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足して2つの高校生活  作者: 赤槻春来
12月.クリスマス(仮)
23/51

聖夜のゴタゴタ


「はじめ大丈夫?なんか辛そうだけど…」

 クリスマスを翌日に控えた24日。世間ではクリスマスイヴなんて呼ばれてるらしいけど今の俺にはどうでもいいことだった。

 心配そうにこちらを覗き込む霞に、俺は机に突っ伏していた頭をゆっくりと上げた。

「大丈夫大丈夫。ちょっと最近寝不足気味で…」

「そう?ならいいんだけど…」

 言えない…先週はじめた編み物が予想以上に楽しすぎて昨日まで徹夜で作ってたなんて口が裂けても言えない…

 俺がそんなことを考えていると、不意に霞が何やらラッピングされた小包みを差し出してきた。

「えっと…念の為聞くけど。霞、コレは一体…?」

 霞はそんな俺の言葉に「わかってるくせに」とか言いそうな表情をすると、ほんのり頬を赤く染めながら口を開いた。

「クリスマスプレゼント…だよ」

 恥ずかしそうにそう言う霞はとても可愛かった。

「開けていい?」

「ダメ!家に帰ってから開けて…」

「あ、うん。わかった」

 しかし…こうプレゼントを渡されるとこちらからも何か渡さなきゃって衝動にかられるんだよな…

 まぁそんなことされなくても明日渡す予定だったしあんまり変わんないんだけどな。

 俺はその小包みをそっと鞄にしまうと、霞のほうに向き直った。

「ありがとな」



ーーー



「い、いっちゃん!」

「ん?どした春?」

 俺が部室に行くと、扉の前でモジモジしている春が俺を見るなり声をかけてきた。

「こ、これ!く、クリスマスプレゼント!」

 春は自身の鞄をゴソゴソと探ると、多少クシャクシャではあるがラッピングされた小包みを俺に差し出した。

「ありがとう春。開けていい?」

「だ、ダメだよいっちゃん!そういうのは持って帰ってからにしてくれなきゃ!」

 なにこれデジャヴ…

 たしかにデリカシーに欠けそうな発言ではあるか…

「じゃあ帰ったら開けさせてもらうわ」

「うん」

 俺は一旦春にどいてもらうと、扉の鍵を開けて中へ入った。

 もうこの季節になると廊下はおろか部室も相当冷えているので、一度窓を開けるとストーブをつけた。

「あぁ〜あったかいぃ〜」

「そりゃあんな寒いのに廊下にずっといるからだ」

「だっていっちゃんいつも早く来るから」

 いや、今日は先約があったんです。

 なんて言葉が口から出かかったがなんか後が大変そうなのでそこで口を閉じた。

 春はそんな俺を見て何か感じたのか一瞬首をかしげたが、なにを言うでもなく元の体制に向き直った。

 俺はそんな春を横目に荷物を置くと、ソファーの端に腰を落とした。

「明日」

「ん?」

「明日プレゼント渡すわ。まさか今日もらうと思ってなかったから今は持ってきてないだけなんだけど」

 俺の言葉に春が返事をしようとしたのか口を開けようとした瞬間、ガチャリと部室の扉が勢いよく開かれた。

にのまえよ!今プレゼントというワードが聞こえてきたが、この我がいない間に何をしている!」

「吉田、何言いたいのか全く理解できねぇ…てか何もしてないし、そもそも何かするような部活でもないし。てか響ちゃんは?」

「…風邪」

「あ、うん…」

 そんな吉田の言葉に俺がそう言うと、吉田は周囲を見渡して軽く咳払いをした。

「しかしこの様子…我はてっきり我抜きでクリスマスパーティーでも行っているのかと…」

「んなわけあるか!?てかクリスマスパーティーか…今日は家族でやるからあれだけど、明日みんなの予定が合えばできるんじゃないか?」

 まぁできたらそのときにプレゼントを渡すという自然な流れもできるしな。

 俺はこの案についてどう思うかという意味を込めて春に目を向けた。

 春はニコリと微笑むとその口を開いた。

「あたしは賛成かな。今日は家族3人でお祝いすることになってるから明日は大丈夫だよ」

「ん、春は大丈夫か…じゃあ後は霞が来れるかどうかだけど…」

「そういえば若林さんいないね。いっちゃんと一緒じゃないっていうのも珍しい…」

 たしかに霞はいつも気付いたらそばに居るからな…掃除もないのに珍しい…

「ちょっと連絡してみるか」

 俺はスマホを取り出して若林にメッセージを送った。

『霞、俺だ。確認してくれ』

 …ん?

