失踪
「失踪……吉宗さんが?」
大川誠一はその日、有事町データセンターを訪れた竹井部長から驚愕の事実を告げられた。竹井部長は吉宗さんこと鬼怒川吉宗の上司で、大川にとっては派遣先の責任者にあたる。
「昨日、八代警察署の刑事さんと、吉宗の奥さんから聞いたんだ」
竹井部長は険しい表情で言った。
「三日前の土曜からいなくなったらしい。吉宗が月曜日無断欠勤したから、私の知るところとなった」
「そんな……」
「派遣スタッフのきみたちには迷惑をかけるが、しばらく様子を見てほしい。吉宗がやっていた派遣会社さんとのやり取りは、私が引き継ぐから」
そう言って竹井部長は名刺を差し出した。大川はそれを受け取ると、
「弊社の営業担当には、どう伝えれば……?」
「ありのままを伝えてもらって、かまわない。いずれ公になる可能性もあるし」
大川は眉間に皺を寄せた。
「いったい、何があったんでしょう」
「わからない」竹井部長は首を振った。「きみたちに、心当たりはないか。こっちの現場で何か悩んでいたとか」
「さあ……ちょっと、わからないですね」
竹井部長は小さく頷くと席を立った。
「ともかく、きみたちはいつもどおり業務にあたってくれ。わからないことがあったら、私に何でも聞いてくれ。それと、」
一瞬だけ間をおいて部長は言った。
「吉宗に関する情報があったら、どんなことでも教えてくれ」
†
「と、いうわけなんスよ」
「マジで?」
イタリアン・ポマトという喫茶店で、大川は剛流 舞と会っていた。剛流さんは大川が所属する派遣会社の営業担当で、美人だ。
剛流さんはよく打ち合わせと称して、大川にコーヒーやケーキをおごってくれる。彼女にとって大川はエースだった。先陣きって有事町の現場に入り、いまでは後輩スタッフを三人かかえている。
有事町には今後まだまだスタッフを増員する予定だった。だからこそ、余計ショッキングだったのかもしれない。
鬼怒川吉宗の失踪を聞かされた剛流さんは驚き、顔を紅潮させた。まあ、それはそうだろうと大川は思った。
「ヤバい……どうしよう」
「どうしたんスか?」
見ると剛流さんは不安げに二の腕を擦っている。ちょっと尋常じゃない。
「……先週の金曜日、鬼怒川さんからメールがきたの。もちろん業務の件だったけど」
「ええ、それで?」
「メールの文末に、こう書いてあった。『来週は不在です。尾白川へ行ってきまーす』って……」
「マジっすか!」
思わず大川は叫んだ。店内のほかのお客さんの視線を感じて、声をひそめた。
「それ、ヤバいっすよ。……吉宗さんの奥さんも知らない情報じゃないですかね。まるで手がかりがないって、竹井部長も言ってましたから」
数時間後、八代警察署で奇妙な会合が開かれた。
出席したのは吉宗の妻真紀、竹井部長、大川と剛流さん、そしてこの失踪事件を担当している佐久間刑事の五人だった。
「失礼ですが貴女、主人とはどういうご関係なんです?」
真紀はあきらかに不審げな眼差し、っていうか敵意にも似たそれを剛流さんに投げかけていた。
「こちらは派遣会社さんの……」
「アタシは彼女に聞いているんです!」
竹井部長が取りなそうとしたが、真紀はそれを遮った。
「私はただの、派遣会社の営業担当です」
剛流さんは毅然とした態度で言った。が、内心はドキドキなんじゃないかな、と大川は隣りで心配した。




