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第32話 知らない天井(ry



目が覚めての第一声はこれに限る……と思ったら主人公そんなことを言ってなかったでしたね……





ではでは、どうぞ





「エリカ! 目が覚めたのか!」

「ジーン、さん……?」


目を開くと、目の前にジーンの顔、エリカを挟んで逆にはフィア、奥にジャックが立っていた。どの顔もエリカを見てホッとしているような表情だ。


「え、えと、何がどうして、どうなったんです、か?」


何故か、ついさっきまでそのことについて完璧なほど記憶が残っていたような気がするのだが、魔法を使おうとしてから後の事がなかなか思い出せない。何か言った記憶もあるし、何かを見たような記憶もあるのだが、それが何なのかパッと出てこない。


エリカが3人の誰にでもなく尋ねると、全員が揃いに揃って言いづらそうな顔をする。特にジーンに関してはその反応が顕著だ。


「あ、あの……?」

「すまん! 俺が自分の得物もしっかり把握できていなかったばかりに、エリカにこんな大怪我をさせてしまった!」

「ジ、ジーンさん!?」


そして突如、ジーンは椅子から立ち上がると頭を床につけて謝りだした。エリカは横になっている為、ベッドの影に隠れてジーンの姿を見失ってしまった。


慌てて起き上がろうと腹に力を入れた瞬間、頭にまで来る鋭い痛みがエリカを襲った。そこでようやく、エリカは自分の身に起きたことを思い出すことに成功した。


フィアの手を借りて上半身を起こして、なんとかジーンを視界に収める。そして自分が着ている服に目をやる。


いわゆる、病院服とか、患者服などと呼称されるものだ。


薄手で、簡単に脱いだり着たりすることが出来るようになっている。


エリカはその胸元を前に引っ張って、できた隙間から自分の身体を覗き込んだ。エリカの目が自分の身体に出来た長い傷痕を捉える。肩口から反対の腰の部分にまで伸びた傷が今回の事の全てを物語っていた。


「そっか、あたし、斬られたんでしたっけ……」

「っ! すまん! 謝って済む問題ではないが、俺の責任だ」

「ちょ、ジーンさん、落ち着いてください。これはジーンさんの責任なんかじゃありませんって!」


このままでは腹でも斬ろうかという勢いだったジーンを宥め、顔を上げさせる。ジーンは今にも泣きそうな顔をしていた。よくよく考えてみれば、ジーンはまだ18歳、いつもは穏やかな性格だが、ことこういう事に関してはやはり感情が表に出てしまうのは致し方のない事なのだろう。


「あれは、あたしが馬鹿な魔法を使おうとしたから起こった事故なんです。ジーンさんのせいでも誰のせいでもありません。あたしが、ちょっと馬鹿だったんです。それに、騎士は頭下げるな、って言ったのジーンさんじゃないですか」

「いや、それとこれとはわけが違うんじゃ……」

「エリカちゃん……」


16歳でこの落ち着きぶり、とでも思っているのだろうか。フィアは目を見開いてエリカを見つめていた。


もちろん、それで済む話ではない事はエリカ自身が最も認識している。しかし、シルヴィアも言っていたように、これは試合中に負ったもの、斬った方に責任は無い、とエリカは考えている。それにあの時は非常時だったのもある。


(実際はよわい600年ですけどね。ドラゴンの600歳ってヒトの何歳にあたるのでしょうか?)


