表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/93

舌の根も乾かぬうちにこれか

更新しました。

更新遅くてすいません。

「逃げるったってどこに行けばいいのよ! もぉ!」


 私は非常灯だけが点る、薄暗闇の階段を駆け降りながら文句を吐く。


「そもそも一体どういう状況なのかくらい説明しなさいよ!」


 周囲に流されてここまで来たけれど、何が起こっているのか私は全く把握してなかった。

 ここにだっていきなりヘリから突き落とされただけだし。


 ズゥッン


「キャッ!」


 その時、建物全体が大きく揺れた。

 思わず階段を踏み外し声が漏れてしまう。

 落ちかける体を咄嗟に脇の手すりを掴んで支える。

 普段ならば絶対に間に合わないタイミングであったが、体がスムーズに動いたことで倒れずに済んだ。

 あまりの体の動きに自分のことながら驚く。

 この感覚をなんていえばいいのか……思考と体のズレが無いというのが一番近いかな。

 いつもは思考してから行動に移すのにちょっとしたタイムラグがあるのに、今は思考した次の瞬間には体がその通りに動いていた。

 とんでもなく滑らかに。


 これってやっぱり『身体強化』の影響なのかな。


 最初は自分の中の魔力を維持するのに意識を向けていなければいけなかったが、今では結構無意識にできてしまっている。

 慣れた、というには不自然な変化だけど今は気にしないでおく。

 そんなことを気にしていられない程に考えなきゃいけないことがあるし。

 まぁ、ここに来るまでに衝撃なこと色々あったし、無意識にできるようになっても不思議じゃないか。

 そんなことを考えていたからか、周囲に向けての注意力が散漫になっていた。

 だから――


「そこにいるのは誰だ!」


「ヒャッ!」


 階下から聞こえてきたその声に驚き、声を上げてしまった。


「女か? 何者だ!?」


 結構近くにいるようだが、非常灯だけではおぼろげにしかその姿を確認できない。

 わかるのは声音から相手が男だということだけ。


「わ、私は杜宮高校2年の師里もろさとレイです!」


 両手をホールドアップして慌てて答える。

 別に相手から言われたわけではないけど、無抵抗を示す意味では間違ってないと思う。多分。


「ん? なんだレイちゃんか」


「え? だ、誰ですか?」


「俺だ。四十万しじまだよ」


 そう言って男が顔の見える位置にまで近づいてくる。

 闇から浮かび上がってきたのは見知った顔。

 警察官の四十万くんだった。


「な、なんだ四十万くんか~。驚かさないで下さいよ」


「それはすまなかった。――でもどうしてレイちゃんが上から降りてくるんだ?

 確か写楽さんたちと別行動をとっていたはずだが……」


「……訊かないでください、色々あったんです」


「……そうか、色々あったんだな」


 不憫そうな眼を私に向けながら納得してくれる四十万くん。

 ホント、上空何十メートルから突き落とされたとか思い出したくもないし、話したくもない。

 それで怪我一つないとか結構人間やめてるし。


『特技は上空数十メートルから落ちても大丈夫な事です』


 とか言った時点でドン引きされること確定じゃん。


「ところで、上から来たってことは師里の居場所は知ってるかい?」


「あ、はい。今は屋上で変なマント着た金髪の男と戦ってると思います」


「金髪……やはりアイツと戦っているのか――グッ」


「ちょっ! 大丈夫ですか?!」


 喋っている最中に顔をしかめ、崩れ落ちそうになる四十万くんの体を咄嗟に支える。


「すまない」


「いや、それは大丈夫ですけど……まさかこんな体でアイツの所に行くつもりなんですか?」


 薄暗くて気付かなかったが、間近で見ると四十万くんはボロボロだった。

 スーツは埃にまみれ、ところどころ破けその下からは血が赤く滲んでいる。


「あぁ」


「こんな体じゃ無理ですって! アイツとスズさんが戦ってるから大丈夫ですよ」


「いや、レイちゃんはアイツの恐ろしさを理解していない。アイツは君が考えているよりもよっぽど凶悪なものなんだ、2人程度で勝てるはずがない」


「そんなこと言っても、今の四十万くんが行ったところでどうにもならない――ッ!」


 その時だった。

 頭上から今まで感じていた以上の魔力を感じた。


「……どうした、レイちゃん?」


 いきなり黙って真上を見上げた私に対して、四十万くんが問いかけてくるが答えられない。

 魔力の塊に全神経を集中させていたからだ。

 今まで感じていた魔力は3つ。

 アイツとスズさん、そしてマント男の3つだ。

 私はまだ詳しく探るとかそんなことは出来ないから、そこに出ている分しか感じられなかったけど、大きさ的にはアイツとスズさんを合わせたのとマント男の魔力は同じくらいに感じた。

