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#7 未来へ

▼未来へ


 麗華の部屋は、意外に少女趣味な感じで、その中でも天蓋付きフリルのベッドには圧倒された。

 今さっき割れた窓が、寒い風を運んできている。

 しかし、事態はその後急変を知らせる事なく、穏やかではあった。

「麗華!」

 駆け込んで行く母親は、麗華に覆いかぶさるようにして、抱き起こそうとしている。

「塚原君?」

 朔夜は、確かめるように叶の顔を眺める。

「念のため、結界張らなあかんな……何でこうなったんか、確かめん事には話が始まらんわ」

 麗華の意識はないようで、ぐったりと母親に寄り掛かるように眠っている。

「都住くん……あんた、今、宮原はんの意識階層に入るなんて事は出来んのか?何か探り出せるんやったら、早い方がええから」

 その言葉に、朔夜は一度視線を麗華に注ぐが、

「深層心理に入り込む事は、今までした事はないんですよ……夢を見ている所を覗く事は出来ますし、その占いは出来ますが……一つ条件が有るんです」

 深刻な言葉に、叶は一瞬言葉を待った。

「僕は、丸一日の徹夜明けでないと、その事が出来ません。昨日睡眠をとったのが、午後九時……夢に宮原さんが出てきたのが、午前一時……つまり、明日の午前一時までは、夢の中に入る事は出来ないという訳です……」

 言葉と裏腹な冷静な態度が、叶には信じられなかったが、この時点で、麗華の衰退しているのを起す訳にはいかず、なすすべはないから当然ではある。それがはがゆくて、叶は苛立つが、どうしようもない。

「午前一時なんやな……丑三つ時で、霊が活動しやすい時間や……」

 ブツブツと言葉を漏らしてみる。

 しかし、待つしか無い。一刻をあらそうのに、待つしかないなどとは……しかし、法はそれしかなかった。

「僕にもっとカがあれば良かったですね……」

 それを感じ取ってか、ほんの少しだけ、朔夜の気持ちが読み取れた。顔に出す事は決してしないタイプなんだなとその時初めて叶は理解した。

「……せなら、さっさと結界張るわ。おばさん!後は任せとってな。俺ら来たからには、もう、安心やから!」

「え?」

 麗華の母親は、一瞬躊躇はしたものの、叶達の話を受け入れこれに賭けてみようとそう想い立った。

 学校全体に術をかけたのは、叶自身である。その事が、母親の意志をはっきりさせた要因でもあったからだ。

「後はお任せします……」

 納得してはいるものの、疲れ切った母親は男子二人を残して部屋を出るのを躊躇いはしたが、一旦休む事を告げる。


 午前一時。


 それが全ての始まりだと叶と朔夜は決意を新たにその場に待機した。


「塚原君……少し休んだ方が良いんじゃないかな?時間が来たら起してあげますから?」

 夕食を御馳走になり、家の方に連絡を入れた叶は、実際眠くて仕方がなくなっていた。さっきから、胡座をかいた叶はうつらうつらとまるで船を漕ぐかのように揺らいでいる。

 十時頃には既に床に就いているのが、叶の日課でもあるから、これはまた、人間のバイオリズムの一貫なのだからしょうがないわけだが。

「ん?悪いなあ……俺、眠くてしょうがないわ。起してくれるんやったら、よろしゅうな……」

 そのまま床の上にバタリと倒れ込む。

 その様子を呆れる事なく、朔夜は見守る。

 それよりも自らがすべき事を考えつつ、結界の張られた天蓋の柱を見守る。

 今の所は、霊も騒ぎを起す事はしていない。部屋の四方に盛られた清めの塩も効果があるようで、すやすやと寝息を立てている麗華の姿が目に入る。

 自らのカの無さ。

 深層心理までをも凌駕出来るのであれば、もっと、夢を理解出来るのにと、以前から感じてはいた。しかし、そんな事出来るはずもない。

 どんな文献を眺めようと、心の奥を掴み取る事ができる事は不可能だとそう熟知している。 夢にある世界を媒介に全てを読み取るしかない。それがが今の朔夜ができる事であった。


