第17話 まさかと思いますが、これフラグですか?
久々にアクセス解析を覗いてびっくり。
いつの間にやら10000PV達成しておりました。
2週間経たずこれほどたくさんの方に読んでもらって作者は驚き半分、感謝半分です。グダグダと、モタモタと、よく分からない文をおっぴろげていないか心配しつつも、今後このままいきます。
それと、後書きにて少しお知らせがあります。
「だぁ~、疲れた……」
そう言うとエリカは食堂のテーブルに自らの額をぶつけて突っ伏した。
バーバラの特訓から解放されたのは、日もだいぶ傾いた頃だった。
地下修練場では時間の経過が分からないため、エリカたちは夕食の時間を知らせる鐘の音が鳴ったのを聞いてようやく練習を終えた。
「バーバラ、いったいどんな特訓をしたんだ……?」
「あら、軽~く戦っただけよ?」
「軽く半日ですか? バーバラさんの軽くは私たちの滅茶苦茶キツイ、だってこと自覚してます?」
ジーンとフィアがジト目で見つめているが、バーバラは全く堪えていないようで、コップの中のコーヒーを音もなくすする。汗だくで息も上がっているエリカとは真逆に、バーバラは汗1つ、どころではなく団服に皺すら入っていないような気がする。
(そりゃあ、ほとんどあたしが攻撃してそれをカウンターしてただけだもんなぁ)
「まあ、エリカなら大丈夫だと思ってたしね」
「エリカなら……?」
ジャックが聞き捨てならないと言わんばかりに眉を吊り上げる。それに気が付いたエリカはテーブルの下で思いっきりバーバラの脛を蹴ろうとして何か柔らかい物にそれを妨害された。
<エリカ殿、あなたであろうとご主人に危害を加えさせるわけにはいきません>
「アレックス、空気を読んでください。あとであたしの部屋にお持ち帰りしますよ?」
小声でテーブルの下にいるアレックスにボソリと言うと、足を押し付けられているアレックスの身体がビクッと跳ね、渋々そこを退いた。どうやら、何か大切なモノを失うとでも思って自らの保身のために主人を売ったようだ。
これ幸いと、エリカはアレックスが退いた瞬間再びバーバラの脛を蹴り上げ、その瞬間テーブルにバーバラの膝が直撃してテーブルがガタンと揺れる。
「~~~~~っ!!」
バーバラが声にならない悲鳴を上げようとしているようだが、顔を歪ませるだけでそれを声には出さない。
「バ、バーバラさん、どうしたんですか?」
エリカとバーバラ、アレックス以外から見れば、突然バーバラの前辺りのテーブル下から物凄い音がしてその瞬間バーバラが悶絶し始めたようにしか見えない。
「さあ、アレックスに足でも噛まれたんじゃないですか?」
しれっと言うエリカに、バーバラは涙目になりながらも憎たらしげな目を向けるが、バーバラの不注意でもあるので、という言葉を顔に露骨に出していたエリカに対して何も言えない。
「アレックス、どうして守ってくれなかったの?」
<すまん、私の貞操がかかっていたのでな……>
「……まさしく飼い犬に噛まれたような物ね……」
小さくため息をつくと、バーバラはテーブルの下で脛を摩りながら足でアレックスの腹を小突いた。
「ところでジーンさん、明日稽古をつけてもらえませんか?」
そんなバーバラを放ってエリカはジーンに話しかけた。話しかけられたジーンは意外そうな顔をしてバーバラを指差した。
「俺なのか? 俺の剣の師匠であるバーバラに教えてもらったんだろ? なら俺じゃなくてもいいんじゃないか?」
「たくさんの騎士の人たちと戦って少しでも経験を積みたいので……」
そういうと、なるほど、と腕を組んで納得したようなジーン。
これはエリカ自身の願いでもあるが、それを後押ししたのはバーバラだ。昼間の特訓の時、バーバラはエリカにはとにかく場数が足りないと言った。竜だった頃のを含まずに考えると、エリカの戦闘経験は試験でのジャックとの一戦のみ。これではあまりにお粗末だ。そこでバーバラはせめてジーンとは戦っておいた方が良い、と言ってきたのだ。
