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第九十九話 今日の鮫島はどこかおかしい。

「あのガキ共……」


 遊具エリアにある目を洗う蛇口にいた。


「勉強が嫌いな小学生にそれを言ったら撃たれるのは分かってたじゃないですか」

「せめてもの煽りだったんだよ」


 鮫島から「おばか」と言われたがそれくらいしかマウントが取れないのだから仕方ないだろ。


「それに、一緒にいる女性を放置して小学生と遊びだすとか、デートなら最低ですね」

「んじゃ評価は?」

「別にいいんじゃないですか? デートじゃないんですから」


 そこで「最低」と蔑みの目を向けるならこれがデートだと認めたようなものだったのに。

 案外手強い。


「あと十分だけどどうする? 戻る?」

「……スライダーに乗りましょう」

「今から? あと十分だぞ?」

「時間配分を見誤りました。折角地元から遠いサニーランドに来たんですからスライダーには乗りたいですし」


 子供好きというわけでもないのに遊具エリアに来たり、夢中になっていたわけでもないのに時間配分をミスしたり。

 今日の鮫島はどこかおかしい。

 それが楽しんでいる故なら問題ないが。

 移動してスライダーの列へと並んだ。


「滑ってみてどうでした?」

「結構怖い。スピードもそこそこだし」

「そのスピードに乗じて玲奈のパッドを剥いだんですね?」


 鮫島は不気味なくらいにニッコリと笑った。


「違うって。剥いだのは波。俺はその波から擦り付けられただけ。そもそも、結構なスピードだっていっただろ。初見で着水角度と近藤の位置からどこに手を置けば水着をそのままにしてパッドだけ剥ぎ取れるかーなんて俺には計算出来ない」


 そんなの、バナナの皮を向かずに中身だけ食べてください、という難問。

 一休さんでもブチギレ案件だ。

 頭脳は誇れる方ではあるが、そんな瞬間的な計算と魔法じみた中身抜きは出来ない。


「必死ですね」

「物証がなくても跳ね除けられる冤罪なんでね」


 偶然で犯罪者にされてたまるか。

 

「言われてみれば不可能に近い事ですね」

「だろ? 近藤からどんな情報を聞いたんだか知らないけど」

「鷹山におっぱい取られたって」

「俺は闇医者かなにかか」

「私も気を付けるように言われました」


 そう言われ前だけ開いた鮫島の胸に視線を向けた。

 この胸もパッド入り? 少し大きいような気もするが中学の記憶だし成長すればこの大きさになるのか?

 疑えば疑うほどパッドに見えてくる。


「どこ見てるんです?」

「胸って言ったら怒る?」

「はぁ……」


 鮫島はため息をつくとせっかく下ろしたチャックを上げてしまった。

 ま、網膜には焼き付けたしいいけど。


「なに悲しそうな顔してるんですか?」

「男からすれば美少女の水着姿はいつ見ても良いものなんだよ」

「ネットで調べればいくらでも出てくるでしょう」

「着慣れているグラビアアイドルと、初々しさが残る鮫島の水着だったら絶対鮫島の方が需要ある」

「気持ち悪い。どこの誰ともつかない人に水着を見せるわけないじゃないですか」


 やはりそこは入学早々言い放ったように、好意無き人からの称賛は気持ち悪いと思うようだ。


「チャックを上げたのはそう言われたからです」

「ん?」


 鮫島が指さす先では同じようにラッシュガードを着た女性が係員さんにチャックをあげるように言われていた。

 なんだ。俺が凝視していたからではなかったのか。


「ま、貴方の目がいやらしかったのもありますけど」


 バレてるー。


「本当に申し訳ない。水着の話題ついでに聞くけど、下も白色なの?」

「……」

「いやそこは気になるじゃん? ショーパン履いて見えてないわけだし」

「ご想像にお任せします」

「なにも履いてないと」

「白ですよ」


 流石にノーパンもとい、ノー水着と思われるのは嫌だったのだろうか。

 俺だったら嫌だね。


「本当に……」

「ごめんて。鮫島、通路の邪魔になる」


 大目玉のスライダーと子供用の短いスライダーの通路は同じでさっきから小学生が元気に上っている。

 俺に引かれた鮫島はそのまま俺の体へとダイブ。

 踏ん張るかと思ったが密着レベルで近づいてきた。


「ちかっ」

「こうなるって分かりませんでした?」

「まさかここまで詰めてくるとは思いませんでした」


 ほんの少し俺の方に来ればいいだけなのに、その距離感は肩と肩が密着する程度。

 俺の肩にひんやりした鮫島の肩が触れた。


「恥ずかしいなら離れればいいと思うよ」


 密着する鮫島の顔は結構赤い。


「あ、貴方は男性なんですから、肩幅が広いですしこのくらいくっつかなければはみ出してしまいます」

「俺の肩幅はそこまで広くない」


 学校の体育の授業でしか運動をしない俺の肩幅が広いわけないだろうが。

 なんならガリガリで肉付けろって近藤に言われたばっかだ。

 ただ、俺としても恥ずかしい気持ちはあるが嫌ではない。


 これ以上言えば離れてしまうかもしれないし、黙っていよう。


 それから列は進み、俺と鮫島の番。


「貴方に後ろを見せたくないので前行ってください」

「はいよ」


 近藤の時は俺が後ろだったから丁度いい。

 係員さんの「いってらしゃい」の掛け声で俺達のボートは高速で滑っていく。

 そういえば、係員さんの「いってらっしゃい」に元気がなかったなぁ。

 さっきと同じ人で俺と近藤が一緒にいるところ覚えてたのかな。こんだけ人いれば分からないと思ってたのに。


 そんなことを考えているうちに明るくなってきた。

 少しボートを上に持ち上げて着水に備えるとそのまま水上を滑走していった。


「よし、事故らなかった」


 んまあ、その分近藤のような事故も起こらなかったわけだけども。


「服で濡れたくないので端まで寄せてください」

「なぜスライダーに乗ろうとか言い出したんだよ」

「さっきも言いましたが?」

「それはそうだけどさ。予測できたでしょ」

「貴方に寄せてもらえばいいと思っていたので」

「さいで」


 ボートから下りてプールサイドに寄せると鮫島が手を差し出してきた。


「すいません。お尻がハマって抜けないので引っ張ってください」

「本当になにやってんだよ」


 なんか今日の鮫島はワガママだな。

 俺が鮫島を引っ張ると簡単に抜けた。


「平気?」

「はい。時間も大幅に過ぎていますし行きましょうか」


 そういって鮫島は歩き出した。

 ボートを係員さんに返却して俺もその後を追った。


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