表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/76

第68話 「あたし"たち"」は「あたし」に戻る



うおおおおおおおおっ!!


終わりが見えてきたあああああっ!!


待てばカイロはエジプトの首都ですね!!


あ、待てば海路に日和あり? でしたっけ。


ではでは、どうぞ。





意識を失ってどれほど経ったのだろうか。


それすら分からなくなった頃、エリカは目を覚ました。


目を覚ましたと言っても身体は相変わらずイフォネイアが制御下に入れているから、あくまで覚醒しただけ、という事になる。


外の様子は相変わらず分かる。そしてエリカの前でぼんやりと虚空を見つめるイフォネイアを見つけると、エリカはゆっくりと彼女に歩み寄った。


「不思議、なぜあの人たちはそこまでして戦うの? 逃げればあるいは助かるかもしれないのに」


「アクイラ騎士団は仲間を見捨てない。それに守りたいものがあるから、だと思う」


表に出ているイフォネイアが何かを言っている。表のイフォネイアも今隣にいるイフォネイアのように冷静だったら思うが、それも届かぬ願望だ。


「守りたいもの、エリカの事ね?」


「……かもね。なら、あたしも守りたいもののために戦わないとダメか……」


エリカがそう言うと、イフォネイアが険しい表情でエリカの方に向いてきた。それも当然だろう、イフォネイアからしてみればそれが意味するのはイフォネイアとエリカが戦うという事なのだから。


「精神が戦えば、肉体が崩壊するわよ?」


「だれがあなたと戦うって言った? 第一、戦うって言ったって刀片手に肉体言語っていうだけじゃない。それに、あたしにとって、あなた・・・も守りたいものに入ってるんだから」


「え……」


イフォネイアが呆けたような顔をすると、エリカが何を今さら、といった目でイフォネイアを見つめる。


「あなたはあたしの影、ならあたしの生き写し、あなたの言う通り、あなたはもう1人のあたし。なら助けるのに理由はいらない、あたしは、あたしを助ける」


「……自分の闇を、闇から救おうというの?」


「その闇だって、あたしが作り出してしまったものよ。他人との間に線引きをして、自分を守る事で逆に自分の心に闇を作ってしまった。イフォネイアという本来のあたしをエリカという仮面で隠してしまった。でも、あたしにとってイフォネイアもエリカも両方自分、なら1つになりましょう?」


そう言うとイフォネイアがくすりと笑った。ここに来て、初めて彼女の笑顔を見たような気がする。


「両方なんて、エリカは欲張りね」


「今まで我慢したんだから、これくらい見逃しなさい。それに、これからは一緒にいられる、そしたらあなたにも世界を見せる事が出来る。それでチャラよ」


なんだか、自分相手だと堅苦しい言葉がばかばかしくなり、敬語が取れている事に今さらながら気が付く。そもそもエリカが他人に敬語を使うのは、他人と自分の間に線引きをするためであり、今となっては無用の長物に等しいものになってしまった。なにせ、敬語を使ってまで隠そうとした本当の自分が目の前にいるのだから。


「でも、今からどうやってあたしイフォネイアから主導権を取り返すの? 今外であなたの仲間と戦っているのはあたしの闇、つまりあなたの心の奥底に眠っていた闇のまた闇よ」


「はあ、我ながら面倒な人格を作ってしまったものね……」


小さくため息をつくとエリカは頭を抱えた。


結局、目の前にいるイフォネイアは説得できた。少なくとももう敵対することはないと考えていいだろう。


問題は今ジーンたちと戦っている「彼女」だ。


今回の件で、全てに絶望した「if」のエリカと考えるべきだろう。強引な魔法のおかげでエリカの精神は割かれ、「彼女」が顕現してしまった、と言ったところか。


自分の精神をその特徴ごとに分割すれば、一番暗い部分となる悲しみや憎しみを司る自分。よりにもよってその自分が外にいるのだ、これほど面倒な事はない。


では目の前にいるイフォネイアは何者か。外にいる自分と同質のものなのは確かだが、それにしては随分と聞き分けがいい。


「あなたは、結局誰なの?」


「あたし? あたしはヒトとしてのあなたの闇。ジーンさんたちと出会い、希望を知った闇。だけど『彼女』は違う。あの子・・・はドラゴンとしてのあなたの闇。ジーンさん達とも出会わず、光を知らない闇。それがどれだけ深い闇かはあなたにも分かるよね?」


