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Pligme プリグメ  作者: 宍冬
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メテロア

 その美女の名前は、メテロアという。

 俺とメテロアは、それから恐ろしいほど長い時間話し込んだ。


 俺の生い立ち話から始まり、好きな漫画、本、映画、アニメ、ゲーム、スポーツ、俺の世界の歴史、機械、エネルギー、社会、仕事のこと、恋愛などなど。どっぷり話し込だ。というか、俺が一方的に話した。


 話をするうえで、1番大変だったのは、もとの世界の常識を知らないメテロアに説明するために、色々と補足説明が必要なことであった。漫画の話をするとしたら、そもそも漫画とは何かを説明し、物語を一話一話丁寧に話をするだけでなく。設定や、時代背景、その漫画の世界観の常識など、普通じゃ説明しなくて良い範囲まで、事細かに説明する必要があった。


 例えば、電車ってなに?車ってなに?ファンタジーってなに?スキルってなに?チートってなに?とか、宇宙の仕組みや、重力の概念や人体の構造などのあらゆるものを説明しなければならなかった。


 当然、俺の知識量にも限界があって、「なんかそんな感じなんだよ」と誤魔化すこともあったが、できる範囲で自分の言葉で説明をした。自分の口から、全く知らない人に説明するという行為が、こんなに大変なのかと痛感したと同時に、自分が今まで、ほとんどの事象を、わかったつもりで生きて来たことに気付かされた。


 あらゆることを、自分の言葉で話していくと、面白いことに自分の考えがみるみる整理されていくことが体感できた。前の世界では、何も考えずに便利だなと思っていたものが、「あれ、いらなくね?」「時間の無駄だったな」「逆にこれはもっとやっていれば良かったな」みたいな気付きが得られたのも不思議な体験だった。


 自分でも驚いたが、人に話をすることが、こんなに自分にプラスの影響が出るとは思わなかった。疲れるけど。すごく疲れるけど。




 メテロアも、俺の話に喜んだり、怒ったり、泣いたりして、話し手の俺としても、ついつい熱が入ってしまう。それに、メテロアの質問や合いの手が、また素晴らしく上手で、ついつい乗せられ、饒舌になってしまったのだ。


 恐ろしい。

 口だけ動かして、余裕で1日が終わるという体験をしたのは、これが生まれて初めてだったのかもしれない。結局、何日話し続けたんだろうか。


 メテロアと俺は、ただただ話し続けた。

 腹が減れば、魔法のように食事をテーブルに出現させ、ご飯を食べながら話をする。風呂に入る時には、仕切りで分かれた露天風呂が目の前に現れ、仕切りを介しながら、大声で会話を続けた。眠くなると、メテロアが魔法のようにベッドを二つ出現させ、2人で寝転びながら話を続け、寝落ちするまで会話をする。起きても、「おはよう」の次には、会話が始まった。


 こんなに長いこと異性と話をすると、ほぼ童貞の俺ならば、すぐ好きになっちゃうはずなのだが、今回はそうではなかった。メテロアには、母親ような安心感と、姉のような親近感があった。恋心よりも、友情が芽生えた感覚だった。男女の友情は、ありえない派だった俺なのだが、気付けば、俺とメテロアは、親友になっていた。





「それそうと、お前そろそろ地上に戻れ」


 と思っていた矢先、突然メテロアがそんなことを言う。


「え、なんだ、急に冷たいじゃん」


「いや、そういうことじゃなくて。えーっと、なんて言えば良いか。まず、最初に時間ならたっぷりあると私は言ったが、あれは嘘だったかもしれん。もしかしたら、この場所は、お前の身体に負担がかかっていて、あんまり長いし過ぎると、お前に良くない影響が出るかもしれん」


「ん?なんの負担がかかるの?俺体調バッチリなんだけど」


「ここは、私が元子をつくる場所だと言ったのを覚えてるか?元子っていうのは、この世界の至る所で生まれて、循環し、そして消えていく。元子は、目に見えない、感じられないだけで、物質の中や大気中、この世界の至る所に満ち満ちている。そうだな、この世界は、元子のプールの中に浸かっていると、言っても良いかもしれないな」


「ふーん、言いたいことは、なんとなくわかる」


 空気よりも微細な粒子的なものがこの世界に漂っていて、それが元子と呼ばれているってことだろう。それを精霊が生み出したり、管理しているのが、この世界のルールなのだろう。


「この洞窟は、とにかく元子濃度が濃い。本来、尾人や普通の精霊くらいだと入って来れないと言ったが、それはつまり、尾人や普通の精霊では、数分で絶命するほどの濃度なんだよ」


「 マジかよ、言えよ!」


「いや、すまんすまん。お前が最初から何とも感じていなさそうだったから、放っておいたんだが、流石にちょっと心配になってきてな」


「おいおい、大丈夫なのか?俺は」


「まあ、今も影響はなさそうだから、問題ないだろう。ただ、やはり絶対安心とは言えない。お前のためにも、ここにはあまり長居すべきじゃない」


 メテロアは心配するような顔で俺を見る。

 そんな顔されたら困る。


「えーっと、ちなみに俺がここに来てから、どれくらい経った?」


 もう長いこといた気がする。


「大体、30日だ」


「1ヶ月!?マジか」


「マジだ。それとこれは私の予想なんだが、本来、異世界から来たお前は、この世界とは別の理で成り立つ生き物だ。だから、この世界にしかない元子や精霊を感じることは本来できなかったはず。しかし、たまたま元子濃度の濃いこの洞窟に迷い込むことで、たまたま私を感知できたんじゃないかと、私は考ている」


