第3話 ズレてるのに刺さる
【朝・オフィス】
紗耶が出社すると、三枝がデスクで頭を抱えている。
紗耶
「おはようございます。三枝さん、寝不足ですか?」
三枝
「……なんでそう思う」
紗耶
「目の下のクマが、昨日より3ミリくらい濃いので」
三枝
「(なんでミリ単位で見てんだよ……!)」
紗耶は気づかず、にこっと微笑む。
【総務部・デスク】
美咲が小声で話しかける。
美咲
「紗耶ちゃん、三枝さんほんとにヤバそうだよ。
なんか昨日、経理に呼ばれてたらしいし」
紗耶
「そうなんですか?
あ、でも昨日“数字が合わない”って言ってました」
美咲
「それが原因だよ!」
紗耶
「そうなんですね。
数字って、合わないと困りますよね」
美咲
「(いや、当たり前なんだけど……なんか違う……)」
【午前・会議室前】
三枝が資料を抱えて走ってくる。
三枝
「白石! この資料、昨日のと同じか確認しろ!」
紗耶
「はい。……あ、違いますね」
三枝
「どこがだ!」
紗耶
「ホチキスの角度が違います」
三枝
「角度……?」
紗耶
「昨日は45度でしたけど、今日は30度くらいです」
三枝
「(そんなとこ見てるやついるか!?)」
紗耶
「あと、紙の端の折れ方も違います」
三枝
「……っ!」
紗耶は淡々と続ける。
紗耶
「でも、内容は同じですよ。
綴じ方と折れ方が違うだけで」
三枝
「(なんでそんなに落ち着いてるんだ……!)」
【昼休み・カフェテリア】
美咲
「紗耶ちゃん、さっきの……絶対わざとでしょ」
紗耶
「え? 何がですか?」
美咲
「ホチキスの角度の話よ!」
紗耶
「気づいたので……言っただけです」
美咲
「(この子、天然なのに観察力が狂ってる……)」
【午後・給湯室】
紗耶がコーヒーを淹れていると、経理の男性社員がまた来る。
経理社員
「白石さん、三枝さん……今日も様子おかしくなかった?」
紗耶
「はい。ホチキスの角度が違ってました」
経理社員
「……角度?」
紗耶
「はい。いつも45度なのに、今日は30度で」
経理社員
「(そんな情報いらないけど……なんか怖い……)」
【夕方・オフィス】
三枝が紗耶のデスクに来る。
三枝
「白石……お前、俺を疑ってるのか?」
紗耶
「え? 何をですか?」
三枝
「……いや、いい」
紗耶
「三枝さん、今日も手が震えてますよ。
コーヒー飲みます?」
三枝
「いらん!」
紗耶
「そうですか。
あ、でもカフェインは手の震えを悪化させるので、
飲まない方がいいかもしれませんね」
三枝
「(なんでそんなこと知ってるんだよ……!)」
紗耶は本気で心配しているだけ。
【帰り道】
美咲
「紗耶ちゃん、今日も色々あったね……」
紗耶
「そうですね。
三枝さん、明日は元気だといいですね」
美咲
「(いや、元気じゃない原因の半分はあなたなんだけど……)」
紗耶はふと立ち止まる。
紗耶
「なんか……三枝さん、
“自分を疑ってる人の目”をしてました」
美咲
「え、それどういう……」
紗耶
「分かりません。なんとなくです」
その“なんとなく”が、
三枝の精神をさらに追い詰めていく。
――第3話 終わり