 時は一刻一刻流れて行く。

 こういった持つ時間は、焦りを感じる。

 亡くしてしまった父の事を想うと気が気ではない。

 それでも、今は叶がいてくれる。

 それが、今自分を支えてくれているのだとそう信じる事ができるから、何とか保っていられる。

 運命は、出会いがあって、別れがある。

 でも、今出会ってしまったこの助け人を、大切にしたいとそう思う。そしてきっとこれは、亡き父の配慮だとそう感じいる。

「頼みますよ……」

 朔夜はボソリと横で寝ている叶に呟いた。


「塚原君……塚原君……時間ですよ!」

 自らの体を揺り動かされて初めて意識が朦朧として覚醒する。麗華の部屋の壁に掛けられた時計を確認して、ガバッと勢い良く叶は起き上がった。

「悪りい!平気なんか?宮原は!?」

「この通り、ポルターガイストの状況だけはなんとかなっているようですが……魘されているようですね」

 麗華の顔に脂汗が流れている。

「たまらんな……霊自体が、わんさか集って来とるわ…ろくでもないのばかりや!」

 叶は、部屋中を眺めてそう告げる。

「結界内は、安心してええで、あと、食い止める方は俺が何とかしてやるから、行けや!」

 叶が後押しする。

「あ、五芒星の中が安心できるから、その中で行けや。都住はんにも乗り移られたら厄介やしな!」

 フッと、叶は笑う。それを確認すると、ガムテープで仕切られた五芒星の中に足を踏み込むと、一呼吸おき、朔夜はスッと床に沈み込む。

「後は任せたで!」

 後に残った叶は、朔夜と麗華を守る為に呪文を口走り続けたのであった。


 真っ暗でどこにいるのかも分からないような、まるで視界を奪われてしまったかのような、そんな右も左も判らない暗闇。

 そこに今、朔夜はいた。

 取り敢えず、暫く黙ってそこにいる事にする。この状況で動き回る訳には行かない。

 自らの行動は、相手の意識を動かす事にもなりかねないからだ。

 暫くすると、この暗闇に目が慣れてきたのか、朔夜は今自分がいる所がどこなのかを確認する事ができた。

 埃っぽい、屋根裏部屋。

 段ボールが一杯で、片づけもされていない。まるで使われていないかのようなその部屋の片隅で、蹲るようにして麗華が独り泣いている。

 他には誰もいる気配がない。

 朔夜は話し掛ける訳にもいかず、ジッと、麗華の行動を段ボールの端から見守っていた。

「ごめんなさい。ごめんなさい……」

 小さく蹲っている麗華は、寵の中の鳥に話し掛けている。

 二度と動かなくなってしまっている二羽の小鳥の死体。

「全部私が悪いの……あんな所に行かなければ良かったんだよね?私が悪いんだよね?」

 籠の中の鳥を籠から出し、頬でその死体を撫で付けると煩を伝う涙がその小鳥の羽根に落ちた。羽根はもう羽ばたく事がなく、静かに折り畳まれている。

「あのね、学校は大好きなの。塚原君の行勤を見てるのが私の楽しみだったの……だって好きなんだもの……だけどね、まさかあんな事に係わってるなんて知らなかったんだよ」

 憎悪?夢は麗華の心を暗示しているからその事が読み取れた。今自分に起きている事への憎悪をこの夢は暗示している。しかし、何かを解決しようとしているのは見て取れる。それが分かっただけで何かを引き出す事ができるのではないか?と朔夜は感じた。

「あんな事に関わって、私バカみたいだよね?あんな紙切れ埋めるなんて何をしてたんだろうって感じだよね?」

 すすり泣きは怒りを込め始め、一気に頂点を極め始めた。

『紙切れ?』

 現実に近い、夢をあからさまに見ている?それが深層心理の一遍だとそう判った時、ハッと気が付く事があった。

 確か、テニス部の部室は、学枝の南側に位置しており、護符を埋めたその場所をあの場所から見ることも出来たはず……多分見てしまったのだ。麗華は……そうと分かれば話は早かった。


『神聖覧強、夢売買致します!』


 叶への怒りを感じ始めているのは好意の印ではあるが、それを考えつつ辺りを明るい部屋に入れ替える、暗闇ではなく、明るい陽射しのある屋根裏部屋。それはまるで、朝日が昇ったばかりのような場所であった。

