五日目(前編)
今日は男の奴隷達をベルゴ様の元へ、他の奴隷は売却、さらに新しい使い魔を迎えます。
一人例外がありました、金髪の有翼人の少女で、捕らえたままにしておくそうです。
短めの金髪ですが、丸い変わった髪型をしていて、キノコみたいです。青い瞳をもち、可愛らしい顔と声をしています。
背中に生えた翼は真っ黒で、広げるととても大きく、細く小さな体とは不釣合いな印象をうけます。
慎ましい胸だけは好感が持てますが、彼女は奴隷の為、今は牢屋に入れています。ご主人様が気に入っておられる為、私としては早く処分したいのですが・・・。
自由に飛び回れない場所を嫌う為、迷宮に侵入することは稀なのですが、例外もあるのでしょう。
そういえば、私の知る限り有翼人は細くて低身長ばかりですね。
大陸の東側の険しい山岳地帯に国家を形成している為、きっと、ふくよかな個体は降りてこられないのでしょう。
昨日捕らえた獣人達は、南方の草原地帯の遊牧民で、一族ごとに広い草原で暮らしています。ほとんどの獣人は遊牧を行いながら草原で暮らすのですが、中には街を作って定住している獣人もいるそうです。様々な種類がいるのですが、大抵は獣人とひとくくりに呼ばれています。
種族間の仲はとても良く、狼人一族の家に兎人が嫁ぎ、さらに猫人が食客として混ざっていたりします。
しかし、獣人が家畜を遊牧して……食べるのでしょうか?想像したくありません。
因みに獣人は有翼人と違って、人柄が良い個体が多い為、嫌いではありません。
ご主人様は有翼人がお好きなようです。あ、そういえば鳥料理を好んでいましたね。
きっと夜の為に傍に置いておられるのでしょう。食べるつながりで。
奴隷の扱いとしては別におかしくはありません。羨ましくもありません・・・少しだけしか。
正直、安心しました。ベルゴ様みたいな趣味をお持ちなら人格を疑います。……ご主人様とルル、あれ?有りかも知れません。
ご主人様が来られました、今日は居住区内をうろうろしてますね。
「今日は迷宮を拡張しようと思う。それと昨日の鉤縄は格好良かったよ。」
「どうぞ差し上げます。そして責任を取って下さいね。」
あれは私の嫁入り道具ですから。魔界では変な趣味の方ほど、迷宮管理者に選ばれやすいと言われてますので、秘かに練習していました。ご主人様も奇抜なものばかり好まれますし。
残念ながら、ご主人様はすぐにどこかへ行かれてしまいました。
あの有翼人を捕らえてから私とご主人様との距離が遠くなった気がします。
ところでラミアの姿が見えませんね。人見知りする娘なので、どこかに隠れているのでしょうか。胸はいつも自己主張してるのに。
台所で大量に鶏を捌いていました。ラミアも有翼人が嫌いなんでしょう。下半身が蛇なので執念深そうです。
「外出するのでご主人様をお願いしますね。」
「はい、…旦那様を譲って頂けるのですね。」
生意気な事を言うので、取りあえず睨んでおきます。
「…すみません…私は三番手です…すみません。」
蛇に睨まれた蛙みたいになりました、蛇のくせに。
三番?そういえばご主人様には奥方様がいたのでしたっけ。私は二番手みたいです。
さあ、奴隷達を処分しに行きましょう。
魔王ベルゴ・ド・ミゴールの住む80階層もある巨大な迷宮、近隣の人間達からは不帰迷宮と呼ばれています。人間界でもっとも大きく、完成された迷宮と呼ばれています。今尚も階層を下に伸ばしていることはあまり知られていません。
私はその最下層にある魔王の居住区に男の奴隷達を連れてお邪魔しています。彼らは着けられた首輪の効果により、主達に危害を加えたり、逃げ出したりする事が出来ません。狼人種は首輪がとても似合っています。
