第31話 夢の中で"あり得ない"などあり得ない
どこかのホムンクルスみたいな事をのたまってやりましたよ。
ちょっと意味合いが違うんですけどね。
それはそうと、いつの間にか20万字突破してましたね。ハモニカは処女作で24万字弱書いたのですが、今回は軽くそれを越えそうです。何しろ未だに作者の中では中盤にようやく差し掛かった、的な位置でして……。
筆(正確にはタイピングですが)が止まらない事に感謝しつつ、飽きられないような作品が書けているかビクビクしつつも、こうして甲子園を見つつ小説を書いております(おいっ)
それとですね、今度また番外編でもやろうかと勝手に模索しているのですが、もしやってもらいたい事とか、要望とかあれば是非知らせてほしいんです。
案がない、という訳ではないのですが、こういうのもアリかなぁ、なんて安直に考えている次第です。
もちろん、こんな駄作に付き合っている読者の皆さんからしてみれば「自分で考えろ!」と言いたいところでしょう。まったく反応がなかった場合でも一応自分が考えている(まだ要検討段階ですが)奴で行こうかと思っています。
まあ、反応が無いとそれはそれで淋しいのですが……それが今の自分の実力だと真摯に受け止めずに受け流していきます(え? ダメ?)
男共の心臓(というか神経、または煩悩)に悪いモノ系か、納涼かねての怪談を考えているのですが、前者はいかんせん知識が少ない。他の作品を読みつつポイントと思われるところを参考にさせていただこうなんて考えているのですが、おそらくいろいろ大変な事になりそうです。
後者は……元ネタが分からないくらいアレンジして出そうかと思っているのですが、元ネタがいまだに決まっていないんですねぇ。ネット上で調べようにも、そういうサイトって背景怖いじゃないですか!
読者に納涼を届ける前に私が夜寝られなくなるじゃないですか? 夏だからともかく冬なら布団から足出して寝れなくなる人間ですから、作者は。
なのにやろうとか考えている駄作者ですが、今後ともよろしくお願いいたします。
予定では37~8話程度のあたりで出そうかと思っているので、35話ぐらいまでに意見とかお寄せしてくれるとありがたいです。
あ、一応言っておきますが、反応があっても無くても私はビクビクしてますので、そこの所よろしくなのです。
なお、番外編に関しては万が一本編をぶった切るような事になると判断された場合繰り越しや前倒しが行われる可能性がありますのでご了承ください。
長々と前書きに付き合っていただきありがとうございましたぁ~。
「くそっ!」
ただただ、自らの不甲斐なさに悪態をついていた。
自分の持つ大剣がそこらの支給品とはわけが違うという事を失念していたことに、ジーンは自分の拳を壁に打ち付けるしかなかった。
「落ち着け、ジーン」
ここは応急治療室とでも言うべき部屋の前だ。
さすがに、今回のエリカの傷は治癒魔法でどうにかなるレベルを遥かに逸脱していた。傷はあらかた塞がっているが、流した血は再生しない。意識を失ってからエリカが危険な状態にあるのだ。
幸い、傷は内臓までは届いていないとのこと。
輸血さえすれば死ぬことはないだろうという医師の診立てだ。
医師と言うのは、科学的な面から見た医師を指している。魔法は万能ではない。治癒できるものにも限度というものが存在する以上、彼らが必要なのも頷ける。
特に、病や命に関わるような怪我は彼らの出番となる。病は気からなどと言うが、やはり医師の適切な処方というものが必要不可欠、一昔前のように祈りで病と言う名の悪魔を追い出すような時代ではない。
治癒に関してだけ言えば、魔法よりも彼らの方がはるかに優れているだろう。魔法ではできない事も、彼らはいとも簡単に(決して簡単ではないだろうが)治療する。否、治療する方法を知っているのだ。
「俺は、人として、失格だ……」
医師からの診立てを聞いても、ジーンの表情は浮かばなかった。
自分の手で仲間を、いやそれ以上の存在を傷つけた挙句、生死の境を彷徨わせる結果となったのだ。これで平然としていられる人間がいるのなら見てみたいものだ。