 俺がメッセージを送った瞬間、扉の前から俺の声が聞こえてきた。

「えっと…にのまえよ、何か言ったか?」

「いや、言ってないけど…」

「いやでも誰がどう聞いてもにのまえの声だったぞ!?」

「知らねえよ!?」

「いいなぁ…あの着信音…後で教えてもらお…」

 吉田が叫んだ言葉に俺が思わず言い返していると、春は何やらブツブツ言っていた。

 俺は吉田を宥めると、恐る恐るその声の正体を知るため、扉を開けようとノブに手をかけた。

「あっ…」

「えっ…」

 扉を開けると、ニヤけた表情で自身のスマホと睨めっこしてた霞とばっちり目があってしまった。

「えっと…とりあえず中入れ、な?廊下は寒いから」

「…うん」

 

 霞曰くあの声はスマホの着信音らしい。…何故俺の声だったのか知りたかったが…まぁこの際どうでもいいか。

「…で、さっき廊下であの地味眼鏡とバッタリ会って、はじめの話をしてたら遅れちゃって」

「待て待て、その話を聞くと由良がここに来てることになるんだが…マジ?」

「マジ」

 今日はわからないことが多い。うん。

 てかなんで由良は普通に校舎内に入って来れんの?他校の生徒でしょ?

 色々な疑問が俺の頭の中をぐるぐると回っていると、不意にコンコンと扉がなった。

「失礼しまーす!五十嵐、やっほ」

「由良、なんでここに来れたんだ?ここ一応他校だろ?」

「いや、生徒会の一環で顧問の先生と一緒に来たから問題ないよ。ちゃんとアポとってるし」

 俺の言葉に由良は調子良くそう答えると、持っていた荷物を放って俺の隣へと座ってきた。

 いやいや近い近い柔らかいいい匂い…じゃなくて!

「それに、明日も来るからね?パーティーやるんでしょ?」

「ちょっ、由良!?近づきすぎじゃ…」

 俺が抵抗しようとすると、由良はその瞳から一瞬光を消すと、ポツリと呟いた。

「ズルい…」

「え?」

「そこにいる井上さんや若林さんはいつもこうやって五十嵐に抱きついてるんでしょ?私はいつも五十嵐が何したのか把握するだけで精一杯なのに…」

「この女狐オンナ…!」

「あたしだっていっちゃんと一緒にいる時間が少ないのに…!離れてよこの地味眼鏡!」

「おい待て。今さらっと危ない発言が聞こえた気がするんだが…」

 俺の声が聞こえていないのか、3人は言い争いを始めてしまった…いや、色々当たって役得ではあるんだが嬉しくないのは何故だろう…

 俺が助けを求めようと吉田のほうを見ると、まるで自分は関係ないとでも言うようにそっと目を逸らされた。…いや、たしかに他人事だけどさ。

 3人が争っていると、また部室の扉がノックされた。

 タイミングとしては嬉しいが…今日来客多くない?

「ちょっと3人共、一旦離れてくんない?ほら、誰か来たみたいだし」

 3人はお互いの顔を見合わせると、渋々と言った様子で俺の身体から手を離した。

 俺はソファーから立ち上がると、再び扉を開けた。

「はいはい、どちら様ですか」

「フフフ…我が名は如月きさらぎy…」

「あ、そーゆーのいいんで本題に入ってください。如月先輩」

「アッハイ」

 何やら前にも似たような状況があったような気もするが…まぁ気のせいだろ。

 如月先輩はしばらくの間俯くと、不意にその顔を上げて俺の顔をジッと見てきた。

「…なんすか先輩?」

「あ、あの!明日空いてますか!?」

 顔を真っ赤ににして言う如月先輩…可愛い。

 じゃなくて!え、何?俺今明日空いてるかって聞かれた?