当たり前だ。


自分のなのだから。


エリカは頷く。


ふと、自分の両手が何かを握っていることに気がつく。見ればいつの間にか姫黒と黒羽が握られていて、美しく光を反射させている。


「ここを出たら必要になるでしょう? あたしたちの力が込められた刀、現実世界でも、大切にね」


ここは精神世界、今手に握っている刀も結局は虚像に過ぎない。今目の前にいる少女も、この世界でしか存在しないし、ここでしか存在させてはいけない。この真理のような法則が崩れれば、その瞬間「エリカ」という存在も虚像と化してしまう。


「止めて、あたしイフォネイアを。あたしエリカの力で」


願うのは全ての終焉。


自分の闇に、自分という個に、この何ももたらさない不毛な戦いに、そしてエリカの旅に、終止符を打つ時が近づいている。


そのために、エリカは――――――、
















詠った。















「っ!!」


異変に一番最初に気が付いたのは誰だったか。


それ・・は前触れなく起こった。


圧倒的な戦闘力とはまさにこの事を指すような無茶苦茶な戦い方をしていたイフォネイアが突然足を止めた。そもそも一歩足を踏み出すたびに血が床を赤く染めるような状態でジーン、ジャック、フィア、バーバラ、シルヴィア、ヒナを相手に互角以上の戦いをするという常人ならば到底考えられない事をしていたため、エリカの肉体が限界に達したのかとジーンたちが思ったのも当然のことだ。


だが、そうではなかった。


イフォネイアは刀のように伸ばした手で自分を傷つけないように頭を押さえている。


「馬鹿ナ、なぜ手ヲ貸ス!?」


イフォネイアが焦燥感に塗れた声を上げる。


明らかに動揺しているのが分かる。


そして不意に今までただ肩からぶら下がっているだけだった右腕がぎこちない腕で左腕を握り、自由に動かせないようにする。


「……歌?」


耳を澄まして、それでも聞こえるか聞こえないかというギリギリのところではあったが、確かに歌がどこからともなく聞こえてくるのがその場にいた全員に分かった。


そして、その音色に聞き覚えがある事も。


「この歌、エリカが歌っていた……」


「あの夜聞こえていた歌か……」


ジーンたちはエリカが歌っていたという事実を知っていたわけではない。この場でそれを知っているのはバーバラくらいのものだ。


だが、それでも今この状況でこの歌を歌うとしたらエリカしかいない。


「エリカも戦っているのね。なら、私たちも休んでいる暇はないわ。皆、エリカの動きを止めるわよ」


今しかない。


この機を逃せばまた暴走を再開させてしまうだろう。


エリカ自身の身体にも、バーバラたちの体力にも、限界は近い。ここでしくじる事は全ての失敗を意味する。


それが一番分かっているのはこの場にいるジーンたちだ。


バーバラの掛け声と同時にシルヴィアが動きを止めたイフォネイアの足元から加減無しで氷を作り出し、イフォネイアの膝下まで氷漬けにしてしまう。先ほどまでの彼女なら簡単に砕いて脱出できただろうが、右半身の反乱を起こされた今のイフォネイアはなす術もなく動きを封じられてしまう。


「手加減なしだ! 思いっきり行くぞ、エリカ!」


ジーンが飛び出すとイフォネイアの肩を蹴り飛ばす。


「グッ!?」


足を固定されてしまっているイフォネイアは膝を曲げて床に倒れ込む。そこで終わらせずジーンはイフォネイアの巨大な翼の上に乗ると自らの大剣を突き刺して床にまで大剣を貫通させる。


「少しばかり、痛いのは我慢してくださいね!」


ヒナは先に一言謝った後、武器を無くしたジーンを追い払おうとする尾に刀を突き刺す。刺した瞬間イフォネイアが唸り声を上げるが、ジーンの大剣同様床まで貫いた刀によって反撃の方法を封じられてしまう。


するとイフォネイアは邪魔をする右手を振り払って翼の上にいるジーンに左腕を向けると5本の刀のような黒燐をさらに伸ばす。


「はい、そこまで」


だが、モーションも大きく、その動きも直線的だったイフォネイアの攻撃はバーバラに容易く防がれる。並みの剣なら黒鱗と擦れれば剣としての意味を失ってしまう所だが、バーバラの剣もまた黒鱗で鍛えられている。5本の槍のように伸ばされた黒鱗を弾き飛ばすとその全てを絡め取る様に剣に沿わせ、捩じり折ってしまう。折った瞬間イフォネイアが信じられないような表情をするが、バーバラ自身も折れるとは思っていなかった。


