4話 出来損ない獣人の日常-4
木戸の隙間から、明かりが漏れている。火の宝石は便利だ。ウチで一番高価なブツだけのことはある。
どうやら本当に、帰っているらしい。さっさと料理を開始しないと。
『それはどういう意味ですか!』
『声を荒げるでない』
言い争う声。もう一人いる。どうにも入りずらい。息を殺して、耳をそばだてる。
『しかし、バサラ様』
『その呼び方はやめよ。私はただの巫女に過ぎん』
バサラ? 守護神の名前だ。
『レアンは私の弟です。獣人にはなれなくても、父のような鬼人にはなれるはずです』
『知っているであろう。鬼人は当代限りのものだ。レアンは完全な人ではないのだ、この歳まで変化がないということは――』
『それでも私は……』
『それはお主のエゴではないのか。レアンを鬼人にしたいと考えるならば今は遠ざけるべきなのだ』
『そうまでしてレアンをウルフビームいえサク族から追い出したいのですか』
『人は、魔神に惹かれ、災いをもたらす。その点で我々とは相容れぬ。人の血が濃いレアンも例外にはなりえないのだ』
『あの子は獣人です!』
『それはわかっておる。先代の巫女が命を賭して生んだ御子だ。それは誰もが疑わぬ。故に、人への憎悪が消えることはない。お主が巫女になり、レアンが鬼人にさえなれば誰も文句はいうまい』
『……私は』
『すぐにとはいわぬさ。あと数年の間私が、巫女を務めれいいだけのはなしだ。ところで……そろそろ入ってきたらどうだ?』
!?
ゆっくりと木戸を開ける。
ウェイ姉さんがはっと息を飲んだ。だいぶヒートアップしていたに違いない。そうでなければ、俺の存在に気づかないはずがない。
「あのう……こんばんわ」
「息災にしておるか、レアン」
「えっと」
白狼の獣人。長い髪は雪のように白い。
「レアン、この方は――」
「ロボ氏族のシャインだ。最後に会ったのはまだお主が幼子の時であったゆえ、おぼえておらんかもしれんがな」
「シャイン様はファング兄弟の叔母にあたる方よ」
ファングの名前を耳にした途端、身体が強張ってしまう。
「そう堅くなるな。で、どこから盗み聞いていた」
「…………えっと」
試されている。最初から、俺の存在に気づいていたはずだ。
言葉に詰まる。
「レアン」
ウェイ姉さんが不安そうに視線を向けてくる。
「何も聞いてないです。俺は、まだ犬耳がないので。それより、夕飯にしませんか? 今日は最上級のジャガイモを貰ったんです――」
その場を強引に収めて、料理に移行する。しばらく、視線を感じたけど、しばらくすると他愛もない話を二人が始めた。
ジャガイモをよく洗って、包丁できれめを入れる。鍋に水を入れて……水が足りない。
「あのう、少し待っていてもらえますか。急ぎで水を汲みにいってくるので」
逃げるように家を後にした。