「それはそうと嬢ちゃん、傷はどうなんだ? 医者が言うには1週間もすれば退院できるそうだが」

「ああ、傷自体は大丈夫ですけど、やっぱり痛みが残ってますね……。それくらいは激しい運動は出来そうにありませ……」


そこで、ある事に気が付いた。


さすがのエリカも、今すぐにとか、一両日中に復活することが出来ないことぐらい、把握している。だが、それ以上の問題を思い出してしまったのだ。


「そんな……」


それに気が付いてしまった時、エリカは何もできない自分の無力さに涙した。


「ちょ、エリカちゃん!?」

「どうした、どこか痛むのか!?」

「嬢ちゃん!?」


三者三様の反応を見せてエリカを心配そうに覗き込むが、エリカは涙は収まらない。


「ジーン、医師を呼んで!」

「お、おう!」

「だ、大丈夫です!!」


病室から飛び出そうとしたジーンをエリカが大声で制止する。ジーンがつんのめる様に止まってエリカに振り返る。


「痛いとか、そういうんじゃないんです。ただ……」

「ただ?」


「騎士団食堂のご飯が食べれないなんて……」


それは、エリカに対する死刑宣告に等しいものだった。


アクイラ騎士団の元に来て1週間ほどだが、食事という新たな趣味に目覚めたエリカはあらゆるメニューを言い方は悪いが、食い漁っている。


しかも、今日は選抜試合最終日とあって食堂のコックたちも力が入っているのか、豪勢な夕飯が食べられると思っていたのだ。だが、この状態では食べに行くことも出来ない。エリカは血の涙を流さんばかりに悔しがっている。


「今日だけは、食堂へ行きたかったのに……」

「今日? ああ、エリカちゃん、言いづらいんだけど、あなたは3日も目を覚まさなかったのよ? 今日は選抜試合最終日から3日経ってるわ」

「そ、そんな……」


無理にでも食べる、という選択肢すらエリカには残されていなかった。すでに、時を逸していたのだ。


それを知ったエリカは今度こそ再起不能なまでに落ち込んでしまう。


「どうして、神はあたしを捨てたのですか?」

「そこまで!?」


イエス。


エリカは泣きながらも小さく頷く。


ヒトの身体になって、初めて美味しいものを食べる、食事を楽しいものと感じることが出来るようになった。それまでではまず考えられない事だ。生肉を喰らって川の水を飲んでいたのが、突如こんな場所に放り出されれば、それに魅了されてしまうのも当然と言えば当然だろう。


「お、落ち着け、嬢ちゃん。俺もここには随分とお世話になっているが、ここの飯は捨てたもんじゃねえぞ? だからそう気を落とすなって」

「一度知った幸福は放したがらないのですよ、生き物というものは……」

「エリカ、しっかりしろ」


ジーンが慰めようと肩に優しく手を乗せる。


先ほどまで自分が泣きそうになりながら土下座していたのが、不謹慎ではあるが、馬鹿らしくなってしまった。エリカにしてみれば、ジーンは頼まれたことをやってくれた、そう映っているのだ。だから、エリカにジーンを責める気もそもそも他人のせいにする気もさらさらなかったのだ。


「何とか、こちらに食堂の料理を回して貰えないでしょうか……」


エリカは、ジーンを涙目で見上げる。


「っ!!」


それがいかに破壊力のあるものかは、言わずもがな、と言ったところだろうか。


「駄目よ、エリカちゃん、一応医者の卵としてその要求は聞かなかった事にするわ。今度空耳・・が聞こえたらこの病室が燃え上がるかもしれないわねぇ」


呆れた表情をしていたフィアがエリカに向かって笑顔でそう言うと、さっきまでの涙も一瞬で枯れたかのようにエリカは首を必死に縦に振りだした。


そのフィアの台詞を聞いて、ふと何かを思い出したのかジャックが人差し指を立ててエリカの寝ているベッドに近づいてきた。


「卵と言えば、ありゃあ何だったんだ? あんな特大の魔法なんて見たこともねえぞ?」

過剰放出エグゼ・リベラはただの魔力の暴発、暴発で形を成した魔力構造物が出来るなんて、聞いた事もないわね、その点は私も気になっていたのよ」

「エグゼ……え?」


聞き慣れない単語がフィアの口から出てきて、エリカは顔をしかめた。それに気が付いたフィアは姿勢を正して座りなおすと、エリカに説明を始めた。


過剰放出エグゼ・リベラ


読んで字の如く、魔力を想定以上に体外に放出してしまう現象を意味する言葉だ。


ヒトだけに起こる現象ではなく、魔力を体内に保有する生物全てに起こる可能性はある。だが、本来は起こりえない物でもある。過剰放出エグゼ・リベラなどすれば、肉体が体外へ放出されようとする魔力に引きちぎられて術者を殺してしまう。ヒトであれば、人体がそれを無意識のうちに防ごうとリミッターを身体に施すのだ。


