七日目(その他)
別の使い魔の視点です。
私、ミントは数日前に生み出されて、すぐに人気使い魔として名声を得たエリートよ。すぐにあの、アリス型に追いつくわ。
私は、使い魔の中ではちょっと変わった作られ方をしてて。創造主が仰るには、人間の迷宮管理者の意見を参考にして作られたみたい。人間が管理者になるって珍しいことなのよね。
その人間は結構優秀で、管理者になってすぐに使い魔を購入出来るほど稼いだって有名になってるの。
私は、その人間の管理者ミスト様の下に使い魔として派遣されたんだけど、魔界で言われてるほど優秀って感じじゃないのよね。まだお会いしたばかりだけど、なんか普通っぽいわね。
人間の強さは集団行動にあるから個人ではたいしたこと無いのって当たり前なんだけどね。
ミスト様はリリ先輩と一緒に街へ出かけてて、今は私は、龍族の使い魔ラミアと迷宮の改装中。
人間だから普通に外に出られるってのも強みなのかしら。魔族の管理者が外を歩いてたら、すぐに人間の冒険者がやってくるから。その点、ミスト様は自ら魔物を率いて村とかを襲えるのは強みね。まあ、力を持った上級の魔族様なら、人間が徒党を組んで迷宮にやってきても余裕なんだけどね。
正直、私も上級魔族の管理者のとこに派遣されたかったわ。
「ちょっと、ボーっとしてないで手伝ってよ。」
「ごめんなさい、すぐにやりますわ。」
ラミアが怒ってる。この娘もご主人様の前では普段の性格を隠してるみたい。私は誰の前でも隠してるけど。
「ラミア先輩って、ご主人様のこと、どう思ってますの?」
ラミアはご主人様の前ではオドオドした態度をとってて、最初はめんどくさそうな娘だなと思ってたけど。実際、二人で仕事するようになってからは、何でも話せる友達みたいになったのよね。
「どうって、普通?私も使い魔だから、旦那様のご命令には服従だし、何か私に求めて来られたら精一杯ご奉仕するけど、好きとかは違うかも。」
そうなんだ、って私はご主人様の能力とかを聞きたかったんだけどね。
「ミントちゃんは?旦那様のことどう思ってるの?」
「私はまだお会いしたばかりですし、なんとも。」
「そっかー。私は正直な話ね。龍族だから、人間とか魔族とは好みが合わないかなー。多分、龍族じゃないと好きにはならないと思う。もちろん、使い魔である以上、最大限気に入られるよう頑張るよ。」
うわー、なんか聞いたらいけない事聞いちゃった気がする。
「魔族も、普通は人間は好みじゃありませんわ。魔族と人間が恋人になったとか聞いたこともないですし。」
「じゃあ、リリお姉さまって実際どうなんだろ?いっつもご主人様、ご主人様言ってるけど。」
「どうかしらね。リリ先輩ってあんまり自分のこと、話しませんし。面倒見が良くて良い先輩なんですけどね。」
「そうねー。もし、リリお姉さまが旦那様のことを好きなら応援するんだけどね。リリお姉さまの役に立ちたいし。」
リリ先輩って百年ぐらい誰からも買われなかった使い魔らしいけど、実際は凄く良い使い魔にしか見えないのよね。あ、あれだ女性に人気の使い魔ってタイプか。美少年っぽいし。普通、使い魔は異性の管理者に派遣されるから今まで売れなかったとか。魔王ベルゴ様の女性版みたいな管理者に派遣したらよさそう。
「龍族って私、ラミア先輩しか会ったことがありませんけど、どうなんですの?」
人間界にもいるような羽の生えた大きなトカゲのイメージしかないわ。
「龍族も色々いるわよ。四足歩行のは知ってると思うけど、私みたいな下半身が蛇みたいなのとか、一般的な龍を魔族型みたいにしたやつとか。」
「魔族型って気になりますわ。」
なんか全然、想像つかないけどリザードマンみたいな感じかしら?