「ジーン、あの時は、エリカを気絶させるしか方法はなかった。そして、最も効率的なのが袈裟斬りだったのもだ」
肩口、首のすぐ近くで強烈な衝撃を受ければ、大概の人間は意識を失うだろう。それが今回、裏目に出てしまったのだ。
エリカが意識を失ったと同時に、頭上で悶えていた龍は姿を消した。それもそうだろう、発現させたエリカが完全に意識を失えば、魔力は霧散する。最悪の事態は避けられただろうが、試合は中止、王と家族も城に避難し、エリカはすぐさまここに担ぎ込まれた。
今もジーンの鎧にはエリカの血がこれでもかというほど染みついている。
「私がもっと早くから魔法の制御を教えてれば……」
そう言ったのは長椅子に腰かけていたフィアだ。あの後、エリカに駆け寄った彼女はその惨状にただただ立ち尽くすしかなかった。もはや魔力量の多いフィアでもどうにかできるものではないという事をフィアはすぐに察してしまった。だから、何もできずに担架に乗せられて血を流しながら運ばれていくエリカに付き添う事しかできなかった。
「フィア、それは違うぞ。俺がもっと考えて行動していれば良かったんだ。あの剣でも、エリカなら受け止めてくれると思った俺が愚かだったんだ」
「ジーン、自分を責めるのはいい加減にしろ。どうしようもなかったんだ。今さら過去を変えられるわけでもない。今は嬢ちゃんの無事目を覚ますのを待つことしかできんだろうが」
「それでもだ!」
ジーンは声を張り上げた。もやは悲鳴にも近い。
「あの森で、俺たちが助けた命を、俺が奪おうとしてどうするんだ! 俺たちの剣はヒトを斬るためにあるんじゃないんだ!!」
まだ1週間かそこらの過去の話なのに、随分と昔の事のように思える。あの日から、あまりにも多くの事が起こった。今まで生きた18年間よりも圧倒的に価値ある1週間と言っても、ジーンにとっては過言ではない。
「だから、俺はっ――――――」
「すまん、少し落ち着け」
今にも何かが壊れてしまいそうなジーンの鳩尾に、ジャックは正確に拳を打ちこんだ。ジーンの意識が飛び、ダラリとジャックにその身体を預ける。
「すまんがフィア」
「ええ、分かってる」
長椅子を立つと、ジャックはそこにジーンを寝かせた。
「結局、何が起こったのかも分からんほどだな」
「過剰放出なんて、初めて見たわよ。ヒトがやったら普通死ぬわよ?」
「魔法に関しちゃ俺は何も言えんが、ともかくとんでもない、という事だけは分かった。大変なのはこれからだぞ。さすがにあれほどの魔法、正直戦略級と言ってもいいんじゃねえか?」
戦略級、という言葉を聞いてフィアの顔が凍りつく。
「さすがは歴戦の騎士、言う事のレベルが違うわね。戦略級ともなれば、お隣さんたちも黙ってないわよ」
「おまけに試合は一般公開、当然他国の連中も視察に来ていただろう。明日には大陸中に嬢ちゃんの事が知れ渡ってるかもな」
「……洒落にならないわね」
「ああ、ただでさえうちは対ドラゴンのために隣国以上の兵力を持っている。これじゃ侵略戦争を警戒されてもおかしくねえぞ……」
難しい顔をして話し合っていると、治療室の扉が開いて白衣の医師が出てきた。すぐさま2人はその医師の前に急ぐ。
「治療は上々です。フィア殿の応急処置もあって余計な出血を抑える事もできました。意識は戻っていませんが、こればかりは待つしかありません。驚くべきは彼女自身の回復力でしょうか、我々は傷の縫合だけで、筋肉などに関しては彼女自身で治してしまったようですよ」
それを聞いた2人は安堵の大きなため息をついた。
ともあれ、エリカの命は救われたのだから。
だが、ジャックだけは心の中で首を傾げていた。
ジャックはエリカの能力を一度見ている。いかなる攻撃も通さない鎧でも纏っているのではないかと、いつも気になっていた。何しろ自分の攻撃を片手の手甲で受け止められているのだから。
だからこそ、今回の事が不思議でならない。
ジャックは、鎧の下に何か特別な服でも着ているのかと考えていた。まさしく未知の素材でできた鎧、お笑い種かもしれないが、そうでもしないと理由が付けられなかったのだ。
だが、今回の1件でそれは完全に否定された。
