夕日に染まる君は、誰よりも美しい
ーああ、やってしまった。
机に溜まった書類を眺め、ペンを走らせる夕暮れ時。
上着にあれがついていないことに気づいた。
どこかに落としてきてしまったのだろう。
きっと、僕が離れたくなかったあの場所に。
なんとも自分勝手な望み。それでも彼女がこちらを惜しむように見つめていたのは、思い上がりだろうか。
そして、あれがないと、彼の方に怒られてしまう。
今日は、舞踏会もあるというのに。
今から取りに帰ろうか。この場所から、離れようか。
そうできるなら、もうとっくにそうしている。
ああ、会いたい。
僕の何気ない話に目を輝かせてくれる君に。
今思えば、自分がどうやってあの場所に辿り着いたのか未だ謎だ。
あの日、ちょっとした遊び心、まあ、お忍びで街へとでだ。領地の様子見も含めて。
そして、気づいたらあの子に看病されていたのだ。
最初こそ警戒したものの、彼女の無垢な笑みにすっかり警戒心が抜けてしまった。
彼女は長年あの場所に閉じ込められているだろう。
あそこを囲う結界。
あれは高度な魔力で作られた多重結界だ。
あれを壊すには、あれを上回る魔力が必要だ。
僕はもともと不幸なことに魔力が多いので、なんてことはなかったのだが。
いつか、彼女をあの場所から出してあげたい。
きっと美しく羽ばたくだろうから。
カナリア。
美しき鳥の名前。
僕の目の前に現れた、美しい鳥。
愛しむ気持ちなんて、生まれて初めて知った。
誰かに美しいと思ったことも、愛しいと思ったこともない。
それを教えてくれた君は、僕が出会ってきた人の中で、一番大切なのだろう。
「ロベルト。」
ほら、幻聴が聞こえるほどに。
「ロベルト。開けて。」
こん、と背後から音がする。
その瞬間、この声が幻聴でないと察し、同時に、驚きと喜びが溢れた。
「カナリア!?」
窓の外にいたのは会いたいと渇望していた美しい鳥だった。鳥の名前をした、彼女。
なんでここに。
そんな疑問は喜びで消し飛び、手に握っていたペンを放り出し急いで窓を開ける。
「ふふ。忘れ物。」
コロコロと笑って窓の淵に座るカナリア。
差し出された小さな拳。
その下に手を差し出すと拳があき、小さな金色のものが転がった。
「…ああ」
その呟きは、これが戻ってきたことについて落胆しているのか、彼女がここまで届けにきてくれたことに対しての、喜びか。
「え、と。それ、大事なものでしょう?」
「ああ、そうだね。少なくとも、世界にとってはそうだろう。」
「…」
これは、ただの飾り。
その紋章に込められた思いも、意味も、僕にとっては、「私」を繋ぎ止める鎖だ。
「…私ね、思うのだけど。」
「…ん?」
ポツリと呟かれた言葉。
それは彼女にとって、なんてことなかったのかもしれない。
でもー
「それ、ただの飾りに過ぎないんじゃないかな、って。だって、なんか、世界がロベルトに固持してるみたい。
ロベルトはロベルトなのに。でも、仕方ないよね。世界はそういうふうにできているんだから。息苦しくても、縛られても、悲しくても、嬉しくても。世界にとっては皆等しい存在なんだろうなって。
でも、歪で綺麗よね。たくさんの人の想いが詰まっているんだもの。それを背負って生きているロベルトは、世界に固持されて当然ね。」
その言葉は、僕には命に変えられるほどの価値があった。
立場は、人の信頼の心から生まれた。
そう思うと、それは確かに歪で、だがそれに劣らぬ綺麗さを備えている。
ハッとして顔を上げる。
彼女は、笑っていた。
綺麗な瞳はどこまでも透明で、翳りを感じさせない。
夕日を背後に、風が吹き、カナリアの髪が膨らむ。
合間に見えたのは、白髪で、左右で目の色が違う少女。
驚いたけど、それもきっとカナリア。
優しさという翼を持った、美しき鳥。
夜空に流れる、流れ星。
大きな羽を羽ばたかせ、飛んでいく君はどんなに美しいことだろう。
そして、それをそばで見ることができたら、それはどんなに嬉しいのだろう。
「カナリア。」
「なあに?」
優しい声。僕は、君がー
「今日の、君の夜を、貸してくれるだろうか。」
「え?」
美しく飛ぶ姿を、見てみたい。
頑張ってかいた一作!
もうちょっと頑張ります。\\\\٩( 'ω' )و ////