 だから、どれほど四十万くんが言っても何とかなるだろうと心の中で思ってた。


 ――甘かった。


 マント男の魔力が爆発的に膨れ上がったのだ。

 それは今までの数倍にも迫るほど。

 信じられないほどの魔力量、どう考えてもあの2人だけでは敵わないほどの圧倒的な量だ。

 唐突に現れたそんな魔力に思わず上を見上げてしまった。

 ――これから何が起こるのか。

 じっと魔力の流れを見ながら身構える。

 こんな魔力を出しておいて、何も無い訳が無い。


 しかし、あっさりとマント男はその膨大な魔力を自分の体から切り離した。


「え?」


 私が呆けた声を上げた次の瞬間――


 ヒュンッ


 とその膨大な魔力が凄まじい速度で飛んでいった。

 それがどこか近くに落ちると同時に



 ゾワワッ



 と体に言い知れぬ悪寒が走った。

 背中にミミズやヘビでも入れられたかのような、何かが動き回る不快感。


「……四十万くん、こっちです」


 傍らの四十万くんの手を取り、声を掛ける。


「なんだって? だがアイツらは上に――」


「いえ、こっちも――いや、こっちこそ危険です! このままじゃどんなことになるか」


 四十万くんの反論を遮って言う。

 その間も私の眼は飛んでいった魔力を見つめていた。

 魔力は落ちた場所でウネウネと触手を伸ばすかのようにして蠢いている。

 その奥から何かが這い出してくるかのような気配を感じるのは気のせいだろうか。


「そうか、レイちゃんも能力者ウェイカー……わかった、どこに行けばいい?」


「こっちです! 何かがこの先に落ちました、こっちには何がありますか?」


「そっちは……確か運動場だ」


 私が視線を向ける方向を四十万くんも同じように見て、答えてくれる。


「運動場……」


 あのだだっぴろい場所か。

 何かを呼び出すならぴったりの場所ってわけね。


「急ぎましょう……何かが来ます」




 ☆★☆


 数分前・屋上



「スズ、忠告だよく聞け」


「なんじゃ所長」


 横に並び、武器を構えたスズに声を掛ける。


「アイツとは打ち合うな(・・・・・)


「……武器を持つ相手に『打ち合うな』とはおかしなことじゃな。

 ――じゃが了解した」


 そう答え、脱兎のごとく駆け出すスズ。


「ちょっ! バカッ!」


 その背に声をかけるが、既に伯爵の目の前に迫っており間に合わない。


「ドラキュラ伯爵の実力、見せてもらおうかの!」


 言うやいなや、手に持った槍を突き込む。


「そりゃ!」


 だがその突きは ひらり と躱されてしまう。


「ふむ、避けたか」


「そんな単調な突きでは当たる訳が無い」


「そうか……ではこれはどうじゃ!」


 至近距離で短く言葉を交わした後、スズはすぐさま槍を引き戻す。


「『電光石火!』」


 腰だめに貯めた槍を先程よりも早く、伯爵に向けて放った。

 しかも一度ではなく何度も。

 残像がいくつも見えるほどの速さでスズは突く。

 帯電した槍が摩擦で空気を焼く バチバチ という音が響き渡る。


「――早いな。だが、早いだけだ」


 しかしその高速の連撃さえも、紙一重で避けていく伯爵。


「クッ! じゃ、じゃがいつまで避け続けられるか!」


「別にいつまでも避け続ける気など無い」


 そう言うと伯爵は怒涛の連撃の僅かな合間、攻撃と攻撃とのほんの僅かな瞬間に動く。

 手に持っていた大鎌を無造作に一振りした。


「カッ! こんな大振りが当たると思うたか!」


 しかしスズはすぐに反応し、器用に槍でその鎌を弾こうとする。

 うまい、タイミングもカウンターを入れるのに最適の瞬間を見極めている。


 だけど言っただろこのバカ!

 打ち合うなって!


