学校に戻ったら、転校生が来ていた
新世界の使徒との話し合いから一週間後。
健太は、久しぶりに学校に戻ることにした。
「本当に大丈夫なの?」
エリシアが心配そうに尋ねる。
二人は通学路を歩いていた。
「うん。もう逃げても意味ないし」
健太は空を見上げた。
『それに、普通の生活を送るって約束したし』
「でも、学校のみんな、あなたのこと覚えてるわよ?」
「……そうだよね」
健太は苦笑した。
あの事件——黒覆面が学校を襲撃し、健太が暴走した生徒たちを次々と治療した事件——から、もう三週間以上が経っている。
『みんな、どんな目で僕を見るんだろう……』
教室に入ると——
「あ、佐藤!」
山田が真っ先に駆け寄ってきた。
「おお、生きてたか!」
「……生きてるよ」
健太は苦笑した。
「心配したんだぞ! 急にいなくなるし!」
「ごめん。ちょっと、事情があって……」
「まあ、いいけどさ」
山田が肩を叩いた。
「で、お前、あの時のアレ、本当に——」
「山田くん」
エリシアが割って入った。
「佐藤くんは疲れてるの。後でゆっくり話してあげて」
「お、おう……」
山田は少し引いた。
『エリシア、ありがとう……』
健太は自分の席に座った。
周りの生徒たちが、チラチラとこちらを見ている。
『……やっぱり、有名人になっちゃったんだな』
その時、担任の教師が教室に入ってきた。
「おはよう、みんな。今日は、大事なお知らせがある」
教師が教卓に立った。
「今日から、転校生が来る」
『転校生?』
健太は顔を上げた。
「三人も一度に来るんだ。珍しいだろう?」
『……三人?』
嫌な予感がした。
「じゃあ、入ってきて」
教師が合図すると、教室のドアが開いた。
そして——
三人の女性が入ってきた。
一人目。
長い黒髪。ショートカット。寡黙そうな雰囲気。
『……え?』
二人目。
眼鏡をかけた知的な女性。白衣——じゃなくて、制服を着ている。
『……嘘でしょ?』
三人目。
赤毛のショートカット。ツンとした表情。
『……マジか』
健太は硬直した。
なぜなら——
その三人は、シャドウ、アリシア、ルナだったからだ。
「じゃあ、自己紹介してもらおうか」
教師が促した。
シャドウが前に出た。
「……影山静香です」
『影山……シャドウだから?』
「趣味は、観察です」
シャドウが教室を見渡した。
その視線が、一瞬だけ健太で止まった。
『……観察って、僕のこと!?』
次に、アリシアが前に出た。
「有栖川愛です。科学が好きです」
『有栖川……アリシア……』
「よろしくお願いします」
アリシアが眼鏡を直す。
その視線も、健太に向けられた。
『……なんか、すごく見られてる』
最後に、ルナが前に出た。
「……月野るなです」
『月野……ルナ……そのまますぎる!』
「別に、友達とか作る気ないから」
ルナがそっぽを向いた。
「じゃあ、なんで転校してきたんだよ」
誰かが呟いた。
「……事情があるの!」
ルナが顔を赤くした。
教室がざわついた。
「じゃあ、席は——」
教師が教室を見渡す。
「影山は、佐藤の隣の空いてる席」
『隣!?』
「有栖川は、佐藤の後ろ」
『後ろ!?』
「月野は、佐藤の前」
『前!?』
健太は愕然とした。
『……完全に包囲されてる!』
三人が、それぞれの席に向かう。
シャドウが健太の隣に座った。
「……よろしく、佐藤くん」
小さく囁く。
『……影山さん、じゃなくて、シャドウ……』
アリシアが健太の後ろに座った。
「ふふ、これで毎日観察できますわ」
小声で呟いた。
『観察って何!?』
ルナが健太の前に座った。
振り返って、健太を睨む。
「べ、別にアンタの近くに座りたかったわけじゃないからね!」
『……完全にツンデレだ』
エリシアが、隣の席から健太の腕を掴んだ。
「……アルヴィン」
エリシアの声が、低い。
「な、何?」
「なんで、あの三人がここに?」
「僕に聞かないでよ……」
健太は頭を抱えた。
『……普通の学校生活、もう無理じゃない?』
昼休み。
健太は、屋上に逃げ込んだ。
