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第33話 敵は本能寺(身内)にあり



うう、昨日更新したかったのに……


飲み会の翌日だったせいか、眠くて眠くて……小説書く気力すら起こりませんでしたよ…


ではでは、どうぞ






大陸統合軍事大会。


この名もない大陸に存在する全ての王国、帝国、共和国が参加して行う「平和の式典」だ。これが出来たからこそ、今現在この大陸において戦争は無い、とまで言われるほどでもある。それも遥か昔の先人たちが考え出したというのだから、先人たちの遠謀は計り知れない。


戦争が無い、というのは全ての国家が武力を保有していないという意味ではない。お互いがほぼ同程度の戦力を有し、戦争による利益よりも不利益が上回ると考えているからこそ、戦争が起こっていないだけである。


そして、それを知らしめるための方法が、大陸統合軍事大会なのであった。


お互いを知る事で戦争をする気を起こさないような枠組みを作る、というのが本来の目的だそうだが、それも1000年は昔に考え出された理論だという。


1000年で時代は大きく変わった。


ヒトの敵は同族から龍へと転移していった。そしてこの大会も本来の目的から、お互いの技術向上、敵ではなく、同じ敵と向き合う仲間としての信頼を築くものへと変わっていった。


それが現在、「大会」と呼ばれているものだ。


共通の敵を得た事で人々が一致団結した、というエリカからしてみれば何とも皮肉めいた話であったが、少なくとも表面化した、露骨な国同士の争いは鳴りを潜めた。


現在では、「大陸統合軍事大会」という長ったらしい名称も、単に「大会」と呼称されることが多くなり、正式名称は書面にでもされない限りは人の目にもつかないほど。大昔のこととはいえ、やはりこの名称には何かしらの抵抗があった、という考えもある。


また、龍へと敵が移った事によって龍に対して直接的な脅威を感じない、言ってみれば龍の森に隣接しない国家は関係者だけの出席に留まる様にもなった。そのような国家からしてみれば、龍が戦争でも起こそうものなら真っ先に狙われる近隣の国家が襲われている間に軍備を整える、という腹積もりなのだろう。


だからこそ、アールドールンなど3カ国の戦力は把握しておきたいということだ。


と言っても、大会が現在の体系に移り変わってからは、3カ国ともドラゴンスレイヤーのみを出場させることで合意している。巨大な敵相手に挑むからには、集団だけではなく、個人としても卓越した技術を持っていることが必須である。


少なくともアールドールン、エオリアブルグはそう考えている。ブラゴシュワイクに関しては割愛する。


人対人が基本となるこの大会では、その存在意義すら今では疑問視されることもあるそうだ。本来の敵が龍なのだから、その疑問は当然なのだろう。


だが、大会の目的は龍と戦う技術をお互いに共有し、信頼関係を築き、本来の敵と戦うことになった時には共に背中を預けあえるようになることである。


決して、龍と模擬戦でもしようというものではない。


兎にも角にも、ドラゴンスレイヤーたちが自分たちの技術をぶつけ合い、親睦を深める、というのが存在意義だ。それに関しては誰も異を唱えようとはしないだろう。


自国の力を無条件で曝け出していると、反対するものも多いが、そういう事は言い出すのが1000年ほど遅い。


すでに固有の文化にすらなっているのだ。


大会の開催国は1回毎に変わるが、他国からも多くの来賓、観客が来るため、それなりに経済効果も起こす。年に数回行われているが、龍への危機感もあってその注目度は下がる気配を見せない。むしろ龍と戦うことになる騎士を間近で見ることによって自分たちも敵を再認識しているようだ。


敵の敵は味方、とは言ったものだ。


まさしく、ヒトが表向きには・・・・・手を取り合ったと言えるだろう。


大会の裏に各国の思惑がある事は除いて――――――。
















「ふあ……暇です」

<開口一番それか?>


絶対安静。


エリカの事を思ってのこの宣告も、エリカにとってはただの足枷あしかせににしかならない。傷自体は腕の良い医師によってほとんど傷もなく塞がっている。縫合に際して使われたという糸を抜くと、そもそも傷があったのかというほど綺麗に傷跡も消えている。目を凝らせばうっすらとエリカの身体を斜めに走る筋が見えるかもしれないが、肌を晒す機会でもない限りはほぼ問題ないだろう。