エリカの固有の技能のようなものなのだろうか? という考えが頭をよぎる。意識的に、格納されているものを取り出すようなものなのだろうか。
それとも、ジーンの大剣の切れ味があまりに良すぎたためにそれすら無きに等しい結果となってしまったのか。
そして、人並み外れた回復力。
あれだけの大怪我をほんの数時間で自己治癒するなんて、いくら魔法が発展しているこの世の中でもあり得ないほどだ。人間離れなんて言葉が真っ先にジャックの頭に浮かんだ。
ジャックの疑問は尽きない。
「全く、今年は退屈しないな……」
執務室でヴァルトもまたため息をついていた。
たった今、医師からエリカの治療が終わったという報告を受け、ヴァルトは背もたれに身体を預けた。
「無事で何より、だけど、とんでもない事をやらかしてくれたわね、エリカ」
「全くだ。エオリアブルグからもブラゴシュワイクからも矢のような質問の催促だよ。まだ2時間経ってないにも関わらずだ」
バーバラはアレックスを連れてもはや定位置となったソファに腰かけている。そしてヴァルトのため息を面白そうに見ていた。
そのバーバラも、エリカの無事が知らされるまではいても立ってもいられず落ち着かない様子だった。友の無事が心配になるのは当たり前だろう。
「で、なんて返すつもりなの?」
「”現在調査中につき、一定の目途がついたら公表する”とでも言うか?」
「言わない、って言ってるようなものじゃない……。どちらにしても、内外問わずエリカを放っておくわけにはいかなくなったわね」
「当面はお前に頼むぞ。もはや大会に出さないという事も出来なくなってしまった。あれだけ目立てば必ず反応する輩ばかりだからな。我々の国の周りは」
はあ、ともう一度ため息をつくと、ヴァルトは筆を走らせ始めた。
「バーバラ、エリカの近くにいてやってくれ。いついかなる時も、決して目を離さないでくれ」
ヴァルトは短く「現在調査中」と書くと顔を上げ、バーバラに視線を向ける。
「了解……と、そうだ、結局試合はどうするの? 決勝戦やり直し?」
「……いや、さすがにそうはいかんだろう。選抜するメンバーは君が決めてくれ。1カ月後の大会は予定通り行われるからな。細かい打ち合わせを頼んだぞ」
「はあ、やる事はたくさんあるみたいね」
バーバラは今さらながら引き受けるんじゃなかった、などと内心で思いつつも、親友の元へ向かうために立ち上がった。
「戒厳令は……無理よね」
「当たり前だ。人の口に戸は建てられん。エリカのことならなおさらだ。むしろ噂を一人歩きさせるのも1つの方法だろうな」
「牽制? 言っておくけど、エリカを政治の駒にしようとするんだったら陛下だろうがあなただろうが殺すからね?」
バーバラは、普段あまり見せない険しい表情を作った。ヒトの都合で動かされるエリカではないだろうが、見ている方もいい気分がしない。
「むろん、私も陛下もそのつもりはない、と信じたいな。陛下は深慮遠謀、どう動くかはさすがに私でも分からん」
「馬鹿な真似をしないことを祈っているわ」
そう言い残すと、バーバラは部屋を出ていくことにした。
不思議と、斬られたという実感は湧いていなかった。
意識が朦朧としていた事も理由の1つだろう。あの非常時、エリカ自身の意識を失わせることが最も有効だったことは、エリカでも分かる。魔力に引っ張られて意識が混濁し、制御もできない状態の魔法を消滅させるには術者の意識を元に戻すか、失わせるかのどちらかだ。
あの時、前者を選ぶというのはまずあり得ないと、エリカは思っている。
実際、あの「火の卵」を出現させた時、エリカは今まで体験した事がないほどにまで意識を失いかけていた。睡魔に襲われて眠くなるなんて比較にならない。自分の意識がどこか遠くに吹き飛ばされていくような感覚だったのだ。
「命があっただけマシ、だったでしょうか……おや?」
ふと、自分の意識がある事に気づく。
だが、そこは自分がいるはずがない場所だ。あまりに見慣れすぎて、逆に自分がどこにいるのか分からなかったが、すぐにそこが「我が家」である事に気が付いた。
「……なぜここにいる?」
夢?
故郷を想うばかりに、意識を失って夢の世界で帰還しているのだろうか?
