第六十九話 パーソナルスペース踏み荒らす勢い
「そうですか」
「頑張ってくださいね?」
翌日の昼休み、近藤の恋活強化に入ると宣言を聞いた土屋と鮫島はの対応は俺と同じく冷めていた。
「真面目に考えてよ!」
「どう考えろというんですか。玲奈がどれほど頑張れるかじゃないですか」
「協力したいのは山々なんですけどね」
「漠然としたやることを見せられても中身がないんじゃこっちは助けようがない」
「彼氏が欲しい」
それは最終目標だろうが。
その最終目標に行きつくまでの行動を教えろって言ってんだよ。
「それは最終目標ではないんですか?」
「私達が知りたいのはそこに行きつくまでの方法です」
「んー。じゃあガツガツ行ってみる! なんたって恋活強化中だからね! パーソナルスペース踏み荒らしてやる勢いで!」
むしろ逆効果な気がするのは俺だけか。
奥手な人に自分の気持ちを押し付けて効果が出るかどうかだぞ。
「放課後は私は同行できませんね」
「また見捨てるのか!?」
「違います。体調が悪くて早退した人の穴埋めを頼まれてしまって」
「図書委員か」
早退したのは図書委員の生徒だった。
これを聞いて近藤は少し考えた素振りを見せた。
「図書委員ならむしろ好都合! 利用してやるじぇー!」
「邪魔は許しませんよ?」
「鮫島の許しませんは本当に怖いぞ」
「虫を近づけられるよりはマシですよ」
「その節は本当に申し訳ありませんでした。再発防止策を講じさせていただいております」
「へりくだるまでの速度と質が異常だな。完全に尻にしかれてらぁ」
あの時以上の恐怖は未だ体験したことない。
「話は戻しますが図書室でなにをするつもりですか?」
「んー。この時期図書室で勉強してるのって頭いい人じゃん?」
「偏見がすごい。まあ、体育祭終わった直後で勉強するのはそれなりの順位を目指す人だろうけどな」
定期テストまで一か月以上あるこの時期に。
まあ、赤点取る確率が高い近藤が恋活強化している場合かというのは野暮だろうな。
「そういう人達を当たってみようかなって。運動部は恋愛そっちのけで無理だろうしさ」
前にも言ってたな。運動部はダメだって。
その点で言えば長谷川の辛抱強さというか諦めない執念は凄いと思う。
運動部で陸上部でもかなりの成績を出している嘉川を狙っているのだから。
「というわけだからアドバイスをください」
「その前に勉強の邪魔になるのでは?」
「そこはわたしも勉強するっていう体でいくから平気っしょ」
体だったらやっぱり邪魔になるじゃねぇか。
ま、あんまりに酷かったら鮫島が止めるだろう。
「取り敢えずのプランを聞かせてもらえますか? どう声をかけるとか」
「わたしが勉強道具を持って図書室で勉強するふりをする。絶対に詰まるから前の人に聞く的な。もし狙った人がつちやんと話したらどんな風だった聞くっていう。鮫ちゃんは近くで鷹山と様子見てて」
「それくらいなら図書委員の業務には支障ないのでいいですよ」
仲間の協力を得られて近藤はにっこにこ。
成功するとは限らないのに。
「近藤は彼氏が出来たらなにしたいんだ?」
「そりゃもう色々よ。デートは勿論、夏祭り行って手つないだりして花火見て寄り添うとか最高じゃん? 秋には文化祭だってあるし初めての文化祭を彼氏と回るとか最高だし、クリスマスは問答無用で最高だいしね!」
「あ、うん。そっか。頑張れよ」
「さてはおめぇあんまり興味ねーな?」
「今のでなにを理解しろと。健全というのを読み取るので精一杯でした」
「いいですね。私もいつかそういうことをしてみたいですね」
「やるなら学生のうちだけだよ! 社会人になったら夏祭り行く気力すらないだろうからね!」
それについては俺もそう思う。夏祭りとか季節ごとのイベントは大人になってから楽しむのは難しい。
大人になれば暑い寒いで季節を判断するようになるって従姉も言っていた。
「つまり、わたしがやっていることは正しいのだ!」
そうだね、間違っているのはそもそもの考え方だもんね。