「明日はここにいるメンバーでクリスマス会でもやろうかなって思ってますよ。よければ先輩も参加します?」

「え、いや…そういう意味じゃ…」

「?」

「さ、参加します…」

「わかりました。では明日の放課後ここに集合、ということで」

 如月先輩はコクリと頷くと、そのままものすごい勢いで去っていった…

 如月先輩は癒し。満場一致、可決!



ーーー



「…ってことがあったんだよ」

「へぇー…はじめもあの人に似てきたね」

「あの人…?」

「いや、なんでもない」

 家に帰った俺は、珍しく張り切って台所に立っている母さんの手伝いをしながら今日あったことを話していた。

 そういえば母さんがこの時間にいるのも珍しいけど、最近じゃ霞や春、由良も家にいることが多いからなんかとても不思議な感じがする…

「あ、はじめ。その皿とって」

「ん、これ?」

「うん」

「はい」

 母さんのさっき言った『あの人』というのも気になるが、俺は妙に張り切っている母さんに水をさすことはできなかった。


義兄おにいさん!見てください!完成しました!」

 俺が食卓に料理を並べていると、先程まで部屋に篭っていた椿ちゃんがドタドタと足音を鳴らしながら階段を降りてきた。

「はいはい義兄さんですよっと」

 俺はそう返事をすると、母さんのほうを見た。母さんはまるで椿ちゃんに構ってやれとでも言うように目配せをしてきたので、俺は持っていた残りを並べ終えると椿ちゃんの元へと向かった。

「どれどれ…コレが明にプレゼントされるマフラーか…?ちょっと歪すぎないか?」

「あぁ!義兄さん、それは練習で作ったやつですよ!てか義兄さんも一緒だったから知ってるでしょう!」

「悪い悪い…ほんの冗談だよ」

 俺はその歪な形をしたマフラーを置くと、椿ちゃんに手編みの赤いマフラー(おそらく完成品)を手渡された。

「…どうですか?上手くできてますよね…?」

「これは…」

 そのマフラーは先程俺が手に持っていたものとは全く違うものだった。うん。しっかりと綺麗に編めているし既製品と言っても遜色ないレベルだ。

「いいんじゃないか?何も言わなかったら既製品って言っても大丈夫だと思うけど」

「でも義兄さんの作ったやつのほうが綺麗じゃないですか…」

「いや、俺のは関係ないだろ」

「ありますよ!同じタイミングで始めたはずなのになんであんなに早くてあんなに上手いんですか!」

「まさかの逆ギレ!?」

 椿ちゃんはそう叫びながらテーブルを指差すと、そこには俺が椿ちゃんに編み物を教えるために作った毛糸のマフラー、手袋、帽子がいくつか置いてあった。

 たしかに我ながらよくあれだけ作ろうと思ったよ。うん。わざわざそれを3セットずつ作るとかマジで馬鹿なんじゃねぇの?