『……疲れた』
午前中の授業、ずっと視線を感じていた。
隣からはシャドウ。
後ろからはアリシア。
前からはルナ。
『……気が休まらない』
屋上のフェンスに寄りかかり、空を見上げた。
『……ひっそり暮らしたかったのに』
その時、屋上のドアが開いた。
「あ、いた」
ルナだった。
「……何か用?」
「べ、別に用なんてないけど!」
ルナが近づいてくる。
「ただ、アンタが一人でいるから、心配で——」
「心配?」
「ち、違う! 別に心配なんかしてない!」
ルナの顔が赤くなった。
「ただ、その、恩があるから、見守ってるだけ!」
『……見守り? それって監視じゃ……』
健太は溜息をついた。
「ねえ、ルナ——じゃなくて、月野さん」
「ルナでいいわよ」
ルナがそっぽを向く。
「……なんで、転校してきたの?」
「それは——」
ルナが言いかけた時、ドアがまた開いた。
今度は、シャドウとアリシアだった。
「あら、ルナさん。抜け駆けは卑怯ですわ」
アリシアが言った。
「抜け駆けじゃないわよ!」
ルナが反論する。
「私も、お話ししたかったのですが」
シャドウが静かに言った。
三人の女性が、健太を囲んだ。
『……完全に包囲されてる』
「ねえ、みんな」
健太が尋ねた。
「本当に、なんで転校してきたの?」
三人が顔を見合わせた。
そして——
「あなたを守るため」
シャドウが答えた。
「観察するため」
アリシアが答えた。
「べ、別に守りたいわけじゃないけど! ただ、恩があるから!」
ルナが顔を赤くして答えた。
健太は頭を抱えた。
「……約束と違うよ。普通の生活を送るって——」
「送れますわ」
アリシアが言った。
「私たちがいれば、安全ですから」
「それって、普通じゃないよね?」
「大丈夫です」
シャドウが微笑んだ。
「私たち、普通の生徒として振る舞いますから」
『……もう遅いと思うけど』
その時、ドアがまた開いた。
今度は、エリシアだった。
「アルヴィン!」
エリシアが駆け寄ってくる。
「あなたたち、アルヴィンに何を——」
「エリシア様、お久しぶりですわ」
アリシアが会釈した。
「別に、何もしてませんわよ」
シャドウが言った。
「ただ、お話ししていただけ」
ルナが付け加えた。
エリシアが健太の腕を掴んだ。
「アルヴィン、教室に戻るわよ」
「あ、うん……」
健太はエリシアに引っ張られて、屋上を後にした。
三人の女性が、その背中を見つめていた。
「……やっぱり、エリシア様が邪魔ですわね」
アリシアが呟いた。
「でも、仕方ありません。彼女は、異世界からずっとアルヴィン様のそばにいましたから」
シャドウが言った。
「……私も、もっと早く見つければよかった」
ルナが悔しそうに呟いた。
「でも、これからは違いますわ」
アリシアが微笑んだ。
「私たち、毎日アルヴィン様のそばにいられるのですから」
三人の瞳が、一斉に輝いた。
放課後。
健太は、教室で荷物をまとめていた。
『……今日は、疲れた』
授業中、ずっと視線を感じていた。
休み時間も、三人が代わる代わる話しかけてきた。
『……普通の学校生活、どこ行った?』
「佐藤くん」
シャドウが近づいてきた。
「一緒に帰りませんか?」
「え、でも——」
「私もご一緒したいですわ」
アリシアが割り込んだ。
「べ、別に一緒に帰りたいわけじゃないけど! たまたま方向が同じなだけ!」
ルナも加わった。
健太は困った顔でエリシアを見た。
エリシアが溜息をついた。
「……わかったわ。みんなで帰りましょう」
「本当ですか!?」
三人が一斉に喜んだ。
こうして、健太は四人の女性に囲まれて帰ることになった。
下駄箱で靴を履き替えていると——
「佐藤!」
山田が駆け寄ってきた。
「お前、すげえな! 美女四人に囲まれて!」
「……いや、これは——」
「羨ましいぞ!」
山田が肩を叩いた。
『……羨ましい、のか? これ?』
校門を出ると、そこには——
黒い高級車が停まっていた。
車の窓が開き、中からセレスティアが顔を出した。