 心の中で舌打ちしつつ、既に体は駆けだしていた。

 その間にもスズの槍と伯爵の鎌は迫り交差する。

 そして――



 ぬるり



 とスズの構えた槍を、伯爵の鎌が一瞬掻き消えるようにして消えた後に透き抜けた。


「ぬぉっ!?」


 武器がすり抜けるというあまりにも常識外な事に、スズは間抜けな声を上げた。

 しかし、そうしてる間にもスズの防御を通り抜けた鎌が両断しようと迫りくる。


「何してんだバカ!」


 間一髪。

 両断されかけていたスズの体をジャージの襟を片手で掴んで後ろに引っ張る。

 次の瞬間、すぐ前を大鎌が通り過ぎて行った。


「オラッ!」


 そうして伯爵が鎌を振り切ったところに、スズを引っ張ったのとは反対の手に持っていた天叢雲剣で攻撃を仕掛ける。

 勇者光ブレイブオーラを刀身に纏わせ、それを刃のようにして打ち出す。

 その光刃を引き戻した鎌で難なく払い落とす伯爵。

 だがそれでも、その間に少し距離を取ることはできた。


「ななななんじゃ今のは!?

 奴の武器がヌルって! ヌルって!」


 片腕で抱え込んだスズが腕の中で喚く。


「だから言ったろうが、打ち合うなって」


「グッ! じゃ、じゃがもっと正確に伝えんか!

 危うく真っ二つじゃ!」


「はいはい、そりゃ悪うござんしたね」


 生意気なことを言うスズを ドサッ と乱暴に地面に降ろしながら答える。


「伯爵の武装は伯爵と同じ性質を持ってるんだよ」


「イタタ……同じ性質?」


「あぁ、有名なヴァンパイアの性質だよ。霧化や変身といったな」


「霧化……なるほど、先程のか」


「あぁ、だからあの武器に通常の対応は意味が無い。一体次に何が起こるか予測ができない、トリッキーな武器だよ」


「なるほど、な。

 じゃったらどうする、手立てはあるのか?」


 その問いかけに俺が持っている答えは一つだけだ。


「無い」


「無いってお主……仮にも一度戦ったことある奴なのじゃろ?」


「んなこと言っても、あの頃は他の奴らもいたしな。あいつらがいたから勝てたようなもんだし」


 と言っても、今ここで諦めるつもりもないけどよ。

 勝てないから諦める。

 負けるから戦わない。

 そんなんじゃ、元勇者の名前が泣くだろ。


「……なんじゃ、だったら簡単なことじゃな」


「は?」


 パンパンと尻に付いた埃を払い落して立ち上がりながら、スズはなんてことないかのように言う。



「儂があの3人分働いてやるわい、これなら勝てるじゃろ」



 自信満々に言い切るスズの様子に驚き、そして思わず苦笑する。


「そっか……そうだな。頼りにしてるよ相棒」


 そうして伯爵をまっすぐ見据える。


「ん、作戦会議は終わったか?」


「あぁ、バッチリだ。待たせて悪かったな」


「そうか、だが吾輩はもう空腹が我慢できないのだが」


「ッ! 逃がさねーぞ!」


「吾輩を愚弄するか!

 心配するな、吾輩も仇敵を前に食事を優先させようとは思わんよ。

 ――だからほれ、こうしようと思う」


 伯爵はそう言うと、手の平にサッカーボール大の球体を生み出した。

 その球体は赤黒く禍々しい気配を放っているのが遠目からでも見て取れる。

 それを認識した瞬間、体中の血液が一気に沸騰する。


「お前、それは……」


「『魔血球』。効果は貴様も知っている通りだ。

 ふむ、ちょうどあそこが広くてちょうど良さそうだ」


 伯爵の視線の先には『特究』で身体能力の検査を行うための巨大運動場。

 確かにあの広さなら〝あれ〟も可能であろう。

 だがもしもそんなことになったら――


 ―

 ――

 ―――


 街が白と赤に塗りつぶされている。

 肉を貪り、血を啜る音が人々の悲鳴と共に響き渡った。

 それを無力さを噛みしめながら見ていることしかできなかった自分。


 ―――

 ――

 ―


「ほれ!」


 俺の脳裏に光景がフラッシュバックしている間に、伯爵はそのまま『魔血球』を放った。

 闇夜の中を放物線を描いて飛んでいく赤黒い球体。


「チッ!」


 俺は瞬時にそれを落とそうと駆けだす。

 だが――


「逃がさぬ、と言ったのは貴様の方ではなかったか?」


 俺の目の前に回り込んだ伯爵が鎌を真一文字に振るう。


「クソッ、邪魔だ!」


 加速しかけていた体を力尽くで押さえつけ、後ろに身を逸らしてその攻撃を避ける。

 逸らした顔面スレスレを鎌が通過して――行かない!