「たしかに義兄さんに教えてって頼んだのは私ですけど…同じく初心者だったのに納得いかないです」

「まぁ作ってたら楽しくなってきて『よし、みんなの分作るか!』なんて調子に乗ってたからな。さすがに時間なかったから徹夜したけど」

 だからこそ寝不足なんだけど。まぁいつも学校で寝てるしな。さすがにまずいか。

「でも義兄さんの場合はそんなこと言ったって簡単にこなしちゃうじゃないですか!」

「いやしらん…俺だって最初は初心者だ。まぁ慣れは早い方だと思うけど」

 椿ちゃんは納得いかないと言った様子でしばらく頬を膨らませていたが、「ただいま」という明達の声が玄関から聞こえてくると一瞬で元の明るい表情に戻った。



『メリークリスマス!』

 いつもよりちょっと豪華な夕食を食べ終えた俺達(親父は残業)は、母さんが切り分けたケーキを各々の皿に乗せると口を揃えてそう言った。

「んじゃ、椿ちゃん。なんか明に渡すものがあるんじゃない?」

「義兄さん!?な、なんでそれを言っちゃうんですか!」

「だってさっきからずっと明のほう見てソワソワしてるから…ソレ、渡さないの?」

「渡しますよ!?」

 状況が理解できてない明に、椿ちゃんは持っていた手編みのマフラーを明に手渡した。

「明、義姉おねえさんからのプレゼントだよ。リョーとはじめも協力してそれを隠すのに必死だったんだから」

「そうなの?」

 明は亮の一言を聞くと、真偽が確認するように俺と椿ちゃんのほうに目を向けてきた。

 まぁ隠すって言っても俺と椿ちゃんが夜中を返上して編み物を必死に勉強したり、それを勘づかれないように亮が明を外に連れ回したことくらいだしな。

 俺達は肯定するように頷くと、明は何故か安堵したような表情を浮かべた。

「よかった…最近椿との時間が取れなかったから、もしかしたら嫌われたんじゃないかと思ってた…」

「んなわけあるか!椿ちゃんお前のために深夜返上でずっとコレを作ってたんだぞ!…まぁ不安になるのはわからないでもないけどさ」

「義兄さん!?」

 椿ちゃんが一途なのは知ってるし、何よりこの目でずっと2人の間を見てきたからわかる。まぁ時間って言ってもちゃんと節度を弁えてほしいけど。

 俺がそんなことを考えていると、どうやら2人は自分達の時間に入ってしまったのか亮や母さんが苦笑しながらそっと席を立った。よし、俺も一度離れますかね。



 家族のささやかなクリスマスパーティーが終わると、俺は1人自分の布団の上で眠れずにいた。

 まぁ眠れない理由は色々あるんだろうけど、なんかこう…最近寝てないからぐっすり眠れるかと思っていたが、普段この布団で寝る時は霞と一緒だったイメージが強いせいかひどく寂しくおぼえてくる。

 椿ちゃんの手作りマフラーを明は喜んでいたが…霞も春も由良も…喜んでくれるだろうか?

「あ…もらったプレゼント開けてないや」

 俺はのそのそと布団から出ると、鞄から2つの小包みを取り出してそれを開けた。

「アイツら…意外と俺のこと見てくれてんだな…」

 贈られた品物を見た俺は、ポツリとそんな声をこぼした。

 社交辞令とかではなく、アイツらの言葉が本心だということはなんとなくわかっていたつもりではあったが…心のどこかでそれを疑っていた俺が馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 まぁ中に入っていたのは霞は手袋、春はマフラー(どちらも既製品)というものなんだけど、ちょうど無くてこれから買おうかとも思っていたものだった。