ヒトの身で起こるとしたら、豊富な魔力量を持っているにも関わらず、制御の方法を知らないか、無い魔力を無理に引き出そうとして魔力の放出口とでも言うべきものが決壊するかのどちらかだと言われている。


エリカの場合、おそらく前者だろう。


だが、そもそも過剰放出エグゼ・リベラは魔力の暴走であって、それ自体は何の効力も持たない。身体から猛烈と魔力が漏出すれば外部からもそれなりに反応を確認できるが、それは「魔法」にはならない。あくまで「魔力」なのだ。


その点、エリカは特異とも言える。


暴走した魔力がその膨大なエネルギーのまま放出されるのではなく、魔法・・となって発現するなど、本来はあり得ない事象なのだ。しかも、そのも問題だ。


そして何より、生きている・・・・・ことが問題なのだ。


過剰放出エグゼ・リベラは身体を破壊するものなの。つまり、一度それが出たら最後、まず間違いなく死んでしまうのよ、普通はね」

「特異中の特異、なんてもんじゃねえな。不死身か、嬢ちゃん?」

「そんなわけないじゃないですか……」


不死身など、この世には存在しない。それはある意味、バーバラが証明している。物凄く死ににくい、とか、物凄く長命、というのが正しいのだ。


(ただ、今回はその頑丈な身体に助けられましたか……)


龍としての自分が、身体の破壊を防いだのだろうか。エリカには到底知りえない事だが、それでも本来死んでいるようなところを生きているのだから、それだけでも運が良かったとしか考えられない。


「あのデカい火球で怪我人も出なかったんだし、コロシアム内にいたジーンも、当事者の嬢ちゃんも生きている、終わりよければ全て良し、としたいところなんだがなぁ……」

「そうはいかんだろうな……」


ジーンとジャックが表情を曇らせる。


「それはどういう……?」

「ドラゴンスレイヤーの大会は国際交流でもあり、お互いの実力を見極める、という意味合いもあるの、まったくそんな考え方もしていない国もあるのだけれど。それは置いといて、世界にはパワーバランスというものがあるの。軍事的な意味でも、政治的な意味でもね。ドラゴンスレイヤーはその国で実力に定評のある人間が属する、つまり、戦争にでもなれば前線に一番最初に派遣される部隊でもあるということよ」


言われてみれば、至極当然のことなのだろう。


ヒトの世の中は龍だけ相手に備えていればよいものではないのだ。同族同士の戦争というものをエリカ自身何度も目にして来た。怨嗟、遺恨、憎悪、そんなものが全て合わさった醜い戦争をヒトは何度も繰り返してきた。


ドラゴンスレイヤーも、そんな時に龍だけ相手に戦う方法しか知りません、では済まされない。むしろ、実力があるのだから真っ先に白羽の矢が立つのだ。だからこそ、普段から対人戦の訓練を怠らないのだ。


「少数精鋭、一国の全兵力からしてみれば、アクイラ騎士団と言えどもその実動人員は中の下、でもいざとなったら全軍の先鋒をやるような部隊なの。そんな所に、強大な魔力を持つ人間が現れたら、他国が反応しないわけないでしょう?」


ヴァルトたちが懸念していたことの1つ、いや現在進行形で問題になっていることだ。各国は大会に向けて自国内で選抜試合をしている。これは内外に知れ渡っていることであり、もちろんエオリアブルグや、ブラゴシュワイクも同様な事をやっている。そして、アールドールン王国の「その筋の人物」が非公式に訪問しているのも事実なのだ。その逆も当然ある。


「大会を前に、エリカは各国の関係者から目を付けられちゃったわよ、きっと。そして、それを快く思わない連中の方が、世の中は多いのよ」

「全く、嘆かわしい限りだよ」


他国からしてみれば、大きな脅威がお隣の国に現れたようなものなのだ。当事者であるエリカにはその感覚は分からないが、きっと自分が彼らであっても、恐怖するだろうことは察しがつく。


