第九十一話 自分に唯一出来たこと
夏の暑さが少し和らいだ夕方、俺達四人は近くのスーパーへと来ていた。
「よーし! んじゃ各々焼きたいものを持ってくるって感じで!」
到着早々に別行動。
とはいっても、肉や野菜類など主な物は既に揃っているという。
「鷹山さんはなにを買うおつもりですか?」
「ん? あー夜食とか? 使っていいとは言われてるけど人様の家のものを使うって結構気使わない?」
「分かります。私も出来るだけ個人でという気分でいましたから」
まあ、近藤はバリバリ使う気だろうけど。
お菓子売り場で軽いグミなどを持って鮮魚売り場へ。
肉と野菜は確認したが魚類は確認するのを忘れていた。
「あ、魚があってもいいかもですね」
「そう思ったんだが……確認するのを忘れててな」
「確認しましょうか?」
「出来るか?」
「はい。奥さんの電話番号ですけど教えて貰いました。旦那さんの方に女の電話番号を入れて欲しくないようで」
独占欲マシマシ美女。それが高校生からの付き合いとかお疲れ様という言葉しか見つからない。
土屋の電話を待つ間、鮮魚コーナーを見ていると「チッ」という舌打ちが聞こえた。
音の方へと視線を向ければ大きめのカートを押す長谷川未来の姿があった。
陸上部の部活動Tシャツを着ていて目的が分かりやすくて大変助かる。
「陸上部の手伝いか」
「だったらなに?」
「敵意剥きだしだな」
「……」
やはり長谷川は俺に敵意があるよう。
「あら、長谷川さん。こんにちは」
「あ、うん」
ただ土屋に対してはないようだ。
俺と一緒ということで攻撃がいくかと思ったがそうでもないらしい。
「陸上部の手伝いなんて偉いですね。合宿の買い出しといった所でしょうか」
店の奥の方にある鮮魚コーナーまで来たにも関わらず長谷川の籠の中はすっからかん。
鮮魚コーナーの先は惣菜コーナーで強豪校の合宿に使えるほど栄養はしっかりしていない。
「テレビで時たまやってるよな。強豪校の合宿に密着して、マネージャーとかが料理作ってんの。んで、任されたはいいけど栄養バランスなんて分からないってとこか」
言い当てられたことが悔しいのか長谷川に睨まれてしまった。
「……かなり険悪ですけど、なにかあったんですか?」
事情は話したのに知らない体で進んでくれるのは大変助かる。
そしてその知らない体を装うのを利用させてもらう。
「いやな。前にスポーツ選手向けの料理を聞かれたんだが、答えられなかったんだ。……この日のために聞きたかったのか」
結構雑な嘘ではあるが、今はそれでもいい。
なぜなら、全員事情を知っているからである。
「そういうことでしたか、私で良ければ助言しましょうか?」
「……うん」
そこで「ありがとう」とか「お願い」って言わない辺り長谷川である。
土屋からレシピと必要な食材を教えて貰った長谷川は「うん。わかった」とだけ言ってカートを押していった。
「あっぶね。土屋がいてくれて助かった」
「お役に立てたなら嬉しいです」
「あと、なにも聞いてない体で入って来てくれたのは本当に助かった」
「いいパスでした?」
「ああ」
今のパスを決めなかったら引退強要されるレベル。
ただ俺と長谷川の溝が埋まったわけじゃない。
「鷹山さんはどうして長谷川さんと仲良くしたいと思っているんですか?」
「別に仲良くしたいわけじゃない。争いたくないだけだ」
争っても得することなんてない。
だったら争わずに友好的な関係を続けた方が得はある。
「ちゃんとした善人ですね」
「まさか。俺は私利私欲のために動いただけだ」
勉強も運動も礼儀作法もなにもかもを出来る人が唯一苦手としていたのが人付き合いだった。
「対立する人の間に入って両方にいい顔してその場を静める。やっていることは一時凌ぎでいつ再燃するか分からない」
再燃する度に俺が出来ることならなんでもやって解決した。
いや、それでも再燃の可能性がある以上、解決とは言わないか。
「でも俺にはそれしか出来ないんだ」
土屋の時もそう。完全部外者の俺にヘイトを向けて無理やり当事者になりすます。
初めから弾かれることもあったが、立場や事情を聞きに来たとか言って無理くり自分をねじ込んだ。
結果、癖となってしまったというわけだ。
「私利私欲に動いて、人にいい影響を及ぼすならやはり善人なのでは?」
「……そうかもしれないな。別に俺は今の俺が嫌いなわけじゃないしそういうことにしておこう」
「はい。それは鷹山さんの良いところですから、胸を張ってください」
「そうだな。天才には届かなくても動きや考え方次第か」
俺がそういうと土屋は「その意気です」と言った。