「阿呆が、貴様がいくら勇者であろうが全て守れるわけではあるまい。今の弱くなった貴様なら特にな」


 ピタリ と俺の目の前で止まった鎌が グニャリ と形を変えて目の前で禍々しい形の槍に変化した。

 その切先は当然俺の顔面に狙い定められている。


「他の事に気を取られている余裕など今の貴様にあるのか?

 『夜の覇者』『不死の王』たるこの吾輩を相手にしているのだぞ。

 集中しろ。

 死力を尽くせ。

 そうして吾輩を楽しませてから死ね。

 それとも、このままくだらない最期を迎える気か?」


 そうして神速の突きが俺の顔面に襲いかかる。


「ッ!」


 刃先が届くまでのわずかな時間。

 瞬き一つほどの時間でも、俺は必死に考え回避運動を取る。

 だが力尽くで仰け反った直後だ、ほとんど動くことなど出来やしない。

 極度の集中状態でスローモーションになった思考の中、俺に出来ることは出来るだけ首を横に逸らすことだけだった。


 ダメだ、このままじゃ頭半分は確実に飛ばされる。


 濃厚な死の気配を久々に感じる。

 数年前には毎日感じ、生活にすら染みついていたおぞましいもの。

 俺達の周囲にはそれが溢れかえり、そして俺が撒き散らしていたもの。

 因果応報?

 いくつもの命を奪ってきた俺はここでコイツに殺されても仕方ないのか?




 嫌だ。




 ふざけんな。




 何も守れずに死ぬのなんて。




 それに俺はまだ――




 俺はまだ、アイツのためにも――




「死ねないッ!」


 ガッ!


 叫ぶと同時に俺の左手が勝手に動く。

 そうして勇者光ブレイブオーラを纏わせたまま槍の刃を素手で掴んだ。


 ブシャッ


 と手の皮が破け鮮血が散る。

 いくらオーラを纏って強化しているとはいっても、流石に魔力で編まれた武器を止めることなどできない。

 ――だが、顔に刺さることを止めるくらいはできる。

 俺の顔寸前で血濡れの刃が ピタリ と止まる。


「ほう、少しは昔に近づいてきたな」


 俺の瞳を見据えながら伯爵はそんな風に小さく呟いた。

 俺と伯爵の視線が至近距離で交差する。

 しかし、それも一瞬。


「『鳴神』!」


 そんな声が頭上から響くよりも一瞬早く、伯爵はその場を跳び退る。

 直後 ドォンッ と俺の眼前に一本の雷が落ちた。


「チッ! 避けおったか」


 それはスズだった。

 雷を纏い、槍ごと頭上から伯爵を刺し貫く気だったのだろう。


「……煩わしいな、先程から貴様」


「ハッ! 知らんな、儂は儂の相棒を守っただけじゃ、貴様にどう思われようが構わん」


 そこで クルリ と俺に向きなおり


 ゴンッ


 と槍の柄尻で俺の頭を強かに打った。


「イッテー! 何すんだよ!?」


「うっさいわドアホ! 『頼りにする』と言った舌の根も乾かぬうちにこれか!」


 文句を言うとそれ以上に強く怒鳴られた。


「全く、アレ(魔血球)が何か知らんが焦りすぎじゃ」


 ブツクサと言いながらも、懐から綺麗な布を取り出し傷ついた手を強く縛ってくれる。


「だがあれは――」


「アレがなんであろうとも下には〝奴〟がおる。儂らは目の前のことに集中するべきじゃろう。

 ……1人でなんでも出来ると思うな、儂や他の者もおるのじゃから少しは頼れ」


「……そう、だな。すまん、少し焦ってた」


 そうか、もう俺は勇者じゃないんだった。

 なんでも出来るとか思い上がりも甚だしい。

 伯爵に引っ張られ、俺の感覚も3年前に戻っていたみたいだ。


「とりあえず儂達はこ奴をどうにかしよう、下のことは気にするな。あ奴らがなんとかしてくれるはずじゃ」


「あぁ!」


 答え、再び気合を入れ直す。


 ――すまない、頼むみんな。


 心の中で皆の顔を思い浮かべながら、強く手の中の剣を握り直した。




 ☆★☆




「……なに、これ?」


 急いで運動場にたどり着いた私は思わずそう声を漏らした。

 でも仕方ないでしょ。


 運動場のど真ん中に直径200メートルはありそうな大穴ができて、そこからワラワラと真っ白な人型の存在が溢れ出しているなんて、想像していなかったんだから……。

評価・感想お待ちしています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