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第二話 幼女つおい

「はい。三年間過ごす仲間です。よろしくおねがいします。次で最後です。これが終われば帰れます。委員会決めです。係はまた明日にしましょう。それでは学級委員から決めましょう!」


 ホッとするような笑顔から繰り出される学級委員という恐ろしい言葉。

 中学の頃の悪夢を思い出す。

 振られた直後の委員会なんて気まずくて吐きそうだった。まともに話しかけられる様子でもなく、完全サポートに回ることになったのは消したい思い出。


「先生的には、鮫島さんと鷹山くんにやってもらいたいですね」

「なんでですか?」


 鮫島彩音の鋭い眼光と声が風船のような雨宮先生に刺さる。


「学業優秀ということは、それほど応用が利くということです。人をまとめる上で基礎が出来ているだけではどうしても無理があるのです」

「ですが教育機関ならば才能のない人を育て上げるのが適切ではないでしょうか」

「義務教育ならそうだったかもしれません。ですが、高校生になってまで「貴方はこれが出来ないからやりなさい」というのは幼稚すぎると先生は思います。」


 と、見た目幼女が申しております。

「教育機関だからというのはごもっともですけどね?」と追伸もいただきました。


「勿論嫌なら無理にとは先生もいいません。二人とも誰か他にやりたい人がいるならその人とやってもいいです」


 辞退してもいいという譲歩をされたらこれ以上の追及は出来ない。

 鮫島もそう思ったのか鋭い眼光と言葉をしまった。


「彼と一緒じゃなければやります」

「おや? 同じ中学で顔見知りでやりやすいかなと思ったのですが違いましたか?」

「はい。彼とは今この場で初めて目を合わせたくらいです」


 どんだけ俺のこと嫌いなんだよ。

 数か月という短い時間ながら恋人同士だっただろうが。

 まあ、今そんなことを言えば『妄想野郎』『友達=恋人だと勘違いする変態』『脳と股間が直結してる猿』と不名誉なあだ名が付きかねない。

 黙って耐えるのみ。


「鷹山くんはどうですか? なにか他にやりたい係や委員会などはありますか?」

「特には」


 ほかの委員の仕様は分からないしそもそも持って、係がなにがあるのか分からない。


「なら鷹山くんにも学級委員をやって貰いましょう」

「あの……私の意見は無視ですか?」

「いえいえ、鮫島さんの意見を取り入れてのことです」

「どこがですか?」


 仕舞ったはずの鋭い目つきと言葉を取り出しまたしても先生に向けた。

 睨む鮫島と温かい笑顔で微笑む幼……雨宮先生。

 教室はもういつ切れてもおかしくないくらいに張り詰めていた。


「鮫島さんは言いました、『才能のない人を育て上げるのが適切』と。人付き合いも才能の一つです。最低限仕事さえしてもらえれば先生は満足ですから」


 この幼女つおい。

 潜り抜けてきた補導という名の修羅場の数が違うのだろう。

 こと語彙力、言葉での殴り合いなら負けなしだった鮫島がこんな短いターンで再起不能にされるとは思いもしなかった。


「……分かりました。任されたからには仕事はします」

「ありがとうございます。それじゃあ、早速、進行をお任せしてもいいですか?」


「俺達はなにをすれば?」

「これが全ての委員会になります。ここの名前欄を全て埋めてください」

「分かりました」


 渡された紙には委員会名とその下に名前を書く欄があった。

 となれば、やることは一つ。

 チョークを右手に持って、紙にある委員会を書き出していく。


「まず、最初に……」


 鮫島の進行が止まり視線を感じて鮫島の方向を向けば眉間に皺をよせて俺が睨まれていた。


「ん? なに?」

「汚い字」

「そうか? 普通だろ」

「貴方は頭の回転に手が追いつ……もういいです。私が書くので進行してください」

「へーい」


 業務上でなら俺とも話せるのか。

 器用な奴。

 場所を変わって仕事再会。


「まず。保健委員。体調が悪い人を保健室に連れていく役」

「はい! 保健委員やる!」

「保健委員、近藤」


 俺が名前を読み上げると後ろからチョークの音が聞こえた。


「次、図書委員。仕事は書架整理、貸出の担当か。お、内田と池本」


 またしてもチョークの音。

 音が止んでから進行を再開した。

 結局、全ての欄に名前が埋まるのに昼までかかってしまった。ざっと一時間。

 最後の方は慈悲で仕方なくという人もいた。


 決める立場の俺からすればありがたい限りだが。


「それでは、委員会が決まったので今日はこれでサヨナラです」

「起立、礼」


 鮫島彩音と再会し、運が良いのか悪いのか同じ委員会に所属することになった。

 仲直りというか、汚名返上のチャンスかもしれない。

 そう考えないとマイナスな感情が浮かんでしまう。


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