とはいえ、その驚異的な治癒力のおかげで医師たちの頭の上に疑問符を浮かべさせてしまったのは、居心地が悪かった。


エリカは龍としての特異性を幾つかヒトの身体になっても受け継いでいる。黒鱗や、目、髪の色はすぐに分かったが、この治癒力ばかりは怪我でもしないと分からないものだ。


吸血鬼の不老ほどではないが、龍も十分すぎるほどの長命。それに見合った再生能力を龍は保持しているのだ。


とはいえ、失った血まで再生できるものではない。エリカは一度に大量の血を失っていたために、あわや出血多量で命を落とすところであった、とすら医師に告げられていた。その点では、即座に止血を行ったフィアの功労が大きい。改めてエリカはフィアに感謝した。


エリカが目を覚ましたのは4日前、選抜試合決勝からすでに1週間が経過している。


エリカが寝かされている病室は騎士団の宿舎ではなく、城の中にある大きな傷病者用の区画だ。龍の森が目と鼻の先にあるこの王国では、大きな町には必ず設備の整った病院があるそうだ。


龍だけでなく、隣国との戦争時も、病院が多いに越したことはない。それは、この首都においても例外ではないし、むしろその中心的存在でもある。


普通のヒトであれば、重体以上の大怪我をしたが為に、医師たちは1週間は絶対安静と通告した。


ところが、エリカは医師の通告ははるかに上回る勢いで回復した。そのためか今度はエリカの身体について調べたいと言い出す輩が現れ、結局1週間が経った今もエリカは退院に至っていない。


もちろん、身体を調べようなんて言う怪しい輩にエリカが首を縦に振るわけもなく、また強引にでもやろうものならアレックスに脛をかじられ、エリカに強烈な頭突きを喰らう事になる。


アレックスは、普段は起きているのか寝ているのかも分からないくらい動かないのだが、実は周囲にずっと意識を巡らせている。おかげでエリカは自分の感覚では誰かが来ていること程度しか分からないところをアレックスの敏感な感覚器官によって「誰が」来るのかまで把握することが出来る。


「動かない事がここまでもどかしいものとは思いませんでした」

<正直、もう歩けるのだろう?>

「というか、ここにいる意味がないくらい回復してるんですけど……」


1日のほとんどをこのベッドで過ごす羽目になり、エリカは少しばかり物足りなさを感じている。動きたくても、人気ひとけの多いこの区画では、廊下は看護師や医師が必ず視界に入るほどである。患者服を着ているエリカを見つけようものなら患者に対する対応とは思えないくらい強引に病室に連れ戻されてしまう。


さすがに鍵こそかけられていないが、診察という名の監視が厳しくなったことは確かだ。1時間単位で誰かしらが顔を覗かせるほどだ。


「1週間、ですよ? 1週間も美味しい食堂の料理が食べられないのがどれほど辛い事か、アレックスには分からないでしょうが……」

<む、何やら侮辱されたような気がするのだが……。言っておくが私はそれなりに料理にはうるさいぞ? やはり肉は生に限る>

「はいはい、あなたに聞いたあたしが馬鹿でした」


などと言いつつも、もはや習慣、いや中毒になったようにエリカはアレックスの頭を撫でる。


目が覚めた日にアレックスを抱いてモフモフしていたところを看護師に見つかってからは、ベッドの上に乗せないよう厳しく言われている。それに、抱き付いた際に、いつもと違って随分とアレックスが抵抗していたので、エリカも頭を撫でるだけに止めている。


