――サトネになにか御用で?
<師里レイ>
「あ~怖かった。美浦先生、笑顔で怒るから余計怖いんだよね~」
「だな。オレも関係ないのにちょっとブルっちまったぜ」
「そうですね、僕も優しげな先生だと思っていたのでビックリしました」
私達はいったん進路指導室に連れていかれたが、すぐに解放されて今は帰路についている。
帰路と言ってもそれぞれの家に帰るのではなく『B&B』の事務所に向かってるんだけどさ。
その道すがら、先程の美浦先生が話題にあがりそれぞれの感想を述べる。
うーん、やっぱりみんなあの状態の先生は怖いんだな~。小さい体だっていうのに恐るべし、美浦先生。
「……でも、本当に所長だけ置いてきてよかったのでしょうか」
「だって仕方ないじゃない、アイツが勝手にやってたことで私達は関係ないもん」
そう、ヒトミの言葉通りこの場にアイツの姿は無い。
私達は個人的な関係者ではあるが、今回の件については無関係だということが早々にわかったので帰してもらえた。
だが当事者であるアイツはまだ学校で多くの先生に囲まれて事情説明の真っ最中だ。
あぁ、明日にはまた変な噂が広がってるんだろうな憂鬱だ。
「ですが……その……」
ヒトミが何か言いにくそうに視線を向ける。
その先には私達と岩神君を接触させないかのように間に立って進むメイドさんの姿が。
「――サトネになにか御用で?」
「いえ……すみません……」
メイドさんの鋭い視線がヒトミに突き刺さり、言葉を続けられず謝ってしまう。
うーん、隣を歩いてみてわかったけどこのメイドさん大きいな。岩神君と同じくらいはあるんじゃないかな。
見下ろされてる感じで威圧感がすごい。
それでも、ヒトミが物怖じするなんて珍しい。メイドに何か嫌な思い出でもあるのかな?
「なんでアキラだけが居残りさせられて、そっちのメイドは無罪放免だったのかって事だろ?」
「はい、そういうことですの」
口ごもったヒトミの言葉を引き継いでアヤさんが問いかけた。
「あぁそういうことですか。それは――」
「それはサトネが"人間"ではないからです」
それに答えたのは岩神君――ではなく、彼の言葉を遮って隣を歩くメイドさんが答えた。
まるで私達と岩神君を会話させたくないみたい。
いや、みたいじゃないのか。スッゴイこっちを睨んできてるし。
「サトネ、僕のセリフを取らないでよ。それにそれだけじゃ説明不足だし」
「このような輩達にサトネの秘密を明かすことなど無いです」
「――サトネ、彼らは僕のクラスメイトで友人だ。彼らへの無礼は許さないよ」
「ですがッ!」
「サトネ」
ただ一言。
岩神君はそれまでの笑みを崩すこともせずに名前を呼んだだけ。
だがそれだけサトネと呼ばれたメイドさんはウッと言葉を詰まらせて黙らせてしまった。
「まったく……ゴメンね。師里さん、東堂さん」
「私は別に……」
「はい、私も気にしていませんですので。ただ、個人的なトラウマがメイド服にあるだけなので。こちらこそ不快にさせたらごめんなさい」
「はははっ、そう言ってくれると助かるよ。それに東堂さん、サトネも多分気を悪くしてないだろうから気にしないで」
「そうですね、私は坊ちゃん以外からの評価になど興味などありませんから。どう見られようと、思われようと構いません」
本当に興味なさげに言い切るメイドさん。
なんかこの人も変わってるな~。
「そうそう、なんでアキラさんだけ残されてサトネは返されたのかってことだったね。それはサトネが人間じゃなく"特災"だからなんだ」
「ふーん……ってえぇぇ!?」
「やはりそういうことなのですか」
「なんだレイ、気づいてなかったのか?」
驚きの声を上げる私と、まるで知っていたかのような反応を見せるヒトミとアヤさん。
「え、特災? だってメイドさんだよ?」
「レイだってモモとかと会ってるじゃない、別に人の姿をした特災は珍しくないでしょう」
確かに人の姿をした特災っていうのも珍しくは無いけど、それでもメイド姿で普通に街中をこうして歩いているとは思わなかった。
「レイ、ソイツの魔力をじっくり見てみろ。安定しててわかりにくいけど能力者とも違う魔力の流れ方してんだろ」
驚きが収まらないながらも、アヤさんに言われたとおりに魔力の流れを読み取ってみる。
「あ……ほんとだ」
確かに魔力の流れ方が違う。
能力者が体の中心に魔力を溜めこんでいるのとは違い、メイドさんは全身に魔力が行き渡っている。
「あれ、でもなんだか魔力が岩神君の方にも流れてる……?」
全身に満ちている魔力の一か所、メイドさんの胸の中心辺りから岩神君の胸の同じ所にまでラインがあり、魔力が相互に行き来していた。
「そこまで見えるんだ!? 師里さんは"眼"が良いんだね!」
驚いたような、感心したような岩神君の声が聞こえ思わずそちらを見る。
「そうなの?」
自分で意識したことは無かったけど。
「えぇ、そこまで見える人はあまりいないよ。……あぁゴメン、話がずれていたね。サトネは特災なんだけど、ただの特災じゃない。『使役』の超能力を持った僕と契約を交わした特災なんだ」
「『使役』の超能力?」
「うんそれが僕の能力。そうだな、改めて紹介しておこうか」
そう言って一歩前に出て私達に向きなおる。
その横には当然のごとくメイドさん――サトネさんが滑らかに流れる水の様な自然な動きで追随する。
「僕はAランク能力者岩神タツヤ、超能力は『使役』。名前の通り特災を従える能力を持ってるんだ。
そしてこっちが僕の相棒兼メイドのアーティファクト型分類の特災、サトネ」
「どうも」
サトネさんは岩神君の紹介に合わせ、ニコリともせず機械的にお辞儀を行った。
「これからよろしくね」
サトネさんとは正反対に穏やかな笑みを浮かべた岩神君がそう言った瞬間――
唐突に。
何の前触れもなく。
私達を衝撃が襲った。
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