ジャックとジーンは同じ大剣使いでもまったくスタイルが違う。トーナメントに出場するほとんどの騎士が男性、おまけに対ドラゴンを重視して大剣や槍と言った大型の武器を使うため、それらとの戦闘経験が最重要であるとバーバラは考えたのだ。バーバラが使うような片手で振れる剣は、対人戦では小回りが利いて有利であるが、対ドラゴン戦では若干心もとない。
他国でも同様なようで、バーバラ曰く「大剣が一番オーソドックス」らしい。取り回しの悪さをある程度は力で補い、機動性を犠牲に1発の破壊力を重視している。これはカウンターも使いやすい。
「……分かった。明日朝食を終えたら修練場で模擬戦をしよう。他の皆に混ざってやるからあまり邪魔にならない程度で頼むぞ」
「分かりました」
「多少の怪我なら私が治すし、全力で行っていいわよ?」
フィアが宙を指でなぞる様に円を描くと、その指に水色の光が灯ってほのかな明かりがエリカの目の前で起こった。
「そういえば、フィアさんはなんでも使えますよね、魔法」
ふと、その水色の光を目で追いながらエリカは頭をテーブルにぶつけたまま顔を向けた。
エリカの言葉にフィアは少し照れくさそうな笑顔を浮かべると、今度は反対側の手の平で小さな火の玉を作り出した。
「いろいろ使えるのも案外不便なのよ? 私の魔法は数がある代わりに1つずつの威力が高くないの。牽制にはなっても、とてもじゃないけどドラゴン相手に十分とは言えないわ」
そう言うとフィアは炎を少しだけ大きくして見せる。
「私はジーンやジャックの剣に火や電撃を纏わせることはできても、個々の威力は出ない。1人じゃ戦えないのよ。唯一の取柄は魔力量が影響する回復魔法くらいかしら」
回復魔法は得意不得意があまりないと言われている。誰でも使える代わりに、個々の魔法を内包する量で効果が違うとされているのだ。フィアの場合、魔力容量が大きく、炎としての出口、水としての出口、風としての出口と、数多くの出し方が出来るのだがそれぞれの穴が小さいのだ。だが、出口の大きさに影響を受けず、純粋に魔力容量だけでその力がの大きさが左右される回復魔法は、フィアの十八番となるのだ。
「そのおかげで、俺たちは後先考えずに戦えるがな」
ジャックがニカッと笑う。
「だからジャック、いつも言っているでしょう? 傷は治せても体内に入った毒は取り除けないし、強固な呪いのかかった傷は治すのに限度があるって。だから無茶ばかりしないでよ」
「しかし俺たちの仕事は生きるか死ぬかの狭間だぜ? 無茶するなって方が無茶なんじゃないか?」
「うわ、ジャックが考えてモノ言ってる」
ジーンが驚いたような顔をしてジャックを見つめている。
エリカ自身、ジャックがしっかり物事の筋道を考えて発現するとは思っていなかっただけに、ジャックに感心した視線を向ける。
それに気が付いたのか、ジャックが憤慨した。
「お前ら、俺の事をどう思ってるんだ……」
「「「「脳筋」」」」
「グハッ!!」
その場にいた全員が口をそろえてそう言うと、ジャックがあまりの椅子からずり落ちそうになってしまった。だが、その様子を4人は同情ではなく、面白そうな目で見ていた。
「エリカ、ジーン、試合で当たったら覚えてろよ……」
「ちょ、あたしはもう1度戦っているんですから嫌ですよ!」
「エリカ、お前全部俺に押し付ける気か!?」
いや、そんなつもりはない、と思いたいが、あいにくその気はかなり、ある。ジャックの戦い方はどうもエリカには合わない。合わないという事は戦いづらいという事だ。もちろん、今日半日のバーバラとの特訓である程度カウンター技は身に着けたし、ヒトの戦い方を知ることが出来た。大剣持ちはその肉体すらも武器であることはジャックとの戦いで身を以て知った。
その上で、ジャックと戦うと自分の秘密がばれそうで怖いのだ。
とてもじゃないが、ジャックやジーン、フィアにはばれたくない。明日のジーンとの模擬戦は、より経験を積むこともあるが、今後ジーンと戦う機会は増えるだろうことが想定されるため、どれだけ隙を突かれずに戦えるようになるかを学ぶためでもある。バーバラ曰く、「見る人が見れば隙だらけ」状態の今のエリカにとって、身近な騎士は最も正体を気づかれやすい存在だ。
決して、ジーンたちを信頼していないわけではない。だが、知らなくていい事は出来れば知られたくない、と言うのが本音だ。
ゴンッ!