「気を付けなさい、エリカちゃん。大会まで1か月あるけど、接触してくる可能性は大いにあるわ。正式な物は団長に行くから大丈夫だろうけど、世の中そんなに甘くもないし……」


「その点は安心してもらって構わないわよ、フィア」


それまでそこにいなかったはずの人物の声が病室に響いた。


声の元を探して視線を巡らせれば、窓のへりで肘を立てているバーバラの姿があった。肩にアレックスの顔がある事から、アレックスを背負っているようだ。


「ちょ、バーバラさん、ここ2階ですよ!?」

「細かい事は気にしないの」


窓から軽やかに病室に降り立つと、背負われていたアレックスがスルリと床に降りてくる。バーバラはそれを待ってから腕を組むとその場にいた4人に向かってうっすらと笑顔を覗かせた。


「とりあえず、エリカが病室ここにいる間はアレックスが護衛役になるわ。エリカ、アレックスは適当に使い潰しても構わないわよ」

「良い事聞きましたね……」


その場の全員が四六時中アレックスをモフモフしているエリカの姿を思い浮かべただろう。


「退院後もなるべく城の内外問わず単独行動は慎んでね。あなたたちもなるべくエリカの事を気にかけてあげて」


「「「もちろんだ(よ)」」」


「ああ、それと……」


言いたいことを言い終わったのだろうか、退室しようとしたところで足を止めて振り返った。因みに退室しようと歩き出した方向は廊下へ通じる扉ではなく空が見える窓の方向である。


「大会メンバーは、私とジャック、ジーン、シルヴィア、そしてエリカで行くからそのつもりでいてね。さっきここに来る行きがけにシルヴィアには伝えておいたわ。それとフィア、騎士団の医療チームのリーダーをまた頼むわね。あなたぐらいしかいないし」


それだけ言うとバーバラは窓から飛び去る様に消えていった。あえてその後ろ姿を追いかけるような無粋な輩も、その時病室にはいなかった。


アレックスはエリカのベッドの脇で丸くなっている。その頭にエリカの手が伸びていることはしっかりと書いておく。


「まあ、妥当ラインだろうな。マルコフは誰かさんのおかげで半月は静養、調整は間に合わんだろうしな」

「う……」

「それを言うなら、ジャックも初戦の相手とか、瞬殺していたじゃないか」

「……見てなかった奴が何を言いやがる」

「ぐ……」


ジャックの思わぬ攻撃で閉口するエリカとジャック。フィアも2つ目の件に関しては何も言えないためか苦笑いだけを漏らして何も口に出さない。


「先鋒嬢ちゃん、次鋒ジーン、中堅シルヴィア、副将俺、大将バーバラが順当なんだろうがバーバラが大将になるか分からないとか言っていたしな……」

「あ、あの……」


ジャックがブツブツと考えながら呟いていると、心底申し訳なさそうなエリカの声が3人の耳に入った。


「どうした、エリカ」

「そ、その……、大会大会、って言ってるんですけど、未だに正式名称とか、ルールとかを知らないんですが……」


「あ……」


物凄く「しまった」という表情をしてみせたのはジーンだ。


「ジーン、あなたまさかまだ説明してなかったの? てっきり王国に戻ってくる道中で説明していたのかと思っていたけれど?」

「い、いや、あの時はまさかエリカが字が読めないとは知らなかったから紙を読めば大体飲みこんでくれるだろうと思っていてな。すまん、エリカ、俺の説明不足だった」

「それじゃあ、教えてもらえませんか?」

「もちろんだとも」
















説明を始めたのはジーンだったが、結局フィアとジャックの補足も必要となり、全ての説明が終わるのには数時間を要し、全ての説明が終わった頃には上にあった太陽が窓から覗く位置まで傾いていた。


<私を忘れてないだろうか……>


1頭の軍狼がそんな事を呟くが、幸い、エリカの手はずっと彼の頭の上にあった。





うあ~、ヤバい。


うちの主人公がどこぞの腹ペコ王みたいになりそうな予感……。


ま、いっか♪


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