そう、無類の強度を持つ黒鱗が折れたのだ。


それは彼女の身体が黒鱗を100パーセント発現させることが困難になってきている事を意味している。


「ええと、ああ、簡単に使えるじゃない」


魔法陣を観察していたフィアは魔法陣の内容を解析するとそれを我がもののように操り先ほどエリカを縛るのに使用されていた鎖でイフォネイアの身体を床に縛り付ける。


もはやイフォネイアは右腕以外の四肢を封じられ、身体を一切動かす事が出来なくなっている。


苦悶の声をイフォネイアが上げているのを聞きながらジーンたちはゆっくりと彼女に近づく。


抵抗できず、イフォネイアは憎悪の眼差しでもってジーンたちを迎えるが、周囲から彼女を見る者にはその左目とは対照的に光を取り戻しつつある右目を見ていた。


「帰ってこい、エリカ」


ジーンが静かにそう言って右手を差し伸べる。それはもちろん、唯一拘束されていない彼女の右手を迎えるためだ。


ジーンが手を差し伸べた瞬間、イフォネイアの顔が歪み、左目が大きく見開かれる。


「なぜ、ナゼ、ナゼだ、エリカアアアアアアア!!!」


イフォネイアは最期に憎悪を以てエリカの名を叫び、こと切れるように意識を失う。


ジーンたちはただ、エリカの帰りを待つしかなかった。


































「随分と、やってくれますね……」


苦笑いしか出ない。


いくら自分を止めるためとはいえ、随分と乱暴な止め方をしてくれたものだ、とエリカは呆れてしまう。


「まあ、あれくらいしないと止まらなかったとも思いますけど」


もう1人の自分がそんな事を言っている。


それを一蹴しつつエリカは外に出るために歌を詠い続ける。


それが脱出のための正しい方法なのか保証はない。だが今のエリカにはそれしか出来ない。


外ではジーンたちが自分の帰りを待っているのが分かる。


「外に出ても、あたしたちはここに居続ける」


「……今度は置いて行かない」


エリカは歌を切って顔をもう1人の自分に向ける。その顔は笑顔だ。


「自分を受け入れる事を忘れてこんな目にあったんだ、これからはずっと一緒」


「もともと1つだったのに、どこかの誰かさんのおかげでこんな事になったんだけどね」


「うぐっ……」


それを言われたら反論できない。


まさか自分に言い負かされる日が来るとは思いもしなかった。


「……はあ、また1つになれるよね?」


「それをするのがあなたの仕事。あの子はちょっと大変かもしれないけどね」


「言わないで。今から憂鬱になる」


暴走を起こした自らの感情を説得するなんて、聞いたことがない。当然ながら方法などを知っているはずもない。


だが、やるしかない。それが今自分がしなければならない事なのだから。


自分に何かを押し付けるのは止めよう。


全てをありのままの自分で受け止めよう。


「ふふ、あたしのこの姿はもう必要ないかな?」


笑いながらゆっくりとエリカに手を伸ばしてくる。


「その姿はね。あなたはいつもあたしを見守っていて。いつでもここで会えるんだから」


彼女の姿が淡い光に包まれ始める。


彼女の手に優しく触れると、その光がゆっくりとエリカの身体に吸い込まれていき、彼女の姿が徐々にぼんやりとしていくのが分かる。


「ただいま、あたし」


「おかえり、あたし」


言い終わった時には、彼女の姿はもうなかった。


この空間にはエリカ1人しかいない。


エリカは目を閉じてゆっくりと深呼吸を一度すると姫黒と黒羽を振りかざす。


「帰ろう、あたしの居場所に」


















































「うっ……」


「エリカ!?」


自分の体内時計が正常に働かないのがここまで不便だとは思わなかった。


精神あの世界での出来事が終わり、再び目を開くと薄暗い空間が目の前に広がっていた。


そして、こちらを見下ろしている複数の顔が視界に入る。どの顔も見覚えがあり、自然と1人ずつ目で追ってしまう。


「戻っ、た?」


「エリカよね!? エリカでしょうね!?」


バーバラが肩をガシッと掴んで揺さぶってくる。


「バ、バーバラさん! あたし身体動かせないんで揺らさないで!!」


正確には動かせないようにされていると言った方がいいだろう。フィアが慌てて鎖を消滅させ、バーバラが肩から手を放す。


ようやく自分の身体に戻れたのは良いが、徐々に各部位の感覚が戻ってくると、痛みしかないのが辛い。翼を貫かれ、尾を貫かれ、身体が左右でまったく違う種族になっているのだ。身体が悲鳴を上げないはずがない。