「アルヴィン様、お疲れ様です」
『……セレスティアまで!?』
「送っていきますわ」
「え、でも——」
「遠慮なさらず」
セレスティアが微笑んだ。
「皆さんもどうぞ」
シャドウ、アリシア、ルナ、エリシアが車に乗り込む。
健太も、仕方なく乗った。
車内は広く、豪華だった。
「ヴァルキリア、フローラは今日は来られませんでしたが、明日は来るそうですわ」
「……明日も?」
「ええ。毎日、交代で送り迎えを」
セレスティアが優雅に答えた。
『……もう、普通の生活じゃない』
車が走り出す。
窓の外を眺めながら、健太は思った。
『……結局、こうなるんだな』
でも——
車内の女性たちを見ると、みんな楽しそうに話している。
エリシアとシャドウが何か議論している。
アリシアがノートに何かを書いている。
ルナが窓の外を見ながら、時々健太をチラチラ見ている。
セレスティアが優雅にワイングラスを傾けている。
『……まあ、悪くないかも』
健太は、小さく笑った。
『ひっそり暮らすのは諦めよう』
『その代わり——』
健太は空を見上げた。
『この人たちと、うまくやっていこう』
その夜。
健太の家に帰ると、母親から電話がかかってきた。
「健太、元気にしてる?」
「うん、元気だよ」
「ごめんね、まだ海外から帰れなくて」
「大丈夫。一人で大丈夫だから」
『……一人じゃないけど』
電話を切ると、玄関のチャイムが鳴った。
『……誰?』
ドアを開けると——
エリシアだった。
「お邪魔します」
「え、でも——」
「あなた、一人暮らしでしょう?」
エリシアが入ってくる。
「だから、夕飯作りに来たの」
「そ、そんな——」
「遠慮しないで」
エリシアが微笑んだ。
『……まあ、いいか』
二人でキッチンに立つ。
エリシアが手際よく料理を作っていく。
「エリシア、料理上手だね」
「異世界でも、よく作ってたから」
「そうなんだ」
健太は、エリシアの横顔を見た。
『……いつも、ありがとう』
夕食を食べながら、エリシアが言った。
「アルヴィン」
「ん?」
「今日、他の女の子たちと仲良くしてたわね」
「え、あれは——」
「別に、いいのよ」
エリシアが微笑んだ。
「あなたが幸せなら」
「エリシア……」
「でも」
エリシアが健太の手を握った。
「私も、あなたのそばにいたい」
エリシアの瞳が、潤んでいる。
「だから——忘れないで」
「……忘れないよ」
健太は、エリシアの手を握り返した。
「エリシアは、ずっと一緒にいてくれた」
「……ありがとう」
エリシアが嬉しそうに微笑んだ。
その夜、健太は自分の部屋で考えた。
『……これから、どうなるんだろう』
転校生が三人。
新世界の使徒のメンバーたち。
そして、エリシア。
『……賑やかになったな』
でも——
『まあ、悪くない』
健太は、ベッドに横になった。
『ひっそり暮らすのは諦めた』
『その代わり、この人たちと——』
『楽しく、生きていこう』
そう思いながら、健太は眠りについた。
翌日。
学校に行くと、また新しい転校生が来ていた。
今度は——
ヴァルキリアとフローラだった。
「……嘘でしょ?」
健太は愕然とした。
「おはようございます、アルヴィン様」
ヴァルキリアが満面の笑みで言った。
「先生、お久しぶりです」
フローラが優雅に微笑んだ。
担任が言った。
「今日も転校生だ。二人とも、佐藤の近くに座ってもらおう」
『……もう、席がないよ!』
こうして、健太の周りは完全に女性たちで埋め尽くされた。
エリシアが呆れた顔で言った。
「……アルヴィン、これ、どうするの?」
「僕に聞かないで……」
健太は頭を抱えた。
『……ひっそり暮らすって、何だっけ?』
教室がざわついている。
「佐藤、すげえな!」
「ハーレムじゃん!」
「羨ましい!」
『……羨ましくないよ!』
健太は、深く溜息をついた。
でも——
周りの女性たちを見ると、みんな嬉しそうに笑っている。
『……まあ、いいか』
健太は、小さく笑った。
『これが、僕の新しい日常なんだな』




