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第六十七話 別れの挨拶をしたのに後ろの恋愛番長が放してくれない

「すいません。薙刀の稽古があるのでお先です」

「私も家の用事があるので」


 次の日の放課後、土屋と鮫島は居眠りをしてノートが取れなかった近藤を見捨て先に帰ってしまった。

 見捨てたとは言うが、居眠りをしてノートを取らなかったのは近藤玲奈本人である。

 つまり自業自得。


「鷹山までわたしを見捨てるのか! わたし一人夏休みを補習で潰してもいいのか!」

「俺は一向に構わないけど」

「見捨てないで! 鷹山のノートで我慢するから!」

「さようなら」

「たーかーやーま!」


 ちゃんと別れの挨拶をしたのに後ろの恋愛番長が放してくれない。


「ノート貸すから俺は帰る」

「一人で書き写せと!? 無理無理! 寂しさで死んじゃう!」

「いっそ死んでまともな人間に転生してはどうか」

「わたし以上にまともな人間いないだろうが!」


 まともな人間は授業中居眠りして放課後まで放置しないと思うのだが。


「勉強してていいから! いるだけでいいから! 捨てないで!」

「分かったから黙れ」


 放課後になってまだ少ししか経っていない。つまり教室にはまだ人がいる。

 ホント止めて欲しい。


「うわっ。字汚なっ! 嘘嘘! 帰ろうとしないで!」


 人を怒らせる天才すぎるだろ。

 自分の席に座ってポケットからスマホを取り出してネット小説を読む。

 運動部の掛け声や教室に残った少数の生徒の声を聞きながら読むと集中力が上がっている気がする。

 ただ誰と誰が付き合ったという話は興味深くて読むどころではないが。


「鷹山さ。つちやんに告白されたってホント?」


 目線をスマホから近藤に移せば好奇心が抑えきれないのか目がとてもキラキラしてらっしゃる。

 早くノート移して。帰りたいんだけど。


「誰かから聞いたのか?」

「つちやん本人から。彼女候補にしてもらったって」


 彼女候補という単語が出て来たということは本当に土屋から聞いたのだろう。


「どのタイミングで? 今までそんな素振りは見せなかっただろ?」

「体育の時の女子更衣室。鮫ちゃんが怖すぎたんだよ! 鮫ちゃん鷹山との関係は基本否定というかあくまで友達っていうスタンスなのに誰かが鷹山と恋人とかになろうとすると怒るんだよ!」

「俺はなにも感じないけど」

「いや、つちやんの暴露の場にいなかったからそう思うだけだよ。基本鷹山の前じゃクールだから」


 俺の前じゃなきゃクールではないと? なにそれメッチャ気になる。


「てかさ、鮫ちゃんの昔の彼氏って絶対鷹山でしょ?」

「だから違うっての」


 今認めたら過去に鮫島が言った「浮気で失恋した」というのも俺が浮気したことになってしまう。


「でも最初から結構距離近いよね? あの鮫ちゃんだよ? プライベートはほとんど知らないけど鷹山以外の男子とちゃんと喋ってるところ見たことないし! 友達にすらなれなかったって男子がぼやいてたことあるほどの鮫ちゃんだよ?」

「それこそ中学からの顔見知り、委員会とかで一緒になったりとかである程度お互いのことを知ってるからだ。ノート書き写す手が止まってる」


 近藤にノートの続きをはよしろと急かし俺はスマホに視線を戻した。


「いいなー。わたしも運命の人に「彼女にしてくださーい」って言いたい」

「探せよ」

「探してるよ。でも見つからないんだよ! いいなーって思う先輩にはもう彼女がいたりするし! 一年生は全然接点ないし!」


 確かに組合同のものって少ないよな。

 体育は各クラスごとだし。一緒のものと言えば学年集会とか学年での催し物くらいだが今のところそれもない。

 自分のクラスにいいなと思う人がいないなら他クラスから探すしかないが、他クラスと絡む機会がないから中々に難しい。

 そして鮫島高校にはクラス替えがないときた。恋活をする人にとっては絶望的な状況だろう。


「話しかければいいだろ。帰り道にでも」

「じゃあさ鷹山は知らない女子から話しかけられたらどうする?」

「ある程度なら普通に話すけど」

「普通はそんなお人好しじゃないんだよ!」


 その不安定な情緒とお淑やかさがあれば大抵の男子は話くらいなら聞いてくれる。

 同じ学校という接点が一応あるからな。町中でナンパしろと言われるよりはだいぶ楽なはずだ。


「そもそも、そんな急いで彼氏見つけて長続きするものなのか?」


 交際期間二か月で終わった俺にはその辺分からない。

 別に急いでいたわけでもないのに急に終わりを告げられたからな。それを受け入れてしまったのも俺だけど。


「そこはお試しってことでまあデートとかしてみてって感じ」

「危ない人だったらそのまま襲われるぞ」

「なにかお知恵を!」


 人の関係に恋愛の波動とか言っている場合ではないと思うのは俺だけだろうか。


「善人悪人の見分け方は土屋が上手い、人からの断り方なら鮫島だな。人付き合いのポイントは断れるかどうか。だからな」

「鷹山はなにも教えてくれないの?」


 俺の場合は意識してなにかを学んだわけではないから人に伝えるのは難しいのだ。


「人からの圧に耐えられる方法なら」

「なにそれ地味」


 うるせぇ。これで今まで鮫島と付き合えて来たんじゃい。

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