 これは…早速明日つけていく必要がありそうだな。

 俺が1人そう心に決めていると、不意にコンコンと扉をノックされた。

「はじめ、入るよ」

「もう入ってるだろ母さん…」

 部屋に入ってきた母さんは何をするでもなく、そっと俺の隣に座ると、何やら小さな封筒を渡してきた。

「母さん、これは?」

「うーん…一応、クリスマスプレゼントかな?中身は今確認しなくてもいいけど、もうそろそろ隠す時期ではないと思って」

 封筒の中を覗くと、何やら写真のようなものが数枚入っていた。

「はじめにはいつも苦労かけてるから、今日くらいは、ね?」

 母さんはそう言って俺のことをそっと抱きしめてきた。

 もう高校生になって恥ずかしいとも思うが、なんというかその、久々に母親の温もりというか愛というか…そんなものを感じた気がした。

「はじめら、私達はできなかったけど、ちゃんと相手の想いには応えてあげてね。お母さん、はじめが何人お嫁さんを連れてくるのか楽しみだから」

「いや、嫁って…俺は誰とと付き合ってないし、日本は一夫多妻じゃないよ母さん」

 俺はそっと母さんから身体を離すと、再び元の位置に座り直した。

「明日、学校でパーティーをやるんでしょう?ちゃんとお嫁さんの分プレゼント用意してあげるんだよ」

「だから嫁はいないって」

「どうかしらね」

 母さんはどこか楽しそうにそう言うと、笑いながら部屋を出ていった。

 やり方は多少強引ではあるが、母さんのおかけで少しこの寂しさが紛れた気がした。

 霞、春、由良…今夜も返上して如月先輩の分作りますか。




ーーー



 12月25日。

 学校は明日から冬休みの為、授業自体はなく主に終業式で校長のありがたい話(笑)だけだった。

 どうやら今日は部活自体が禁止らしく部室には入れないので、俺、霞、春、吉田の4人は由良との待ち合わせも兼ねて校門の前で集まっていた。

 まぁ由良に連絡したとき「会場なら私に任せて」と言っていたので会場云々は由良に任せることにした。

「すみません。遅れてしまいました…」

 俺が振り返ると、走ってきたのか息を切らした如月先輩が何やら大きな袋を片手に立っていた。

「先輩、どうしたんですかその荷物?とりあえずそれは持ちますから息を整えてください」

「あ、ありがとうございますにのまえ君」

 袋は大きさの割には重くなかった…一体何が入ってるだろ?

 俺がそんなことを考えていると突然、俺達の前に夏休みに乗ったようなワンボックスカーが停まると、中から運転手であろう男が降りてきた。

「すみません、にのまえ様でよろしいでしょうか?」

「えっ…あ、はい。俺がにのまえですけど…」

 男は俺の言葉を聞いてどこかホッとしたように胸を撫で下ろすと、また改まってこちらに向き直した。

「早速ですがここでは通行の邪魔になってしまうので、こちらに乗り込んでください。すぐ目的地に向かいますよ」

「あの、ちょっとまってください。なんで俺の名前を知ってるんですか?」

 俺がそう聞くと、男はハッとした様子で何やらポケットを探し出すと、そこに入っていた名刺を一つ俺に渡してきた。

「申し遅れました。私はタクシー運転手の酒井と申します。今朝、鈴木様から予約がありましてにのまえ様とそのお連れ4名を会場まで送るように、と。もちろんお代は既にいただいているので払わなくて結構です」

 たしかによく見ると車の上にはタクシーに付いているアレもあるし、ナンバープレートや運転席に置いてあるものもタクシーのソレであった。

 俺は一応由良に確認を取ろうとした瞬間、由良から『タクシー頼んでおいたから来たら乗って』というメッセージが届いた。

 由良もそう言うなら問題ないんだろう。

 俺達は男に促されるようにその車に乗り込むと、その会場とやらに向かった。



ーーー



「ご利用頂きありがとうございました」

 会場に着いた俺達はそう言う男に会釈をすると、男は車に乗り込むとどこかへ行ってしまった。…いや、なんか変に疑ってすみません。

 その車を見送った俺達は振り返ると、その建物を見て足を止めた。

にのまえ君、ほんとにここで合ってるの?」

「いや、由良が悪質な嘘をついてない限りこの建物で合ってるハズですよ先輩」

 まぁ先輩がそう言うのもわかる。

 だってこの目の前にある建物、この辺じゃちょっと有名な高級ホテルだもん。

 俺達はそのまましばらく動けないで立ち尽くしていると、不意に建物の中から眼鏡をかけていない美人が出てきた。

「五十嵐、何突っ立ってんの?早く入りなよ」

「由良、さすがに俺達誰もここでやるとは思わないぞ…」

「今日たまたまお父様の仕事でパーティーがあって貸し切りなのよ。それで何部屋か余ってたから借りたってわけ」

「由良おまえ…はぁ…まぁ事情はわかったけど次からはもうちょい詳細な連絡くれ。いやマジで。心の準備とか色々大変だから…」

 由良は笑いながらごめんと言うと、そのまま俺達を中へ案内した。(まぁ未だに状況を理解できてないやつもいたがなんとか着いてくるよう誘導した)



「それじゃあ五十嵐、掛け声お願い」

「いきなりかよ!?」

 由良によって部屋まで案内された俺達は荷物を置くと各々の用意された席に着いた。

 部屋は少し装飾されており、大体部室の1.5倍くらい(18畳程度)の広さだった。

「それじゃ、ちょっと予定は変わったけど、メリークリスマス!」

『メリークリスマス!』

 俺達はそれぞれグラスを持つとソレをカチンと当てた。

 


