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Pligme プリグメ  作者: 宍冬
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森の怪物

 鳥の声がする。

 無意識に目を開けた。


 まぶしい。

 ん?寝てたのか?

 いつ寝たっけ?


 俺は身体を起こして、周囲を見回した。


 「どこ?ここ?」


 「えーっと・・・マジでどこだ?」


 森で横になっていたらしい。


 なんでここにいる?

 というか、ここはどこ?


 首を捻りながら、立ち上がり周囲を見回すが、特に目新しいものはない。

 森だな、完全に森だ。首を捻りながら見回していた。


 とにかく緑の草の香りがすごい。草の香りが濃いといえば良いのか。まあ、匂いが感じるということは、少しは落ち着いて来たということだ。おまけにもう一度、深呼吸をする。うん、空気が最高にうまい。

 それにしても、下草に陽光と木漏れ日がきれいな森だな。不思議と懐かしくも感じる。全く知らない場所だけど。



 さて、落ち着いてきたところで、自分の直前の行動を思い返してみよう。


「・・・」


 ビックリするほど憶えていない。


 すっぽり抜けているというか、なんかあったんだろうけど、全く思い出せない。正確には、頭が思い出すことを勝手に拒んでるような、なんとも言えない感覚だな。


 うーん、ダメだこりゃ。


 記憶喪失というヤツか?それなら、自分のことを、思い出してみる。自分はどうやって育った?どんな経験をしてきた?・・・うんうん、思い出せる、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、仕事も思い出せる。なんとなくだけど。


 なんとなく、というのは、自分の記憶の中にいる人の顔が靄がかかったように朧げだからだ。


「ん?」


 というか、俺は何歳だ?


 うーん、わからない。全く自信がない。鏡もないから、自分がどういう状態かもわからない。多分、大学を出て、働いている記憶がそこそこあるから、25〜30歳くらいかな。たぶん。自分のことなのに、なんとも大雑把だ。というか、自分の顔を見てみないことにはわからんな。


 なんというか、知識としては、思い出せるんだけど、映像というか体験というか、では思い出せない?みたいな、なんとも言えない。まあ、とりあえず思い出せないということは確かだ。よし、一旦、記憶を遡ることはやめよう。



 十分冷静になった。さて、ここはどこだろう。耳を澄ます。葉の騒めきと、鳥と虫の声だけだ。車の音1つ聞こえない。相当、田舎にいるようだ。


 地面にしゃがみ込み周囲を見てみる。地面に傾斜ほとんどない。森は森でも山ではないっぽい。森の中にいるせいで、遠くの景色が見えない。木漏れ日の雰囲気から、日は高い位置にあることはわかる。方角もちゃんとわからない。


 ・・・まあ、とりあえず、歩こう。






 歩きはじめて、どれくらい経った?1時間くらい経ったか?多少の上り下りはあれど、山じゃないことはわかった。人が歩いたような形跡もなく、とにかく歩きにくい。


 そんなことを思って歩いていると、うっすらと水の音が聞こえて来た。

 思わず走り出し、木々の隙間から川が見える。


 川だ!川だ!わー!!!

 完全にテンションが上がる俺。


 河原に出ると、かなり広い川だとわかる。視界が開け、遠くの山が見える。見たことないほど高い山だ。山頂近くには雪も見える。なんとも、現実離れした幻想的な景色だ。少なくとも俺の住んでいた周辺には、あんな山はない。


「ここは海外なのか?」


 うーん、誘拐でもないだろうに。夢遊病でこんな知らないところ、来ないだろうし、本当に俺の身に何が起きたんだ。全くわからない。


 全く何もわからない状況だが、ただ一つわかることがある。

 これだけ開けた場所に出たからこそわかる。目の届く範囲一体には、道路やら車やら、電線もなければ、文明らしいものは一切ない。つまり、誰にも助けを求められない。しばらくサバイバルするしかないという状況に置かれたということだ。


 そうなると、この川の水が飲めるかどうかは、生き残る上で非常に重要だ。俺は緩やかな大きな川に近づき、両手で川の水を掬う。見たことないほど透明な水である。ちょっと唇を付けてみる。ペロペロ。


 うーん、大丈夫そう。こんだけ大自然だし、この水の冷たさは、あの山の雪解け水じゃなかろうか。ちょっと時間を置いて、お腹に変化がないか待ってみよう。問題ないだろうが、念には念をだ。サバイバルなのだから、身体は大事だ。


 おっと、そんなことより、寝床を確保せねば。サバイバルには、まず寝床と聞いたこともある気がする。そんな俺の格好は、白いオックスフォードシャツと黒いテーパードパンツとグレーのスニーカーである。夜はちょっと厳しいだろう。


 せめて、アウターを着ていればありがたかったのに。ポケットの中を探ってみるが特に何もない。スマホも鍵もない。スニーカーは、履いてるんだから、外出中に俺はここに来たんだよな。


 外出中なのだとしたら、リュックなり、スマホなり、鍵なりは、必ず持って出るはず。それがないとなると、盗まれた?どっかに置いて来た?うーん、わからないな。俺は一体どういう状況だったんだろう。


