表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/59

六日目(前編)

お気に入り登録や評価等、ありがとうございます。

私の拙い文章で書かれた稚拙極まりない物語を読んで頂き感激の極みであります。

 目を開けると正面には高級感のある黒いカーテンが動くことなく垂れ下がっています。身体を守るかのように優しく覆いかぶさっている布団を押しのけるように起き上がった私は、黒いカーテンを開きました。白を基調とした広い部屋には、柔らかい絨毯がひかれ、艶のある手触りの良さそうな木で出来た大きな机の前には背もたれと肘掛が付いた椅子が置かれています。左を見ると机と同じ木で出来た大小様々な箪笥や棚が並んでいます。もっとも衣類の入った棚は一つだけで、ほとんどの棚は空ですが。

壁に掛けられた時計を見た私は、棚から普段着と新しい下着、身体を拭くための厚手の大きな布を取り出した私は、寝巻き姿にも関わらず部屋をあとにしました。


 ローストした鶏のもも肉をスライスし細かく刻んだキャベツと供に平べったいパンに挟み、並べていきます。隣ではラミアが甘みの少ないヨーグルトで出来た専用のソースを、並べられたパンにかけています。鶏肉や有翼人の大好きなご主人様にとって、お気に入りのメニューの一つです。

無表情で作業を続けるラミアの表情から、彼女はこの料理は口に合わないのでしょう。私もですが。


 三人で朝食の乗ったテーブルを囲んでいると、食堂の外から足音が近づいてきます。大理石で出来た床なのでとても音が響きます。そして、足音は食堂の前で止まり四回のノックの後扉が開かれます。

「初めまして、ご主人様。使い魔のミントですわ。」

艶やかな黒髪を頭の両脇で結んだ少女が現れ、頭を下げます。

少しつり目がちで気の強そうな印象ですが、可愛らしい顔に貧相な体つきは人形のようでもあります。やっぱりご主人様は慎ましく自己主張をしない胸を好まれるお方のようです。今までラミアの胸が揺れる度に注視されていましたが、何かの間違いだったのでしょう。安心しました。


一通り自己紹介を終えた後、いきなりミントは不満を口にします。


「昨日はずっと一人で待ってましたのに、誰も迎えに来て下さいませんでした。別に好きでお手伝いさせてもらってるんじゃないんですからね。勘違いしないで下さいよね。」

忘れてましたとは言えず微妙な空気の流れる食堂です。あ、ラミアは食器を片付ける振りをしながら逃げて行きました。動く度に揺れるラミアの胸を見て更に顔が険しくなるミント。


「嫌な思いをさせてすまなかった。」

沈黙に耐えられず謝罪するご主人様。

「いえ、ご主人様がそんな。寂しかっただけなんだから。」

顔を赤らめて小さな声で喋るミント。

「さっそく屋敷を案内しよう。ついておいで。」


一人になった私はふと考えます。よくわからない性格にちょっと生意気な言動、肉付きの悪い身体。ミントはご主人様の提案した新しいタイプの使い魔らしいですが、残念ながら人気は出ないでしょう。あの使い魔を欲しがる管理者は多分いません。私と同じ運命を背負った哀れな使い魔です。

気になった私はオーブを操作して確認してみました。オリジナルであるミントと同時に、同じ型の使い魔が何体か生産されているはずです。ちなみに私の、リリ型の使い魔は数十年前に生産中止されています。私に似た境遇を辿るであろう彼女の事がとても心配です。

意外にもミント型の使い魔の評判は良好でした。モニターに並んだ評価。それは既に同型の使い魔を手に入れた管理者が感想を書いたものでした。

内容は、管理者に対して蔑むような目で辛辣な意見を口にしてくれる、じつは気が弱いのに強がっているような性格が良い、あの強気な顔を恥辱にまみれさせ屈服させたい、といった感想で、既にコアなファンが出来ているのか稼働初日に初期生産分は完売し、追加生産待ちの状態だそうです。主に絶対服従という使い魔の原則を覆すような性格が評価されるとは。世の中が間違っているのでしょうか、それとも冷静で真面目な性格を付与された私が時代遅れなのでしょうか。


そろそろ迷宮の扉が開く時間です。昨日、ご主人様が言っていたように強い冒険者なんてたまにしか来ませんが、一応モニターで確認しておきましょう。そろそろご主人様達も来る筈です。


モニターの前で4人座って、雑談を交えながら冒険者の末路を眺めています。

道を阻むように並べられた、ガスを噴出する植物の陰に設置された穴に落ちる戦士、トラバサミにかかった魔法使いを助けようと集まった全員に落ちてくる巨大な鋼鉄の籠、休憩中に密林の木々の影から襲いくる魔物、迷宮探索によって汗にまみれた身体に容赦なく浴びせられる電撃。

そして新たに一人の冒険者が迷宮へと訪れます。僅かに湾曲した刀身に波目模様の装飾を施した片刃の剣、簡素な皮の鎧を身に付けています。

珍しい武器を持っていますが初心者でしょう。そうでなければよっぽど顔に自信があるのか、髪型が気に入っているのか、兜や帽子を身に付けていません。弱点である頭が無防備です。きっと頭の中味も無防備なんでしょう。

特に警戒する様子も無く密林を歩く姿は哀れみすら覚えます。自身を物語の主人公だと思っているのでしょう。主人公は私で、これはご主人様との甘い恋愛模様を描いた物語だというのに。

密林を歩く男にいきなりの終焉が訪れそうです。密林最強の大黒豹が音も無く背後から迫っています。

モニターから男に憐れみの視線を向ける4人は驚きの映像を目にしました。

背後から音も無く飛びかかった黒豹を、男は振り向くようにして一刀両断したのです。巨大な黒豹は真っ二つになりながら、飛びかかった勢いのまま地面を滑っていきます。

何事も無かったかのように密林を歩き始める男。モニターから目を離し見つめ合うご主人様と使い魔達。ご主人様は驚いた表情も素敵ですね。


そんなことより疑問が残るのはあの男の戦い方です。普通は引くか押すかして斬るタイプの剣にも関わらず、咄嗟に振り向き、叩きつけるようにして尚且つあの威力です。武器の性能が高いのか、何か神掛かった力が働いているのでしょうか?足運びも初心者のそれと同じに見えました。まあ、所詮は一人です。捕らえた後に尋問してみましょう。


それからも男は私達の予想に反して、順調に迷宮を進んで行きます。まるで子供が遊びで棒を振るうような動作なのに、次々と魔物を駆逐していく男。後ろに目が付いているのか、背後からの攻撃や罠にも反応して剣を叩きつける姿。

そして何よりも、まるで頭の中に迷宮の地図が入っているかのように、視覚に訴え惑わせる迷宮を正確に進んでいます。


やがて最深部に到達するであろう男に対して、ご主人様が秘策を口にします。

「リリ、冷静に見て奴に勝てそう?ラミアと魔物を使ってでもいい。」

「残念ながら私達より強いかもしれません。ですが、この命にかえてもあの冒険者を倒してご覧にいれましょう。どれほど強くても道連れにする事は可能です。」

これは本心です。地の利もこちらにありますし、数も揃っています。

「では駄目だな。大切な君達を犠牲には出来ない。よし、珍しい龍族のお菓子や食べ物を集めて、お客さんをもてなす準備をしよう。」

突然、意味不明な事を仰るご主人様。まさか降伏するのでしょうか?それとも毒殺?私達が一斉に準備を始めようとする中、ご主人様が私を呼び、私の耳元で秘策の続きを囁きます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