 テーブルにあった学生には豪華すぎる料理(由良の父親が手配したらしい)を食べ、俺達はパーティーを一通り楽しんでいると、不意に由良がその場を立ち上がると「ちゅーもーく!」と手をあげて叫んだ。

「これからプレゼント交換の時間をはじめまーす!持ってきてる人はプレゼントを用意してください!」

 由良のその台詞に、霞と春、そして吉田が固まった。おそらくプレゼントを用意してないってことなんだろうけど…

「あれぇー?そこのお二人さんプレゼント持ってきてないの?」

「う、うるさい!プレゼント交換があるなんて聞いてないよ!」

「そうだよ!これに関しては井上さんと同意見よ!」

 由良の煽るような言い方に、霞と春が思わずそう返した。

「せっかく五十嵐にみんなで一緒にプレゼント渡そうと思ったのに…」

 由良が悪い笑みを浮かべてそう言うと、2人はまるで親の仇でも見るような目で由良を睨み付けた。

 あ、これは止めないとやばいやつだ…

「まぁまぁ…霞と春からは昨日プレゼントをもらってるし。それに今日は俺からプレゼントってことでいいじゃないか。な、由良?」

「ぅ…五十嵐がそう言うなら仕方ないか…」

 由良はどこか悔しそうな顔をすると、後ろに置いてあったプレゼントであろう小包みを取り出した。

 いや、そもそもなんでそんな顔してんだよ。一体何と戦ってたんだ由良よ…

 俺が心の中でそんなツッコミを入れていると、不意に右肩をちょんちょんと叩かれた。

「に、にのまえ君。これ、わたくしからのプレゼントです…」

「あ、ありがとうございます。如月先輩」

 俺が如月先輩から何やらお菓子のようなものが入った袋を受け取ると、先輩は何故かしばらく俯いていた。

「あ、あの先輩?どうしたんですか?」

 俺がそう言うと、如月先輩は真っ赤になった顔をあげて小さく口を開いた。

「あの、できればわたくしのことも下の名前で呼んでください…その、みんな下の名前で呼ばれてるのに私だけ仲間外れみたいでちょっと嫌です…」

 か、可愛い…じゃなくて!