「っ~~~~!!!?」
そんなことを考えていたエリカの脛に強烈な痛みが襲ってきた。自分が知覚していない時では、黒鱗を発現させることはできない。骨にまで響いた痛みにテーブルにつけていた頭を飛び上がらせると、悲鳴こそ上げないが悶絶する。
<顔に出過ぎ、だそうだぞ、エリカ殿>
テーブル下からアレックスの声が聞こえ、目の前のバーバラに目を向けるとニヤニヤ半分、真面目半分という器用な表情を浮かべたバーバラが立膝をして手に顎を乗せていた。
<そんなに難しい顔をしていては、聞いてくれと言っているようなものだぞ>
どうやら、テーブル下のアレックスがバーバラの言葉を代弁しているようだ。涙目になりながらもバーバラに小さく頷くと、バーバラの顔が笑顔に変わって小さく首を傾ける。
「はあ、前途多難です……」
エリカのため息はテーブル下のアレックスにしか聞こえなかった。
<エリカ殿>
食事を終えた後、部屋に戻ろうとしていたエリカにアレックスがバーバラから離れて近づいてきた。エリカは自分たちの周り、会話を聞かれる距離に誰もいないことを確認してからアレックスの前で腰を曲げてアレックスに顔を近づけた。
「どうかしました?」
<1人になれる場所を探しているそうだな>
「……どこから、ってバーバラさんですか」
<いや、私個人だ。宿舎の近くの城壁には古い裏口がある。そこから城の裏の森に抜けられる。町からも距離があるから声を出しても聞こえんだろう。猛獣の類もいないから安心してくれ>
それだけ言うと、アレックスは食堂を戻っていった。
その様子をエリカはアレックスの姿が見えなくなるまで見つめ、見えなくなると宿舎の外へ通じるドアをくぐって宿舎の裏に出た。
すでに日もとっぷりと沈んで、城壁と宿舎の壁の間から星の海が覗いている。月明かりと宿舎から漏れる明かりを頼りに城壁の横を進んでいくと、1カ所だけ城壁がへこんでいる所に突き当たった。
「ここですか……」
城壁のへこんだ場所には、鉄製の扉があった。おそらく今は使われていないようで、鉄の扉には鍵穴が付いていて鍵がかけられている。エリカが辺りを見渡すと、扉の近くの地面に小さな錆びれた鍵が落ちていた。
「アレックスは用意周到ですね。今度会った時は優しくモフモフしてあげましょう」
鍵を拾うと鍵穴に鍵を滑り込ませて何度か回すと錠が外れる音が響いた。扉を押すと重苦しい音と共に扉が開いて城の裏にある暗い森が姿を現した。暗いと言っても、異常な暗さではなく、月明かりと星明りは木々の間から差し込んでいて、足元はある程度見える。
エリカはその中へ分け入っていく。もともとは道があったようで、扉から真っ直ぐ進む場所にはあまり背の高い草木は生えておらず、地面にも人為的に撒かれたような砂利が敷かれている。その砂利道を進んでいくと、しばらくして森の中に広場のような場所が現れた。そこだけ周りの木々が切り倒されていて、草木こそ生えているが明らかに人の手が入っている場所であった。
「静かです……」
夜の虫が鳴く声すら、ほとんどしない。まるで世界から切り取られたような空間がそこには存在していた。城の城壁によって城内の騒音は聞こえてこないうえに、城下町から遠いために、自然が作り出す風の音や、虫の音しか聞こえてこない。
「おや……」
近くの木の枝でフクロウが羽を休めているのにエリカは気が付いた。フクロウもエリカに気が付いているのか、大きな目をエリカに向けたままじっと見つめている。
エリカがフクロウに向かって何気なく手を振ると、フクロウは大きな翼を広げて飛び去ってしまった。フクロウの姿はすぐに闇の中に溶け込んで見えなくなり、再びエリカは森の広場に1人だけになってしまった。
「むう、聞いてくれる方が誰もいないのはそれはそれで残念ですね」
歌は聞いて貰ってなんぼ、と言われたことがあるような気がする。だが、さすがに城の人間に聞かれるわけにはいかないので、と思ってここへ来たのだが、観客がいないのでは歌う気も失せてしまう。
「今日は場所の確認だけで良いですか……」
小さくため息をつくとエリカは来た道を帰り、開けっ放しにしていた鉄の扉をくぐって城の中に戻る。まだ宿舎には明かりが灯っており、食堂からは話し声が聞こえてきている。
「……アレックスでも見つけに行きますか……っと」
モフモフしてぐっすり眠ろうか、などと考えていると、目の前の暗闇から何かが走り込んできた。そしてその黒い影は素早くエリカの近くの草むらに飛び込むと顔だけ出してエリカに向かって口を開いた。
「何も見なかったことにして!」
声こそ小さいが、はっきりと聞こえた声は、今のエリカよりも幼い声に思えた。事態が呑み込めなくて首を傾げていると、再び今度は松明を持った城内の警備を行っている近衛兵が5人ほど駆けてきてエリカを見つけると荒い息を整えながら歩み寄ってきた。
「騎士団の方ですか?」
「そうですが……」
隊長なのだろう男が聞いてきたので、エリカは小さく首を縦に振る。
「たった今、この辺りでこのくらいの少女を見かけませんでしたか?」
男はそう言うと自分の胸元辺りに手を持ってきて探している少女の身長をエリカに教えてくる。あの黒い影と同じくらいだろうか?
