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#6 真っ白な空気の奥に

▼真っ白な空気の奥に


 正月はいたって平和に過ごした。実家に帰りたくはなかったので、一切連絡もせず、おばさん達と共に正月を迎えた。

 おじさんは、未成年の叶に、『正月くらい良いじゃか』とお神酒をすすめてくる。叶自身、この侍遇を受け入れた。かえって嬉しかったからである。

 クラスメイトから年翼状が届く環境。極平凡な学生生活が叶にとって心地よかった。自らも、年賀状を出した。蛇年だったから蛇のような、くねったタオルのような落書きを必死になって描いた叶は、こんな日々がいつまでも続けば良いのにとさえ想っていた。

「明日から学校よね?学校からの宿題きちんとこなした?」

 おばさんは、必ずこの事をロに出す。もちろん万全に……とまでは行かないが、ある程度の範囲はこなしておいた。判らない問題は、スッとぼけておく事にする以外は。


 そんな落ちついた冬休みを過ごした後の新学期そうそうは雨だった。

 寒空に傘をさし、叶は学校へと歩いた。

 今まで感じていたあの妖気はもうこの場所にはない。そう感じた瞬間、天候とは裏腹に気分が爽快だった。

「おはよう〜塚原君!」

 クラスの女の子が叶に声を掛けてくる。叶は、男子生徒より、女子生徒に人気があった。そのためか、時々、目の端に男子生徒の冷めた視線が突き刺さった。しかし、

「よう、おはようさん!」

 とにかく気にせず、声を掛ける事を止めない。


 しかし妙だ?

 一つ気に掛かる事があった。いつもまとわりついてくる、麗華の姿が見当たらない。

「宮原はんは?」

 一度気になると、叶は止まらない。いつも麗華と仲の良いグループの明美に話しかけた。

「妙なんだよね。お正月の初詣に誘ったのに連絡取れなくてさ……塚原君の方には連絡無かった?」

 何かと叶と話していた為か、鉾先が自分に向けられる。しかし、麗華からは音沙汰無かった。考えてみれば、年賀状が来なかったような気も……

 そうこうしてる内に、ホームルームが始まる。担任は何も麗華の事を語らなかった。

 しかし、それから二、三日経っても麗華は学校に来る事はなかったのである。


「塚原君?ちょっと……」

 そんな五日目が過ぎようという頃、朔夜は放課後叶を呼び止めたのである。

「何や?」

 どうせ部活の話だろうと想って話を聴こうと足をとめる。

「昨夜、夢に宮原さんが出てきたんだけど……気になる事が有るんです。今日、一度宮原さんのお宅に行ってみたいと想うんですよ。付き合ってもらえないでしょうか?」

 事実、叶も気になっていた。こんなに長い間、麗華が学校に来ないなんて……考えてみると変である。人一倍の明るさを持った彼女は、元気をもたらしてくれる。ちょっと、うるさいかもとも想える所がなくもないが……

「ええで、で、家は分かるんか……?」

「ええ。調べましたから」

 話は即決まった。

 その後二人は、素早く行動に出たのである。


 モダンな家並みの住宅街。

 その中に際立って、豪筆な屋敷が目に入った。それが麗華の家である。

 叶は知らなかった事ではあるが、麗華は宮原財聞のお嬢様であったらしく、目の前にある門構えもセキュリティーを兼ね備えた、最新式の構造になっている。道理で、あの人懐っこさはここに現れてたんだと納得がいった。

 しかし、

「これ……どういうことなん!?」

 叶は、しゃがみ込んで吐き気をもよおした。それを朔夜は、

「塚原君?大丈夫ですか?何か有るんです?」

 この様子はただ事ではなかった。叶の体質は朔夜も知っている。

「何でここに……学校の自爆霊が……おるねん……しかも、無害だった防空壕の……うぇ〜!!」

 近くの電信柱に寄り掛かるようにして、全てを吐き出す。ただならぬ妖気が、叶を締め付けるよう促してきたからであった。

「ダメや……はよ何とかせんと……」

 吐くものが無くなった叶は、フラフラと立ち上がり、朔夜に、

「中に入らせてもらってくれんか……?そう、頼んでや……」

 云われた通り、冷静に対処する朔夜。内心この状況をどう把握したら良いのか?それをよく判っているかのように。

「すみません。宮原さんのクラスメイトなんですが、プリントを届けに参りました。あと、事付けが有りますので、是非宮原さんにお会いしたいのですが?」

 インターフォンに向かって流暢に話し出す。そんな朔夜に叶は慣れたものだなと想った。暫くすると、インターフォンから女性の声が流れてきた。

「お嬢様は、ご気分が優れませんので、私がお聞きします……」

 そういうと、門奥のドアが開かれ、一人の年輩のおばさんが出てきた。何だかイソイソしていて落ち着きがない。

「どのような事でしょう……?」

 朔夜は取り敢えずプリントを渡した。そして、

「宮原さん、大事には到らないんですか?」

 落ち着いて、何でもないような顔で話す朔夜。

「あ、はい……その……」

 まだるっこい相槌が叶の心を揺り動かす。

「大丈夫な訳ないやろ!この状況を把擢でけへんなんておかしいわ!はよ、中案内せえ!」

 その言葉を聞いたおばさんは、叶の気迫に押されたかのように、再び中へと入って行く。十分後、不眠症な目つきをした一人の女性が変わって出てきた。

「娘は、大変体調が優れません。変わりにお聴き致しますから、今日の所はお引き取りください……」

 目線は、金髪頭の叶に向けられていた。どこの不良がやってきたのか?と云わんばかりに冷たくあしらう。

「あんた、娘に何が起きとるのか分かっとるんやろ?それやのに、そのまま放置しとくつもりかいな!!」

 叶は、気もちの悪さに苛立ちながらも続ける。

「いつからなんや?霊媒師は呼んだんか?早せんと、取り返しのつかん事になる。俺を中に入れ……」

 叶の言葉が終わり切らない内に、絶叫が響き渡り、2階の窓ガラスが割れた。破片が飛び散り外へと落ちてくる。そして庭に、アンティーク風の椅子が転がり落ちてきた。

「麗華!」

 母親が、蒼い顔でその場を離れようとするのを朔夜は門の鉄棒子の隙間から腕をとり止める。

「開けて下さいませんか?」

 母親は、蒼白な顔で一瞬固まったが、門の電源を入れると、すんなり門は開かれた。そして母親を先頭に三人は直ちに屋敷内へと足を向けたのである。

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