ふと、自分の身体に目をやる。
黒く鈍く光りを反射させる鱗、鋭く突き出た爪、エリカは龍の姿をしていた。
「けど、ヒトの言葉を……、やはり夢ですか」
身体は龍、言語はヒト、これほど夢だと確信できる証拠はないだろう。
辺りを見渡して、外へと通じる穴を見つける。あの日、自分が泣き叫びながら飛び出した穴だ。そこを進むと、自分の姿を見せつけられた水飲み場が姿を見せる。
何故か、覗き込む気になれなかった。
単純に、夢とはいえ同じ喪失感を味わいたくなかっただけなのかもしれない。所詮これは夢、深くは考えずにエリカは「我が家」を抜け出して広い空を見上げる。
何も変わらない。
あの日、あの時最後に見た光景と同じものがエリカの視界一杯に広がっていた。エリカの記憶で、最も愛おしいと思った光景だ。あの時ほど、自らの生きる世界を愛おしく感じた時は無かっただろう。大切なものは失って初めてその大切さに気が付くと言うが、まさしくその通りだった。
背後の山に気配を感じた。
振り返る事もなく、その気配を理解し、少し笑みが零れる。龍の身で笑っているかどうかは問題ではない、ただ、嬉しかった。
「夢でも、会えて嬉しいですよ、父上」
振り返る。
いつもその背中を追いかけて暮らしていた、最愛の家族、その白い影が太陽を背に静かにエリカを見下ろしていた。太陽を背にしたその姿はまさしく神を想起させる光景、美しいその姿にエリカは目を奪われる。
「ふむ、どうせなら中間報告、でもしますか、どうせ夢なのですから……」
気がつけば、エリカはすでにヒトの姿に戻っていた。アクイラ騎士団の鎧を纏い、すっかり相棒になった刀を腰に差している。もう、どちらが本当の自分かも分からなくなってきていた。どちらも自分で、どちらも他人のような気すらする。
ヒトの身体に精神が引っ張られているのだろうか、随分と人間臭い考え方をするようになったものだ。
「どうやら、あたしの身体はヒトが、故意に、この姿にしたものという可能性にたどり着きました。とはいえ、まだ可能性の段階、でも、何となくですけどそうなのだろうという気がしてなりません。それが一番現実的なんでしょうね」
バーバラに初めてそう言われた時と違って、怒りはこみ上げてこなかった。ただ、ヒトに対する失望感だけが心に残る。
「ヒトは、自分のためなら他者をどうとも思わない、そんな印象すら感じましたよ……でも」
エリカはそこで一度言葉を切る。微動だにしない白龍の影を見つめ、一度大きく息を吸い込む。
「そんなヒトが全てじゃない事も知りました。いや、最初から知っていた事を再確認させられた、の方が良いかな? 言葉にするのは難しいですね……」
せっかく、父親がいるというのに言いたいことが言葉に出来ない。
なんとか最適な言葉を見つけようとするが、考えるほどしっくり来る言葉が遠のいていく。
「……ああ、そうだ、魔法、使えましたよ」
そこまで考えて、ついさっき自分がやっていた事に考えが及んだ。エリカがそう言った瞬間、白龍の影がピクリと反応したような気がした。
「炎で出来たドラゴンなんて作り出して、意識持っていかれて、ズバッて斬られましたけどね……」
おそらく、現実世界で自分は重症なのだろう。だが、ここは夢の世界、傷は一切ない。
そこまで聞いて初めて、白龍の影が大きく動きを見せた。
そして直接エリカの頭の中に語りかけてきた。
「ふふ、夢ならでは、ですね」
頭の中に響くのは、他でもない我が父、イクシオンの声。
「これでも、押さえ込もうとしたんですよ? 止められなくて止めてもらう事になっちゃいましたけど」
少し、拗ねるような仕草をエリカがする。照れも入っているのか、少し面白くなさそうな顔をしてみせる。
「最上位……、あたしそんな魔法使ったんですか……」
夢だからなのだろうか。イクシオンはエリカが教えてもいないことについて語っていた。自分が作り出したものについて改めてその大きさにエリカは感嘆してしまった。
「少しは、父上に近づけたでしょうか……、そこまで言わなくても……」
少し嬉しそうにエリカが言うと、それをイクシオンが両断する。
「まだまだ甘いですからね。でも、同じ過ちは繰り返しませんよ。次は成功させてみせます!」
現実の自分が置かれている状況なんて、脳の隅にもなかった。
ただ、イクシオンとの片時の再開に喜んでいた。
フワリと影が浮き、巨大な白い影がエリカの目の前に降り立つ。そして大きな翼でエリカを包み込むように抱きしめる。あの日、あの時、森の中でそうしていたように。
「不思議です、夢なのに、父上の温もりを感じているような気がします……」
夢心地、とはまさにこのことを言うのだろう。
だが、夢には終わりが来る。明けない夜が無いように。
エリカの世界が崩れ始める。
再び、闇が世界を覆おうとする。だが、別段怖くもなんともない。
これは夢。
エリカにとっては夢でもあるが、いつか来る現実でもある。再び家族と共に過ごす時、それは決して、夢ではないのだから。
―——往け、我が娘よ。そなたが往く道のあらゆる障害を薙ぎ払い、己の信ずる道を、往け―——
随分と、心配をかけてしまったのだろうか。
エリカはそんなことを考えつつ、夢の世界から意識をかき消した。
「――――――んあ?」
随分と間抜けな寝起きをしてしまったことに、後悔するのはまた別のお話――――――。
はいはい、どうも、作者のハモニカです。
書きたい事は前書きで書きましたのであんまりここで書くこともないんですが、まあ、やります。
とりあえず、ジーンは自分で言ったことを自分で破りましたね。いや、約束でもないから問題は無いんですがね。そして相変わらずエリカはフィアには敵わないようですな。
後半はエリカの夢の中のお話です。
もしかしたらいろいろ「うん?」ってなる事があるかもしれませんが、あくまで夢です。ここ重要。
夢なんですって!
信じて!
では!
ご感想などお待ちしております。