 まあ、考えても仕方ない。


 とりあえず、道具も刃物もないのだから、川の石を割ろう。サバイバルの本とかで見たことある。石が刃物の代わりになるらしい。


 河原で、丸く長い石を大きな石の上に乗せ、もうひとつ石を上から打ち付ける。石の割れる良い音が河原に響いた。ちょうど良い石ができるまで、何回も石と石をぶつけ合う。これがなかなか難しい。うまく割れないし。


 そんなことをしばらくしていると、誰かに見られている気がして、ある視線に気がついた。川の向こう岸、300mくらいの距離か?鹿がいる。じっと、こちらを見ているようだ。


「鹿だ。・・・いや、鹿か?」


 なんか、ものすごくでかい。ヘラジカ?いや、もっとでかい。足元の石や奥の木と比べるとその異様さがわかる。建物3階くらいの大きさはあるんじゃないだろうか。


 その異様な巨大さに一瞬恐怖する俺。だが、巨大鹿は動かずにこちらをじっと見ている。少しずつ怖さが去り、今度は神聖な雰囲気を感じ始めていた。


 もしかしたら、俺はものすごくラッキーなものを見ているんじゃなかろうか。UMA的な、古代の鹿を奥地で目撃した的なことではなかろうか。スマホがないから写真は撮れないが、覚えておこう。すごい、とんでもないものと出会ったぞ!



 すると、巨大鹿は突然、地面蹴って、こちらに向けて走り出した。

 同時に自分の身体中に一気に血液が走るのがわかった。ヤバい。殺される。


 なにが神聖だ!!アホか!!!


 俺は、一目散に回れ右をすると、森の中に向けて走った。あれだけの巨体だ、できるだけ森が茂っている方へ逃げよう。森に入ってすぐ、俺は後ろを振り返った。すると、巨大鹿は、もう川を渡り切るところであった。


 速すぎるだろ!!やばいやばいやばい!


 森の中を思い切り走る。

 小枝が頬をかするが、気にしない。

 ただ効率的に森の中を走ることだけ考える。


 俺の必死の走り虚しく、すぐに背後から、ドタンバタンと重いのに軽快な足音が近付いてくるのを背に感じ、後ろを咄嗟に振り返る。すると、巨大鹿の大きな角が、俺に目掛けて向かっていた。それはもはや、反射だった。


 俺は木に隠れるようにして飛び込んだ。


 次の瞬間、巨大鹿が、木にぶつかった。木の幹がめきりと潰れる音と共に地面が揺れた。

俺は急いで体を起こすが、金縛りのようにそこで、俺の体が止まってしまった。


 なぜなら、巨大鹿の眼球が俺の目の前に立ち塞がり、俺を睨んでいるのだ。バスケットボールのより大きい真っ赤な瞳の迫力と、地面に跳ね返り、下から吹き上げる生臭い巨大鹿の呼吸が俺の身体を硬直させるのだ。


 これは死んだ、マジで。

 そう絶望しているときに、俺は右手に持っているものに気付いた。


 俺は、咄嗟に右手に持っていた、刃物に変わった河原の石を巨大鹿の眼球に力いっぱい刺した。その瞬間、巨大鹿は悲鳴と共に頭を振るい、俺を側頭部で吹き飛ばした。吹き飛ばされた俺の体はやっと動き出し、その場から一目散に立ち去り、死に物狂いで走った。

 しばらく先に岩場があるのを見つけ、俺は走りながら、身を隠せるところを探した。


 あそこだ。岩に割れ目がある。


 後ろから、ドタンバタンと巨大鹿の足音が近付いているのがわかる。

 やばいやばいやばいやばいやばい!!


 俺は、岩場の割れ目に頭からダイブするように飛び込んだ。盛大に岩場の中で転がり、背中やら膝を岩にぶつけてしまうが、全く気にしない。俺は割れ目の方を向き直る。

 その瞬間、ドシンと地面が揺れる。

 岩の割れ目の外で、巨大鹿が岩場にぶつかっているようだ。更には腹に響くような怒号をあげて、何度も岩にぶつかっている。


 俺は岩が崩れないように祈るしかない。

 しばらくの突進の後に、巨大鹿は、嘶きながら足踏みをした。

 それから、ゆっくりとではあるが、その場を立ち去っていった。



「い、いきてるよ、おれ」


 放心状態ではあるが、なんとか安堵する。

 それから、安堵と共に身体中の痛みに気付いてくる。


「っていうか、いてぇ」


 背中や膝を抑える。


「こわすぎだろ!あれ化け物じゃねえか!ここどこだよ!マジで!現実かこれ!?」


 テンションが上がって、色々叫ぶ俺。


 しばらく叫んだが、とりあえず深呼吸をすることにする。

 落ち着け、俺。深呼吸、深呼吸。ふぅー。まずは、周りを確認してみよう。


 どうやら、ここは洞窟になっているようだ。

 まだまだ奥にも行けそうである。


 岩の割れ目から外に出ても巨大鹿に殺されるだけだ。

 ここは、奥に進むしかない。

 少し落ち着いてきた俺は、ゆっくりと洞窟に足を進めた。

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