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#2 出会い

▼出会い▼


 親戚のおばさんは意外にも簡単に叶を受け入れてくれた。母親の姉で、正月くらいにしか顔を出してくる事はなかったが、子供がいない家庭だったので、喜んで受け入れてくれたのが何より有り難かった。

 少し小太りではあったが、神経質な母とは達って、『ハキハキ』とものをいう気の良い優しいおばさんである。

 そして、叶の境遇を履き間違える事もなかった。逆に共感してくれたのかも知れない。

「お母さんにはこの事上手く云っておいであげるから、そのかわりちゃんと、学校には行くのよ?」

 それが、この場にいる事の条件であった為、徒歩でも通える近くの『聖樹中学校』に通う事になった。

 叶は、有難かった。これで、人並みの学生生活が送れるのだと確信ができたから。

「おばさん、おおきに」

 笑顔で話せるのに久しぶりのことだった為、新鮮な気持ちが芽生えた。

 しかし、こんな都会で、新しく気の合う友達ができるのか?それが問題の一つである。今の今迄、友達付きあいをした事がなかったから……

 でも、おばさんは早速入学手続きに叶と共に走った。明日からでも、入学して、学校に入れなければと想ったからなのであろう。いつまでも、義務教育を放棄する訳も行かず、考えを纏めてくれたらしい。

 そして叶は、『聖樹中学校』へと中途転校を余儀無くされたのであった。


「おはよう!」

 学生たちは朝の寒空の下、互いに友人とありきたりの会話を交わしていた。

 この学校は、進学率の高い有名な中学校で、お堅い校風と、秩序に守られた、実際叶がうんざりしそうな学校である。

 それは、生徒手帳を手にした時に明らかになった事ではあるが……

 その中で、新しい制服が出来上がってない為、学ラン姿の叶は独り浮いていた。その上金髪だからなおさらである。でもそんな事はどうでもよかった。自分はあんな引き締まったブレザーにネクタイの制服を好んで着たいなんて想わない。学ランだって、詰め襟のところを外してでも楽な格好がベストである。

 しかし、そんなことよりもこの学校に流れている空気が気持ち悪かった。

 叶に、自爆霊の類いがあちこちから声を掛けてくる。進学校であるためか、受験失敗を苦に自殺した生徒が自爆霊として留まっている光景が嫌でも目に入る。それに輪をかけたのが、戦争時ここが防空壕であったこと。戦死した人達が丁度、体育館南に固まっていた。

『チッ」と舌を打つ叶は、なるべく見ない振りを決めて、職員室のある部屋ヘと急いだ。


「今日から2年B組の新しい仲間になる塚原叶君だ。みんな仲良くするように」

 担任の永瀬は叶を教室に連れて行くとそう云い放つ。

「よろしゅうたのんます」

 関西訛りの言葉が教室に響く。

 すると、生徒達は一同、叶に一度視線を注いだが、暫くするとざわめきが起こった。

「何で今頃転校生が来るんだろうね?」

 それもそのはず、あと、2週間もすれば、冬休みへと突入する。そんな時期に転校してくる方がおかしい。

「塚原君は、家庭の事情があって、こちらに転校してきたんだ。えーと、それじゃあ、あの窓際の一番後ろの席が塚原君の席だから」

 担任が指さす先を見た。

 窓際だから、この時期寒いだろう事は予測がついたが、叶はまあ、しゃあないかと席へと歩き出す。

 周りのみんなはそんな叶の、行動を見守った。叶はそんな視線をものともせず、自分の席へと座る。

「塚原君の教科書はまだ届いてないから、隣の都住君に見せてもらいなさい」

「はい」

 都住と呼ばれたその少年は、几帳面なのか、潔癖性なのか?とにかく本にわざわざカバーを付けていた。それがとても印象的ではあったが、もっと不思議だったのは、都住の発しているオーラであった。

