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異世界へ-3

「おい、あれは?」

「ゴ〇ラだ、サイン貰おうと」

 尻尾をブンブンと振りまわすロン。


 こんな時――飼犬の危機回避能力がゼロで、亜空間で遭難しかかる。そんな時こそ、スマホだ。

 人類に叡智の結晶。どこにいてもネットさえつながれば、何だって検索できる。


 あせるな、あせるな。あれだけの巨体だ旋回に時間を要するはずだ。

 タップ、スワイプ、タッチ。よかった。パチモンスマホでも、電波?は良好みたいだ。


『ピィ、ピィ、ピィ、ピコーン。世界の終焉をお知らせします』


「バグっている!?」

 これほど合成音声が冷たく聴こえたことはない。


「ウェー、ジクウリュウが暴れたら終焉きちゃうかもワン」

 他人事で、ロンが嘆息している。


「時空竜?」

「次元の狭間を住処にしている変わり者」「コミュ力高めのワシでもマブダチにはなれない」


 イヌフォンの青白い画面に文字列がどんどん流れていく。

 ソドムとゴラム。アトランティス。邪馬台国。いくつかの単語を拾っただけだけど、とてもヤバイ匂いがする。


 タイムマシーンにナビゲーションの類は設置されていない。今のところ一本道だ。来た道を戻るくらいなら俺が操縦してもなんとかなりそうだ。

 でも、時空竜を引き連れて帰還って、後の世で『透明さん家のアオト君とロンちゃんは大罪人』と語り継がれてしまうかもしれない。人類文明が残ればの話ではあるが。


「ロン、少し我慢しろよ」

「ウェ?――やめろ、やめて下さいワン」

 ロンの両耳をがっちりと掴む。


「ほら出発だ」

 ロンの耳――アクセルをまわす。


「ギャッーーーー」

 ロンの悲鳴とともに急発進。とにかく前進あるのみだ。



--------------------------------------------------------------


「かえりなくなった」

「それがやりたかっただけとか言わないでくれよ、頼むから」

 俺の反応にがっかりしたような態度をとってから バラバラに大破したタイムマシーンの残骸――ダンボールを口で喰わて一か所に集め始めるロン。

 ドラ〇もんの大長編にもこんなシーンがあったような。

 余裕があればごっこ遊びに興じてもいいけれど、正直、そんな余裕はない。


 先ほどから、自分の存在がぶれてしまっているような感覚に苛まれている。

 自分の名前や目ぼしい記憶を思い返して、症状を押さえつける。


 インフルエンザで寝込んだりしたらこんな感じになるのだろうか。


「あっ!? テキオウトウ、忘れてた」

 ロンが慌てて駆け寄ってきた。

「――ありがと、ロン、少し楽になった」

 ドラ〇モンフリークのくせに詰めがあまい。気圧とか酸素濃度か、異世界にしろ宇宙にしろ。

 テキオウトウを忘れたら、のび太君とか即死だろう。


「ダンボール燃やして、カップ麺食べようワン!」

「修理する気ないだろう」


「ウェー、空腹は不安の種」

「だったら水をさがさないとな」

 ゆっくりと立ち上がる。だいぶ楽になった。


 究極のポジティブシンキングだ。こうなったら異世界転移をとことん満喫してやる。


 

「ピコーン、犬耳アンテナ反応」

 ロンの垂耳が立耳にクラスチェンジした。


「何がどうして、どうなった?」

「強い気配、近づいている」


「えっと」

 見上げた空には巨大な炎の塊。まるで隕石のように尾を曳いてこちらに落下してくる。

 熱気であたりの草木がプスプスと煙を上げ始めた。


「逃げるぞ」

「ウェ?」

 危機意識の低いロンを担ぎ上げて、全速力でその場を離脱。

 爆音と熱風とまき上がる粉塵とか全部無視して、足を動かす。


 低木とか岩とか正直、走り難い。重いダンベルも担いでいるし。

 躓いたらそこで、ジ・エンドだ。



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