「ほお」


「ここでたくさんの元子をお前が浴び続けたことで、別の理で成り立つお前の身体が、強引にこの世界に順応したんじゃないかと、私は疑っている。もしかしたら、お前は、この世界のどの尾人よりも、元子や精霊の機微に敏感になったかもしれない」


「そんなことあんのか?」


 言っていることはわからなくもない。


「うーん、まあ私としても多分、としか言えない。なにせ過去にこんなことはなかったから確証がない。だが、まあ尾人よりは精霊への感度は高くなっているはずだ。ヤツらは、もともと元子や精霊の扱いに疎いからな」


「ほー、それじゃあさ」


 と、俺が話を続けようとしたところで、メテロアが遮る。


「ほら、もう話は終わりだ!お前と話すことは、もうない!さっさと出ていけ」


 メテロアは面倒腐そうに手を振った。


「急にひどい!」


 俺はウルウルしてみせる。


「やめろやめろ、いつまで私と話し続けるつもりだ」


「だって、俺的には、もはや元の世界の実家よりも、ここの方が居心地良いんだもん」


 自分でも不思議なことだが、快適な住環境と、有意義な話し相手は、人生を豊かにするとがわかった。とにかく俺にとって、メテロアとの会話は最高の時間だった。



「はいはい、わかったわかった。・・・それじゃ、これからお前を地上に転送するぞ。ヘタな森や山だとすぐ死んでしまうだろうから、尾人たちの町の近くに送ってやる」


 俺は、鹿の怪物を思い出す。たしかに、あれは死ぬな。


「そうだ!メテロアよ、転送もマジで助かるんだけど、俺がこの世界で死なずに済む、なんか良いものちょうだいよ」


 この後、地上に出て、すぐ死亡は避けたい。


「良いもの?んー、そうだな。この外套をお前にやろう。良いヤツだから、お前の身も守ってくれるだろう」


 メテロアは、自分の外套を持ってくると、俺に渡した。


「確かに、服はありがてえ。けど、これだけじゃ、俺は、すぐに死んじゃうぞ」


 外套で凌げるのは雨風と寒さくらいだ。あの巨大鹿のような怪物にはひとたまりもない。


「注文が多いヤツだな、それなら・・・」


 メテロアは、掌を掲げるとそこに金色の光を浮かべた。そして、その光をそっと俺の胸に仕舞った。


「なんだなんだ?」


「私の加護をやろう。ちょっとは、役に立つはずだ。それと、地上に着いたら信用できる精霊をお前の護衛に付けてやる。加護のことはそいつに聞け」


「加護って、何だか凄そうだな。しかも護衛まで付けば、安心だわ。助かるよ」


 加護といえば、きっと最強チートに違いない。


「それと最後に、これは忠告だが、この世界は、お前の好きな漫画みたいにスキルだとか、チートで強くなるなんて都合の良いことはない。魔法はあるが、これは努力、研鑽するしかない。もちろん、急に力持ちにもならないし、強くもならない。日々鍛錬あるのみ。これがこの世界の現実だ」


「え、チートで強くなれないの?」


 じゃあ、俺にくれた加護は何なんだ?

 異世界無双はできない?


「アニメや漫画じゃあるまいし、チートで強くはなれるわけないだろ。まあ、できるだけの援助はしたつもりだ。ただ、私の加護だって、上手く使えるかはお前次第だ」


「まあ、そんな甘くないわな。色々してもらったんだ、死なないように頑張るよ」


「まあ、好きに生きなよ、ユキオ」


 メテロアはニコリと微笑む。


「ありがとうなメテロア。今度、土産話を持ってくるよ」


 俺の視界は一瞬で白くなった。






 鳥の声がする。

 そして、次には緑の香りだ。

 つい最近、全く同じ体験をした気がする。


 俺は、目を開いた。

 まぶしい。


 そして、身体を起こし周りを見る。メテロアが言うには、町の近くに転送したとのことだが、辺りを見回しても町の気配はない。森だ。


 えーっと、あれ、夢だったとかないよね?


 そう思って、自分の左手を見る。手にはメテロアからもらった外套が握られている。洞窟の中ではベージュに見えていた外套も、太陽のもとで見ると、カーキ色に見える。


「とりあえず、夢じゃないみたいだな」


 俺は立ち上り、その外套を羽織った。たかが外套1枚だが、暖かい。生地は薄手で、しっかりとしていて、良いものであることがわかる。


「外套は良し。それと、護衛は?」


 俺は周囲を探し回るが、護衛の護の字も落ちていなかった。


「転送もダメ、護衛もダメか。まあ、しゃーない!また、今度文句を言ってやろう」


 また、いつかあの洞窟に行こう。


「さて、好きに生きるか」


 俺が歩き始めようとしたそのとき、森の奥からキンキンと金属がぶつかり合う音が聞こえた。



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