美しい彼女は (メイド視点)
「では、カナリア様をよろしく頼みます。」
「了解しました。」
レオ様にぺこりと礼をして、預かった女性を迎える。
「お、お願い、します。」
「はうぅっ!?」
後ろで多数のメイドが怪しい声をあげている。
確かに、メイド筆頭、次期奥方を迎えた時、侍女として側に使えることが決まっている私から見ても、彼女はとても美しい。
「はい、お願いいたします。カナリア様のご準備という光栄な役目を任されました。アイラと申します。」
ふわ、となるべく優しく笑うと、カナリア様も笑ってくださった。
「丁寧にありがとうございます。よろしくお願いします。」
こうして、彼女の支度が始まったのだが。
なんとまあ、お綺麗な方である。
体を美しく見せるため、コルセットをしようと思ったのだが、そんな必要はなかった。元々美しいのだ。
ふっくらとした頬に、滑らかな肌。
スラリとのびた手足。
豊かな胸に、きゅっと締まったウエスト。
元々ゆったりとした服装だったので、気づかなかった。
そして極め付けにはエメラルド色の瞳。
緩くカーブを描くベージュの長い髪。
全てが美しい。まるで神に作られたような完璧なお方。
ああ、落ち着いた色が似合いそうだ。
他のメイドもこんなに美しき肩の準備を手伝わせてもらっているなんて!と遠目でも興奮が伝わってくる。
私も同じだ。
カナリア様に大きな舞踏会なので張り切っておめかしいたしましょう!と伝えたのも嘘ではない。だが、それより大きな理由は、綺麗なカナリア様をおめかししたい。だ。
ロベルト様が女性と舞踏会に出席されるのは初めてだ。
そして、それは彼女を好ましく思っているからだろう。
ならば、彼の色を取り入れてみようか。
「カナリア様。御髪が整いましたら、こちらへ。ドレスを選びましょう。」
「はい。」
カナリア様はこちらへ小走りでやってくる。その行動が可愛くて、つい頬が緩む。
「何色にいたしますか?私は、ロベルト様の色を取り入れるのがいいと思うのですが。」
「あなたたちにお任せします。私はドレスとかわからないし…でも、ロベルトの色を取り入れるのは、してほしい、です。」
「承知いたしました。」
ロベルト様の髪色は、パッと見黒だ。
だが、完全な黒ではなく、青みがかった黒。
黒は、不吉の象徴。だが、黒単色が不吉な象徴であって、そこに他の色が混じっていれば、それは不吉でない。
最近では、黒に他の色が入ったグラデーションのドレスが人気だ。
実にカナリア様に似合いそうである。
「…カナリア様、こちらのドレスはいかがでしょう?」
上から下に、黒と青でグラデーションになっているドレス。
ピチッとした感じで、体のラインを強調させるドレス。
余計なフリルはついておらず、裾が広がっていて魚の尾のような素敵な代物。
「…いい、と思います。それで、お願いしてもいいでしょうか?」
「はい。お任せください。」
***
「まあまあ!なんとお美しい!」
彼女の周りだけキラキラしている気がする。
「あ、ありがとうございます。」
ベージュの髪は綺麗に結いまとめられ、スラリとした体つき。
まさに女神のようだ。
「ロベルト様も、見惚れてしまいますよ!」
「ロベルト…」
すると、カナリア様が私たちが来てから見たことがない笑みを見せた。
これは…
「そ、うですかね…そうなら、いいな。」
美しい彼女は、その内に何を抱えているのだろう?
それが美しいものなのは、その場の誰もがわかっているだろう。
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