「ああ、さっきあたしとすれ違って城の方へ向かいましたよ」
気まぐれ、とでも言おうか。
別に今エリカの隣の草むらに隠れているでろう少女には恩義も何もない。だが、何となく、いたずら心でもくすぐられたのか、エリカはあえて間違った事を近衛兵に教えた。すると近衛兵はエリカに一礼すると慌ただしくエリカが指し示した方向へと走り去っていた。
「……行きましたよ」
「……みたいですね」
近衛兵の持つ松明が宿舎の陰に隠れたのを見計らってエリカは草むらに声をかけた。するとガサガサと草むらから先ほどの少女が出てきた。
月明かりではっきりしないが、バーバラと同じような金髪を腰まで伸ばしている少女は、頭についた木の葉を払うとエリカの顔をまっすぐ見てきた。
「ありがとう、恩に切ります」
ペコリとお辞儀をすると、少女はニコリと笑った。そしてエリカの装束を上から下まで見るとどこか目を輝かせてエリカに詰め寄ってきた。
「アクイラ騎士団の方ですか?」
「え? ああ、まあ、昨日から、ですけど」
「昨日、というと期待の新人さんと言ったところですか?」
「期待の新人かどうかは知りませんが、多分そうです」
そう言うとそれまでの笑顔がスッと消えて、エリカを観察するかのような顔に変わる。と言っても、それが警戒心からなのか好奇心からなのか、月明かりだけでは読み取ることはできなかった。
「……不思議、初めて見る気配です」
「っ!?」
いきなりそう言われてエリカは身じろぎしてしまった。
「ふふ、あまり警戒なさらないでください。私は相手の特性を見抜いてしまうだけですから。お名前は?」
「……エリカです」
「エリカ、殿ですね。では騎士エリカ、またお会いしましょう。私の名前はティティ・アールドールンと申します」
「はあ……、はあ?!」
何気なく返事をしたが、すぐに少女の下の名前の意味を理解して驚きの声を上げたが、すでに少女は暗闇に駆け出していた。エリカはただただそれを茫然と見送るしかなかった。
「お~い、エリカ、そんな所で何やってんだ?」
「あ、ジーンさん」
宿舎の裏口から身を乗り出したジーンの影がエリカに声をかけてきた。
エリカはジーンに近づくとつかぬ事を聞いてみることにした。
「ジーンさん、王様ってお子さんいるんですか?」
「突然だな、いるぞ。ティティ様というお姫様だ。それがどうしたのか?」
「……そこで会いました」
「へえ……、はあ!?」
(あ、なんかこれデジャヴ……)
先ほどのエリカと同じような反応をしたジーンはしばらく考え込んだような表情をするとため息をついた。
「姫様はどうもたまに自室を抜け出しては城の中を散策する癖があるからな。近衛兵たちも大変だろうな」
「確かに……」
先ほど会った近衛兵たちも随分と走りまわされていたのだろう。かなり息が上がっていた。
「まあ、城の外じゃないだけマシなんだが。陛下も姫様には甘いからなぁ」
「そう言うものなんですか?」
「そういうものなんだ」
そう言うとジーンは自室のある上の階へ行くために階段を上がり始め、エリカは再びアレックスでも探そうと宿舎内を捜索することにした。
しかし、アレックスはすでにバーバラの部屋に逃げ込んでいたようで、結局その夜アレックスをモフモフすることは叶わなかったエリカであった。
フラグ臭がプンプンしますね~。
え、しない? してるの作者だけ? じゃあ、ないことにしましょーか。
って、そんなことをしている場合ではなかったのです。
前書きにも書きましたが、
この度10000PVを達成させていただきました。私ハモニカ、1日に1000以上のアクセスを頂くという感動を味わわせてもらい、感謝この上ないです。
それで、よく他のしゃくしゃしゃん、じゃなかった作者さんが記念で何か番外編をやっていたりするのを読んだりするんですが、どうしようか悩んでおります。
やるならストーリーぶった切ってネタにでも走ろうかと思っているんですが……ネタ? まあ、書いたらのお楽しみで。
あまり本編では笑いの要素が少ないかなぁ、なんて思って笑いを届けられれば、とか、せっかくですし普段書かないような書体でやろうか、などと考えをめぐらせております。
という訳で、番外編でも書こうかと思っているので、そのうち投稿出来たら、とお知らせしておきます。
ではでは、今後ともよろしくお願いします。そして感想などお待ちしております。