<あんな服のはだけた状態で抱き付かれては敵わん……>


診察用に胸元が随分と覗く服、前を止めているのは1カ所の結び目だけの状態、そんな状態で抱き付かれてはさすがのアレックスも逃げたくなるようだ。


<今『お前は犬だろう』って思った奴、私は狼だ>

「誰に話しているんですか、アレックス?」


独り言を呟いていたアレックスの顔をエリカが覗き込む。


そこで、現在の状況を思い返してほしい。


現在、エリカはベッドの上、アレックスはベッドの脇。エリカがベッドの端に横になって手をダランと垂らした状態で丁度腰を下ろしているアレックスの頭に手が当たるくらいの高低差がある。


その状況でエリカがアレックスの顔を覗き込む、という事はベッドから上半身を逆さにするような体勢になるということだ。すると、重力の法則に従って服が少しばかり下がって――――――。


<たわらばっ!!>

「アレックス!?」


アレックスは慌てて飛び上がると壁と向き合う様に顔をエリカから背けた。


「いきなり、何なんですか? ……も、もしや、あたしの事嫌いになっちゃいました?」

<そういう訳ではないんだがな……、その、私も男だ>

「え? オスでしょう?」

<……はあ>


実は、こんなやり取りは今日に始まった事ではない。診断の時は躊躇いなく服を脱ぐし、医師や看護師は時間がかからなくて楽だと言っているが、言っているのはもちろん女性だ。万万が一にも男性が診察に来ようものならエリカが視界に捉える前に女性医師たちによって排除されているそうだ。


お堅い騎士ならまずありえないことだが、幸か不幸かアクイラ騎士団は両方がどっこいどっこいの勢力である。エリカは知らないことだが、すでに騎士団内でのエリカの注目度は計り知れないものになっており、見舞いと称してやって来る連中も少なくない。


大概が真面目な騎士たちなのだが、退院後の食事に誘おうなどという騎士も稀にいる。主にダニエルやゲイリーなのだが。


誰の事か分からない?


ならばエリカとジーンにやられたモブだと思い出してもらえれば良い。


ともかく、エリカには一般に羞恥心と呼ばれる感情がかなり抜けている。いや、異性が見ていないからそうなのであろう。アレックスとしては自分がオスであって男ではない、と言われているようで少し傷つくところだ。


<ときにエリカ殿>

「はい?」


気を取り直したのかアレックスはエリカに向き直る。


<これからどうするのだ?>

「……どうする、とは?」


アレックスの言葉にエリカの顔から感情が薄れる。


<すでにエリカ殿は各国から目を付けられてしまったと考えるのが妥当だ。そんな状態が長く続けば、いつかボロが出るというものだが>

「……確かに、今のあたしならボロを出してもおかしくないですね」


エリカの顔に自嘲の笑みが浮かぶ。今の自分がどれほど「おっちょこちょい」になっているかは、自分が一番分かっている。


たかだか数週間の間に、どれほどそういう・・・・意味での危機に見舞われた事か。後先考えずにやらかすことも多かった。いや、ヒトの常識が自分と大きく違っていることに気が付くのが些か遅かったようだ。


「でも、もう良いんです」

<うん? 自分からばらすとでも?>

「まさか、そこまであたしは愚かじゃないですよ。考え方を変えたんです。ばれるのを恐れていたら、何もできない。なら、自分が出来る事を存分に使ってあたし自身の望みを叶えてさっさとオサラバしよう、って」

<……ここにはいたくないか?>


アレックスの問いに、少しだけエリカの表情が曇る。


「居たくない、と言うと嘘になるよ。本当にわずかな間しか接していないのに、100年連れ添ったみたいな信頼が生まれてる。あたしの周りの人、いえドラゴンは『ヒトは野蛮』と言うけど、それ以外の一面もある。あたしはジーンさんやフィアさんたちにその一面を見たと思ってる。そして何より、今の・・あたしを手放したくないとも思ってる」


<決めるのは自分自身。戻る手段に関してはご主人や団長殿が突き止めるだろう。その時、エリカ殿、あなたはどうする?>


「分からない。戻りたいという思いも、失いたくないという思いもある。けど、誰にも打ち明けるわけにはいかない」

<私にはその苦しみは分からない。私はヒトに打ち明ける事すらできないからな、ご主人を除いてな。あなたの正体を知っている者に、少しでもその思いを打ち明けるのも良いのではないか? ご主人ならまず相談に乗ってくれるだろう>