 如月先輩はそれだけ言うと再び俯いてしまった。

 たしかに言われてみればそうかもしれない。俺はこの場にいる女子4人のうち3人を下の名前で呼んでいる。

「それに…」

「それに?」

「前に一度、『雪ちゃん』って呼んでくれたじゃないですか…」

 たしかに呼んだ記憶はあるが…なんというか、あの場のノリって感じですっかり忘れていた…

 俺はそんな先輩を前に、持ってきたプレゼント一式を取り出すと、俯いている先輩に声をかけた。

「えっと、雪…先輩?これ、俺からのクリスマスプレゼントです。流石に先輩なので呼び捨てはできませんので…これで勘弁してください」

 如月先輩…じゃなかった。雪先輩は俺のプレゼントを手にすると、真っ赤な顔のままどこか嬉しそうに笑ってくれた。

「ありがとうございます。これ、大事にしますね」

「あ、いえ、できれば使ってくれると嬉しいです…強要はしませんけど」

 俺が言い終えた瞬間、背後からやってきたその視線に俺は何やら背筋の凍るような感覚を覚えた。

「はじめ、なに先輩といい雰囲気になってんの?」

「流石にあたしも許容できないかな…」

「あ、あの…お二人さん?なんでそんな怖い顔して…あ」

 2人の視線は僅かだけど先輩の持ってるプレゼントの方へいっていた。たしかに俺はさっきプレゼントを渡すみたいなこと言ったのにまだ渡してないわ…

 俺は持ってきた荷物から、残り3つのプレゼントを取り出すと、その一つを霞と春にそれぞれ渡した。

「ごめん、まだ渡してなかった…これ、俺からのプレゼントね」

 2人はそのプレゼントを手にすると、満足気な表情を浮かべた。どうやら正解だったみたいだ。よかった…

「五十嵐、もういい?」

「あ、うん…」

「はいこれ、私からのプレゼントね。中身は…まぁ2年後くらいに開けてね」

「2年!?帰ったらとかじゃなくて!?」

「うん」

 俺が驚いた声を上げると、由良はどこか楽しそうに笑ってみせた。

「いや、そんなクリスマスプレゼント初めて聞いたよ…」

「ふふっ、冗談だよ五十嵐!ホントのクリスマスプレゼントはこっち。あ、でもそのプレゼントもちゃんと持っててね。それはクリスマスプレゼントじゃないけどちゃんと2年後に開けてね」

「お、おう…ってなんで!?いや、プレゼントは嬉しいけどさ、この2年後に開けろって言われた方中身めっちゃ気になるんだが…」

「ふふっ、内緒♪」

 調子良く笑ってみせる由良。俺はなんだか追求するのも無駄な気がしたので(というか前にもこんなことがあった気がする)諦めてプレゼントを渡すことにした。

「はい、これ由良の分。中身はみんな一緒だけど…」

「大丈夫。五十嵐からもらったってことに意味があるんだから」

「そう言ってもらえると助かるよ」

 俺がその言葉にどうやらプレゼント交換は終わりという空気が漂いはじめていると、不意に今まで黙っていた吉田が口を開いた。

「ねえ、我の分のプレゼントは?我、さっきからずっと空気だったんだけど…」

『あ…』

「えっ」

 女性陣のその素で忘れていたと言わんばかりの声に、吉田はよほどショックだったのか電池が切れたようにピタリと動かなくなってしまった。



ーーー



「なんで…なんで我だけ…」

「まぁそんなこともあるさ、な?帰ったら響ちゃんに存分に慰めてもらえ」

 パーティーを終えた俺達はその場で解散すると各々帰路へとついていった。まぁ実際に自分の家に帰ったのは雪先輩だけなんだけど。(残りの3人は何故か速攻で俺の家に向かった)

 俺は男2人、吉田を慰めながらバスに乗っていると、どうやら最寄駅に着いたようだった。

「吉田、これ」

「え…にのまえよ。これは一体…?」

「クリスマスプレゼントだよ。まぁあんまり高いもんじゃないけどさ。響ちゃんによろしくな」

 吉田は俺から袋を受け取ると、涙でぐちゃぐちゃにになった顔をあげた。

「あ"り"がどう"にのまえ"ぇぇっ!」

「あ、おい!抱きつくんじゃねぇ!ちょっ、鼻水つくからやめろ!」

 泣き笑いをしながら抱きついてくる吉田を引き剥がすと、つい、俺も笑い出してしまった。

 まぁこんなクリスマスもアリなのかもしてない。


 ちなみに、この夜俺の部屋であの3人が何やら争っていたがそれはまた別の話である。

 一途な愛を永遠に。(挨拶)


 みなさんこんにちは。赤槻あかつき春来はるきです。


 12月編いかがでしょうか?余談ですが、11月編で椿ちゃんが家族の一員になったのではじめの部屋はよくはじめと若林霞が寝ていた部屋に移動したということになっております。

 若干読みづらい部分もあると思いますが、その、それでも楽しんで読んでいただけたら幸いです。


 前半では本編ではあまり触れていなかった早乙女先輩(早乙女幸助)についてちょうど1年が経ったという内容が中心でした。まぁこの作品に早乙女幸助本人は出られないんだけども。ヘンリーおじさんは一体過去になにがあったんでしょうね?


 後半はクリスマス編。由良が渡した『2年後に開けてね』と言われたプレゼント、実は中身が記入済みの婚姻届だったりそうじゃなかったり…


 さて、次回は1月編!いよいよこの作品内でも一年が経とうとしております。意外と長かった…はじめの誕生日が1月1日なのでその辺も含めて書ければなと思ってます。


 感想や意見、アドバイスなどありましたら感想欄やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。

 またのんびりと更新していく予定なので気長に待っていただければ幸いです。

 それでは皆さん、またどこかであいましょう。


 さて、バトエンの続きを書かなくては…!

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