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41話 襲撃-2

「はな、はなせよ! アタイは何もして――」

 広間は人で溢れていた。どうやら使用人が全員集まっているらしい。

 ラフィ……? 


 聞きなれた友人の悲痛な叫びが広間にこだましている。


 視界が赤く明滅する。口内の傷口に鋭い痛みが走る。

 

「通して下さい」

 肉壁に阻まれて、ラヒィの姿が見えない。


「近づいたら危ないぞ」

 捕まれた手を振りほどいた。


『こわいわねえ』

『どうして獣人がここに』

『おおかた欲に目が眩んだんだろう。獣人は短絡的で身勝手な種族だからな』

『本当に卑しい――』


「どけ」

 黒い執事服の男を投げ飛ばした。男が、片目に装着していた薄く透明な宝石が音を立てて砕け散った。

 二度とノーマの悪口を言えないようにしてやる。 


「レアン、やめろ」

「……」

 後ろから羽交い絞めにされた。


 片腕で細首を締めあげた。ブチブチと肉に爪が食い込む音がなんとも心地良い。


「や…め…」

 力なく呻く人。非力だな。そんな無様な姿で獣人をあざ笑うなんて滑稽だ。

 牙が疼く、爪で肉を裂きたい。


「やめろ」

 また腕を掴まれた。非力の分際で……?


「ゲホッ、ゲホ――」

 獲物が崩れ落ちた。狩りの邪魔をされた。



「これ以上続ければ、さすがに処罰ぜざるをえない」

「……ナカマヲ、キズツケル、、ヤツハ、ユル、、、サナイ」

 鮮やかな緋色を目にして身体が硬直した。

 喉元に迫った切先。


「周りの光景をよく目に焼き付けろ。お前は仲間を殺そうとしたんだぞ」

 仲間? 苦しそうに呻いている物体に目を向ける。

 ……『まあ、そんなに落ち込むなよ』といつも声をかけてくれる。

 困ったことがあれば助けてくれる。彼はまごうことなく仲間であるはずだ。


「……僕は何を」

 複数の怯える瞳がこちらを見つめている。


「堪えろ。自分の罪から決して目を逸らすな。ほら、いくぞ」

 ……そうだラヒィが。


「通してくれ」

 金髪の高位騎士ハイパラディンラクトに腕を引かれて人混みを通り抜ける。

 こちらを見咎めている使用人達は、ラクトが声をかけずとも道を空けた。


 事の重大さをあらためて痛感させられた。それでも頭を占めるのは使用人仲間の安否よりもラヒィの安否だ。


「――離せよ! アタイはただレアンに会いにきただけなんだ」

「喋るな、獣人」

 三本の槍がラヒィを床に縫い留めている。

 ラヒィはフード付きの雨合羽で身体をすっぽりと覆っている。


 体のラインが分かりづらくて、身体に刺さっているかどうかを視認できない。

 ……血の臭いはしない。よかった。


「……ラヒィ」

「レアン!? レアンなのか、よかった、やっと会えたな」

 

「喋るなといったはずだが」

 四本目の槍が茶髪の高位騎士ハイパラディンレフイの右手に握られている。

 その切先はラヒィの胸部に向けられている。


 思い切り突き立てられれば、いくら獣人といえど絶命してしまうだろう。

「――動くな。レフイは本気だぞ。下手に動けばお前まで」

 ラクトの奇妙な優しさや気遣いは、この局面では障害にしかならない。


 全力でレフイに襲い掛かる? ダメだ、ラヒィが絶命してしまう。

 ラクトを人質にして交換を迫る? 成功率は著しく低い。


 頭に血が昇る。顔が熱い。ん?

 突然、広間全体が明るく照らされた。


 見上げた先で、炎が渦巻いていた。

 赤く燃え盛る炎が、円形に循環している。


 炎線が一重から二重に変化し、重なり合って球体を形成する。

 影響範囲は徐々に広がっている。


「特級の宝石魔術オラクルギフトか。すごいな」

 ひゅ-っと、ラクトが口を鳴らした。


「…………」

 対照的にレフイは忌々しそうに宙を睨んでいる。


 今まで静まり返っていた使用人達が一斉にどよめきだした。

 ようやく危機意識が追い付いたみたいだ。


「ラクト、使用人を逃がすぞ。獣人の処罰はその後だ」

「了解だ」

 


 騒音の後の静寂。炎が蠢き発する熱さと閃光だけが場を支配している。


「ラフィ、早く逃げよう」

「悪ぃな、レアン。アタイはここまでみたいだ」


「怪我でもしたのかい!?」

「……腰が抜けて立てそうにない。あんなデカイ火の玉が見たことがない」

 獣人が火が苦手であるのは一般常識だ。

 料理人であるラヒィでもそうなのだから普通の獣人なら失神してもおかしくはないだろう。


 でも、俺は完璧な獣人ではないから……。


「ほら、肩をかすから――」

 ラヒィは小柄だけど、身動きがとれない今の状態ではかなりの重量になる。


 完璧な人だったら……。


「重くないか? 無理はすんなよ。アタイのせいでレアンまで死ぬのなんて絶対嫌だからな」

 ラフィはこんな状況でも心配してくれる。


「余裕だよ。ノーマとバニカだって一緒に運べるくらいさ」

 さすがにそれは無理だけど。


「あんがとな」

 ラヒィの温もりを背中越しに感じる。半獣人に生まれて本当に良かったと初めて思えた。

 火の手は弱まっているようだ。 今の上に脱出してしまおう。


 それにしてもこんな偶然あるのだろうか。宝石魔術オラクルギフトとラクトは言っていた。

 誰かが助けてくれたのだろうか。でも一体誰が……。 

 





 

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