胃の中から何かがこみ上げてくるのを感じ、慌てて顔を横に向けると同時に大量の血を吐き出す。


それを見てフィアが急いで治癒魔法をかけ始めるが、吐血は一向に止まる気配を見せない。


「無駄、です。これは身体が、2つの種族がごっちゃになった状態に対して拒絶反応を、起こしているからしょう、から……ゲホッ」


「な、ならどうすれば……」


「あたしの感じでは、左半分が右半分に対して拒絶反応を、起こしてます。なら、右半分も同じにすれば、あるいは」


絶え絶えになりながらもそれだけを伝えると何とか起き上がる。自分の身体の支配権が戻ってきているため、何とか邪魔にしかなっていない翼と尾をなるべく小さくして行動に支障が出ないようにする。


幾分軽くなったエリカはジーンの手を借りて立ち上がる。


「なら、このままもう戻った方がいいのかしら?」


バーバラが言った言葉に全員がハッとなる。


それはすなわち、エリカとの別れを意味しているのだから。龍の姿に戻れば、ここにいられるはずもない。


「……今はそれしかないでしょうね。クライムさんは生きてますか?」


「ああ、あっちで団長たちが様子を見ている」


ジャックが指差した方を見てエリカは安堵のため息をついた。


シルヴィアが彼らを守るために作り出していた氷壁は消えており、エリカの顔を見てあちらもひとまず安心したような表情をしている。エリカは肩を借りつつそこに歩み寄り、クライムの顔を見る。隣で先ほどイフォネイアの攻撃を正面から受けたジャックが横たわっているが、命に別状がなさそうなのを見てホッとする。これでエリカが助かっても仲間が死んでは意味がない。


「締まらない、ですよね。こんな体たらくでは」


「命あってのものだね、ですよ。それよりもクライムさん、あたしを完全な姿に戻せます?」


「それはもちろん可能ですが……、良いのですか? やろうと思えばヒトの身体に戻すことも不可能ではないですが」


クライムがそう言うとエリカは小さく首を横に振る。


「もう、自分でも分かります。この身体はもうドラゴンに戻ろうとしています。この左半身を見てもらえれば分かるでしょう?」


そう言うと全員が黙り込んでしまう。


「……分かりました。ですが私一人では無理です。フィア、ヒナ、セラ、協力を」


「「「……分かりました」」」















ヴィゴラスは目の前で起きていることがいまだに信じられなかった。


あれほど確実だと思っていた計画が、あれほど確信していた未来が、今目の前で脆く崩れ去ろうとしているのが信じられなかった。


自分の身体も傷だらけ、骨が数本折れて内臓に突き刺さっているのが分かる。


(ありえない、あり得ないアリエナイあり得ないありえないアリエナイアリエナイあり得ない有り得ないあり得ないありえないあり得ない!!)


幸いして奴らはこちらに一切の注意を払っていない。


ヴィゴラスはチラリと辺りを見渡す。


つい先ほどまで生きていた仲間たちの無残な死体が幾つも転がっている。その中にはクランクのものもある。だが、今ヴィゴラスには彼らの姿はただのモノにしか見えていなかった。


こうなってしまった以上、ヴィゴラスに出来る事は少ない。


最小限の動きで魔法陣の状態を確認する。


拘束用の鎖は制御を離れてしまったようだが、他の部分は未だにヴィゴラスの支配下にある。


自分のポケットに先ほどクライムから拝借した血の入った試験管があるのを確認すると、ヴィゴラスはニヤリと笑った。


「……まだ、終わったわけじゃない」


まだ、俺の旅は終わってない。


それが、今のヴィゴラスを突き動かしていた。





終わりが見えてきて何とかまるっと全てノーマルエンドで終わらせたいですね。


トゥルーエンドとかバッドエンドなんて想定していませんww


ノーマルエンドです。


大事な事なので2回言いました。


よくあるノーマルエンドです。


大事な事なので3回言いました。


ではでは、また次回。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