番外編
補佐役テオ視点です
「だって普通に考えて気持ち悪いだろう。流石の私もドン引きだったぞ」
国王陛下がそう仰った日のことは今でも覚えている。ハインリヒ殿下がロリコンと噂される原因になった事件があった日だ。
殿下の3つ上のご友人が婚約を解消した時から、色々と悩んでおられることは知っていたが、まさか幼い姫に結婚を申し込むほど駄目になっているとは思わなかった。
そっとしておくのが最善策だと考えて見守っていたつもりだったが、それは違ったのだと思い知らされた事件だった。
私は殿下が12の時から補佐役兼教育係を務めてきた。殿下は兄である王太子殿下と比べられてきたので、少し自分に自信が無いようだったが、素直で真面目な性格のため、こちらが教える事はなんでもすぐ受け止めて吸収した。今までは強く言い聞かせなければならない事はなく、大きな反抗もなかったが、思春期で色々と拗れやすい年齢になってこの事件が起きたのだ。だからこれを期に、これからは少し厳しくしていこうと決意したのである。
それから婚約は無かった事を殿下に悟られないよう尽くした。殿下は単純なので、ヴェロニカ姫に会えない理由をあれこれ捏造しても、疑いもせず信じていた。殿下が姫に出す手紙は、そのまま預かり私が姫になりかわって返事を書いていた。
殿下が書く手紙の内容は、大抵『私の妖精よ』から始まって特にこれと言った内容も無く終わり、空きスペースに何かの動物と思われる変なイラストが描かれていた。そのため返事は大体その動物を当てる事を主にしたためていた。そして未だに動物の名前を当てた事はない。この間は鼻が大きな怪物が描かれていたので豚だと思ったのだが、返事には犬だと書かれていた。
殿下にはそれとなく結婚はどうするのか問い出したが、ヴェロニカ姫以外との結婚は全く考えていない様子だった。ここで婚約していない事実を明かしてグレさせてしまっても困るので、仕方なく様子見を決めた矢先、エルデン王国からの嫌な手紙が届き始めたのである。
私は陛下から妃選びの話を受け、殿下に相応しい女性を探す事になった。しかし仮の妃という前提を受け入れる女性はそうはいないだろう。そのため財政が厳しそうな家を調べて行くことになった。多額の支度金を報酬とすれば受け入れる女性もいるだろうと考えての事だった。
殿下は少しアホだが誠実で優しい心を持つ人だ。だから妃となる人には殿下をちゃんと理解して支えてくれる人が好ましい。そこで見つけたのがクラーラ様だった。氷結令嬢などというあだ名を聞いて、殿下には相応しくないだろうと思ったのだが、一応調べてみた所、近親者や友人からの彼女の評価は高かった。
そこで彼女が参加する数少ない社交の場で探りを入れ、陛下と王妃様にはさりげなく面接をして頂くよう依頼した。彼女は確かに笑わないが、決して表情を崩さない事はない。そして立ち振る舞いは洗練されていて、王妃様からの評価も高かった。
クラーラ様の評判を落とすような噂は、きっと彼女に相手にされなかった男が腹いせのために流したのだろうと推測できた。
他の候補者の女性よりもクラーラ様の方が良いだろうと話し合いで決まり、仮の妃の件を伝えさせた所、彼女はすぐ受け入れてくれたという。普通の女性はこの様な屈辱的な提案は受け入れがたいだろうと思っていたが、クラーラ様はそうではなかったらしい。
彼女は仮の妃を全うする代わりに、王城でも装飾の仕事をしたいという条件を出してきた。陛下はそんな事ならいくらでもして構わないと仰り、私も彼女が快適に過ごせるように尽くそうと思った。
殿下は思っていた通りクラーラ様にきつくあたった。それでも毎日顔を見にいくのだから余程彼女が気になっているのだろう。少し様子を見てから助言しようかと思っていた所、意外にもクラーラ様の方から動きがあった。クラーラ様に贈り物をされた殿下は、驚きつつもとても嬉しそうだった。これはうまく行きそうだなと確信した日だった。
それからエルデン王国の姫が良い仕事をしてくれて、二人の仲はとても良い感じになった。クラーラ様は殿下の隣でよく笑うようになった。殿下も見た目は結構良いので、側からみればお似合いの夫婦に見える。
殿下は部屋で一人になるといつも頭を抱えて悩むようになった。クラーラ様と別れたくなくなって、ヴェロニカ姫との婚約をどうしたら良いか考えているのだろう。自分から婚約を申し込んでおきながらやっぱり辞めたいなんて、普通に考えて殿下はクズだと思うが、義理を通してヴェロニカ姫とこのまま結婚しようと考えている殿下はやはり誠実だと思う。だから真実を明らかにするには今だろうと思い、陛下から話していただくことにした。
それから殿下はクラーラ様に事実を話して求婚し、晴れて二人は本当の夫婦となった。クラーラ様の隣で嬉しそうにしている殿下も微笑ましいが、まだまだ殿下には王族としてしっかりとした人になってほしいので、度々二人を離しては殿下に勉強を強制している。殿下は私に悪態をつくものの真面目に取り組み、第二王子として相応しくなるよう努力なされている。
私はハインリヒ殿下を誇りに思う。殿下とクラーラ様が末長く幸せにいられるよう、横槍を入れながらも尽力するつもりだ。
これで完結です。ありがとうございました。