エリカは、いつもの冷静な彼女ではない。以前にもバーバラとアレックスにだけ見せた、1人の少女としてそこにいた。


「不思議です。やる事が無いと、そんな事ばかりが頭に浮かびます」

<ならば、騎士団に戻るか? ひたすらに刀を振れば、ひと時の無心にひたれる>


「……それが一番いいです。いい加減ここにも飽きてきましたし。何より、一言物申したい相手がいるので」


騎士団の単語が出た瞬間、エリカの背中から黒いオーラが出たようにアレックスは感じた。恐る恐るエリカの顔を覗き込めば、口角を吊り上げて不気味な笑みを浮かべているエリカの顔があった。


「ふ、ふふふ、嘘は万死に値します……」


騎士団の彼に危機が迫る!















「っ!?」


騎士団の食堂で1人の男が身震いした。


「おい、どうした、ジャック?」

「い、いや、殺気を感じたんだが…」


身震いしたのは大男でもあるジャックだ。飯を共にしていたジーンが飛び上がりかけてテーブルに足をぶつけたジャックに笑いをかみ殺しながら話しかける。


「殺気って、こんな場所で誰がお前を殺そうなんて考えるんだよ」

「心当たりが多すぎて分からねえぜ……」

「おい……」


そう言うジーンも、苦笑いが顔から離れない。


このジャックと言う男、とにかく戦い好き。それが高じていろんな所で喧嘩を買っている。恨まれる記憶はそこかしこに転がっているのだろう。


「あれじゃないか? エオリアブルグに行く前城下町で女性引っかけてた男どもしただろう?」

「ああ、あれか。いや、あん時は俺名乗ってないはずなんだが……」

「お前は顔パスで大体城下町通ってるだろうが」

「あ」


ジャックが間の抜けた顔をする。そして「しまったぁ」と顔に書いてあるような表情をして後頭部を掻く。


「町ではちょっとした保安官、騎士団では屈指の強者。名乗らなくても顔出せば名乗ってるようなもんだぞ」

「抜かったなぁ。あっちが全面的に悪いから恨まれても気にしないんだが、このままじゃ俺が神格化されちまうぜ」

「……大きく出たな」

「いや、英雄で止めておこう。俺が超ッ絶神兵なのは今に始まった事じゃねえからな」


ガハハッと笑うジャックに、ジーンは呆れてため息も出ない。


「……それはそうと、あの事、いつ話そうか」

「うん? ああ、嬢ちゃんの刀の事か。退院してからでいいんじゃねえか? 一応あの区画は武器持ち込み不可だしな。鍛冶屋の方はどうなんだ?」


先ほどまでの笑いをどこかに押しやったジャックは冷えたビールを口に流し込む。喉を鳴らしながらジョッキ半分ほどの液体がジャックの胃へと流れ込んでいく。


「現物を見ないと詳しい事は言えないと言われたよ。だが、最低でも20日はかかるそうだ」

「結構ギリギリだな」

「だから、早いところエリカに話したいんだが、言うタイミングを逸して」


小さくため息をつくと、ジーンは背もたれに寄りかかって食堂の天井を見上げる。


「あんな小さな身体であんな風に戦ってたんだ。ガタが来ててもおかしくないところだったが、案外タイミングとしては良かったんじゃねえか? 大会直前よりかはよっぽどマシだ」

「それはそうなんだが……、考えても仕方がないか。明日エリカに会いに行くよ。その時話そう」

「お、じゃあ俺もついて行こう」






虫が自ら火に飛び込もうとしている。







はいはい、なんかアレックスが羨ましいとか思った方、いないと思いますが、と言うか信じたい……とりあえず、アレックスは気苦労という代償を払って役得してるのかもしれませんね。


言っておきますが、そう言う意味で男衆が役得することはあんまし無いと思います。事故るか、無意識はあるでしょうがね。


そういう事を上手く表現できるか自信のないハモニカは書くかどうかわかりませんけどねぇ…。


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