「会う機会は無いかもね。魔族で言う上級魔族みたいな感じだし、大きな四足歩行の龍を能力そのままで知能を高めて私達くらいの大きさにした感じだし。」
「上級龍族って感じですか。素敵ですわ。」
龍って響きがいいのよね。力強そうで。
「そういえば魔族って姿形はほとんど変わらないけど大きさは結構違うよね。」
「ああ、凄く大きな魔族もいますものね。」
ラミアと話してたら仕事終わった。疲れたー。ほとんどラミアがやったけど。
「リリお姉さま、旦那様とうまくいってるかしら。二人の仲が進展してたらいいんだけど。」
「でも、リリ先輩がご主人様の事好きとは限らないし、それにご主人様はどうなんですの?」
まだ、付き合いが浅いからしょうがないけど、ほんとご主人様はなに考えてるかよくわからないのよね。
「どうなんだろ?旦那様は、有翼人がお好きみたいなのよね。」
「ああ、牢屋に入ってる娘の。なんかリリ先輩が可哀相ですわ。」
「私もそう思う。でもリリお姉さまも羽とかカスタマイズで付ければ丸く収まるかしら。」
「え?カスタマイズって魔物の能力ぐらいしか変えられないんじゃありませんの?」
知能を増やしたりスキルを与えたりしか出来ないはずだけど。
「うそ?魔族のはそうなの?龍族のカスタマイズはもっと色々出来るわよ。」
龍族って魔族の真似ばっかりしてると思ってたら、結構凄いのね。
「リリ先輩が帰って来たら、色々聞いてみませんか?先輩には幸せになって欲しいです。」
私も誰か良い相手を見つけて幸せになりたいんだけどね。良い相手が出来たとしても、幸せになれるとは限らないけどね。
ちょっと早いけどお昼にします。ラミアが作ってくれるみたい。楽だからいいけど、龍族の料理って揚げ物ばっかりで油っこいのよね。
ほら、やっぱり肉に衣付けてるし。野菜も衣付けるの?あっさりしたのが食べたい。
「ミントちゃんって能力はどんなの持ってるの?」
「私は職業は一応騎士ですわ。鎧着けて盾もって防御に特化してる使い魔ってとこかしら。」
なんか性格とかと、ちぐはぐなとこがいいみたい。私自身は分厚い鎧とか格好良いと思ってるけどね。
「じゃあ、皆戦闘面では相性いいのね。ミントちゃんが守って、私が暗黒魔法で束縛とか状態異常して、リリお姉さまが狩る。結構強そうだわ。」
「あれ?ご主人様は何ができますの?」
「旦那様は、飾りみたいね。リリお姉さまが絶対に戦闘させたら駄目って言ってたわ。幻術魔法が得意らしいけど。」
「え?幻術魔法って悪戯ぐらいしか出来ない魔法では?役に立たない魔法で有名な。」
冗談でしょ。力とか体力とかが落ちる分、無職のほうがマシな気がする。
「そういえば、魔族の使い魔のアリスって結界魔法と破壊魔法使ってたよね。あれってどうやるの?」
「知りませんわ。アリスって特別だし。上級使い魔みたいな。」
「カスタマイズで近づけるかしら?」
「多分、無理ですわ。勝手に魔力を使うわけにもいきませんし。」
昼食のせいでお腹が重たい。お仕事も終わったしあとはお昼寝しよう。
ラミアが私を呼ぶ声が聞こえる。起きたくない、え?龍族の管理者が来た?何しにくんのよ。管理者同士の馴れ合いは無いはずでしょ?
まあ、しょうがないわね。うまく良いとこ見せれば引き抜きもあるかも。龍族の容姿も気になるし。
「我は、龍帝バハムトである。魔族の管理者のミスト殿に会いたい。」
うわー、すごい強い管理者っぽいけど好みじゃないわ。なんていうか、リザードマンをゴツくして龍の羽根が生えた感じ。龍族とは絶対好みが合わないわ。
「旦那様はおられませんが、私ラミアがバハムト様をご案内致します。」
ちょっと、勝手にそんなことしていいの?ご主人様が戻ってこられたら叱られそうよ。
私の不安をよそに龍族の管理者を迷宮に案内するラミア。心なしか頬が紅潮してる気がする。
「お若くして龍帝にまで上り詰められたのですね。素晴らしい力をお持ちなのでしょう。」
褒めちぎるラミア。龍帝って魔族の魔王みたいなものかしら。響きは格好良いんですけどね。
コイツって若いの?種族が違うと年齢って全然わからないわ。下手したら皆同じ顔に見えるし。
バハムトに対して、今まで見たことの無い笑顔で話しかけるラミア。やっぱり同じ種族同士のほうが幸せになれそうね。ラミアも不憫な使い魔生活を送ってたのかも知れないわ。
それより、リリ先輩はどうなんだろう本当にご主人様の事が好きなのかしら?じつは、主従関係以上の気持ちは存在しないのかしら。
一人蚊帳の外にいる私はそんなことを考えながら、二人の楽しそうな姿を後ろから眺めているのでした。