第九十話 夏休み、遊びの第一歩
「男は二階は素通りするだけにしておけ。部屋から出てくれば確実にアウトだ。宿泊客だろうと警察に突き出す」
「肝に銘じて置きます」
二階には四部屋あり、一部屋は既に先客がいて女子三人が使うことに。
俺は三階の屋根裏部屋を改装した部屋へと割り当てられた。
「次にルールだ。トイレは洗面所の扉入って右手側、ただし脱衣所と一緒になっている。この意味が分かるか?」
「はい! 鷹山が全裸見ようとする!」
「正解だ」
「大不正解だよ。人をなんだと思ってやがる」
「男女限らず洗面所へ入る時はノックするように、返事が無かったら基本入ってもいいが、常にキッチンかリビングにいる、俺か海老名に聞いてもらえれば分かると思う」
この辺はマジで注意しないといけないな。
今のところ、男二人に女四人の圧倒的人数格差。肩身の狭さを感じないのは圧力がないからか。
「あとは……冷蔵庫のものは基本的にいくら使っても構わない。ただ無くなった場合はすぐに言ってくれ、倉庫から取ってくる必要があるし場合によっては買わなきゃいけないから」
「追加料金とか必要ないんですか? 宿泊費は一律千円で経営出来ているとは思えませんが」
確かに、そこは結構気になる。
民泊の経済状況なんて想像もつかないが、宿泊費による収入だけでは人一人食べていくことは出来ないだろう。
「詳しく言うと長くなるから簡潔に言う、繋がりだな」
「繋がり」
「そう。商品にならない、けど食べられなくはないという食材を譲って貰ったり、この野菜でなにか健康的な料理を作って欲しいっていう要望に答えたりな」
「揉めそう」
「そういう時は話し合いだ。そのための言語だとオレは思っているしな」
実際に俺達より年齢が上だから当たり前ではあるが、考え方が大人だ。
個人的に結構考えて動いていると思ったがまだまだだな。
「分かりました。ありがとうございます」
「他に質問は」
「はい! お二人の出会いについて!」
流石我らが恋愛番長。他人の恋路にも興味津々。
「高校の先輩後輩だ」
「そうだよー。ね、先輩?」
「きゃあああ! 聞いた!? 先輩後輩だって! 青春ど真ん中じゃん! え、民泊が実家ということは!?」
「わたしの実家って柳市で遠いんだよね。だからこの民泊に泊ってたよ?」
「一つ屋根の下! なにも起こらないはずがなく!」
「そりゃもうべったりだったよねー」
「色々あったなー」
懐かしさを噛みしめるというよりは本当に色々あったのだろう。
目が遠くを見ている。
「落ち着け近藤。馴れ初めはあとで聞けばいいだろうが」
「興奮して顔が真っ赤ですね。りんごみたいで可愛いですよ~」
テンションがあがる近藤を落ち着かせて質問時間を終えた。
「よし、まずなにするか決めよう。お二人にはあとでじっくり馴れ初めを聞きます」
近藤の宣言に山田夫妻は静かに頷いた。
「今は昼の十時ちょい過ぎ。最終日のタイムリミットは」
「午後の十六時でしょうか。それ以降は電車がなくなってしまいます」
「了解。水着とか着替えて遊ぶ系は明日ということになるか」
「今から出来るのは周辺の散策くらいでしょうか」
「BBQ! セットってありますか!?」
「あるぞ。すぐに出せるようにもしてある。食材もある程度ならある。もし足りないものがあれば買ってくるし自分たちで行くならお好きに」
無愛想ではあるが、こちらに選択を委ねてくれる優しさがある。
それが違和感なく出来ているから人と関わる仕事に関してはプロ並みだ。
「なら後で散策ついで買い出しに行こう! んでBBQだ!」
「なに買うんだよ」
「マシュマロ欲しい!」
「他にも色々雑多な物を見に行きましょうか。お土産とか予めチェックして置くことも出来ますしね」
「よし決まり! 明後日の予定はまた明日決めよう!」
遊びのこととなればグイグイと首が絞まる勢いで引っ張ってくれる人材がいると大変助かる。
勉強にもこれくらい積極的になれたらもうちょい点数伸びるだろうに。
それ言うと怒るから言わないけど。