改めて今居る場所を見渡すと、迷宮を形どる壁は堅い岩盤をくり抜いて作られた洞窟のようで、とても居住区とは思えません。ドワーフやゴブリンの暮らす町のようです。もっとも、ここはエントランスにあたる部分なので、奥にある各居室はもっとまともなのでしょう。
「ようこそいらっしゃいました。奴隷達はお預かりします。」私を出迎えてくれたのは、筋骨隆々とした上半身裸の使い魔でした…。
「ベルゴ様は冒険者達と戦っておられます故、奴隷達の価値は後日お知らせしたいのですが。それで、よろしいでしょうか?」
ポーズを取り筋肉を強調させながら喋る、ベルゴ様の使い魔。
「ご主人様にお伝えしておきます。それではまた…。」
正直、もうここには居たくないので早々に別れの挨拶を口にする私。
「またのお越しをお待ちしております。」
新たにポーズを取り直す使い魔を尻目に、今度は迷宮管理センターに行きます。
白で統一された内装の迷宮管理センター、いつ来ても多くの魔族で賑わっています。
さて、新しい使い魔はどんな娘でしょうか。あ、男の可能性も無いとは言えませんね。
どちらにしても使い魔が増えるのは良いことです。仕事が楽になりますし・・・。
三人居れば4時間毎の交代とか8時間毎の交代で、24時間営業とか出来ます。新しい使い魔にオーブを任せてご主人様と私とラミアで冒険者を狩るのもいいかも知れませんね。
そういえばご主人様は新しくどんな迷宮を創られるのでしょう?他の管理者には無い発想をされる方なので楽しみです。オーブの魔力から考えると、四階層ぐらい追加出来そうです。魔力を使用しない罠とか
増えているかもしれません。良く使っておられるノートを盗み見たら、新たな迷宮の構想とかが書いてありましたし。将来有望なご主人様に買われた私は幸せ者ですね。
「あれれ?リリちゃん、また解雇されちゃったの?」
「ご主人様の命を受けてここにいるのです!」
同期のアリスです。人気があるからって調子に乗っていますね。
「あー、あの人間の・・・。てっきりもう死んじゃってるかと思ってた。」
「ご主人様は優秀な迷宮管理者です。既に魔族では到底思い浮かばないような迷宮を作られています!」
「どうせ、冒険者から逃げ回ってるんでしょ?もっと良い主を探したほうがいいんじゃない?」
小ばかにしたような笑いを上げるアリス。私だけならいいのですが、ご主人様を愚弄するのは許せません。肉塊にしてやりたいです。
ですが、私が本気で背後から狙ったとしても、次の瞬間には私は塵となって消えているでしょう。
「ご主人様はとても強く、そして私を大切にしてくださるお方です。」
半分は本当なので嘘にはならないでしょう。
「大切、ねぇ。」
なにやら言いたげな表情をして装飾品を見せびらかしています。
あのネックレスや指輪に付いてる宝石は、一粒で城が買えるほどの価値があり、魔族では結婚相手に渡すものとして有名です。
「貴方には、ちょっと無理かしら?」
わざとらしくお腹を擦っています。まさか・・・。
「アリス、そこにいたのか。」
遠くから、高級そうな服に身を包んだ魔族が近づいてきます。
「ダーリン、今お友達としゃべってたの。リリちゃんって言って大切なお友達なの。」
魔族のほうに駆け寄るアリス。
「おお、そうか。アリスは皆に好かれる娘だからな。でも走ったりしたらダメだぞ。もうおまえ一人の体じゃないんだから。」
勘違いしたままの魔族と手を繋ぎ、どこかへ歩いていくアリス。どこへ向かって歩いてるのかはわかりません。私は悔しさのせいか、何故か視界がぼやけてしまっていたのです。
ご主人様へ癒しを求めた私は、ここへ来た目的を果たせず迷宮に帰っていくのでした。