第六十八話 近藤玲奈との帰り道
「二人キリ……だね」
「別々に帰ろうぜ。疲れる」
「わたしの方が疲れてるやい! ノート丸々写したんだから!」
「自業自得だろうが」
上履きから靴へと履き替えて外へと出ようとすると空は濃い灰色で傘を要求された。
どおりで途中から運動部の声が聞こえなくなったわけだ。
「うげぇ雨じゃん。走れば間に合うかな?」
「ベスト着てないんだからやめとけ」
「そこは黙って透けた下着を嗜むところじゃない?」
「俺をなんだと」
「健全な男子」
「大正解。でも自制心はあるんだわ」
健全な男子がエロに興味があることは普通である。だが見たいけど見てはいけないという自制心は存在する。多分。
「じゃあ傘に入れてくれるっていう解釈になるけど?」
「止むまで待つという選択肢は」
「入れてくれたら今日つけてきた下着の色教えてあげる。鮫ちゃんの」
「最低だな」
それ本人の前で言ったらビンタものだぞ。
そしてその一言で入れづらくなった。
「半分な」
「おー鮫ちゃんの下着に釣られたー」
こうなるからな。
「学校から少し歩いたらなしで歩け」
「冗談だって。鮫ちゃんに嫌われたくないから水色だったなんて言わないよ」
「突っ込まないからな」
ほんと一回本気で怒られた方がいい。そして鮫島に嫌われるという絶望感を味わってほしい。
「うわっ。結構近い」
「折りたたみだからな」
普段使いの傘なら高校生二人くらいはなら余裕で入れる。
折りたたみを半分にすると密着と言っていいレベルでくっつかなければいけない。
「特別……だよ?」
そう言って近藤は思いっきり俺の腕に体重をかけてきた。
「重」
「はぁ!? お前今なんて言った! 純情な乙女が可愛く寄り添ってんだから心臓の一つでも跳ね上げろや! ああん!?」
「おまわりさん助けて」
純情乙女やるなら貫けよ。
俺の腕へとかかった体重は更に増した。
腕にしがみつくように近藤の体がある状況で、肘にほんのりと柔らかい感触があるものの体育祭の時に味わったふよんとした全てを包み込むほどの柔らかさはなかった。
「つちやんだったら鷹山の腕包み込めたのにねー」
「抱き着かれたときもやばかったからな」
「くそが」
眉を寄せて渋い顔をする近藤。忙しいやつだな。感情も考えることも。
ま、そうやって腕にくっついてる間は前が雨に濡れて下着が透けるなんてことないからそのままでイイと思う。
すげぇ歩きずらいけど。
「うわぁ。ローファーに雨染みてきた」
「俺はまだ全然平気だ」
「おりゃ」
近藤とは反対側へと体重をかけられ転ばないように足を出した。
びちゃっ。という音と共に俺の左足が水たまりへと踏み入れていた。
折角濡れないようにしてたのに。
「にゃははは! これでわたしより酷くなったな。ああ! 傘傾けないでよ! 濡れるじゃん!」
「なら言うことは」
「ばーか!」
誰かこいつに「ごめんなさい」という言葉を教えてあげてください。
駅前で騒がれるのも注目集めていやだから傘を元に戻した。
「ちょっと足が濡れただけじゃん」
「濡れると次の日まで濡れてんだよ。俺はこの靴しか持ってないし」
「え、靴くらい三つくらい持ってるもんじゃない? 気分によって変えたり服によって変えたりさ」
「男はせいぜい普段使いの靴とスーツ用の革靴だけだろうよ」
中には靴が好きで集めているって人もいるだろうけど俺は違う。
「靴にいくらくらいかける?」
「二千円が限度。それ以上は高いと感じる」
「男子ってそんなもんなん?」
「お洒落に気を使ってる人とか、靴に興味がある人以外は基本そうじゃないのか」
「価値観が合わない。わたしのこれ五千円。これでもだいぶ使ってるしセールで買ったから安い」
まあ、なににお金をかけるかはある程度自由な所があるしいいんじゃないでしょうか。
特に恋人同士という関係なら尚更に。
結婚して家計が一緒になってから考えればいい問題だと思うが。
駅へと到着し傘をバッグの横ポケットへと収納。
改札を通って電車が来るのを待った。
「やっぱり価値観が合った方が楽だよね~」
「価値観の擦り合わせはもっと先でもいいと思うが」
「でも最初から相性がイイ人と出会った方が色々と楽じゃん?」
「それはそうだけどな……それなら金銭感覚以外にも必要になってくるだろうが」
インドア、アウトドア派の分裂に始まり、朝型夜型、人と一緒にいて平気かそうじゃないか。
などなど、あげれば本当にキリがない。というよりは、全てが一致する人間なんて存在しない。したとしても一生に出会える確率は七十億分の一、パーセントに直すと00000000,1パーセント。
ソシャゲならプレイヤーぶち切れどころか消費者庁とのコラボが実現するレベルの確率。
絶望的なのは間違いない。
「妥協しないのは大切だが、出会った相手と落としどころを見つけるのも大切だぞ」
「おー深い!」
「浅い感想」
近藤がそれでも相性抜群の男を見つけるんだというのであれば止めはしないし止める理由もない。ただ応援するだけだ。
「よし、決めた! わたし恋活強化に入る!」
「頑張って」
「おめーも協力すんだよ! 知恵寄越せ知恵!」
見つけるのは落としどころであって脅し所ではないんだが。
そんな俺の声は電車がホームに入って来た音でかき消された。




