 一瞬だけ間をおいて部長は言った。

「吉宗に関する情報があったら、どんなことでも教えてくれ」



「と、いうわけなんスよ」

「マジで?」

 イタリアン・ポマトという喫茶店で、大川は剛流 舞と会っていた。剛流さんは大川が所属する派遣会社の営業担当で、美人だ。

 剛流さんはよく打ち合わせと称して、大川にコーヒーやケーキをおごってくれる。彼女にとって大川はエースだった。先陣きって有事町の現場に入り、いまでは後輩スタッフを三人かかえている。

 有事町には今後まだまだスタッフを増員する予定だった。だからこそ、余計ショッキングだったのかもしれない。


 鬼怒川吉宗の失踪を聞かされた剛流さんは驚き、顔を紅潮させた。まあ、それはそうだろうと大川は思った。

「ヤバい……どうしよう」

「どうしたんスか?」

 見ると剛流さんは不安げに二の腕を擦っている。ちょっと尋常じゃない。

「……先週の金曜日、鬼怒川さんからメールがきたの。もちろん業務の件だったけど」

「ええ、それで?」

「メールの文末に、こう書いてあった。『来週は不在です。尾白川へ行ってきまーす』って……」

「マジっすか!」

 思わず大川は叫んだ。店内のほかのお客さんの視線を感じて、声をひそめた。

「それ、ヤバいっすよ。……吉宗さんの奥さんも知らない情報じゃないですかね。まるで手がかりがないって、竹井部長も言ってましたから」


 数時間後、八代警察署で奇妙な会合が開かれた。

 出席したのは吉宗の妻真紀、竹井部長、大川と剛流さん、そしてこの失踪事件を担当している佐久間刑事の五人だった。

「失礼ですが貴女、主人とはどういうご関係なんです?」

 真紀はあきらかに不審げな眼差し、っていうか敵意にも似たそれを剛流さんに投げかけていた。

「こちらは派遣会社さんの……」

「アタシは彼女に聞いているんです!」

 竹井部長が取りなそうとしたが、真紀はそれを遮った。

「私はただの、派遣会社の営業担当です」

 剛流さんは毅然とした態度で言った。が、内心はドキドキなんじゃないかな、と大川は隣りで心配した。


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