「僕、郵住朔夜って云います。よろしくね」

 穏やかな少し大人びた笑顔がそのオーラを引き立たせる。叶には新鮮な驚きであった。

 何がと云われると、普通持っている、人のオーラは寒色系の、青白い色なのに、彼が持っている色は、暖色系の、燃えるような赤色だったからだ。

「一時間目は数学なんだよ」

 黒板を見れば一目で分かるのに、わざわざ説明してくる。律儀なヤツだと叶は想った。

 朔夜は、丁寧な宇で黒板に書かれている先生の文宇を『スラスラ』と記していた、そして、雑学的な先生の会話の内、必要だをうなという事迄、余すことなく書き連ねている。

 叶は感心した。こんな生徒がいるんだなと想うと、下手な落書きをしている自分のノートが見せられないとさえ想った。

 厳かに過ぎ去って行く授業。それは、安心出来る時間でもあった。それは横にいる朔夜のオーラが心地良かったからもある。


「塚原君って関西の人なんだね〜私、宮原麗華って云うの〜よろしくね!」

 一時間目が済んだ休み時間、内田有紀似の、可愛らしい女の子が独り話し掛けてきた。この麗華の人当たりの良さは、また叶を和ませた。

「あ、そうなんよ。関西弁って特徴あるからここでは浮くやろな?」

 叶は嬉しかった。一見不真面目そうな見た目を気にせず話し掛けて来る。こういう会話が昔通にできる環境ってのは、初めてでもあるから。

「関西のどこ?」

「ああ、大阪やねん」

 それ以上は答えれない。嫌な事をも想い出したくないから。

 それにしても不思議だ。進学校という割には、休み時間に勉強している者が少ない。

「あ、麗華ずるい!私も仲間に入れてよ!」

 何人かの女の子が輪を作ってやってきた。

 しかし、隣の席の朔夜は静かに本を読んでいる。無口なキャラクターなのか?とも想ったが、そこに、一人の女の子がやってきて、何やら手紙を置いて行った。

「読んで下さい。そして、返事を下さい」

 物静かな、びん底眼鏡を掛けた女の子がそれだけ云うと去って行った。

「今の子誰なん?」

 回りの輪からひそひそ話しが起こるのを叶は見逃さなかった。

「副委員長の、宮川みどり。ここの所いつもなんだよね〜都住君、夢占いケラブの部長でさあ、なんだか、その手の類いのことで相談してるらしいんだけど、まだ解決してないらしいのよぉ」

 麗華は、呆れたって表情で話す。

「でも、都住君の夢占い当たるって評判なんだよ〜だから、本当は私も時々占ってもらってるんだ〜」

 続けざま訊いてもない事を話し始める。

「夢占い?そんなクラブがあるんや?」

 普通ありそうもないクラブ。叶はポカンとロを開けたまま放心状態に陥った。

「去年から都住君が部員集めて一つの部活動として成り立つようにって、生徒会に話を持ち込んだそうだよ〜ま、生徒会長も、都住君の品性と、熱意に負けたって所あるからさ、上手い具合に話が纏まったんだ〜」

 ロ数が多い麗華は歩くスピーカーかも知れないなとも想ったが、口には出せない。こういう類の子は、何をネタにして話しだすか分からないと想ったから……

「ふーん」

 相槌を打つだけ打つ叶。そんな事をしていると、

「キーンコーンカーンコーン」

 予鈴チャイムが鳴った。

「じゃ、また後でね〜」

『ルンルン』と跳ねながら、麗華は足早に、教卓前の席ヘと移動して行ったのである。


 放課後迄に、叶に近づいてくる女の子に数知れなかった。珍しい生き物でも見るかのような視線を向ける者も一部いたけれど。

 でも、叶はそんな女の子達に囲まれながらも極自然に話をする事ができた。

 意外だった。自分がこんなに世間一般の話をすることが叶うなんて……

「でさ、塚原君は部活に入るの?だったら、テニス部に入らない?」

 麗華は自分が入っている部活動を勧める。どうやら叶を気に入ったたらしい。

 それは外見からくるものなのか?それとも叶白身に興味を持ったのかは分からないが。

「うーん。どうやろ?まだ考えとらんわ」

 いきなり切り出されても困ってしまう。しかし、部活動という言葉は魅力的だった。

「他にどんな部活動が有るか調べてみたいわ」

 とにかくそう答えた。

 そうしないと、麗華のペースに巻き込まれそうな勢いだったから。こういう子のペースは分かりづらい。でも悪い気はしなかった。

「じゃあ、お先に」

 隣の席の朔夜は、早々に鞄に荷物をしまい込むと、足早に教室を出て行った。

「みどりのことで、頭が一杯なのかもね〜」

 麗華は含み笑いをしている。可愛い顔をしてその実、ちょっと、野次馬根性が有るのかも知れないなと叶は想った。

「あ、俺も今日は帰るわ。付き合ってもらっておおきに」

 叶は、そんな中を逃げ出すかのように鞄にノートと筆記用具を入れて麗華の脇を通り抜けて教室を出た。


 叶はその廊下で朔夜が、みどりと話しているのを目撃することになる。

「殺される夢は、一種の幸運へと近づく意味合いをもってますから気にする必要はないですよ。前向きな夢ですから……自殺の夢と同様な意味合いも込めて……」

 二人の話している内容が自然と耳に入ってきた。別に立ち聞きしている訳ではないけれど、叶は少しだけ戸惑ってしまった。

「そうなんですか?ありがとうございました」

 みどりはそれを聴くと安心したように朔夜に礼を述べて立ち去る。三つ編みが左右に揺れていた。

 朔夜は『ホッ』と息をつくと、叶がいる方へと歩き始めた。

「あ、塚原君……君も何か不思議な夢を見たなら占ってあげますから、いつでも良いので僕に相談して下さいね」

 今しがたのことを聴いていたのを了解していたのか、朔夜は先に切り出した。

「俺、夢は見ないんよ……」

 叶は呟くように、答えた。

「そんな事はないですよ。人は必ず夢を見ます。レム睡眠って御存知ですか?その時、人はなんらかの夢を見るものなんです」

 まるで、宗教の勧誘のようだなと想った。

「そういうもんなんや?」

「ええ。だから、塚原君も夢は見てるはずなんです。ただ忘れてしまっているだけかも知れませんね」

 朔夜はそういって、スタスタとその場を後にする。

 叶は、こういった白分の範疇にない存在が不思議で仕方なかった。だけど、面白いヤツだなと想ったのは事実だった。

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