表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/53

「一」で張り詰めた空気の中、この「二」で、次郎兵衛はついに三成本人に正面から問いを投げかけます。「治部少輔様が真に守らんとされているものは、何にございましょうか」——これまでの物語で最も直接的な問いかけです。

秀家でさえ言葉を選びながら進めてきた交渉を、末席の家老である次郎兵衛が、あえて核心から切り込む。この大胆さの裏には、第三章で岡越前守と対峙したときと同じ、「逃げずに刃の間合いに踏み込む」という次郎兵衛の胆力が、より高い舞台で試されている構図があります。

 次郎兵衛は、覚悟を決めて、口を開いた。


「治部少輔様。失礼を承知で、一言、申し上げてもよろしいでしょうか」


 三成の視線が、次郎兵衛へと向いた。値踏みするような、鋭い眼差しだった。


「宇喜多家の家臣、中村次郎兵衛にございます」


「……そなたが、近江での場を繋いだという者か。噂は聞いておる」


「畏れ入りまする。治部少輔様に、一つ、お伺いいたしたきことがございます」


「申せ」


「治部少輔様が真に守らんとされているものは、何にございましょうか。ご自身の御立場か、それとも――秀頼様と、この先の豊臣家、そして御家中の全ての方々の、御命そのものか」


 三成は、次郎兵衛の言葉に、一瞬、虚を突かれたような表情を見せた。


「無論、後者に決まっておろう」


「であれば、申し上げます。此度、我らが戦を続け、たとえ勝ちを拾ったとしても――東軍もまた、易々とは屈しますまい。長引く戦は、双方の兵を、そして罪なき民までをも、際限なく損なっていきましょう」


 次郎兵衛は、一歩、踏み込んだ。


「治部少輔様御一人が身を引かれることで、この戦を止められるならば――それは、敗北ではございませぬ。秀頼様と、御家中の全ての方々をお守りするための、最も重い戦にございます」


 部屋に、重い沈黙が満ちた。三成は、しばらくの間、目を閉じたまま、動かなかった。


この場面で一番書きたかったのは、次郎兵衛が三成を論破しようとしていない、という点です。「治部少輔様御一人が身を引かれることで、この戦を止められるならば――それは、敗北ではございませぬ」という言葉は、三成の忠義そのものを否定せず、その忠義の対象を「己の意地」から「秀頼様と御家中の命」へと、静かに問い直す形を取っています。

三成が「無論、後者に決まっておろう」と即答してしまう場面には、次郎兵衛の問いが、三成自身の中にすでにあった答えを、外側から言葉にしただけだという構造を込めました。相手に新しい価値観を押し付けるのではなく、相手がもともと持っていたものを引き出す——これは、第二章で達安の不安に光を当てたときと同じ、次郎兵衛の一貫した交渉術です。

「部屋に、重い沈黙が満ちた」という結びで、三成が初めて言葉に詰まる瞬間を印象付けつつ、次の「三」でこの沈黙がどんな答えを導くのかへの緊張感を残しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