 それを感じ取ったのか、麗華は泣く事をやめ、そっと、寵に小烏を戻す。

「あれ?」

 何かに気が付いたのか寵の中顔を埋める。

「卵?」

 つがいであったのか、二羽の小鳥の卵が、巣の中に転がつていた。

 そして、コツコツと物音がしたかと思うと『ピーピー』と、鳴き始める。

「……赤ちゃんがいたんだ……」

 生まれたばかりの小鳥の赤ちゃん。それを見つめて麗華は微笑んだ。

 その光景を後にしつつ、瓶夜はこの夢から抜け出した。

 遠く広がる空に向かって。


「う……うん……」

 朔夜は覚醒し始めると、叶に、

「おいっ!どうやった?何か分かったんか?」

 防戦体制に入った叶は朔夜を振り返る。

 重い体を持ち上げるかのようにして、朔夜は立ち上がった。

「どのくらい時間かかりました?」

「三十分くらいや」

 自分が夢の中に入っていたその時間が気になるのか、一度問いかける。一刻を争うそんな場面。

「要は学校ですね。きっと南側の封印が破られてます……」

 まだぼんやりとしている体をもたげながも、朔夜は切り出した。

「判った。ほな、コイツラを何とか学校に引き付ける。俺が霊媒になって、コイツラを引き付けたるわ。その間何が起こるか分からんが、案内してくれや!」

 麗華の部屋に有る、ノートの紙切れに梵字を書き込みし、それを辺りにばらまく。そして印を結ぶ。

「憑代や。お前らこれに全てを引き込ませてくれるわ!」

 そう云うと、空気の流れが変わった。

「くっ!」

 体をクの宇に曲げながら、叶は朔夜の方を借り、部屋を出た。

 全てを引き受けて。


 真夜中の学校は薄気味悪い。

 門は完全に閉じられて、誰もが入れないよう管理されていた。

「塚原君?登れますか?」

 背丈の有る門は、項丈に閉じられてはいるものの、容易く越えようと想えば出きないはずもない。

「何とかなるわ……悪いんやけど、手を貸してくれんか?」

 本当だったら軽く乗り越える事もできるはずなのに、今はそういう訳にも行かない。そんな自分が情けないが、今ではしょうがない。

「南側やな?」

 懐中電灯を携え校庭を横切りながら、2人は早速その場所に向かった。プレハブの部屋が在る場所を頼りに。

 その横に桜の木が埋められており、確かそこにお札を張った石を埋めたのを覚えている。

 そこまできて、何かを振り起こしたような形跡が有る事を発見出来た。お札を張ったはずの石が、半分に破けて転がっていた。

「けったいな事してくれるわ……」

 叶は今しがたの憑代にした紙の裏に、返呪咀崇符の文宇を書き込むと再び清石に張り付けて埋めなおす。

 すると楽になった叶の体は、崩れるかのように地面に倒れ込んだ。

 深夜の星空は澄んで綺麗に瞬いている。

「なあ。いっそ、祠でも作ってくれんかな?第二の犠牲者なんてお断りやわ……」

 霊がこの世にいる限り、こんな事は日常茶飯事な事でもあるが、叶は今回の事で学校側にも責任はあるとそう感じていた。

「そうですね……そうしてくれるように、頼んでみましょうか?」

 責任は学校だけではない。それは分かる範囲だったけど、供養をしないと云うのは、いささか問題は有ると想われる。霊と向き合って生きている叶にはそれが痛い程判っているのだから。気になるものは全て供養に廻して欲しいとそう願う。

「俺な、霊媒師やら、陰陽師やらそんなものになって生きているの苦痛やった……結局逃げ出したんやけど…やっぱこういう事はどこにでも有るもんやなってそう感じたわ…今さらながら、こうして、仕事して満足してるん不思議やわ……」

 冬の外の寒気は、ひんやりと風が頬に撫で付けて行く。

「塚原君……」

「叶。でええよ」

 二人は初めてお互いを認識し、笑える事ができた。

「明日は、また屋上や。この寒いのになんやなぁ〜でも、俺にしか出来ん事やもんな。都住はん……名前、なんて云うんやったっけ?」

「朔夜ですよ。僕の事も、朔夜で良いですからね」

 そこで再び笑い声が上がった。

 明日には全て片がつく。

 居心地の良い、誰も不幸にならないそんな日々が続くのかと思うとホッと胸をなで下ろすことが出来る。

「僕達良いコンビになれると想いますよ?」

「ブッ!それはこれから次第やな……」

 叶は寝転がった地面から立ち上がった。

「はよ、帰ろうか?オレまた眠くなったわ……あ、悪いな、寝てないもんにそんな事云うてしもて……」

「いいえ、良いんですよ、僕は……こういう事が僕にとって一番の安らぎでも有りますからね……困っている人を助けるのが幸せなのですから」

 そう云うと、幽かに徽笑む。

「じゃ、途中まで行こうか?家どっちやねん?」

 たわい無い学生の二人に戻る事ができた。それがとても居心地が良い。普道の。でも変わった能力の持ち主。それがこれからの二人の序章でもあった。

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