表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/52

「一」で戦後の均衡を確認した次郎兵衛のもとに、この「二」でついに、物語全体を通して最も重要な報せが届きます。前田利長が、旗幟を明らかにした——その報せです。

まつを岡山に留め続けたこと、旗幟を曖昧にし続けるよう説き続けたこと。第二章から第七章まで、幾度となく描かれてきた「見えない布石」のすべてが、ここで一つの結論に収束します。次郎兵衛にとってこれは、単なる戦況の好転ではなく、自分がこの世界に来てから積み上げてきたものの、正真正銘の答え合わせです。

 数日後、次郎兵衛のもとに、豪姫からの使者が訪れた。金沢からの報せだという。


「利長様が、ついに旗幟を明らかにされました」


 その報せに、本陣にいた者たちの間に、緊張が走った。


 次郎兵衛は、固唾を呑んで、使者の言葉の続きを待った。


「前田家は、西軍への合力を表明。加賀・能登の兵を挙げ、北陸より東軍の背後を脅かす構えを見せておるとのこと」


 その瞬間、次郎兵衛の胸に、熱いものがこみ上げた。


(変わった……本当に、変わったのだ)


 史実であれば、前田利長は完全に家康に恭順し、東軍として越前・加賀方面で西軍に与する大名たちと戦っていたはずだった。だが、まつを人質として差し出すのではなく、娘のもとに送るという「岡山行き」の一手が、前田家の去就をぎりぎりまで宙吊りにし続けた。そして今、関ヶ原で東軍が決定的な勝利を得られなかったことが、その天秤を、ついに西軍側へと傾けさせたのだ。


「戸川殿」


 傍らにいた達安に、次郎兵衛は声をかけた。


「前田までもが動いたとなれば……家康様も、容易には動けますまい」


「うむ。加賀百万石の兵が背後に立てば、たとえ関ヶ原で優位に立っていたとしても、家康様は北陸と美濃、両にらみを強いられよう。此度の均衡、そう容易くは崩れまい」


 達安の声にも、確かな手応えが滲んでいた。



この場面で書きたかったのは、次郎兵衛の実感を、静かな高揚として描くことでした。「変わった……本当に、変わったのだ」という独白は、これまでの章で繰り返されてきた「変わった」という実感の、いわば最終形です。関ヶ原での局地的な変化から、天下の勢力図そのものの変化へ——次郎兵衛が動かしたものの大きさが、ここで初めて明確な形を取りました。


達安との「此度の均衡、そう容易くは崩れまい」というやり取りには、これまで積み重ねてきた信頼関係が、もはや言葉少なでも通じ合う域に達していることを込めています。第二章で普請場から始まった二人の関係が、天下の情勢を語り合う対等な間柄にまで育った、その到達点でもあります。


ですがこの章はまだ、物語の終わりではありません。次の「三」では、次郎兵衛自身が「俺の知識は、ここまでだ」と自覚する場面が描かれ、いよいよ第一部そのものの締めくくりへと向かいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